公開日 2025/06/13 06:35

【HIGH END】山之内 正がミュンヘンで聴いた、日本で体験できない特別な音。「ドイツ老舗ブランドの競演」

ガウダー&オクターブと、MBLのブースをレポート

甘く濃密な表情は絶品、ガウダー&オクターブ

ミュンヘンのハイエンドショウには世界中のブランドが集結するが、地元ドイツの有力ブランドの存在感は特別なものがある。出展歴が長くリスナーの嗜好を熟知しているブランドの人気は抜きん出ていて、満員御礼が続くことも珍しくない。

日本での知名度は高くないが、シュトットガルトに本拠を置くガウダー(Gauder Akustik)もそんな有力ブランドの一つだ。今年は同じくドイツ南西部カールスバートの老舗ブランドであるオクターブとタッグを組んでそれぞれ新製品を出展。両社の相乗効果で注目度が上がり、立錐の余地がないほど多くのファンを集めていた。

ドイツ・シュトットガルトに拠点を置くガウダー・アクースティックのブース

ガウダーはBerlinaシリーズ最高峰の「Berlina RC15」を公開した。他のシリーズと同様、曲線状に成型した板を上下に多数重ねるリブ構造に特徴があり、BerlinaシリーズではMDF材を重ねて高い剛性を確保。RC15は中高域用キャビネットを挟む形で上下に低域用キャビネットを配置した3ピース構成で、独立したキャビネットを重ねる凝った構造が目を引く。高さは2メートル近くありそうで、見上げるほどの長身だ。

ミュンヘンで披露された4ウェイ7ドライバーの「Berlina RC15」。海外報道では45万ユーロ

この巨大なRC15を鳴らすためにオクターブのJubileeシリーズのアンプを大量投入。低域と中域を2台の「Jubilee Mono Ultimate」、高域を「Jubilee 300B」で駆動するトライアンプ構成で、左右合わせて6台のタワー型モノラルパワーアンプが並ぶ壮麗な光景に目が眩みそうだ。プリアンプは同じくオクターブの「Jubilee Preamp」、ソース機器はdCSの「Rossini」を組み合わせ、取材時にはストリーミング音源を再生していた。ちなみにLP再生の時間枠は超満員のためやむなく断念。ハイエンドに集まるドイツのオーディファンは無類のレコード好きが揃っているのだ。

低域と中域を担当する「Jubilee Mono Ultimate」(中央の2つ)、高域を「Jubilee 300B」(左端)が担当

大柄な外観から力で押しまくる重量級サウンドかと思いきや、落ち着いた佇まいのヴォーカルをはじめ、力みのない自然体の音がリスニングルームの空間を満たし、いつまでも聴いていたくなるような心地良さに包まれる。特に男性ヴォーカルの甘く濃密な表情は絶品。ベースは風のような基音の響きと倍音域の重なりが生む柔らかい音色を忠実に再現し、声やピアノと溶け合う自然なハーモニーの美しさに息を呑む。この比類なく上質な音はトゥイーターを鳴らすJubilee 300Bの資質だろうか。

オクターブが発表した「Jubilee Class A」はシングルエンドの利点を極限まで追求したタワー型モノラルパワーアンプで、ローパワーモードで160W(クラスA)、ハイパワーモードでは280W(クラスA/AB)という驚異的な出力を誇る。

ショウで初披露されたフラグシップ真空管アンプ「Jubilee Class A」。高さ60cmと背の高さも特徴で、海外報道では価格85万ドル

シングルエンドの質感とプッシュプルの大出力の高い次元での両立を目指すアンドレアス・ホフマンの近年の取り組みが実を結んだ重要な製品だけに、異例というべき注目が集まったのも無理はない。バイアス調整や出力レベルを表示するカラーディスプレイなど、デザインと装備の新機軸も興味深い。「何年もかかったけどすごいアンプができた!」と自ら語るアンドレアスの自信作だ。

「Jubilee Class A」のトップにはディスプレイを搭載しておりステータスの確認ができる

球状の無指向性ドライバーが特徴、北ドイツのMBL

ガウダーとオクターブの隣り、アトリウム4南西端の一角ではMBLの広大なブースが例年以上のにぎわいを見せていた。日本では一部のファンを除いてMBLの名は浸透していないが、ドイツや北米では根強い人気があり、ハイエンドオーディオの重要なブランドに位置付けられている。

チーフエンジニアのユルゲン・ライス氏が「101X-Treme MKII」のプレゼンを行う

オクターブやガウダーは南ドイツの名門だが、MBLは同じくベルリンに本拠を置くブルメスターやキールのエラック、ヘルフォルトのT+Aなどと並ぶ北ドイツの重要なブランドだ。

MBLのスピーカーは呼吸球の原理で動作する無指向性ドライバーが広い帯域を受け持ち、通常のダイナミック型スピーカーはもちろんのこと、プレナー型スピーカーとも異なる独自の音像と音場を作り出すことで知られる。あえて言えば、点音源から全方向に広がる音のホログラフィックな立体感は木管楽器や弦楽器に近い。無指向性という点ではジャーマン・フィジックスのスピーカーと共通点があるが、振動ユニットの構造や発音の原理が異なり、独自性が強い。

無指向性ドライバーで独自の音像と音場を生み出す

MBLのブースは在室時間が長くなりがちで、私は少なくとも30分はその心地良い音場に身を浸して時間を過ごす。今年は新製品の出展はなく、昨年と同様、チーフエンジニアのユルゲン・ライス(Jürgen Reis)が「101X-Treme MKII」のデモンストレーションを行っていて、そのサウンドもいつも通り。声や弦楽器の瑞々しい発音と柔らかい音色が再生装置の存在を忘れさせてくれた。

今回の取材時には遭遇しなかったが、MBLはチェロなど楽器の生演奏を交えた試聴イベントにも熱心に取り組んでいる。生演奏とオーディオ再生の比較はよほど音に自信がないと挑戦できないはずで、MBLの試みはかなり希少な例と言って良い。ちなみに今年はゴールドムンドが弦楽四重奏の生演奏をブースで披露し、喝采を浴びていた。

来年5月末開催の〈ハイエンド2026〉以降はドイツを離れ、少なくとも2028年まではウィーンで開催されることが決まっている。「音楽の都」での開催がショウのさらなる活性化につながることを期待しつつ、ドイツで長年接してきた「ジャーマン・サウンド」がオーストリアの首都でもリスナーを魅了することを願ってやまない。

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