“Music First”のスピリッツ息づく。イギリス名門・ARCAMの最新プリメインが秘めるスマートな音楽性を聴く
黒色の引き締まったボディに、コーポレートカラーの黄色のサークルを纏った、左右の大型ダイヤルが印象的な、英国はARCAM(アーカム)。その最新プリメインアンプが、RADIAシリーズのエントリーモデル「ARCAM A5+」とミドルクラスモデル「ARCAM A15+」だ。
1976年に英国・ケンブリッジ大学の学生たちが立ち上げたアンプメーカー、Amplification & Recording Cambridge(後のARCAM)が、当初から標榜してきた“Music First”のスピリッツが、このふたつの新製品にどのように息づいているのかを聴くのが、今回の試聴の目的だ。
“Music First”を地で行く、情緒感溢れる音
早速、試聴を始めよう。CDプレーヤーはマークレビンソン「No.5101」、スピーカーはJBL「L82 Classic BG」だ。
まず、A5+。最初は、UAレコード合同会社のCD、情家みえ『ボヌール』から1曲目の「Lover Comeback To Me」。円熟した情家みえの情感再現が、どれほどリアルに聴けるかが、ポイントだ。
う〜ん、もう初めからたいへん素晴らしいではないか。私がプロデューサーとして制作した音のポイントを見事に押さえている。
ヴァースに始まる後藤浩二のピアノのアルペジォがしなやかで、グロッシーなこと。次に登場する情家みえの声が艶々とし、煌めき、光っている。表情が濃い。情家はこの数年で、飛躍的に歌唱力、表現力が向上し、歌詞の世界をさらに細やかに朗唱する。その最新の豊穣な表現力が、麗しく聴けた。
天才ベーシスト、古木佳祐のアコースティック・ベースの雄大で、同時に俊敏なこと。ここでも歌いの表情が濃い。中間部の、キレがシャープな後藤のピアノと、巨魁にして鋭く刺さる古木との掛け合いは、実にスリリング。
入門クラスのシンプルなプリメインアンプなのに(?)、この音楽的なボキャブラリーの多彩は、どうだ。まさに“Music First”を地で行く、情緒感溢れる音だ。
弱音の美しさ、入門機の価格を超えるスマートさを堪能
次に、名ピアニスト イリーナ・メジューエワが1925年製のニューヨーク・スタインウェイのビンテージピアノを弾いた、ベートーヴェン『ワルトシュタイン』。
第1楽章冒頭は音が濡れている。しっとりと水分を嬉しく含んだ音の粒子がNYスタインウェイから勢いよく発せられ、会場に広く拡散、自在に飛び回る。音の粒子のグロッシーな質感が、音楽への没入をさらに加速してくれる。メジューエワのNYスタインウェイの音色が何のバリアもなく、耳にストレートに入り込む。第3楽章の左手の優しいアルペジォと右手の歌謡旋律との音楽的な対比感が、素敵。クレッシェンドを経て、偉容な音量になるが、本アンプは弱音の美しさに加え、フォルテッシモでも揺るぎないピラミッド的な安定感と、グロッシーな美音がそのままキープされる。音楽に何のバリアもなく耽溺できるアンプだ。
オーケストラも聴こう。私のチェックディスクの定番、過激なクルレンツィス指揮、ムジカエテルナのモーツァルト『フィガロの結婚』序曲、だ。
アグレッシブでハイコントラストな演奏だが、A5+はピリオド的なハイシャープネス強調ではなく、落ち着いた音調で、端正なアンサンブルとして聴けた。弦の響きが心地好く、弱音から強音への急激なクレッシェンドも過度に強調されず、自然な時間軸の流れとして、流麗だ。弦の倍音感、木管のクリアさを始めとして、俊敏で、音の流れのスマートさを堪能。
A5+は入門機というステイタスを大きく超え、音楽に何のバリアもなくストレートに入り込み、その魅力の中に、身も心も浸ることができる音楽的なアンプと聴いた。
「A15+」は情報性と情緒性の高次元のバランスが魅力
では上位機の「ARCAM A15+」はどうか。同じコンポーネントで聴く。
『ボヌール』から「Lover Comeback To Me」。冒頭のピアノアルペジォの響きが美しい。
ヴォーカル音像はセンターにしっかり定位。情家ならではの情感のディテールが、ひじょうに微小な部分から、濃密に付与される。後藤のピアノソロの俊速にして、一音一音も揺るがせず、音の塊に感情を込める独特なピアニズムが、明瞭に伝わって来た。
冬木の大体積にして、スピーディな音運びの俊速さも格別だ。低音の体積は大きいが、それが胴間にならずに精密さを保つのは、A15+の引き締まった再現力の巧みさであろう。音のグラデーションの緻密さ、ディテールの上質さに、確実なグレードアップ感が聴き取れる。
音の意味合いの深さが上位機の証し
もう一曲、同CDから「Over The Rainbow」。ヴォーカルが実に美しい。単に美的なだけでなく、その内部につよさと感情の濃さを湛えた音の芯が、ヴォーカルの質感を支えているというエモーショナルな構造が、A15+では、たっぷりと聴けた。
一音一音、一句一句に、濃い感情と思いを込める情家の表現のディテールが、実に細やか、しかもリアルなのである。
「♪SOMEWHERE」の歌詞の節まわし、「♪ONCE IN A LULLABYE」の部分の音のヴィブラートさせる微細な表情がA15+で聴くと絶品。情家のヴォーカルのとろけるようなメローサウンドの魅力的なこと。
中間部の古木のアルコ弾きも絶品。センターに定位した弓から発せられる雄大な低音、そこから放たれる倍音の豊穣さには心を奪われる。代々木スタジオの収録現場で、その場でソロアルコを即興的にお願いして、演奏してもらった。確か、2テイクが完成版になった。
弓の振動から発せられる、音の揺れの味わいを、本アンプではたっぷりと堪能できた。プロデューサーとして、本作品に込めた私の音への愛情が、そのままスピーカーからストレートに聴けた。この単なる高音質を超えた、音の意味合いの深さが、上位機の証しだ。
ピアノの軽妙さや運動性をより緻密に聴ける
次にメジューエワの『ワルトシュタイン』。低音のスケールの大きさ、それと対比する右手の高音部の端正なキレ味を、まずは冒頭で堪能。
NYスタインウェイの音色は美しく、豊かな響きのなかに、グロッシーな質感を持つ音の粒子が無数に蝟集し、それらが広く音場空間に拡散する音の時間的なドキュメンタリーを体験しているようだ。NYスタインウェイが持つ、軽妙さ、音の俊敏な運動性、低音域のキレ味……は、A15+では、より緻密に聴けた。
右手の速いパッセージの粒立ちの細やかさも巧みだ。第三楽章では悠々と流麗に迫り、クレッシェンドを経て、偉容な量感になる音の時間的なダイナミズム。A15+では、旋律と和音の構成的な分解性に優れ、濃密な音楽的ターミノロジーが耳に心地よい。
『フィガロの結婚』も素晴らしい。ピラミッド的な安定した音バランスに、過激に駆け回る高域をしっかりと支える低域のスタビリティがポイントだ。キレがシャープ、躍動的で倍音をたっぷりと放出する弦が躍動する。
アクセントの表情も生気溢れる。弱音でも表情が濃厚で、歌謡部分が滔々と歌いあげられる。空間も濃密で美しい。オペラが始まり、右のフィガロ、左のスザンナの音場的なステレオ効果が鮮やか。
“音の饗宴”と“響きの美しさ”が際立つ
A15+では、ハイレゾ音源も聴こう。ARCAMのネットワークプレーヤー「ST25」から同軸デジタル接続でQobuzを再生。まずバレンボイム指揮、ウェストイースタン・ディヴァン管弦楽団のラヴェル『道化師の朝の歌』(48kHz/24bit)だ。
冒頭の空間を割いて飛んでくるピッチカートの歯切れと弾みが楽しい。オーボエ、クラリネットの音色の艶、トゥッティでのスケールの大きさも印象的。
ここでは爆発的な量感と、整然とした質感が同時に聴け、ラヴェルが目指した色彩感が彩度高く描かれた。細密なミュートトランペットにホルンが加わり、さらにフルートが細かなタンギングで応じるという楽器移動の面白さが、豊かな音場で堪能できた。
マリアンナ・マルティネス『鍵盤協奏曲ト短調』(96kHz/24bit)はラブリーで典雅。モーツァルトと同時代の女流作曲家の古典スタイルが麗しい。
センターのピアノを小編成オーケストラが囲む、音像バランスが好適だ。音場の温かいソノリティが伝わる、爽やかで美的な音の饗宴。響きの美しさが特に際立った。
◇
ARCAM A5+もARCAM A15+も、実に音楽性豊かに再現するプリメインアンプだ。音源のリソースに収載された音楽的な要素を丁寧に取りだし、吟味し、それを具体的な音の造形に換えて、聴き手に届ける。そんな“Music First”のふるまいが、この価格でたっぷりと堪能できるのだから、音楽的なコストパフォーマンスは極めて高い。
| A5+ |
A15+ |
|
| 定格出力 | 50W×2(8Ω) | 80W×2(8Ω) |
| アナログ入力 | RCA 3系統 | RCA 3系統 |
| MMフォノ入力 | RCA 1系統 | RCA 1系統 |
| デジタル入力 | Optical 1系統、Coaxial 2系統 | Optical 1系統、Coaxial 2系統 |
| HDMI入力 | - | eARC 1系統 |
| ヘッドホン出力 | 3.5mmジャック | 3.5mmジャック |
| 最大消費電力 | 350W | 500W |
| サイズ | 431W×83H×344Dmm | 431W×98H×344Dmm |
| 質量 | 8kg | 10kg |
| 価格 | 110,000円(税込) | 154,000円(税込) |
(提供:ハーマンインターナショナル)

