公開日 2026/02/27 06:30

「HDR10+ ADVANCED」は最新テレビに寄り添うHDR規格!良くなるポイントを大解説

【Audio Visual Mag】「HDR10+ ADVANCED」に採用された5つの新機能
「HDR10+ ADVANCED」

映像表現の歴史において、「HDR」の誕生は革命的なできごとだった。明暗がよりダイナミックで輝きとさらなる色鮮やかさの実現は、視聴者に解像度向上以上のインパクトと、新しい楽しみをもたらした。HDRの普及において、礎のひとつとなったのがHDRフォーマット「HDR10」の登場だ。

HDR10は、2015年に発表されたロイヤリティーフリーのHDR規格であり、幅広いコンテンツと映像装置に採用されるなど大きな役割を担った。2017年にはサムスン、パナソニック、20世紀フォックスが設立した共同事業体「HDR10+ TECHNOLOGIES」が、HDR10の進化版「HDR10+」を発表し、HDRの表現力を大幅にレベルアップさせたのも記憶に新しい。

そして2025年11月、さらなるブラッシュアップが図られた新規格「HDR10+ ADVANCED」が発表されるに至った。そこで本稿では、本規格のホワイトペーパー、そして規格開発に携わっているHDR10+ Technologies, LLCのマネージャーの森瀬真琴氏のインタビューを基に、新機能の紹介、加えてオーディオビジュアルファンが体感できるユーザーベネフィットについて探っていきたい。

「HDR10+ ADVANCED」で高輝度&大画面化が進む最新テレビのパフォーマンを最大限に引き出す

おさらいとして、最初にHDR10とHDR10+の要点をみながら、HDR10+ ADVANCEDが目指すゴールを整理していこう。HDR10は、明暗の階調である「グレースケール」の量子化bit数が10bitで、明暗に対する視覚特性を応用した「PQカーブ(Perceptual Quantizer curve)」の採用によって、できる限りグラデーションを滑らかに保ち、最大10,000nitsを扱えるよう整えられたHDRフォーマットだ。

特徴は、1つのコンテンツに対して、「MaxCLL」(最大ピクセル輝度)と「MaxFALL」(最大フレーム輝度)を、静的メタデータとしてひとつずつ付与できること。

メタデータが付いているため、テレビをはじめとする映像機器は、あらかじみコンテンツの輝度情報を得ることができるため、情報を受け取った映像機器の輝度表示性能に合わせて、階調の再配置の「トーンマッピング」を行うことが可能だ。

しかし、HDR10の登場当時は、MaxCLLが1,000nits程度のコンテンツが多く、問題がなかったのだが、MaxCLLが4,000nits級の作品が出てくると、映像機器によって暗いシーンでは黒潰れ、輝度が中間的なシーンでは暗めに表示される問題が散見された。こういった問題をカバーするべく登場したのがHDR10+だ。

HDR10+では、HDR10のトーンマッピング問題を解決すべく、コンテンツは最小「フレーム単位」で輝度解析情報を動的に持てるように進化。映像装置側でのHDR10+対応は、自前でのフレーム分析よりも敷居がはるかに低いので、幅広い製品で上質なHDR映像を楽しめるようになった。

HDR10では、コンテンツ側の最大輝度数の高低に関わらず、単一のトーンマッピングしか表現できなかった

HDR10+になったことで、作品のシーン毎に輝度情報を入れられる動的メタデータを用いることで、より的確なHDR表現が可能になった

これらを踏まえて、HDR10+ ADVANCEDの開発が2024年頃からスタートしていたとのこと。開発背景には、テレビの飛躍的な高輝度化や大画面化などがあり、最新世代のテレビのパフォーマンスを最大限に引き出しながら、HDR映像を快適に楽しめるフォーマットが求められたという。

そしてHDR10+ ADVANCEDの開発には、テレビメーカーからだけでなく、コンテンツの制作者、動画配信サービス「Prime Video」などからのフィードバックを採り入れ、問題点の洗い出しと解決のための仕組みや技術を束ねて、規格に落とし込んだ格好のようだ。

フィードバックとして多かった具体例には、「映像が暗い」という意見。明るい環境下で4,000nits級に高輝度化したテレビに、1,000nit程度でグレーディングされたHDR10コンテンツを出力すると、映像が暗くなる現象は十分に起こり得るものだ。

他にも多数の要望があり、新機能でカバーしていくことになった。次に、5つの新機能について解説していく。

HDR10+フォーマットは、映像機器、再生機器、そしてその中間に入る機器も対応していることが必須条件となる

 “映像が暗い” を解決して最適なHDR表現を可能にする「Enhanced Overall Brightness」

テレビの最大輝度は、2015年モデルのハイエンドで500nitsだったが、近年は4,000nits級のモデルも存在している。MaxCLL」が1,000nitsのHDR作品を、4,000nits級のテレビでそのまま表示すると、ピーク輝度が1,000nitsとなってしまうため、普段の視聴感と比べると相対的に暗く感じてしまう。これが、「映像が暗い」という印象に繋がる。

だが、テレビ側で勝手に明るく調整してしまうと、映像が明る過ぎたり、制作者の意図に沿わないものになってしまう可能性があり、それも問題視されていた点だ。「Enhanced Overall Brightness」はそういった映像を改善するものであり、「Tone Mapping Adjustments」「Dynamic Range Expansion」「Specific Viewing Preferences」といった、機能が複合的に含まれている。

「Tone Mapping Adjustments」(トーンマッピング調整)機能は、暗く感じがちなトーンマッピングのコンテンツを、テレビが自身の表示性能に応じて明るく見えるように調整できる機能となる。本機能により、ユーザーが高輝度テレビの性能を活かせるほか、暗いシーンが黒潰れで何も見えないといった問題も回避できるようだ。

加えて、「Dynamic Range Expansion」(ダイナミックレンジ拡張)機能も、「Enhanced Overall Brightness」に含まれる機能だが、ディスプレイが本来備える黒の表示性能よりも、暗いコンテンツの表示を最適化する機能として効果を発揮する。

液晶テレビの場合、輝度が0nitsの完全な黒表示ではないケースがあり、例えば0.1nitと仮定すると、そのままの表示では10bitのコード値で約260まで埋もれてしまう場合があり、黒に近い繊細な諧調が200段階弱も、暗部が潰れたような表示になってしまう。

だが、「Dynamic Range Expansion」によって、テレビの黒表示性能や視聴環境に応じ、視聴者は暗部の諧調情報を見逃さなくて済みそうだ。

「Specific Viewing Preferences」(特定の視聴設定)機能は、スポーツのように視聴者が高輝度を求めるコンテンツに対し、より明るく鮮やかに表現する機能。スポーツ中継などでは、制作者が映画コンテンツのように明暗表現にこだわりを持っている訳ではなく、視聴者の好みの明るさで見るのも良いだろう、そうしたニーズに応えてくれる機能と言える。

明部/中間/暗部の輝度情報をシーン/フレームに付加できる「Extended statistical metadata」

HDR10+ ADVANCEDでは、「Extended statistical metadata」機能の導入によって、制作者側が映像のフレーム内において、各ピクセル輝度情報を従来以上に正確な統計メタデータとして伝送できるようになった。

これにより、映像機器側はシーンの情報と、ディスプレイのピーク輝度に合わせて高度に調整された「guided tone mapping」(ガイド付きトーンマッピング)を実行できるようになったという。つまり、制作者側がより緻密にHDR情報を設定できるため、映像機器側も受け取ることができる情報量が増え、制作者の意図に沿った映像に対して高い忠実度で表現が可能になる。

HDR10+ ADVANCEDは、1つのシーンにおいて暗部/中間/明部の3つのメタデータを記すことができる

本機能では、映像のシーン/フレームに対して、「明部」「中間」「暗部」の3つの輝度情報を、それぞれのヒストグラムから詳細を生成し、メタデータとして付加が可能。

各フレームのピクセルの輝度が記されている実際のメタデータでは、とても細かいデータポイントの数で記述されているが、HDR10+ ADVANCEDでは、HDR10+と比較して、そのデータポイントの数がさらに上がっているという。

規格策定は大手テレビメーカーが主導していることもあり、「画作りに効率的かつ有用な情報」と推測できる。

制作者側が希望するフレーム補間を5つのレベルから選べる「Intelligent Motion Smoothing」

HDR10+ ADVANCEDのユニークな機能のひとつとも言えるのが、「Intelligent Motion Smoothing」だ。動画の動きを滑らかに表現する、いわゆる「フレーム補完」機能を、制作者側がシーン毎に5段階で提示できるようになった。映像機器側は、5段階のフレーム補間情報を得て、その情報を基に加えるフレーム補間のレベルを調整可能にしている。

本機能のポイントは、24fps収録の映画作品に対しての捉え方だ。従来まで、フレーム補完によって発生するヌルヌルとした動き、いわゆる「ソープオペラ効果」が業界的に嫌われる傾向にあったが、制作者側が希望のフレーム補間レベルを効果的に伝えられる可能性が生まれたことだ。

この背景には、テレビの高輝度化と大画面があり、映像が明るく大きいほど24fpsのジャダーが目立ち易いことが関連している。筆者も、近年は適度なフレーム補完の利用を推奨している。

歴史を振り返ると、フィルム映画が24fpsになったのは、フィルムを節約しつつ滑らかな動画として違和感なく見ることができ、映画劇場の輝度基準だった14fl(約48cd/m2)においてジャダーが気にならない最小値だったというもの。

映像が飛躍的に明るくなった現在、24fpsのままではジャダーが非常に目立ち、特にカメラが大きくパンするようなシーンにおいて目が疲れるのは確かだ。

本機能があれば、カメラが固定のシーンではフレーム補完を使わずに人物や動物の動きを自然に表現させ、風景を見渡したり疾走する車を追って大きくパンするシーンでは、適したフレーム補完を効かせるといった使い分けが可能になる。高輝度・大画面テレビで注目すべき新機能と言える。

シーン/フレームごとに映像ジャンルの詳細情報が入れ込める「Genre-based Optimization」

「Genre-based Optimization」は、コンテンツ側に映像ジャンルが振り分けられており、詳細な情報メタデータに盛り込めることが魅力だ。ジャンルカテゴリー/スポーツの種類、オブジェクトの種類、オブジェクトの輝度、動きの種類、照明環境、各種設定、撮影手法、制作メディアなどの情報を提示できる。また、こちらもシーン/フレームごとに詳細なジャンル情報を記せるという。

例えばスポーツのジャンでも、サッカーやバスケットボール、またはゴルフなどで異なるだけでなく、各スポーツの映像特徴を加味したメタデータタグを入れられるようになった

従来は、映像機器側がシネマやスポーツといった映像モードを設けることで、映像ジャンルの種類に応じた最適な画作りを施してきた。しかし、一口にスポーツといってもいろいろな競技があり、照明条件も多種多様。正直、画作りをする上でも判断基準が困難であり、近年は映像機器側がAI機能を用いて映像分析を行い、映像の最適化を売りにする製品が増えていたことも裏付けられる。

ただ、詳細なタグ情報を、どこまで正確に不可されるかは、コンテンツ制作側に委ねられる。また、近年は映像機器側に非常に高度なAI技術を用いているが、非常に多くのタグ情報の組み合わせに対して、常に適切な画作りができるかどうかは、メーカーやモデルによって差異が生じそうだ。その対応力が、製品選びの新基準になるかもしれない。

フレームあたり最大3つのエリアのトーンマッピングを指定できる「Local Tone Mapping」

明暗の幅をダイナミックレンジと呼ぶが、実際には、全体的に暗いシーンの中で非常に明るい領域がある、逆に明るいシーンの中に存在する非常に暗い領域がある、映像にはさまざまなパターンが存在する。特に映画作品では、そうした明暗や、それぞれのディテールに意図を込めていることがとても多い。

HDR10+ ADVANCEDでは、制作者がフレームあたり最大3つのエリアを長方形や楕円形で指定して、トーンマッピングを指定することが可能になった。本機能は、制作者側の提案によるものらしく、単に白飛びや黒潰れの防止に止まらず、人物にハイライト感を出したいなど、魅せたい部分を伝えたい時に応用できるという。

トーンマッピング機能の一種と言えるが、映像装置が制作者の意図をより多く得れば、有限と言えるダイナミックレンジの中で、より豊かな表現に繋がると期待できる。

ひとつのフレームに対して、最大で3つのエリアのトーンマッピングを指定することが可能になったため、人物にハイライト感を出すなど、従来では難しかった表現を実現している

映像機器の広色域性能を活かす「Advanced Color Control」

量子ドット技術やRGB Mini LEDバックライトなどピュアな色表現が可能な技術によって、映像機器の色域性能が超広色域規格「BT.2020」を100%カバーする製品も登場している昨今。「Advanced Color Control」は、近年の映像機器の広色域性能を活かすことを目的とした機能だ。

広色域の映像機器では、コンテンツに記録されている色をエンハンスして、より色鮮やかに表示することも可能だが、不自然に見えてしまうことも多かった。だが本機能によって、色相を12のセグメントに分割し、各セグメントの最大彩度値(chroma)を記録してメタデータとして付加するため、映像機器側は色域性能や画作りの方針に従って、鮮やかかつ自然な色表現が可能になることが期待できる。

自動的にゲーミングモードに切り替わる「Cloud Gaming」

HDR10+ ADVANCEDでは、クラウドゲームの開発者が「Source Side Tone Mapping」を活用できるようになった。対応している映像機器側は、自動的に「HDR10+ Gaming」モードに切り替わるようになる。HDRは、ゲームにも着実に浸透しているため、クラウドゲームもカバーすることで、HDR10+ ADVANCEDを採用するゲームコンテンツが増えると予想される。

情報量が飛躍的に向上、HDR10+ ADAVENCEDの表現力が映像機器の実力の指標になる

「HDR10」HDR10+」「HDR10+ ADVANCED」フォーマットは総じて、制作者の意図を映像機器メーカーに橋渡しするもの。そこには一貫した方針として、規格側はコンテンツに付加するメタデータのルーツ作りに徹しており、画作りに対しては映像機器側に主導権があることが特徴だ。

新たに誕生したHDR10+ ADVANCEDは、制作者側から映像機器に伝えられる情報が飛躍的に増えるため、メタデータを最適に使いこなし、映像機器のポテンシャルを最大限に引き出すことができるメーカーが、映像体験をより高めてくれることは間違いない。

つまり、オーディオビジュアルファンにとって、映像機器の絶対的な性能の吟味に加え、HDR10+ ADVANCEDの表現においても、どのモデルが良いか、どれが好みに合うかなど、製品選びの指標が増えることに繋がると言える。

そして、HDR10+ ADVANCEDを採用するコンテンツと機器は、現状のHDR10+に対応しているメーカーから登場してくることは安易に予想できる。いち早く取り入れてくるのは、どのメーカーであろうか。

HDR10+ ADVANCEDが普及し、制作者の意図を汲み、映像機器の性能を最大限に引き出した映像を、体感できる日がやってくるのを心待ちにしている。

 

HDR10/HDR10+/HDR10+ ADVANCED 比較表

 

■取材・執筆:鴻池賢三
■編集担当:長濱行太朗

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