公開日 2025/08/01 12:00

『続・太鼓判ハイレゾ音源はこれだ!』#1 - 角松敏生『Forgotten Shores』徹底研究【後編】

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西野正和
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『続・太鼓判ハイレゾ音源はこれだ!』第1回 その3

角松敏生 『Forgotten Shores』 徹底研究【後編】
〜好きなアーティストの作品は、絶対にハイレゾで聴くべき理由!

角松敏生 『Forgotten Shores』 48kHz/24bit

 

角松敏生氏によるオーディオ・セミナー的な新譜解説も、いよいよ最終回!

角松敏生氏にハイレゾ縛りで質問したら、なんと約7000文字もの回答が届いた! 各関係方面に無理を言って、全文掲載に踏み切った3部作。いよいよ大団円の後編です。

以下のような3部作で、角松氏のコメントを元に 『Forgotten Shores』 を徹底研究しております。ぜひ前編と中編も合わせてお楽しみください。

『続・太鼓判ハイレゾ音源はこれだ!』第1回
【前編】 オーディオ界の知らない最新音楽制作の真実
【中編】 音圧問題を斬る
【後編】 ハイレゾで聴く意義がここにある(今回)

 “大好きな音楽こそハイレゾで聴くべきである” と伝えたい。その理由とは何か? この【後編】では、角松氏のコメントからその意義を考察していきます。

 

【後編】本作の48kHz/24bitハイレゾは、まさにマスター音源そのものだ!

角松氏の回答から、重要な情報が入手できました。『Forgotten Shores』 がレコーディング段階から48kHz/24bitで制作されたということ。そしてマスタリング後にレコード会社へと提出されたマスター音源も、ハイレゾ音源として世に出ている48kHz/24bitそのものであるということ。

ハイレゾ・マニアからすると 「192kHz/24bitやDSDのほうが良かったのに〜」 と感じるかもしれません。ではなぜ音楽制作現場では48kHz/24bitが選択されているのでしょう?角松氏の回答から、その理由もしっかりと学ぶことができます。

重要なのは、本作品では配信用もCD用も、この48kHz/24bitマスターが元になっているというところ。アナログ・レコード時代に例えるならば、私たちオーディオ好きが一度は聴いてみたいと夢描いたアナログマスターテープ。それと同じ存在が、この48kHz/24bitマスターなのです。そんなマスター音源が一般家庭で聴ける時代が、既に実現しています。ハイレゾ万歳!

 

実際に聴き比べた、『Forgotten Shores』ハイレゾ vs CD!

比較試聴するのに#1.「Blue Swell」 は、もってこいのサウンド。9人編成のホーンセクションは豪華絢爛、ドラムやベース、ギター、キーボードも打ち込みではなく生楽器。女性コーラスもキラッキラ!

オーディオ好きの方が本作を聴くには、試聴前に少々の作法が必要です。音圧が高い音源ということは、いつものジャズやクラシック作品を聴いている音量からはグッとボリューム下げねばなりません。ちなみに、私のアンプでは5クリック下げて聴きました。

一聴すると、CDやサブスク配信の音からハイレゾに切り替えても、音質の印象はどれも同じに聴こえます。しかし、今度はハイレゾからCDに切り替えると、あら不思議。さっきまで同じ印象に感じていたサウンドが、CD盤は小さくまとまって枠の中に収まっているように感じます。そう、人は一度良い音を聴いてしまうと、元には戻れないのです。

音圧的にはギリギリを狙いった音源なのに、確かにハイレゾでは僅かながら音と音の隙間を感じることができます。そしてCDでは低かった高域の高さが、ハイレゾでは一変。ホーンセクションが上方へと伸びていく輝きを認識できたら、ハイレゾからCDの音に戻ることはできないでしょう。

#5.「Slave of Media」では、日本の誇る2大サックスプレーヤーである本田雅人氏と勝田一樹氏のバトルが繰り広げられます。仮想 “T-SQUARE vs DIMENSION” と言えば、そのパフォーマンスの凄さがご想像いただけるでしょう。凄まじいです!

その他にも、14人編成のストリングス入りの#3と#8、松井秀太郎氏のフリューゲルホーンが美しい#6など、オーディオ的にも聴きどころ満載。

ハイレゾで聴いてこそ、角松氏の目指した音楽創造からミックス&マスタリングまでの想いを全て受け止めることができるのではないか。そんなハイレゾの存在意義を強く感じた、角松氏の新譜 『Forgotten Shores』 のハイレゾ試聴でした。

そして、我々は角松氏コメントのラストでアドバイスいただいた通り、“音楽を聴きに行く” と高らかに宣言しようではありませんか!

 

『Forgotten Shores』ハイレゾが48kHz/24bitのワケ

── レコーディング段階から48kHz/24bitだったのでしょうか?

角松氏はいそうです。通常レコーディングは48kHz/24bit で行います。最初からBlu-rayなどを想定した作品は、96kHz/24bit で録る時もありますが、最近はもっぱら48kHz/24bitです。

── 48kHz/24bitを選ばれた理由は何でしょう?

角松氏利便性がいいですから。様々なMTRとの互換性やらなどなど。

理想を言えば、好みは96kHz/24bitです。しかしやはり動作環境が重くなったりストレスがありますのでね。さらに、その環境で聴くことが出来る人やその価値を知る人の絶対数が少ないので そこに労力をかける意味合いなども含めて、基本的なマスターは48kHz/24bitで十分だと思います。

── ハイレゾ用の48kHz/24bitのマスタリングは、CD 44.1kHz/16bitのマスタリング処理と共通でしょうか?

角松氏マスタリング処理自体は、48kHzと44.1kHzは同じです。48kHzで納品したものをソニーのマスタリングエンジニアがCD用に16bitにダウンコンバートしています。ハイレゾ用の48kHzはそのままのはずです。

しかし、やはり16bitだと相当クオリティー落ちますね。マスタリングそのものも違って聴こえるかもしれません。

 

ハイレゾで 『Forgotten Shores』 を楽しむリスナーさまへのメッセージ

角松氏CDというパッケージ文化がまだ残る本邦ですが、レコード会社的には配信より単価が高いCDが商品価値を維持できていることは有り難いのだと思いますが、やはりいつも悩みますね。

わざわざ、音を悪くしたものを何故売らなければならないのかと。まぁ、そんなCD市場が残されているのは、消費者が細かい音の良し悪しに拘らなくなったということがあるのかもしれません。そして高齢者の方にとっては モノを持つという安心感があるということもあるかもしれません。そんな現実を踏まえてCDの音を聴くと16bitも味わい深いものに聴こえるかもしれない(笑)。少々強引ですが(笑)

Blu-rayが消えようとしている昨今、パッケージの意味合いがまた変わってくるかもしれません。というか、50代、60代、そのまた上の世代が音楽を能動的に聴かない、聴けない時代がきたら、CDは気づいた時には消滅しているかもしれませんね。

しかし先ほども述べました通り、ハイレゾで聴かれる方々用のマスターエディットを時間とお金があれば創りたいですねぇ。なかなかそうはいきませんが、いつかそんな企画ができたら嬉しいなと思います。

しかし、昨年からの一連の作品群に関しては、今僕が持てる様々な技術、努力を総動員して一生懸命制作しましたので、是非、ハイレゾファンのお客様にも聴いていただけたらと思います。

最後になりますが……人類は音を記録することに憧れて蓄音機、レコードを発明しました。そして電気的にそれを記録することが始まりました。

磁気テープからアナログ回路を使って、カッティングマシンの針によって彫られた溝を、また針が読み取りその振動を増幅することで記録を再現してきたレコード。こう書くだけで、レコードというものがより「音的」であることが感じられると思います。しかし、彫り物である以上、それは摩耗品であり商品個体差も大きいものです。だから、アナログが必ずしも音がいいとは言い切れない。

さらに、しかるべき再生機器、良いスピーカーである程度の音量で鳴らしてこそのアナログレコード。現在求められている音楽の消費の仕方はレコードの頃とは違います。いつでもどこでも選ぶ方が好きに選ぶことができるもの。今は、そうでなくてはなりません。

レコードプレイヤーのある部屋に行って 「聴かなければ聴けない」 レコードは、基本的にそういう所作が「好きな人」以外には必要なものではありません。

ではデジタルの音は、レコードよりいいのか? どうでしょう? 聴こえやすいかもしれない。しかし、デジタルの音は2進法が基本根底にある情報処理から生まれた「情報」であり、針の振動を増幅した「音」ではない、と感じます。それがいいとか、悪いとかいう話ではありません、とにかくそういうモノだというのは多くの方が知っていてもいいかなと思います。

基本、良い音とは何かと訊かれたら、「その人が良いと思った音が良い音」 であって、他者がどうこう意見を挟む余地はないものだと思います。10万円のアンプは100万円のアンプに劣るのか? そんなことはないでしょう。

音の価値は千差万別、だから楽しいのかもしれません。しかし「ある程度良い音というのはこういうことだ」という基準を多くの方になんとなく知っていていただきたいと思います。それから先はそれこそ好みの問題ですから。

と言いますか、実はそれは誰にでも簡単にわかることなのです。でも何故その基準を知ることができないのか?

その理由は現在の音楽市場において多くの方々が 「聴きに行かない」 からです。

与えられている音をただ単に 「聴いているだけ」 なのです。

自分の足と耳を頼りに様々な音楽を様々な機器やフォーマットで能動的に聴く、その楽しさをもっと知っていただけたら幸いです。

(角松敏生)

 


筆者プロフィール

西野正和(にしの まさかず)
オーディオ・メーカー株式会社レクスト代表。YouTubeの “レクスト/REQST” チャンネルでは、オーディオセミナーやライブ比較試聴イベントを配信中。3冊のオーディオ関連書籍 『ミュージシャンも納得!リスニングオーディオ攻略本』、『音の名匠が愛する とっておきの名盤たち』、『すぐできる!新・最高音質セッティング術』 (リットーミュージック刊) の著者。アンソニー・ジャクソン氏や櫻井哲夫氏など、世界トップ・ベーシストのケーブルを手掛けるなど、オーディオだけでなく音楽制作現場にも深く関わり、制作側と再生側の両面より最高の音楽再現を追及する。

 

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