PR 公開日 2025/07/25 06:30

TAD、革新の追求。クラスD搭載の最新パワーアンプ「TAD-M2500TX」、強靭な駆動力の真価を聴く

放熱性能を高め550Wの出力を実現

最高の音質を目指したハイエンドオーディオ「Reference」と、革新的な技術を取り入れた「Evolution」の2つのシリーズを展開するTAD。4月に発売された「TAD-M2500TX」は、Evolutionシリーズ「TAD-M2500MK2」の後継機となる新パワーアンプである。そのサウンドを山之内 正氏が解説する。

TAD パワーアンプ「TAD-M2500TX-S」(価格:3,520,000円/税込)

高効率なクラスDアンプを採用、著しく進化した中核機

現代のスピーカーは大出力アンプで駆動することを前提に設計する例が多く、アンプへの要求は高くなる一方だ。

もちろんそれが悪いというわけではない。能率が多少下がったとしても、トランジェントや歪み、指向性などの諸特性を改善する方がスピーカーの本質的な音質改善につながる。これまでスピーカーとアンプは刺激し合いながら性能の絶対値を上げてきたわけだし、おそらく今後もそれが続くだろう。スピーカーの潜在能力を引き出したいなら、できるだけ駆動力の高い優秀なアンプを選ぶのが正解なのだ。

TADのラインナップにはリファレンスとエボリューション、どちらのシリーズにも強靭なパワーアンプが存在する。前者のモノラルアンプ「M700」は700W(4Ω)、後者の「M1000TX」は500W(4Ω)もの大出力を実現しているが、相対的に小ぶりな後者が500Wに達しているのは高効率なクラスDアンプを採用しているためだ。無駄に熱を出さなければ消費電力も少ないわけで、革新性を重視するエボリューションシリーズに相応しいアプローチだ。

入力端子はRCAとXLR各1系統で、右上のスイッチで切り替える。スピーカー出力端子は1系統。端子のレイアウトからも左右対称性を重視していることがうかがえる

そのM1000TXの上位モデル、M2500TXが4月に登場した。前作M2500 MK2の発売からちょうど10年という節目の年ということもあるのか、今回のモデルチェンジは進化が著しい。フラグシップとM1000TXの間を埋めるというラインナップ戦略的にも重要な位置付けとなる。

回路の正負と左右chの対称性をさらに突き詰めた

電源トランスのトロイダルコア断面の形状をスクエア型からリング型に変えたり、新デザインのアルミ削り出しシャーシの採用で放熱性能を高めるなどの手法により、出力は500Wから550Wに向上。ヒートシンクを使わずシャーシで放熱する構造はクラスDアンプの効率の高さがなければ実現できないものだけに、構造の吟味には需要な意味があるのだ。

本機は「正負左右」の対称性を追求した回路構成やレイアウトが採用されている

上下2分割構造のシャーシそれぞれを90kgのアルミブロックから精密に削り出すことで接合部をなくし、共振を極限まで低減するとともに、グランド電位のさらなる安定化も実現したという。

昨年発売のM1000TXにも採用した電源トランスのリング型コアは、巻き線とコア間の隙間がなく、漏洩磁束と振動も大幅に抑えることができる。アンプ回路初段は完全な新設計で、バランス増幅回路の正負と左右チャンネルの対称性をさらに突き詰めたことが改善の要だ。

接合部がない新デザインのアルミ削り出しシャーシを採用し、対称性の基準となるアースポイントのさらなる低インピーダンス化を実現している

そのほかにもシールド構造の変更で電気信号の反射を抑えてノイズをさらに低減したり、リファレンスシリーズと同じ大型出力ターミナルを導入するなど、音を左右する部分に重要な見直しを実施。制御系トランスもEI型からRコアに変更された。

クラスDの出力段は電力損失の極めて小さいパワーMOS FETを採用したシンプルなシングル構成。アルミ削り出しシャーシの放熱構造により、余裕をもってハイパワーをドライブする高い出力性能を備えている

そうした一見地味に見える改善を着実に積み重ね、音をていねいに追い込むことでさらに表現力を高める手法に、スピーカーにも共通するTADならではのこだわりを見出すことができる。機能面ではバイアンプ接続に対応したことが新しい。

1kVAクラスの大容量トロイダル型電源トランスを新たに採用。引き出し線との接点を極力削減し高純度化を追求するとともに、直出し線のターミナル、基板マウントターミナル、締結ビスに非磁性のメッキと無酸素銅(OFC)を採用し、磁性歪みの排除が図られている

音質レビュー:発音の速さとトゥッティの瞬発力を鮮烈に引き出す

試聴室のレファレンスシステムにM2500TXを組み込み、CD/SACDを用いて再生音を確認した。スピーカーはB&W「802 D4」である。

消え入るような最弱音から曲が始まるシベリウスのバイオリン協奏曲を聴くと、さざ波のような高弦のトレモロと独奏バイオリンいずれも音がかすれず、一音一音に芯があり、小さい音でも楽器の胴体が確実に響いていることが分かる。

そこから次第に楽器が増えて音量が上がると、強弱のダイナミックレンジが想像していたよりも一段と広いことに気付く。導入部のピアニシモがあまりに繊細だったので、フォルティッシモがここまで大きくなるとは予想できなかったのだ。ティンパニの瞬発力が強靭でトゥッティがマッシブなので、いっそう音圧の大きさを実感させる。

同じくSACDでさらに大編成のオーケストラも聴いてみよう。バルトークの『管弦楽のための協奏曲』の終曲、全員がクライマックスに向けてクレッシェンドを持続させる点はシベリウスと似ているが、こちらは各パートの複雑な動きが重なり、音数が圧倒的に多い。それを混濁なく再現できるかどうか、パワーアンプが重要な役割を担う。

M2500TXは特にティンパニとコントラバスの低音を骨太に再生し、しかも余分な音を残さず、一音一音が正確に減衰する。吠えるような荒々しいホルンをはじめ金管楽器に鋭さがあること、さらに和音の重心が低いことがこの演奏の特徴なのだが、その長所が正確に浮かび上がってきた。荒々しいクレッシェンドの後に訪れる静寂の底が深く、余韻が3次元に広がる様子が手に取るように分かることもM2500TXの重要なアドバンテージの一つだ。

ボーカルを聴くと、強弱だけでなく密度の濃淡や音色の幅の広さで声の表現力が一段と広がることに思いが至る。モンハイトとブーブレのデュオは歌詞にリンクして表情が変わる様子を聴き取れるし、リッキー・リーは声の重なりから生まれるハーモニーやうなりが変化に富んでいる。クラプトンのボーカルとギターのかけ合いはライブならではのテンションの高さを生々しく再現してみせた。

圧巻はドゥヴィエルが歌う「夜の女王のアリア」。発音に勢いがあり、ドイツ語ならではの鋭い子音の立ち上がりを忠実に再現するので、一段と力強く、恐ろしさまで感じさせる。ソプラノだけでなくオーケストラもアタックが一瞬たりとも緩まず、荒々しいまでの速さで音が飛んでくる。ピリオド楽器の発音の速さとトゥッティの瞬発力をここまで鮮烈に引き出すアンプは珍しい。

接合部がない新デザインのアルミ削り出しシャーシを採用し、対称性の基準となるアースポイントのさらなる低インピーダンス化を実現している

シリーズ名の「エボリューション」に相応しく、進化を続け革新性を追求する姿勢が音から浮かび上がってくる。

(提供:テクニカルオーディオデバイセズラボラトリーズ)


本記事は『季刊・Audio Accessory vol.197』からの転載です

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