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2019/09/21

音声操作から最新サラウンドまで。クアルコム「QCS400」が提示するAV機器のこれから

Alexa対応リファレンスモデルを国内初体験
編集部:小澤貴信
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クアルコムは今年3月、AVアンプやサウンドバー、スマートスピーカー向けのSoC「QCS400シリーズ」を発表した。

QCS400シリーズは、最上位「QCS407」を筆頭に「QCS405」「QCS404」「QCS403」と4モデルがラインナップ。いずれもシングルチップだが、その中には独自のAIエンジン、デュアルDSP、最大4コアのCPUなどが内包されている。さらに最大32chのオーディオ処理が可能で、ドルビーアトモスおよびDTS:Xをサポート。Wi-FiやBluetoothといった現代オーディオ製品には不可欠な要素も内蔵する。その上でオーディオ用に特別な設計が行われており、電力効率の高さや優れた処理能力も特徴だ。

クアルコム CDMAテクノロジーズ シニアマーケティングマネージャー 大島勉氏(右)、同 エンジニア アルン・カルナカラン氏

このチップは、上述のようにAVアンプやサウンドバーなどへの利用も想定される。上記の仕様からもわかる通り、スマートスピーカーなど比較的カジュアルなサウンド関連製品だけでなく、本格的なホームシアター製品や上級クラスへのAVアンプへの搭載も念頭に置いたものとなっている。

今回、クアルコムでQCS400シリーズを搭載したリファレンスモデルのデモンストレーションを体験しつつ、本チップがオーディオ&ビジュアルの王道にどのような製品をもたらしうるのか、クアルコムの大島勉氏に聞いた。


今回のデモの概要。リファレンスモデルの内容

今回、クアルコムのオフィスで、QCS400シリーズを搭載したリファレンスモデルとなるサウンドバーを体験することができた。これは米本社における発表会でも披露されたものだが、国内でプレス向けに公開されるのはおそらく初めてだ。

クアルコムのオフィスに用意されたQCS400シリーズのリファレンスモデル。7.1ch再生に対応したサウンドバーで、上向きのイネーブルドスピーカーも内蔵。5.1.2ch再生も可能だ

本機に搭載されたのはシリーズ最上位で4コア搭載の「QCS407」だ。このサウンドバーは、QCS407を心臓部として、全7ch分のアンプを搭載。外付けのアクティブサブウーファーと組み合わせて、5.1.2chのドルビーアトモス再生が可能だ。

さらにアンプ部には、クアルコム製のフルデジタル・アンプソリューション「DDFA」を採用。各chごとにワンチップ化されたDDFAを搭載する。QCS400シリーズはDDFAとの組み合わせが考慮されていることも特徴だ。

QCS407とDDFAを搭載した豪華なサウンドバーのクオリティも気になるが、今回のデモの主旨は別のところにある。QCS400シリーズは同社のAIエンジンも内包し、音声認識への対応も大きな長所となる。このリファレンスモデルにはマイクが搭載されており、サウンドバー単体でAmazon Alexaによる音声操作が行える。

マイク内蔵によって単体で音声操作が行えるスピーカーは増えているが、大音量で再生を行っているときに、こうした製品に内蔵できる超小型マイクで音声認識を行うことは、想像以上に技術的なハードルが高く、現在各社が苦心しているポイントなのだという。

QCS407を含むメインボード。QCS400シリーズのチップ自体は親指の爪程度のサイズで、メインボード中央の独立したボード内に納められている。開発用に様々なインターフェースを用意するために、メインボードが大きくなっている

QCS400シリーズは、優れたノイズやエコーのキャンセリング技術、発話者の位置を特定するビームフォーミング技術を盛り込むことで、大音量再生中でも音声操作を可能にしたのだという。今回は、この大音量再生中の音声認識を実際に体験することができた。

大音量再生中でも高精度に音声を認識してくれる

まずはリファレンスモデルで、ドルビーアトモス収録のデモコンテンツを再生する。今回は音質チェックのデモではないだが、DDFAの威力は発揮されていて、大音量でも歪みが少ない。高さ方向を含むサラウンド音場の立体感もなかなかのもの。

ここからが本題。音量を専用室でないと厳しいレベルにまで上げていく。再生するのは映画コンテンツのアクションシーンで、大声を出さないと部屋の中で会話ができない音量だ。ここで、サウンドバーから2-3mほど離れた距離から、リビングで普通に会話をするくらいの声量で「Alexa」と話かける。すると、すぐにAlexaが反応し、「東京は今何時?」という問いかけに対して「17時です」と答えてくれた(なお、今回のデモでのやりとりは英語だった)。

他にも音量調整を音声で操作するが、大きな音量でもAlexaがすぐに反応する。話しかける位置を変えても問題なく反応する。

今回のリファレンスモデルに搭載されたマイクボードには、最大8基のマイクが搭載できるが、今回はあえて4基のマイクしか搭載されていない。マイクを増やせば認識精度は上がるが、コストも上がってしまう。今回、最小限のマイクでも高い認識精度を発揮できることを示すために、搭載するマイクの数を絞ったのだという。

リファレンスモデルに用いられたマイクボード。マイクは径1mmほどの極小の孔に配置されていて、写真では判別できないくらい小さい

大音量の中でも精度の高い音声認識ができるのは、QCS400シリーズに内蔵された独自のノイズ/エコーキャンセル技術に加え、その高い演算能力によって、ユーザーの位置特定やそれに合わせたノイズやエコーのキャンセル処理を最適化を高精度に行えることも寄与している。

Amazon Alexaによる音声操作のデモの様子。大声を出さないと会話ができない位の大音量の中で、呼びかけに対して高精度に反応していた

また、QCS400シリーズにおける音声認識機能にはもうひとつの長所がある。それはクラウドを介さないエッジ処理での音声操作に対応することだ。Wi-Fiに繋がっていない状態で、Amazon AlexaやGoogleアシスタントを介することなく自然言語認識ができるのだ。音声で操作できるデバイスが家庭にますます増えていくなかで、このエッジ処理に対応する点も大きな強みになっていくという。


本格的なサウンド製品にも採用可能な優れた処理能力とオーディオ性能

今回、大島氏に改めてQCS400シリーズの優位性について話を聞くことができた。クラスの異なる4モデルを用意しており、スマートスピーカーなどへの搭載も想定されるQCS400シリーズだが、今回は特に上級クラスのオーディオ&ビジュアル関連製品への搭載を念頭に話を聞いた。

まず、QCS400シリーズが備える優れた処理能力は、オーディオ製品に大きな恩恵を与えてくれる。ドルビーアトモスやDTS:Xなどのオブジェクトオーディオ・フォーマットには高い処理能力が求められ、チャンネル数の多い上級AVアンプではDSPを複数個搭載するケースも多い。QCS400シリーズは、同社のスマートフォン向け最新SoC「Snapdragon 855」に採用されたものと同等のDSPを搭載し、圧倒的な処理能力を誇る。これにより、ドルビーアトモスやDTS:Xの処理も1チップでまかなえ、コスト面でも設計面でも有利に働く。

中央の独立したボード内にQCS407が納められている

また、QCS400シリーズはチップ自体がドルビーアトモス/DTS:Xに対応している。“対応”というのは、これらフォーマットのデコードライブラリが準備されていることだそうで、これが開発者にとっては大きな助けになる。

これらの最新サラウンドフォーマットには、高い処理能力が求められるだけでなく、デコードのプロセスも複雑になり、採用するチップごとにデコードライブラリをインテグレーション及び動作検証するのは非常に手間がかかる。QCS400シリーズを使えば、これらを新たに行う必要がない。

柔軟性の高さもポイントだ。ドルビーアトモスやDTS:Xのデコード処理は、CPUに割り振ることも、DSPに割り振ることも可能。従来から用いているDSPを併用するといった使い方もできる。メーカーはラインナップ展開やこれまでの技術資産などを踏まえて、最適なかたちでQCS400シリーズを活用できるのだ。なお、今回のリファレンスモデルでは、CPUでこれらのデコードを行い、その後の音声の後処理はDSPで行っている。また、音声認識はDSPで処理しているとのこと。

なお、QCS400シリーズはクラスが異なる4モデルがラインナップされているが、いずれもDSPや音声処理は同じIPで動作する。音声認識などは各モデルで同等の性能を確保できる。さらにQCS400シリーズはPin to Pinコンパチブル仕様となっており、QCS407が載せられた基板において、QCS405に差し替えてもそのまま動作するという互換性を4モデル間で有している。

QCS400シリーズのラインナップ

AVアンプのようなエントリーからハイエンドまで幅広い価格帯で展開される製品では、プラットフォームを共通化しつつ、各モデルで必要な機能・性能に応じたQCS400チップを載せることができる。ラインナップ展開も容易になり、プラットフォーム共通化による様々な恩恵も享受できる。

オーディオ専用の設計で音質にも妥協ない

クアルコムならではと言えるのが、オーディオ製品に採用する上で重要なオーディオインターフェースに力を入れていることだ。QCS400シリーズはDSDのネイティブ入力にも対応。DDFAとの接続性も担保するなど、高音質を実現するための配慮も随所に行う。「計算能力が高いだけでなく、オーディオ性能や音質という点にも妥協なく作り上げたことがQCS400シリーズの強みでもあります」と大島氏は語る。

CPUやDSPには柔軟にプログラムの書き込みが行えるため、Auro-3Dや各社独自のポスト処理対応させるといったことも可能だ。4K/8K放送の22.2ch音声に対応させることも技術的には問題なく行えるはずだという。

リファレンスモデルに組み合わせられたDDFAを含むアンプ基板

現代のオーディオ機器では必須のWi-FiやBluetoothもチップに内蔵されている。また、ハードウェアだけでなく、ソフトウェアもクアルコムがバックアップしていくとのこと。アンプやプレーヤーといったレガシーなオーディオ技術に特化したメーカーが、QCS400シリーズを用いることで、音声操作や最新のサラウンドフォーマットに対応したAV機器を開発するというような展開も考えられそうだ。

今回のAlexaデモは、クアルコムでQCS400シリーズに関するエンジニアリングを務めるアルン・カルナカルン氏も参加してくれたのだが、同氏をはじめQCS400に関わるエンジニアが日本オフィスに居り、採用するメーカーのサポートを行っているとのこと。こうした点もメーカーにとっては心強い。

QCS400シリーズは、サウンドバーやAVアンプ、ひいてはオーディオ製品全般の未来像を提示してくれる。ワイヤレスオーディオ、音声操作、最新サラウンドフォーマットといった最新技術を盛り込みつつ、メーカーはオーディオ機器の核心である音質設計に注力する。そのような理想を実現し得るSoCだ。QCS400シリーズを搭載した具体的な製品は2020年には登場することが予想でき、今から楽しみだ。

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