スピーカーセッティングを攻めろ!FYNE AUDIOの10万円ブックシェルフの使いこなしを徹底研究
デスクトップに置くにちょうどよいサイズのスピーカーが英国から届いた。FYNE AUDIO(ファイン・オーディオ)最少となる125mm同軸ユニットを搭載した「F5S」(132,000円/ペア、税込)だ。セッティング次第で他のスピーカーでは得られない音世界が拡がる本機をご紹介する。
セッティングの追求がもたらす深いオーディオ世界
「壺中の天(こちゅうのてん)」という言葉がある。俗世間を離れ、酒を楽しむ隠れ家的な空間や体験のことだ。
リスニングルームという壺の中に入り音楽を愉しむオーディオという行為は、壺中の天そのものであろう。壺の大きさは人それぞれだが、壺の大小と感動は比例しない。小さな壺ならではの世界があり、そこでしか得られない感動がある。
なぜそのような話をしたのか。それはF5Sとリスナーの間を1mの正三角形にセッティングし、かつ耳の高さを同軸ユニットの中心に合わせた時にのみ、精緻で左右の広い音場と自然で深い奥行きという、小さな壺でしか得られない音世界が得られたからだ。これはタイムアラインメントがキチンと取れた、優れたスピーカーシステムでしか実現し得ない。
また、本拠地であるスコットランドのノース・ラナークシャー風景を想わせる、どこか陰のある表現にも好感を抱いた。造り手は意識していないだろうが、オーディオ機器には、どうしても作り手の意識が反映されるものだ。
セッティングの重要性を教えてくれる
その作り手が過去タンノイに在籍していたことからか、クラシックの表現には目を見張るものがある。イラン系オーストラリア人のチェリスト、キアン・ソルターニが弾き振りしたシューマンのチェロ協奏曲などは、まさに水を得た魚のよう。カメラータ・ザルツブルクを従えて、堂々とチェロを奏でる姿が眼前に浮かび上がる。キラリとした高音が、楽曲に活き活きとしたアクセントを加える。
もちろん、ポップスでもロックでもジャズでも、少し大人の色香を加えたサウンドでリスナーを魅了する。手練れの仕事ぶりに、ただただ感心した。
ただ、セッティングはかなりシビアだ。というのもホーン型トゥイーターゆえ、指向性はかなり狭く耳とトゥイーター中心部の高さを合わせなければ、美しい高域が耳に届くことはない。試しに高さはそのままで外振りにしてみたところ、やはり高域がどこかへ消えてしまった。さらにスピーカーとリスナーの距離を厳密に揃えないと、音像のフォーカスはかなり甘くなる。
F5Sは、美しい音を奏でるスピーカーであり、セッティングの重要性を使い手に教えてくれるオーディオの先生でもあるのだ。
それゆえ筆者がF5Sを手に入れたら、リビングのテレビの横に置きパートナーや家族と共に映画を愉しむのではなく、PCデスクのディスプレイの両脇に置いたデスクトップオーディオシステム用として使うだろう。
トゥイーターの高さはIsoAcousticsやクリプトンから出ている卓上用スピーカースタンドと椅子の高さを調整すれば解決しそうだ。
厳密にセッティングを詰めて、ドイツ・グラモフォンの「ステージプラス」をはじめとする映像のサブスクリプションサービスを愉しんでみたい。アンドリス・ネルソンス、ヤニック・ネゼ=セガン、ジョン・エリオット・ガーディナー等の一流指揮者による有名オーケストラの名演を目前で愉しむ。これを壺中の天と呼ばずして、何といおうか。
使い手を選ぶかもしれない。だが、ツボにハマったら他のスピーカーでは得られない、ミクロコスモスの世界が待っている。まさに、オーディオの魅力を伝えるコンパクトなブックシェルフスピーカーと言えるだろう。

