公開日 2025/08/21 06:30

三極管+クラスA+無帰還の理念。イタリアの港町が産んだハイエンドブランド・リビエラの世界

明確な設計思想と造形美へのこだわりを貫く

美しい港町・ナポリで生まれたハイエンドブランド

イタリアからフランスの地中海沿岸にかけて広がる美しい海岸地帯のことをイタリア語でリビエラと呼ぶ。そのイタリア側の南北の都市をそれぞれルーツとする二人のキーパーソン、エンジニアのルカ・キオメンティとセールスマネージャーのシルビオ・デルフィノが2017年に創設したのが、人気上昇中の注目すべきアンプメーカー、RIVIERA(リビエラ)である。

ナポリに本拠を置くほぼ唯一のオーディオメーカーとして、明確な設計思想と造形美へのこだわりを貫いて妥協のない製品作りに取り組んでおり、日本のオーディオファンにもその名がじわりと浸透し始めた。

フラグシップに君臨する「APL01SE」と「AFM100SE」、姉妹機の「APL1」と「AFS32」という4機種のセパレートアンプとヘッドホンアンプの「AIC10Bal」が日本市場に導入されているが、今回はプリアンプ「APL1」とステレオパワーアンプ「AFS32」に焦点を合わせ、ブランドの特長とともに紹介しよう。

ミュンヘン・ハイエンドでのリビエラブース。オレンジがキーカラーとなっている

脳の認知と聴覚の関係に着目し、人の心地良い音を追求

リビエラは、三極管シングルエンドの前段とMOSFETの出力段を組み合わせたハイブリッド構成、クラスAアンプ、グローバル無帰還という3つのコンセプトを掲げており、それはすべての製品に共通する。

その設計思想に至った背景には、ブランド創設以前からエンジニアのルカが取り組んできた試行錯誤の積み重ねと独自の理論的バックグラウンドがある。人が心地良いと感じる音を目指すために、脳の認知と聴覚の関係に注目して高調波のスペクトラムを解析することからはじめ、三極管+クラスA+無帰還という結論にたどり着いたのだ。

歪と人間の聴覚の関係については既知の現象として研究が進んでいるが、その理論的な検証にとどまらないところにエンジニアとしてのルカのこだわりがある。30年以上に及ぶオーディオ製品の開発の傍ら、自ら管楽器を演奏する根っからの音楽愛好家として、耳の感性を研ぎ澄ますことに心血を注いできたのだ。

RIVIERA プリアンプ「APL-1」(4,730,000円/税込)※ダークチタン仕上げ

ミュンヘンでのインタビューでは、測定とリスニングのどちらを重視するかという私の質問に対して左右の手の高さでその割合を示してくれたのだが、後者を思い切り高く上げて、測定よりも耳が大事と言い切っていた。同様な質問への答えは「測定と聴覚のどちらも重要」と「最後は耳で追い込む」が多数派で、アンプのエンジニアのなかには「測定こそが重要」と答えるケースも少なくない。ルカのように「聴覚が絶対的に重要」と断言するエンジニアはかなり珍しいのだ。シルビオも「音を決める人物は一人でなければなりません」と語り、エンジニアとしてのルカの感性を強く信頼していることをうかがわせた。

RIVIERA パワーアンプ「AFS32」(4,950,000円/税込)※ダークチタン仕上げ

回路技術と同様、部品の吟味にも強いこだわりがある。すべてのパーツを妥協なく選び、トランスをはじめとして重要なパーツは自社で設計、生産まで取り組んでいる。時間を惜しまないハンドメイドならではの精緻な作り込みは目を見張るものがあり、外観だけでなく内部も隅々まで音質と美観への配慮が行き届いている。

プリアンプには、小ぶりだが重量感のあるリモコンも付属する

血の通った声が豊かな歌い手の表情を印象づける

APL1とAFS32は同社ではミドルグレードながらペアで1,000万円に迫るハイエンドモデルで、今回試聴したブラック仕上げの外観も息を呑むほど美しい。今回は試聴室でリンの「KLIMAX DSM/3」とB&Wの「802 D4」を組み合わせ、Qobuzのストリーミング音源を再生した。

APL-1とAFS32の組み合わせで試聴。ソースはリンの「KLIMAX DSM/3」からQobuzを使用

リビエラのアンプには、音を聴いた瞬間に気付く瑞々しい鮮度の高さがそなわる。たとえばドヴィエルが歌うモーツァルト。良質なアンプなら澄み切った純度の高い高音を正確に再現するのは当然だが、APL1とAFS32のペアはそこにとどまらず、血の通った温かみのある声を通して表情の豊かさを聴き手に強く印象付ける。

「きらきら星変奏曲」の繊細で柔らかい声と「夜の女王」の恐怖を感じさせるほどの厳しく強靭な高音。そのどちらも音自体に誇張はないのに表情は濃密で説得力が半端ではない。歌をサポートするフォルテピアノとオーケストラはどちらも発音が素直でスピードも速い。ゆったりとかまったりという形容は当てはまらず、むしろ反応の良さが際立っていて、無帰還回路にこだわる設計思想に納得がいく。

ソプチクス(Sob & Czyks)「クール・ストラッティン」を聴くと、ピアノやホーンそれぞれの楽器の音色を忠実に再現していることに気付く。ベースも一音一音の発音が明瞭で余分な音を引きずらず、反応の良い動きを見せるが、たんに音離れが良いというレベルではなく、弦の張力や瞬発力など、テンションの高さを実感させてくれる。抜群に切れが良いのにクールで分析的なサウンドに傾かないところに良い意味での個性を感じさせる音だ。

クールでもドライでもないというリビエラの長所が際立つのがヴォーカルだ。ジェニファー・ウォーンズ「サムホエア・サムバディ」を聴けば、声の温かみとボディ感の豊かさは一目瞭然。メインヴォーカルだけでなくコーラスも厚みと包容感があり、部屋を満たす空気の温度が上がるような錯覚に陥るほどだ。

硬さと柔らかさという指標で判断すると明らかに後者だが、柔らかいからといって鈍い音になるわけではない。なめらかで柔らかいのに不自然なふくらみや発音の遅れとは縁がないのだ。そんな音が無理なく出てくるアンプは意外にも少数派で、歯切れは良いが硬質だったり、俊敏だが過度にクールという例はいくらでもある。

さりげなくオレンジのラインが入っているのもリビエラのデザイン的な特徴

セリア・ネルゴール「God’s Mistakes」ではギター群の音色の描き分けの上手さに舌を巻く。撥弦楽器の発音を正確に再現するのは優れたオーディオ機器の証だが、アコースティックギターとセミアコースティックギターの胴の鳴りの違いだけでなく弦の太さや張力の違いをここまで明瞭に鳴らし分けるのは珍しい。ギタリスト一人ひとりの奏法の特長もよく分かるし、複数のギターの間の位置関係も立体的で動きは躍動感に富む。その立体的なギターセクションに支えられたヴォーカルの感触の素晴らしさはあらためて指摘するまでもないだろう。

AFS32の出力はチャンネル当たり32W(8Ω)で、ハイエンドクラスのパワーアンプとしては控えめな数字にとどまっている。モノラル仕様の上位機種AFM100SEは100Wの出力を確保しているが、それもモンスター級アンプに比べるとはるかに小さい。だが、数字が小さいとはいえ、今回の試聴で駆動力に不満を感じることはなく、むしろ密度と鮮度の高さがもたらす音の力強さに強い印象を受けた。

APL-1の背面端子。入力にRCA3系統、XLR2系統のほか、テープイン・アウトなど充実した接続を誇る

AFS-32の背面端子。入力はRCAもしくはXLRを1系統ずつで、トグルスイッチで切り替えができる

スペックの数字が気になるのはオーディオファンの悪しき習性の一つで、実際には自分の耳を信用することの方がはるかに大切だ。リビエラのアンプはその真理に気付かせてくれる稀有な存在といえるだろう。

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