公開日 2025/12/02 06:35

ソニー、捨てる服などから作った“アップサイクル”ターンテーブル。布の違いによる音の違いを聴き比べ

オーディオにもサステナブルを
出水哲
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ソニーミュージックグループは、同グループが推進する多様なサステナビリティ活動を体験・共有するイベント「サステナビリティDay 2025」を開催した。

アップサイクル素材を用いたアナログプレーヤー

この催しは、社会貢献の枠を超え、日々の事業活動にサステナビリティを取り入れるための気づきや問いを生み出す場として企画されたもので、多様な展示や体験を通じて、新たな視点や行動のきっかけを提案しようという狙いのようだ。その中に、オーディオファンにも気になる展示があったので紹介したい。

廃棄予定の繊維製品をアップサイクル

それが「アップサイクルターンテーブル」だ。会場にはソニー株式会社が主導する環境配慮型ターンテーブルの技術開発に、ソニーミュージックグループが素材提供などで協力した試作機を2台並べ、それぞれの音を体験できるようになっていた。

「アップサイクルターンテーブル」の試聴コーナー。2種類の素材を使ったターンテーブルを並べ、同じアンプとスピーカーで音の違いを確認できるようになっていた

“アップサイクル”という言葉からも分かる通り、このターンテーブルの筐体に使われている素材は、廃棄予定の繊維製品を使って製作されている。具体的にはソニーグループ社内から回収されたユニフォームやグッズを細かい繊維に分解し、それに接着剤などを加えて圧力をかけることで厚さ6mmほどの板状に成形するという。

製造方法は一般的なMDF(中密度繊維板)と同様だが、木材を使ったMDFよりも密度が高くなるそうで、さらに内部損失が適度にあるので嫌な響きを持たないというオーディオ機器に適した特性も備えている。今回のターンテーブルではこれを5層重ねて圧着、厚さ30mmほどの板にして、さらに切削加工を加えたうえでモーターやトーンアームを取り付けている。

廃棄予定の繊維を使って製作された素材。細かく粉砕した繊維と接着剤等を混ぜて圧縮・成形している。写真は厚さ3cmほどで、これをターンテーブルの筐体に使っている

どんな材料を使うかで、レコードの音にも違いが出た!

また今回の面白い試みとして、材料の異なる2種類のターンテーブルが製作されていた(ソニー「PS-HX500」をベースにしたとか)。ひとつはソニーグループの廃ユニフォームと繊維製品サンプルを使ったもので、もうひとつはサッカー・ソニー仙台FCの応援横断幕と廃ユニフォームを主に使っている。なお出来上がったターンテーブル素材の色などはどちらもほぼ同じで、外見からは見分けがつかなかった(塗装などは行っていない)。

会場でそれぞれのターンテーブルの音を聴かせてもらったが、予想以上に違いがあって驚いた。廃ユニフォーム+製品サンプルのターンテーブルは全体にキリッとしたサウンドで、音の輪郭がシャープ。女性ボーカルの高域もすっきり抜けている。どちらかというと現代的な音作りの曲が似合うサウンドだ。

これに対し、横断幕+廃ユニフォームで作ったターンテーブルは、輪郭がまろやかで、いわゆるアナログレコードとしてイメージされる方向の音に変化する。女性ボーカルも少しやさしい歌い方になり、休日の午後にゆっくり音楽を楽しむのにぴったりという印象だ。

ソニーグループの廃ユニフォームと繊維製品サンプルを使ったターンテーブル

オーディオ製品への応用にも期待

どうしてこのような音の違いがあるのかを素材開発担当者に聴いてみたが、その理由は現在調査中とのこと。アップサイクルに使ったユニフォーム等は繊維製品という意味では同じカテゴリーに入るが、使われている材料等に違いがあり、それがターンテーブルの音に反映されているのではないかとのことだった。

オーディオ製品の場合、筐体に使われる材料や塗装によって音が微妙に変化することはしばしばある。今回の「アップサイクルターンテーブル」にも明確な音の違いがあったので、ぜひその理由を解析して、様々な音のニュアンスの異なるターンテーブルを送り出して欲しいと思った。

さらに、この特性なら、ターンテーブル以外にスピーカーなどでも活用できるかもしれないので、アップサイクル素材のオーディオ分野での応用も検討して欲しいところだ。

こちらはソニー仙台FCの横断幕と廃ユニフォームを使ったターンテーブル

環境配慮型のCDパッケージ

その他にも、「サステナビリティDay 2025」の会場には様々な提案、取り組みが展示されていたので、そのいくつかを紹介したい。

読者諸氏にも身近な提案としては、「環境配慮型パッケージ」に注目したい。これはソニーが開発した「オリジナルブレンドマテリアル」などの環境負荷の少ない素材を使ったディスクトレイを、CDやブルーレイのパッケージに採用したもの。ディスククランプにプラスチック削減率51%の素材を使うことで、約97%の石油系プラスチックの削減が可能という(既存のプラスチック製トレイに対して)。

会場に展示されていた「環境配慮型パッケージ」を採用したディスクたち。MISIA「25th Anniversary MISIA 星空のライヴ XII Starry Night Fantasy」や、SUPER BEAVER「LIVE VIDEO 6.5 Tokai No Rakuda Special in “2023-2024”」といったタイトルが並ぶ

他にも、「Rebloom Flower Project」という取り組みも紹介されていた。こちらはコンサートなどで贈られた生花を回収し(これまでは破棄されることもあったとか)、ドライフラワーにして別のライブのディスプレイに使ったり、あるいはポプリや香水などの新しいギフトとして生まれ変わらせるといったアプローチを行っている。“廃棄を減らし、花に関わる人々の想いをリレーしていく”試みにも注目だ。

「Rebloom Flower Project」で生まれ変わった製品たち。展示用のドライフラワーや香水、キャンドルの中に入れるなど、様々な使い方が工夫されている

聴覚に障がいのある人と一緒に楽しむ落語

さらにイベントでは、「エンタテインメント×アクセシビリティ 実証実験ライブ」として落語や朗読劇なども上演された。

高座の後ろにスクリーンを設置し、そこにやさしい日本語で表現された字幕を投写、聴覚に障がいのある人にも落語を楽しんでもらえるように配慮していた

【演目ラインアップ】
・落語:「声 に『しぐさ』を〜耳でも目でも届く噺〜」(出演:立川志の春)
・朗読劇:「声が『姿』に〜響きが輪郭になる朗読劇〜」(作品:CONTELLING『親の奢りで』)
・コント:「声を『かたち』へ〜いろんな声が見えるコント〜」(出演:マツモトクラブ)

こちらは、聴覚に障がいのある方や日本語を母語としない観客への情報保障に焦点を当て、字幕や視覚的演出を強化しているのがポイント。企画段階から障がい当事者が参加し、インクルーシブな舞台を構築することを目指している。

今回は落語を拝見したが、日本の伝統芸能にオリジナル字幕装置を組み合わせ、「声」と「しぐさ」が一体となった、耳でも目でも楽しめる新感覚の舞台を展開していた。

志の春師匠の語りに合わせて、高座の後ろに立てられた小型スクリーンに字幕を投写しているが、そこでは「やさしい日本語」(普段使われている言葉を、外国人にも分かるように配慮した簡単な日本語)を使ったり、漢字にはルビをふるといった工夫も行われている。会場にはソニー・ミュージックエンタテインメントの社員や聴覚に障がいのあるゲストも多く参加していたが、みんな落語を心から楽しんでいる様子だった。

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