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公開日 2007/08/17 18:08

鈴木桂水が考える“コピーナイン”問題 − 「9回」の使いこなしを検証する

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デジタル放送の著作権保護に対して見直しが進んでいる。総務省の諮問機関である情報通信審議会がレコーダーなど、HDDに録画したデジタル放送の番組を、いままでのコピーワンスから「コピー9回+1回移動」が可能になるよう、変更するようだ。この「コピー9回+1回移動」について特別名称は決まっていないので、筆者は「コピー9(ナイン)」と呼んでいる。


■コピーワンスとの比較では「コピー9」のメリットは大きい

コピー9のメリットはわかりやすい。コピーワンスでは、HDDに録画した番組を各種メディアに1回の移動だけしかできなかった。HDD上の番組をメディアに移動すると、自動的にHDD上の番組が消去されてしまうのだ。名称は“コピー”とつくのに“複製”ではなく、移動(ムーブ)となっていたのが実際だ。

コピーワンスには多くの問題があり、HDDからメディアへの移動中に停電などのトラブルが発生した場合、録画番組が消滅することがあった。また、HDDに録画した番組をメディアに保存しつつ、携帯電話やマルチメディアプレーヤーなどのモバイル機器に記録して楽しむ、そんないまどきの使い方にも制限をかける仕組みになっていた。アナログ放送の時代にはなかった新しいAVライフスタイルが次々と生まれてきた結果、著作権を保護するあまり、デジタル化による不便が目立つ結果になってしまった。

そう考えると移動ではなく9回も複製ができるコピー9のメリットは単純でわかりやすい。これなら光ディスクに保存しながら、携帯電話やマルチメディアプレーヤーにも番組を保存できる。また万が一、ダビング中にトラブルが発生しても再チャレンジが可能だ。コピーワンスの呪縛から考えると、これは大きな進歩であり、誰もが歓迎するだろう。


■ヘビーな録画ファンにとって“9回”は十分な数字なのか?

ただし注意したいこともある。自分を含め、録画好きのユーザーならば目を光らせていただきたい。まず“9回”という回数だが、同じ番組から任意のシーンを抜き取り、メディアに保存するとそれだけで“コピー1回”とカウントされてしまう。例えば歌番組を録画してお気に入りの歌手だけを選んだDVDを作ろうとした場合、コピー9では9人(もしくはグループ)の抜粋DVDを作れば、10人目には移動になり、オリジナルは消えてしまう。特殊な使い方だが、筆者は9回が決して多い数字ではないと考えている。

もう一つは“メディアの世代越え”ができないことだ。コピー9はいわゆる孫コピー(多世代コピー)ができないので、一度DVDなどに記録してしまうと、そこから先のコピーはできないのだ。確かに孫コピーは際限なく複製品を作れるので問題が多いということも理解できる。ただし、DVDなどの光メディアにも寿命がある。また複数のDVDをより大容量の次世代メディアに記録して、コレクションをコンパクトにしたいという「メディアチェンジ」としての用途はあるはずだ。コピー9ではこれができない。録画したコンテンツは1世代限りということでいいのだろうか?血道を上げて録画したコンテンツが1世代だけのメディアで終わることに不安を覚えてならない。


■ユーザーが迷わず、快適にデジタル録画を楽しめる環境整備を期待したい

そこそもアナログ放送では多世代コピーがOKだったのに、デジタル放送ではできない原因はどこにあるのだろう。デジタル放送が無劣化で多世代コピーが可能なので、歯止めをかける意味でコピーワンスという手段が使われた。ならば、画質の劣化を良しとすれば、多世代コピーは可能なのではないだろうか?デジタル放送をアナログ画質に変換した時点で画質は落ちているので、多世代の、いやせめて2世代ぐらいのコピーは可能にしても良いのではないかと思う。

あまり知られていないようだが、現在審議されているコピー9はHDDを搭載している製品にしか対応しない。つまり一度HDDに録画した番組に対してコピー9が可能なのであって、番組をDVD、Blu-ray Disc、HD DVDに直接録画した場合は依然コピーワンスのルールのままなのだ。録画機を使うユーザーの中には、HDDから光メディアへのダビング操作自体を煩わしいと感じる向きもあるだろう。そんな場合は光メディアへの直接録画が便利なのだが、この場合ではコピーワンスになり、モバイル機器への動画転送などは行えない。

最後にメディアの価格だ。現在、通常のDVD-Rとコピーワンス対応のDVDーRメディアでは、倍ぐらいの価格差がある。コピー9になっても高価なDVDメディアを購入しなければならないのだろうか?

以上が筆者の感じているコピー9のメリットとデメリットだ。著作権保護はとても大切なことだと認識しているのだが、そのために録画機のユーザーが、不便を強いられるのは残念なことだ。よく海賊版対策と言われてはいるが、ほんとうの海賊版は映画館のスクリーンをムービーカメラで撮影しているような粗悪なものが多い。どんなに強固なコピーガードをかけても、やろうと思えばテレビをムービーカメラで撮影しても海賊版は作られるだろう。もっと一般ユーザーが迷わず、快適に使える方法を模索すべきではないかと考えている。



鈴木桂水
元産業用ロボットメーカーの開発、設計担当を経て、現在はAV機器とパソコン周辺機器を主に扱うフリーライター。テレビ番組表を日夜分析している自称「テレビ番組表アナリスト」でもある。ユーザーの視点と元エンジニアの直感を頼りに、使いこなし系のコラムを得意とする。そのほかAV機器の情報雑誌などで執筆中。


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