PR 公開日 2025/09/18 06:30

リン・KLIMAX SOLO直系パワーアンプ「KLIMAX SOLO 500」を聴く。サイズを超える驚異のパフォーマンス

聴いた後も心に残る音の美しさ

英国リン(LINN)から、26年もの間君臨したモノラル・パワーアンプ「KLIMAX SOLO」を受け継ぐ最新モデル「KLIMAX SOLO 500」がリリースされた。大型の「KLIMAX SOLO 800」の性能をコンパクトにまとめた驚異的なパフォーマンスを山之内 正氏が体験する。

LINN モノラルパワーアンプ「KLIMAX SOLO 500」(11,000,000円/ペア・税込)

常に革新を起こしてきたリン。パワーアンプも例外ではない

英国のリンは、追随ではなく独自の道を切り拓くことを好むメーカーで、創業以来その姿勢を貫いてきた。デビュー作のLP12の革新性はいうまでもないし、現代ではネットワークプレーヤーの “DSMシリーズ” がその姿勢を象徴する存在といえるだろう。さらにスピーカーなど他の分野でも新たな提案で注目を集め、その影響力は極めて大きい。

アンプも例外ではない。1999年に発売したKLIMAX SOLOは、電源部にピュアオーディオグレードのスイッチング電源を採用し、ハイエンドオーディオの新たな潮流を作り出した。

KLIMAX SOLO。1999年に発売され、2011年に電源部をDynamic Power Supplyへとアップグレード。2025年8月末受注終了

高さ60mmというスリムなサイズからは想像できない500Wの大出力を実現したこのモノラルパワーアンプは、2011年のリニューアルで電源回路のアップグレードとさらなる大出力化を果たし、つい最近まで現行のフラグシップとして君臨し続けた。製品寿命はなんと26年に及ぶ。リンの製品のなかでもLP12を除けばおそらく最長記録ではないか。

そろそろ次世代機誕生かと期待が募るなか、満を持して昨年1月に登場したのが「KLIMAX SOLO 800」であった。型名が示す通り、800W(4Ω)の大出力を実現したモノブロックのパワーアンプで、価格は従来のフラッグシップを大幅に上回る1000万円台後半へと上昇。ウルトラハイエンドと呼ぶべき領域に到達した。それまでの薄型デザインから塊感のある重量級モデルへと外観も大きく生まれ変わり、名実ともにモンスター級パワーアンプの仲間入りを果たした。

大出力を確保しつつA級に近い低歪みを実現

KLIMAX SOLO 800は、新世代のフラグシップモデルにふさわしく、画期的な新技術を投入した。バイアス電流をリアルタイムで最適化する「アダプティブ・バイアス・コントロール」がそれで、AB級アンプの常識を覆す低歪みを実現し、劇的な音質改善を狙う。

出力信号の大きさや温度だけでなく、素子の経年変化なども含めたさまざまなパラメーターを8ペア計16個のトランジスターそれぞれについて正確に検出し、デジタルデータとしてサンプリング。そのデータを元に最適なバイアス電流値をFPGAで計算して適用することがこの技術の核心だ。

KLIMAX SOLO 800(左・17,600,000円/ペア・税込)より高さ方向が約3分の1になったKLIMAX SOLO 500(右・11,000,000円/ペア・税込)

音質劣化に直結するクロスオーバー歪みを桁違いのオーダーまで減らし、アンプの動作を安定化すると説明したが、そもそもこのクロスオーバー歪みとは何か。簡単に説明すると、対をなすトランジスターの動作を切り替える際に生じる有害な歪みのことで、AB級アンプは動作原理上A級アンプよりも歪みが増え、音質劣化につながりやすい。

アダプティブ・バイアス・コントロールは、バイアス電流を瞬時に最適化することで、AB級ならではの大出力を確保しつつ、歪みの少ないA級動作のアンプの音に近付ける効果をもたらす。A級動作とAB級動作のいいとこ取りを狙ったアンプはこれまでも存在したが、ここまで精度の高いリアルタイムのバイアス電流制御を実現したのはおそらくリンが初めてだろう。

実は、同技術はリンが2023年に発売したアクティブ型スピーカーのフラッグシップ「360」にルーツがある。内蔵アンプのバイアス電流をリアルタイムに制御して最適化する同技術をベースに、独立したパワーアンプとして最初に完成させたのがKLIMAX SOLO 800なのだ。

そして、その僅か1年後、同技術を投入したフラグシップ級パワーアンプの第二弾として、かつての “Klimaxシリーズ” を彷彿させるスリムな筐体のモノラルパワーアンプ、KLIMAX SOLO 500が登場した。核心となるアダプティブ・バイアス・コントロール技術はKLIMAX SOLO 800と同等の内容だが、出力トランジスタは半分の8個で構成し、出力は500W(4Ω)に抑えている。

とはいえ500Wという出力は大半のフロア型スピーカーを余裕で鳴らせる数字だ。8Ω負荷でも250Wを確保しているので、出力不足に陥る不安はまったくないと言っていいだろう。

それ以上に、初代のKLIMAX SOLOよりも高さが30mm弱増えただけの、幅350mm×高さ88.5mm×奥行き364mmというスリムなサイズがもたらすメリットは絶大だ。前作からの買い替えだけでなく、大型のパワーアンプのハンドリングに難しさを感じているリスナーにとっても、KLIMAX SOLO 500は有力な候補になりそうだ。

リアパネル。入力、パススルー出力をそれぞれRCA、XLR1系統ずつ装備

コンパクトな筐体に収まる優れた冷却システムを新開発

このサイズを実現できた背景には、KLIMAX SOLO 500のために新たに開発された冷却システム「ハイブリッド・クーリング・マトリクス」の存在がある。アンプが本来の性能を安定して発揮するためには高度な温度管理が不可欠で、大型のヒートシンクなどを用いて適切な内部温度を保つ工夫を凝らすわけだが、それが筐体の大型化につながる側面も無視できない。電源トランスやブロックコンデンサーなど電源回路の大型パーツと並んで、パワーアンプが巨大化する要因のひとつが熱対策なのだ。

マトリクスの基本構造は上下2層に分かれており、エレクトロニクス部品を取り付ける下面と、冷却性能をコンピューターシミュレーションで極限まで高めた上面のフィンで構成される。この複雑な立体形状をアルミのブロック材から削り出し、左右に2つの静音ファンを取り付けたサブシャーシ構造がハイブリッド・クーリング・マトリクスの正体だ。

新開発されたハイブリッド冷却マトリクス。日常的な再生は冷却サブシャーシのフィンから上方へ放熱され天面スリットから外部へ。アンプに高い負荷がかかる状況においては、FPGA制御の2基のファンがアクティブ冷却を施す

家庭のリスニングルーム程度の音量では内蔵ファンは停止状態をキープし、サブシャーシ周辺の自然な空気の流れを利用して天面のスリットから熱を逃がす。一方、持続的な大音量再生などで内部の温度が上昇した場合は、入力信号レベルと内部温度に応じてファンが低速で回転して迷路状のフィンのなかに空気を送り込み、温度が上昇しやすい箇所を重点的に冷却する。

ハイブリッドという名称の由来はおそらくその2段構えの冷却機構にあると思われるが、ファンが回る場合も回転数が非常に低いため、その動作にリスナーが気がつくことはないという。実際に今回の試聴時もファンの存在を意識させられることは一度もなかった。このクーリングシステムはアンプ用の冷却機構としては究極のサイレント動作を実現しているのだ。

アルミ削り出しの美しい複雑な冷却サブシャーシ。高効率の熱伝導プレートで、上面の放熱フィンはシミュレーションソフトによって最適化された形状となっている。全てのエレクトロニクスはこの下面にマウントされている

電源回路にリンのオーディオ用スイッチング電源の最新世代「UTOPIK」を採用したことも、KLIMAX SOLO 500がスリムな筐体を実現できた理由のひとつだ。もともとの効率の良さに加えて、出力に応じて供給電力を制御する最新の技術を投入しているため、この回路からの発熱はそれほど大きくない。パワーアンプ用としては回路規模は驚くほど小さいが、低ノイズで瞬発力があり、一般的なリニア電源を上回る性能を確保している。

出力トランジスタと並んで、きめ細かい温度管理が要求される箇所がもうひとつある。デジタル信号の高速演算処理をFPGAで行う前述のアダプティブ・バイアス・コントロール回路がそれだ。リンのウェブサイトでマトリクスシステムの動作を解説した動画を見ると、天面スリットの直下、サブシャーシ下面に出力トランジスタとFPGAなど発熱が大きい集積回路を配置し、その領域を重点的に冷却していることが理解できる。パワーアンプの冷却・温度管理のためにここまで高度なシステムを導入した例は極めて珍しい。

シルバーとブラックどちらの仕上げを選んでもデザインの完成度の高さにうならされるはずだ。フロントパネル中央のラウンデルや緩やかなカーブを描く「スマイルデザイン」は長期間使っても飽きが来ない完成された意匠。天板中央に彫り込まれたスリットは立体形状を工夫し、正面から見たときに凹凸が強調されすぎないように配慮している。

ブラック仕上げ

800と500の駆動力は実質的にはほぼ違いはない

発売順にKLIMAX SOLO、KLIMAX SOLO 800の音をCD/SACDで確認したあと(レファレンスのプレーヤーとプリアンプはアキュフェーズ、スピーカーはB&W 802D4を使用)、KLIMAX SOLO 500に繋ぎ替え、プリアンプをKLIMAX DSM/3に変えた状態でQobuzストリーミングとLPを加えながら多様な音源で試聴を進めた。

KLIMAX SOLO(ダイナミック電源バージョン)からKLIMAX SOLO 800、KLIMAX SOLO 500に変えたときの音の変化は本質的なもので、音場を構成する楽器の立体感やステージの奥行き感などの空間情報、そして旋律楽器とヴォーカルの表情の豊かさなど、あらゆる要素で演奏を活性化するプラス方向の変化を聴き取れる。

リッキー・リー・ジョーンズのライヴはヴォーカルに生身の身体から伝わる息遣いや潤いが感じられ、会場の広さもひとまわり大きくなる。スプリング・ソナタはヴァイオリンとピアノのフレーズのやり取りがとても自然で、聴いているだけなのに思わず二人との奏者と呼吸が揃う感覚を味わった。

SACDで聴いたウォルトンのヴァイオリン協奏曲の深々としたステージ再現にも強い印象を受けた。802D4で聴く限り、800と500のスピーカー駆動力に実質的な違いはほぼないと感じた。

呼吸や気配まで伝わる超リアル新次元の音だ

ストリーミング音源で聴くKLIMAX SOLO 500の再生音は、ヴォーカルやソロ楽器の表情をアグレッシブに引き出し、サックスの太い中低域やギターのスティール弦の鋭い発音など、音色の描き分けのきめ細かさにまずは感心させられた。

ドゥヴィエルが歌うモーツァルトのアリアは声が余韻に溶け込んで消える最後の瞬間と、次のフレーズを歌い始めるときのブレスの気配までが可視化され、実演の舞台に接しているような錯覚に陥る。

フロントの中心にステータスを示す小さなラウンデル

アネッテ・アスクヴィクの音源ではローエンド帯域で緩やかに動く空気の絶対量が大きく、にごりがない。ヴォーカルの浮遊感が際立つのは、超低域の質感が高いことが理由だろう。

LPで聴いたジャズのライヴ録音では、ベースとキックドラムの音域が動いたときに音像がぶれないことに気付いた。このレコードでそこまで安定した低音を聴くこと自体が珍しかったのでしばらく理由を考えていたのだが、やはりアンプの性能がものをいうのだという結論に至った。KLIMAX SOLO 500の歪みの少なさは、中高域だけでなく低音の質感にも良い意味で影響を及ぼすのだ。

同じくLPで再生したサン=サーンスの交響曲第3番の濃密さと見通しの良さが両立した立体的な音場再現の素晴らしさ! 開放的で澄み切った空気感は、試聴を終えたあとも長く記憶にとどまっていた。

生活空間と共存するホームオーディオの理想形

ハイブリッド・クーリング・システムのような複雑な冷却機構を投入してまで、リンがスリムな筐体にこだわるのはなぜか。それは、生活空間と共存してこそホームオーディオの価値が高まると同社が考えているからだろう。

そう理解すると、KLIMAX SOLO 500こそが従来からリンが作り上げてきたメインストリームのパワーアンプで、大きなボディを身にまとうKLIMAX SOLO 800は限定された用途に向けた特別な製品とみなすこともできる。従来のKLIMAX SOLOに比べるとかなり高価な製品になってしまったが、リンがこだわる価値に共感できるなら、KLIMAX SOLO直系の後継機としてKLIMAX SOLO 500を選ぶのが自然な流れだと思う。

リンのパワーアンプの変遷

 

(提供:リンジャパン)


※本記事は『季刊・Audio Accessory vol.198』からの転載です

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