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公開日 2019/09/18 06:15

<IFA>これでトム様も満足? フレーム補間など全OFFの「Filmmaker Mode」がやってくる!

8KアソシエーションやHDR10+の進捗も
折原 一也
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「IFA 2019」開催直前の8月27日、家電業界のテレビメーカーやハリウッドのスタジオら41社が加盟する団体「UHDアライアンス」は、ロサンゼルスで開催したイベントにおいて「Filmmaker Mode」を発表した。

「Filmmaker Mode」とは、フレーム補間などの画像処理や画角変更をしないで表示することでマスタリング環境を再現し、監督の意図(Creative intent)をそのまま表示できるという映像モード。パナソニック、LG、VIZIOの3社が賛同を表明した。

「Filmmaker Mode」はどんな経緯で生まれ、どのような内容が策定されたのか。策定の背景を、Panasonic R&D Company of Americaでアライアンス関連の活動を担当する森瀬氏にうかがった。

ハリウッドとの関係を全面に打ち出し出展を行っていたパナソニックのテレビ出展

Panasonic R&D Company of Americaの森瀬氏にお話をうかがった

有名監督からの意見をきっかけに議論に発展

昨年12月、映画俳優のトム・クルーズが、映画をテレビで鑑賞するときフレーム補間をオフに設定するよう呼びかけたことは記憶に新しい。テレビの映像処理が作品本来の意図を崩す場合があるというのは、AVファンにとっても周知の通り。筆者も動画補間機能は「オフにする派」だ。

だが、テレビは世界中の幅広い消費者が購入する商品。“高画質による差別化”という名目や、“多くの人が動きが滑らかな方がキレイだと感じる”といった理由で、動画補間機能は多くのテレビメーカーがデフォルトでオンにしていた。もちろん、ユーザーが手動でオフに変えられるものだが、そのためには設定メニューの深い階層までたどり着き、操作するリテラシーが求められた。

そんな現状に異議を申し立てたのが、『ダークナイト』『ダンケルク』『インターステラー』等を手掛けた、あのクリストファー・ノーラン監督だ。昨年5月、ノーラン監督は「マスタリングスイートで編集して色調整してOKしたものが自分の作品なのに、リビングルームで見ると絵が違う」と、作品を手掛けるワーナー・ブラザーズに対してクレームをつけたのだ。

その内容は、ワーナー・ブラザーズのテクノロジー担当副社長、マイケル・ジンク氏の元に届いた。ジンク氏は、UHDアライアンスのボードメンバーのなかでもチェアマンを務める立場だ。

同時期にポール・トーマス・アンダーソン監督(『ゼア・ウィル・ビー・ブラッド』『ファントム・スレッド』等)も、自身が作品を手掛けているユニバーサル・スタジオに同様の苦情を申し立てていた。ユニバーサル・スタジオもUHDアライアンスのボードメンバーの1社だ。

著名な映画監督から、同時期に同じような意見が、別々のルートから届いた事で、映画スタジオは監督の意見を代弁する立場として、UHDアライアンスでの検討を持ちかけたのだ。

「Filmmaker Mode」発起人の一人であるクリストファー・ノーラン監督

IFA 2019 パナソニックブース内に『ダークナイト』にも登場した“バットモービル”があるのも偶然ではない

2015年に設立されたUHDアライアンスはユニークな団体だ。4Kを超える映像コンテンツを推進するという目的のため、普段はあまり接点のない映画スタジオとテレビメーカーが、ここではそろってボードメンバーに名を連ねている。今回の一件について、UHDアライアンスが議論の場となったのも必然と言えるだろう。

映画監督の画質に対する意見が、直接接点のないテレビメーカーにまで伝えられるのは異例だ。監督の代弁者として実際に議論に当たるのはスタジオだが、有名監督とスタジオの力関係で、監督の影響力は絶大。そしてスタジオは監督の意向を受けて交渉をしているので、きっちりまとめ上げないとスタジオの面子に関わる。ちなみに、「Filmmaker Mode」策定にあたってハリウッドの映画監督/撮影監督の協会でアンケートを実施したところ、400人以上から“是非やってほしい”との回答を得たという。

その一方、メーカーにはメーカーの考え方があり、反発も一部あったという。もともとテレビには様々な映像モードがあり、出荷時そのままのスタンダードモード以外にも、“シネマプロ”など映画鑑賞用モード、ゲームモードなど、多数の選択肢を用意してある。

また、日本で活動している筆者の見解としては、特に日本のメーカーは常日頃から厳しい消費者の目で鍛えられているので、スタンダードモードでも派手派手しい演出は控えられているし、24コマの映画はほとんど補間しない設定を取り入れているメーカーも多い。逆に海外メーカー、特に激安テレビメーカーは派手な処理をする傾向がある。違いがわかりやすければ、それが商品の魅力となるからだ。

パナソニックをはじめ日本メーカーの処理は控えめだが、UHDアライアンスとして策定に参加した形

このように、スタジオ・映画監督とメーカーの立場は必ずしも一致するものではなかったが、度重なる議論の末に困難を乗り越えて「Filmmaker Mode」が策定された。

「Filmmaker Mode」とはどんな映像モードなのか

「Filmmaker Mode」では、以下の内容が規格として定められている。

白色点をD65として、SDR/HDRに適用すること
フレームレート、画角を変更しないこと
「フレーム補間」「オーバースキャン」「シャープネス」「ノイズリダクション」「その他の画像処理機能」をオフにすること
リモコンのボタン、あるいはコンテンツ内容に応じて「Filmmaker Mode」に自動遷移できること

基本となるのは、色域の基準として最もスタンダードなD65を指定した上で、SDR/HDR映像問わず、テレビによる意図的な画作りを行わせないという考え方だ。特に米国で“ソープオペラエフェクト”(ソープオペラとは昼メロドラマのこと)と揶揄されている、のっぺりした感じの映像を避けるための内容が規定された。

監督たちから特に槍玉に上げられたのが、フレームレートと画角の変更。オフにすべき画像処理機能として上げられているフレーム補間/オーバースキャンも、これらとセットで考えるべきだろう。

同じくオフにすべきとされている「シャープネス」は、輪郭を強調するエッジエンハンス処理などが該当する。超解像処理まで含むかどうかは、厳密には規定されていないようだ。「ノイズリダクション」については、映画作品特有のフィルムグレインノイズまで消してしまい、監督らが意図した味わいを消してしまうことから規定された。

「その他の映像処理機能」とは、曖昧で広範囲に解釈できる項目だが、上記に該当しない方法で、画質に大きな影響の出る処理を行わせないための規定だろう。なお明示はされていないが、HDR映像に対してリアルタイムにトーンマッピング処理したり、D65の色域内で色バランスを最適化するような処理は許容されている。

家庭に置くテレビを作る立場から考えると、例えば明るい部屋と暗い部屋の差を考えないで良いのか、といった疑問も浮かぶが、まずは比較的短時間で実現可能な内容に絞って規定したものが「Filmmaker Mode」と言える。

そして、もうひとつ重要な要素が“リモコンのボタン、あるいはコンテンツ内容による自動遷移”が規格上義務付けられているということだ。これはノーラン監督が、消費者が容易に「Filmmaker Mode」を利用できるようにするため、こだわった結果だという。設定メニューの奥深くまでたどり着ける人ばかりではないと、ノーラン監督は理解していたのだ。

リモコンのボタンを採用するか、コンテンツに応じた自動遷移にするかは、メーカーの手に委ねられる。例えばパナソニックは、もともと欧州モデルのリモコンに“PICTURE”という映像モード選択ボタンを搭載しているので、そこに「Filmmaker Mode」のロゴを付け、映像モードのひとつとして選択できるようにすることを検討している。

今後は自動遷移を採用するメーカーが現れる可能性もあるだろう。例えば、HDMIの信号情報などを通して24コマのコンテンツや、映画のジャンル情報を検出した際に自動で「Filmmaker Mode」に切り替わるように設計すれば、消費者にとって手間もない。ただし、その場合は事情を知らないユーザーが、勝手に映像モードが変わったこと、画面が急に暗くなったことに戸惑う可能性も考えられる。パナソニックがリモコンによるマニュアル操作を検討しているのも、それを踏まえてのことだ。

現時点で「Filmmaker Mode」に賛同しているテレビメーカーは、パナソニック、LG、Vizioの3社。UHDアライアンスに加盟する全てのメーカーがすぐに賛同を表明したわけではない、という所からも大変さが伺えるが、映画スタジオとメーカーがしっかり交渉し、落ち着く所に落ち着いたと言えるだろう。

「Filmmaker Mode」は、前述の通りIFA 2019の開催直前の8月27日、メディアを含め5、60人を招待したロサンゼルスのイベントで披露された。ロサンゼルスが選ばれたのは、規格化を主導したのがハリウッドの映画監督であり、映画スタジオ主導であることの現れだ。

発表イベントでは「Filmmaker Mode」の規格化を取りまとめたジンク氏を始め、パナソニックからはPHL(パナソニックハリウッド研究所)所長、VISIO創業者、LGらメーカー関係者、そしてハリウッドからはライアン・ジョンソン監督(『スター・ウォーズ/最後のジェダイ』など)も挨拶に登壇。クリストファー・ノーラン監督、ポール・トーマス・アンダーソン監督、ジェームス・キャメロン監督、マーティン・スコセッシ監督、ライアン・ロジャー監督、J.J.エイブラムス監督など、そうそうたる面々から応援ビデオも寄せられた。なお、監督たちによるメッセージはUHDアライアンスのサイトでも公開されている。

IFA 2019で上映されていたマーティン・スコセッシ監督のメッセージ

J.J.エイブラムス監督によるメッセージも上映

「Filmmaker Mode」は、パナソニックのテレビでは2020年モデルから採用される。映画監督たち肝いりで登場した「Filmmaker Mode」は、AVファン、そして映画愛好家にとっても信頼できる映像モードとなるだろう。

8Kアソシエーションは「8Kテレビ」の性能基準を発表

パナソニックからは、8Kアソシエーションの発表した8Kテレビの性能基準についての説明もうかがうことができた。今年1月にパナソニック、サムスン、ハイセンス、TCL、AUOら5社でスタートした8Kアソシエーションは、現在16社に拡大。サムスンディスプレイ、中国テンセント、DTS等の規格を取りまとめたXperiといった面々がボードメンバーに名を連ねている。

欧州では韓国サムスンが発売中の8Kテレビ

8Kアソシエーションが発表した8Kテレビ認証プログラムに向けた技術規格について、その内容はすでに報じられている通りだが、あらためて整理すると以下がその要件となっている。

解像度7,680×4,320ピクセル
24p/30p/60p入力対応
ピーク輝度600 nits
HEVCコーデック対応
HDMI 2.1入力対応

このほか、会員向けにより詳細な性能基準も公開されるという。

上記の性能規定を満たしたものに対しては、8Kテレビ認証プログラムのロゴが提供される。8Kテレビの市場はまだ立ち上がったばかりという事もあるが、ピーク輝度の条件などは現実的な基準に設定された。それでも、8Kとはいえ解像度しか満たしていないような製品を避ける目安となるだろう。

HDR10+は正式にAVレシーバーのパススルーに対応

また、パナソニック、サムスン、20世紀FOXらによって発足し、Amazonやワーナー等も賛同している「HDR10+」についても現状の解説が行われた。

HDR10+の進展としては、AVレシーバーやサウンドバーでHDR10+信号をパスするための技術規格を更新。また新たにYouTubeで採用されているコーデックである”VP9コーデック”対応が発表された。技術概要を説明するホワイトペーパーも発行される。サムスンがHDR10+による8K配信のパートナーシップも発表しており、今後も配信を中心として拡大が見込まれる(関連ニュース)。

サムスンブースでは8Kによる展開の中でもHDR10+の対応をアピール

Ultra HD Blu-rayではワーナーとユニバーサルから初のHDR10+タイトルである『ゴジラ』『ペット2』などのタイトル、また、FOXからも『アリータ:バトル・エンジェル』『エイリアン』がリリース。ライオンズゲート、IMAXからも作品リリースが進み、合計20タイトル程度まで拡大している。特にドルビービジョンとの両対応タイトルも増えており、制作ツール面での整備も順調に進んでいる段階だ。

パナソニックの取り組む3つのアライアンス関連の活動は、いずれも業界の発展を下支えする活動となっていくことだろう。

(折原 一也)

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