公開日 2025/09/24 12:00

『続・太鼓判ハイレゾ音源はこれだ!』#2【前編】- かつしかトリオ『“Organic” feat. LA Strings』リリース記念インタビュー

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西野正和
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『続・太鼓判ハイレゾ音源はこれだ!』第2回 前編

かつしかトリオ インタビュー<前編>
〜ここ10年で最高音質なアルバムを、先行シングルで予習する!

かつしかトリオ「Red Express(Organic ver.)」96kHz/24bit

 

 

■10月1日発売の『“Organic” feat. LA Strings』は、ここ10年で最高音質!?

断言しましょう。10月1日発売のかつしかトリオの新譜『“Organic” feat. LA Strings』は、ここ10年で最高音質のアルバムである!と。

いやいや、音質なんて個人の好みによるでしょ?という声が聞こえてきますが、もちろん私も同じ考えでした。この『“Organic” feat. LA Strings』を聴くまでは。確実に、その先へ、その上を超えていく、芸術としての高みという意味での高音質というのは存在したのです。

波形を比較してみましょう。曲は同じ「Red Express」ですが、上が2023年バージョンで、下がLAレコーディングのバージョン。アレンジが違うので波形はもちろん異なります。注目すべきは波形の振り幅。今回のLAレコーディングの波形は、まるでマスタリング前のミックスダウンマスター音源のようです。

「Red Express」2023 Ver.

 

「Red Express」LAレコーディング Ver.

この波形を眺めているだけでも、ただごとではない楽曲だとオーディオ好きなら分かるはず。どうしても芸術と商品の間で揺れ動いてしまう録音物制作において、迷いなく “未来に創造物を届ける記憶” という芸術方向に全フリしたアルバムなのです。

私たちが情熱を注いできたオーディオ・システムで、鳴らすに相応しい音源。そういった意味でも、ここ10年で稀有な存在。来年の大型オーディオ・イベントでは、『"Organic" feat. LA Strings』が鳴るブースで埋め尽くされる未来が見えるようです。

 

■直撃インタビューで高音質の謎を解く!

かつしかトリオは、伝説のフュージョンバンド “カシオペア” の初期元メンバー、櫻井哲夫(ベース)、神保 彰(ドラムス)、向谷 実(キーボード)の3人によって2021年に結成。

新譜『“Organic” feat. LA Strings』には、奇跡とも思えるサウンドが記録されており、その奇跡を掴めたのには、きちんとした理由があったのでした。

巨匠ドン・マレー氏によるLAレコーディング&ミックス。そして、マスタリングは、なんとバーニー・グランドマン氏!腰を抜かしそうなビッグネームお二人をエンジニアに起用したというだけで気絶級のトピックスですが、そう簡単には音楽の神様は微笑んでくれません。

先行シングルの「LUCA」を聴いてノックアウトされた私は、奇跡のサウンドの真相を探るべく、かつしかトリオの御三方に直撃インタビューを敢行しました。

 

■LAレコーディングを実現させた、40周年事業とは?

ミリオンヒットが乱立した音楽バブルのころなら理解できますが、令和の現在では海外レコーディングは夢のまた夢。しかもストリングスという大所帯をフィーチャリング??? トドメは超大御所エンジニアの起用……。そんな制作費が今のレコード会社からは出るはずもなく、音楽プロデューサーなら確実に気絶モノの案件です。


向谷これはメンバーとも相談のうえ決めたんですが、私が代表を務める株式会社音楽館がアルバム制作費を出しています。

音楽館が今年で創立40周年を迎えるということで、いろいろな周年企画を考えていました。おっしゃる通り、海外レコーディングと日本の円安と、スタジオの一番良いところを使ったものですから、原盤会社として制作費を出すというのは音楽館としてもチャレンジです。

しかし、コストとか費用ということよりも、こういう機会って40年に1回しかないことなので、40周年企画の総予算の中から原盤会社として大きな予算をかけてもいいんじゃないかということで挑戦しました。

ただ、来年も再来年もそれをやるかといわれると、辛いかもしれない。でも、この先のかつしかトリオ4作目5作目があるとしたら、この3作目がどういったターニングポイントになるのかな?という想いもあったので、ひとつの先行投資みたいな感じです。音楽館がスポンサーという形になるのかもしれないけど、CDの端っこに小さく40周年のロゴを載せています。

 

■渡米直前に完成した新しいベース

実は、ベーシスト櫻井哲夫氏の楽器ケーブルは、筆者の会社(レクスト)で開発しています。今回のLAレコーディングで活躍したレクスト楽器ケーブルは、何度も櫻井氏からダメ出しを受けながら辿り着いた最終形態。ブルーノートのライブ・リハーサルでこのケーブルを初投入した瞬間、PAエンジニアさんが 「何を変えたんですか!?」と、あまりのサウンドに驚いて、ステージまで慌ててやってきたというエピソードがあります。

完成したばかりのベースとレクスト・ケーブルのみでLAレコーディングに挑んだ櫻井氏。その愛機の秘密を深堀りします。


櫻井渡米4日前だったかな、ヤマハ本社から新しいベースが送られてきたんです。新しいベース2号機では、1号機とは周波数をかなり変えているのがミソ。ベース本体に内蔵しているアクティブ回路の周波数の効き加減のポイントを、半年くらいかけて入念にヤマハさんと打ち合わせて完成させました。

渡米2日前くらいに、皆と音合わせする最終リハがあったので、1号機と2号機を持参して、「2号機を持っていくつもりだけど大丈夫かな?」と聴いてもらいました。2人とも「いいんじゃないの?」ということだったので、LAには2号機のみを持っていきました。

実はレコーディングでは、アクティブ回路のトレブルとミドルをフルにしていたんです。それでもちゃんと整うくらいの周波数のポイントと効き加減なので、決してアクティブ色の強い音になっていない。ボディーの鳴りがちゃんと届くような感じのアクティブ回路になっていると思います。

あとケーブルが素晴らしい(笑)。西野さんとも何回もやり取りしたじゃないですか。6弦ベース専用に、レクストで低音に特化したケーブルをいろいろ作っていただいたんです。でも、あまりに低音が充実し過ぎちゃうと、逆に相対的にミッドとハイが弱くなってしまう。できるだけバランスはプレーンな状態で、レクストの音の魅力を失うことのないニュー・バージョンのケーブルをとリクエストしました。完成したその最終のケーブルを今回のLAレコーディングで使用しています。

櫻井哲夫氏

 

■6年の眠りから目覚めたドラム

神保 彰氏の専用ドラム・セット “武蔵” が、ロスのヤマハに保管されているのもLAレコーディング実現への大きな強みでしょう。日本からドラムを運ぶという大掛かりな輸送をすることなく、慣れ親しんだ自分の楽器でレコーディングできるというのは普通では考えられない好条件です。


神保武蔵の登場は久しぶりです。コロナで1回ロスレコーディングが止まっちゃいましたので、2019年が最後かな。6年ぶりくらいです。

6年間誰も使わなくて、ヘッドの打痕もそのままの状態だったので、すごいイイ感じで鳴っていました。

櫻井えっ、ヘッド替えなかったの?

神保替えなかった。

櫻井向谷ええーーっ(驚)

神保ヘッドはプラスチックだからね、劣化しないから。

櫻井知らなかった〜。じゃあアレは6年前のヘッド!?

向谷そういえば張り替えてるの見なかったな〜。

神保タムも何にも替えていなくて、ヘッドは6年前のまんま。一応、替えのヘッドは持っていって、へたっていたら替えようとは思っていたんだけど、すごいイイ感じだったので。

櫻井それ、ヤマハの人が内緒で替えてくれてたんじゃないの?

神保いやいやいや、打痕が自分のだもの。

向谷打痕って、自分のだって分かるの?

神保分かる分かる。スイートスポットのエリアが自分のエリアっていうのがあるから。

櫻井向谷ほぉぉぉ〜。

櫻井6年前って、ベースの弦だとあり得ない話。

神保チューニングもほとんど触っていないですね、6年前のまんま。

向谷なんか、あんまり何もしてなかったよね。すぐドラムの音が出てたもの。

神保 彰氏

 

■ピアノの名器ベヒシュタインの悩ましく美しいサウンド

向谷自分が見たことも弾いたこともないピアノで、最初は困惑しました。これでどうやってレコーディングするんだろう。どう弾いたら、どういう表現になるんだろう。初日の夜は悩んでたくらい。

たぶんソロピアノの仕事だったら、ずっと悩んでたと思う。このピアノが凄いのは、一緒に3人で鳴った瞬間の音が、もの凄くアンサンブルに馴染むんですよね。ドラムやベースが入って弾いたときに、これだよなって音が出るんですよ。でも1人でポロポロって弾いていると、いやどうやって弾いたらいいんだろうと悩んでしまう。

それが初日の印象で、このピアノが調律で更に素晴らしい音になったんです。

櫻井僕はピアノの人が調律するのを、モニターのイヤホンでずっと聴いていたんですよ。30分くらいすると、だんだんピアノの倍音が滲まなくなってきて。スッともの凄く綺麗な音になったなと思ったら、「完成です」 ということでした。凄かったです。

向谷また機会があったら、あのベヒシュタインでレコーディングしたいな。

向谷 実氏

 

■先行の3音源で予習を!

インタビューの核心は、後編で。高音質アルバムの秘密が山盛りです。しかも、ちょっとしたオーディオセミナーもあります。

まずは先行発売されている 「Red Express(Organic ver.)」、「LUCA」、「Origin」 の3音源で、本当に最高サウンドなのかチェックしてみてください。驚きますよ〜。

 

(後編につづく)


筆者プロフィール

西野正和(にしの まさかず)
オーディオ・メーカー株式会社レクスト代表。YouTubeの “レクスト/REQST” チャンネルでは、オーディオセミナーやライブ比較試聴イベントを配信中。3冊のオーディオ関連書籍 『ミュージシャンも納得!リスニングオーディオ攻略本』、『音の名匠が愛する とっておきの名盤たち』、『すぐできる!新・最高音質セッティング術』 (リットーミュージック刊) の著者。アンソニー・ジャクソン氏や櫻井哲夫氏など、世界トップ・ベーシストのケーブルを手掛けるなど、オーディオだけでなく音楽制作現場にも深く関わり、制作側と再生側の両面より最高の音楽再現を追及する。


 

 

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