公開日 2024/07/24 16:30

【TIAS会場で先行発売】井筒香奈江最新作『窓の向こうに -Beyond the Window-』音質レビュー

CDの音質クオリティを徹底追求
井筒香奈江の新しいアルバムが面白い。5曲のカバー曲と、1曲の自作曲から成立する6曲から構成された作品だ。頭から終わりまで聴いて、そしてまた頭に戻って聴いてしまう。選曲、歌、演奏、そしてそのサウンドや音質まで、スルメのように味わい深い作品だ。7月26日より開催される東京インターナショナルオーディオショウの会場でもUHQCDとして先行発売が予定されている。

井筒香奈江『窓の向こうに -Beyond the Window-』(JELLYFISH LB-055)

本人に話を聞くことができたので、その内容も含めてアルバムを紹介したい。

井筒香奈江(収録写真 photo by 渡邉久美)

まずはカバーしている曲を紹介しよう。トラック1が山口百恵の「さよならの向こう側」(1980年発表)、トラック2は越路吹雪の「ラストダンスは私に」。オリジナルはアメリカのコーラスグループ、ザ・ドリフターズによる1960年のヒット曲で、今回のカバーは岩谷時子による訳詞のもの。トラック3はハイ・ファイ・セットの「スカイレストラン」(1975年)、トラック4は矢沢永吉の「黒く塗りつぶせ」(1977年)、トラック5は松田聖子の「瞳はダイアモンド」(1983年)。ラストがオリジナル曲の「どこか 〜窓の向こうに〜」という構成である。オリジナル曲は、大切な人を失った女性の話を聞いて作ったそうだ。

カバーした曲を知っている方であれば、「別れ」や「終焉」といったことを歌っている曲が多いのはすぐにわかるだろう。ただし、コンセプトのようなものがあっての選曲ではないとのこと。コロナ禍で生活する中で心に浮かんできた昭和の名曲たちであるという。

その歌詞や歌唱のニュアンスから、全体として何をイメージしているのか読み取ろうとするのだが、重層的で味わい深いイメージが立ち上がってくる。その理由の一つは録音の良さにある。

まずは、その録音のことから紹介しよう、そもそも、今回の作品のスタートは、レコーディングエンジニアであり今作のサウンドプロデューサーでもある高田英男氏(ミキサーズ・ラボ)からの誘いだったという。中目黒にある東京音楽大学のキャンパス内に新しく作られたTCMスタジオで収録されているのだが、このキャンパスのレコーディングスタジオの機材の選定を、ミキサーズ・ラボが手伝った縁で、今回の録音が実現したという。ミュージシャンの顔ぶれは『Direct Cutting at King Sekiguchidai Studio』のアルバムの時と同じだ。

東京音楽大学のキャンパス内にあるTCMスタジオにて収録。エンジニアは高田英男氏

録音の行程を紹介したいのだが、ポイントの一つは、APIのアナログミキサー卓にあるようだ。ヴォーカルをはじめ、各楽器にセットされたマイクの出力は、まずAPIに入り、その出力がProTools・192kHz/24bitのマルチトラックとして録音される。

Landbackでもお馴染みピアニストの藤澤由二

ベースの小川浩史

今度はProToolsからのアナログ信号がAPIに入り、そこで2chへのミックスダウンが行われる。そこからPyramixにて11.2MHzのDSDと、ProToolsの192kHz/24bitのPCMデータが作成される。CDのマスターは、音質を考え11.2MHzのDSDから44.1kHz/16bitのデータを作ったという。

ダイレクトカッティングにも参加したコントラバスの磯部英貴

さらに、一度完成した音を都内の高級オーディオショップに持ち込み、高田氏と井筒さんで試聴。その結果、歌のサ行などに微妙に強い部分があるのを感じ、ミックスダウンとマスタリングをやり直したという。入念というか、音質に関してできることは全部やった録音に感じる。

各フォーマットによる音の違い、あるいは演奏の聴こえ方の違いを書いておこう。製品版のCD(つまりUHQCD)がまだ完成前のため、データを再生して聴いたレポートだ。

鈴木 裕氏の自宅試聴室にてデータ音源を再生しクオリティをチェック

44.1kHz/16bitはアナログ的な太さのある音で、歌の細やかなニュアンスもよく伝わってくる。API卓を何回も通した意味を感じさせてくれる。たとえば「黒く塗りつぶせ」という曲は、歌唱に言葉のスピード感を要求するところがあるが、これをきちんと感じさせてくれる。192kHz/24bitのデータ再生では音の密度がかなり上がり、音像の実体感が素晴らしい。

そして、11.2MHzのDSDの再生では、演奏をやっている場所の空気が再生している部屋に流れ込んできたかのような臨場感があり、ミュージシャンの間合いというか、演奏の呼吸が伝わってくる。それと、オーディオ用語で語りにくい何とも言えない気持ち良さがあり、歌の余韻が強く、重たい情緒を感じさせてくれる。

この文章の最初に書いたように、アルバムの最初から最後までを、なんども繰り返して聴いてしまう。このアルバム、歌も演奏も音も面白い。また、このアルバムを聴いて、カバーしているオリジナルを聴いてもらえたらうれしいと井筒さんも言っていた。そういう楽しみも広がるアルバムだ。

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