公開日 2014/01/23 19:02

ドルビー、輝度・コントラスト・色再現性向上の映像技術「ドルビービジョン」説明会を開催

米国で年内に対応テレビ・VODサービスが登場予定
ドルビーラボラトリーズは映像の高画質化技術「ドルビービジョン」の記者説明会を開催した。今回、1月上旬に米国で開催された2014 International CESの会場で新たなハイダイナミックレンジ映像技術として紹介された「ドルビービジョン」の技術内容が詳しく紹介された。

「ドルビービジョン」は同社が2007年に発表したLEDテレビのバックライト技術と同じ技術名称だが(関連ニュース)、今回その技術内容が大幅にアップデートされた。最新バージョンの技術では、カメラでの撮影・キャプチャーからポストプロダクション、圧縮信号の伝送、ディスプレイへの表示まで、End to Endで一貫した高画質化のための技術体系が構築されたことが最大の特徴になる。

ハリウッドをはじめ制作サイドから、ダイナミックレンジ向上、色域拡大の新技術を求める声が強くあったという

進化したドルビービジョンの技術により、輝度・コントラスト・色域の再現力が高まる

通常、人間の目は動画レベルで現実世界の視覚情報を明部2万ニット(1ニットは1平方メートルカンデラ)、暗部で0.001ニットまでの輝度差で認識できるとされている。ところがBlu-rayで表現可能なREC 709カラープロファイルでは、最高100ニットから0.117ニットのレンジまでしかカバーできないことから、被写体本来の色彩や輝度はカメラで記録されていながらも、ディスプレイに表示される時点では多くのデータが失われてしまっている。

ドルビービジョンでは、明部1万ニットから暗部0.005ニットまでの輝度情報を「ドルビービジョンレンジ」として定義。この広いダイナミックレンジを映像情報として記録・伝送・再生することを目指す。ダイナミックレンジが広がることにより、これまで白潰れしていた明るい部分の色も正確に表現できるようになり、結果、視覚的な色再現性が高まる。これにより映像制作現場でのカラーグレーディング(色彩補正)段階で、撮影時の情景をよりリアルに再現することが可能になる。

上が人間の目で認識できる輝度の範囲。中央がBlu-ray。下段ドルビービジョンは明部1万ニットから暗部0.005ニットまでの輝度情報を再現できる

ドルビービジョンのマスターは1万ニットから0.005ニットまでの輝度情報を記録。マスターを様々な媒体に展開するイメージが示された

映像信号はH.264やHEVCなど既存のコーデックが用いられ、通常8ビットの映像信号と互換性を持った「ベースレイヤー」に加え、ドルビービジョンの付帯情報を収録した差分部分の「エンハンスメントレイヤー」の2つを送信。ドルビービジョンに対応するディスプレイ機器では、2つのレイヤーをデュアルデコードした後に、2つの信号を合成して12bitのドルビービジョン映像をつくり出すという仕組みになる。これとは別に、フレームごとのメタデータも送られ、フレームごとのピーク輝度情報などを格納・伝送する。輝度などの性能はテレビによって異なるため、信号を受け取ったテレビなどディスプレイ側で、デコード時にディスプレイ性能に最適化しながらマッピングし、表示する。なおドルビービジョンに対応していないテレビに信号が入力された場合はベースレイヤーの信号のみがデコード再生される。

CESの会場ではシャープ、TLC、VIZIOがドルビービジョン搭載のテレビを試作・展示し、コンシューマー向けビジネスモデルを示した(関連ニュース)。またコンテンツプロバイダーからも、Microsoft Xbox Video、Amazonインスタント・ビデオ、Netflix、VUDUなどVOD事業者が賛同。ドルビーラボラトリーズからは、同技術を採用したコンシューマー向けテレビ、およびVODをプラットフォームとしたコンテンツサービスが、早ければ今年の後半にも提供されるという見込みが示されている。なお、日本国内でのサービス開始時期は未定。

直視型テレビがドルビービジョンに対応するための条件としては、直下型バックライトシステムと高輝度パネル、ドルビービジョンでエンコードされた映像信号のデコーダーと、VODサービスのプラットフォームが必要になる。同社ではこれらの要件を定義し、認証した製品については「ドルビービジョン」対応ロゴマークの付与などを認める。ドルビービジョンに対応するVODサービスは、STB経由ではなく、ネットワークから直接テレビなど表示機器の内蔵デコーダーに送り込むサービス形態が今のところ想定されている。

本日の記者説明会にはDolby Japan(株)事業開発部 ディレクターの真野克己氏が出席し、ドルビービジョンの技術と今後のビジネスモデルを紹介した。

Dolby Japan(株)事業開発部 ディレクター 真野克己氏

ドルビーの説明会会場に設置されたデモ用ディスプレイ

CESではコンシューマー向けのテレビとして、いち早くドルビービジョンの試作機が紹介されたが、当然ながらカメラや編集機材、エンコーダー、送信機材など制作サイドの機器にもドルビービジョンへの対応が必要になってくる。今後ドルビーラボラトリーズではライセンシーへのアピールと技術提供に力を入れていく考えであるという。

説明会場では、最大輝度4,000ニットの高輝度リファレンスモニターの試作機によるドルビービジョンの映像を、比較用として本機の隣に並べられた100nits/8bitのドルビーリファレンスモニターの映像と見比べながら視聴することができた。ドルビーのデモ映像では車のボディや飛行機など、金属部分に映る太陽の反射光が驚くほどまぶしく、金属の質感も極めてリアルに再現されるのが確認できる。青空に浮かぶ雲も輪郭がシャープに描かれ、立体感が際立つ。花びらの赤や黄色は濃厚な色合と透明感の両方を兼ね備えている。自然の風景は撮影現場の空気までも感じられるほど情報量が豊か。3D映像よりもリアルといえるほどの没入感が得られる。

同じ会場に用意された、米国でシャープが販売する実測輝度700ニットの液晶テレビに、同じデモ映像を700nitsにダウンマッピングして12bitのディープカラーモードで入力した画面と比較すると、ピーク輝度が段違いに高く、通常のテレビでは情報が失われてしまう高輝度域においても、たとえば雲の質感などを克明に描き出す。通常の信号とドルビービジョンとで、コントラスト感や色彩の広さが全く異なっていることが、さらによくわかった。

右が4000nits/12bit入力対応のドルビービジョン対応高輝度モニター。左が100nits/8bitのドルビーリファレンスモニター。太陽の光のまぶしさが大きく異なっている

同じ比較環境で。車体の紫色が、右側のドルビービジョン対応モニターでは黒つぶれせず影の部分まで色彩感がよくわかる


同じ視聴環境で花びらの映像を比較。右のドルビービジョン対応モニターは色彩感、立体感の表現がより豊か


ドルビービジョン対応モニターの映像

100nits/8bitのドルビーリファレンスモニターの映像

真野氏は「ドルビービジョンを発表後、ハリウッドの制作現場からはカラーグレーディングの新基準になり得る技術と高い評価を得ている。映像の元ソースを高め、それを配信・再生するツールもトータルで提供していくという画期的なソリューションだ」と、ドルビービジョンのメリットを強調する。

CESで披露されたデモンストレーションの効果も高く、例えばコンシューマー機器ではテレビメーカーだけでなく、フロントプロジェクターのメーカーなどからも引き合いが強くあるという。また「今回はまだ劇場や制作現場での進捗についての具体的なことを申し上げられないが、近くドルビービジョンの多角的な展開についても紹介できる機会があるだろう」とした。

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