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公開日 2024/01/09 06:30

微細な音の正確な再現能力を改めて実感。LINN「KLIMAX DSM/3」ロングランレポート

TIDALのロスレス配信への対応などアップデートによる進化も嬉しい
山之内 正
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LINNのフラグシップネットワークプレーヤー「KLIMAX DSM/3」を自宅に導入したオーディオ評論家の山之内 正氏。導入後1年近くを経てどのような音楽に出会い、またオーディオ的発見があったのか。ロングランレポートをお届けしよう。

山之内氏のオーディオ用試聴室。スピーカーはウィルソン・オーディオを10年以上使い続けている

ミュージシャンとの親密感などさらに踏み込んだ再現性



「KLIMAX DSM/3」を自宅に導入してからもうすぐ1年。15年間にわたって愛用した第一世代のKLIMAX DS/DSMからの進化やディスクリートDAC「ORGANIK」の実力など、日々使いこなすなかで見えてきたことをまとめて紹介しよう。

旧世代からの最大の変化は、なによりもまず音に現れた。デュアルモノラル構成、つまり最上位仕様のORGANIK DACアーキテクチャーを奢っているだけあって、細部までもらさず再現する緻密な表現力がそなわるが、それに加えて音場は広大で一切のくもりがなく、余韻の広がりは限界を知らない。

LINN「KLIMAX DSM」シルバーアノダイズド仕上げ(6,280,000円/税込)

しかも、緻密でクリアなサウンドという表現だけでは説明できない、LINNのフラグシップ機ならではの音楽的表現力の奥の深さも体感できる。クール一辺倒な分析的アプローチとは真逆で、ミュージシャンの息遣いや肌のぬくもりを伝える親密感があり、ミュージシャンとの物理的・心理的な距離の近さを実感させる良い意味での生々しさも獲得しているのだ。そこは前作との大きな違いの一つで、間になにも介在させずに声や旋律楽器が眼前に浮かぶ描写は、従来のKLIMAX DS/DSMよりも明らかに一歩踏み込んだ強い表現に到達していると感じる。

最新録音のハイレゾ音源だけでなく、デジタル全盛期以前に収録されたアナログ録音の音源からも、身体の動きやミュージシャンの肌触りのような微妙だが重要な情報が聴き取れる。それは実に嬉しい衝撃だった。

チャーリー・ヘイデンとクリスチャン・エスクーデの『Gitane』をKLIMAX DSMで再生すると、低音弦が励起する空気のゆらぎがギターのサウンドホールから広がる様子や、ウッドベースの一番低い音域での太い弦の振れ幅の大きさなど、音というより振動そのものとして体感できるところが非凡だ。プレーヤーやアンプだけでなく、目の前のスピーカーの存在すら意識から消えてしまうような迫真の音に息を呑む。

チャーリー・ヘイデン&クリスチャン・エスクーデ『Gitane』

リッキー・リー・ジョーンズ『ネイキッド・ソングス』は1995年発売のライヴ録音作品。伴奏はアコースティックギターまたはピアノだけ。まったくごまかしのきかない、まさにネイキッド状態のヴォーカルが潔い。伸びやかな高音は付帯音から完全に解放されて澄み切った感触が爽快だ。圧巻はアコースティックギターが刻むリズムの発音の良さとストロークの勢い。右手のカッティングの動きにシンクロして空気が宙を飛ぶ感覚をこれほど生々しく体感できるとは思ってもみなかった。弦とボディの鳴りに耳が反応するのが普通だが、手元で息づく風のような空気の存在までリスナーに意識させることに驚きを禁じ得ない。

リッキー・リー・ジョーンズ『Naked Songs』

最近の録音では、レイチェル・ポッジャーとブレコン・バロックの『ゴルドベルク変奏曲 リ・イマジンド』のハイレゾ再生で、驚くほどリアルな空気のゆらぎを実感した。ヴァイオリン、チェロ、ファゴットなど複数楽器のアンサンブル向けに編曲した室内楽版で、バッハならこう書いたのではと思わせる優れた編曲もあいまって、最後までワクワクしながら聴き通せる楽しい演奏を繰り広げている。

レイチェル・ポッジャー&ブレコンバロック『ゴルドベルク変奏曲 リ・イマジンド』

驚いたのは、全員の呼吸と身体の動きが同期したときだけに生まれる、演奏現場の空気がまるごとフワッと動く様子が録音からリアルに感じられること。KLIMAX DSMで聴いたあとにYouTubeで演奏風景の動画を見たら、アーティストたちの身体の動きが、まさに耳で体験した通りだったことがわかり、もう一度驚いた次第だ。

「空気が動く」と何度も言っているが、音波なのだから当たり前、と決めてかかってはいけない。空気がフッと動く感触はホールやスタジアムでも気付きにくいし、オーディオシステムでも再生が難しい種類の音なのだ。マイクのダイアフラムはたしかにその振動を拾っているのだが、録音と再生系の複雑なプロセスを経る間に消えたり緩んだりして、最後のスピーカーまで届かないこともある。

DACも変換プロセスの一つなので、微妙だが重要な音を正しく伝送できるかどうか、基本性能が問われる領域なのだ。ORGANIKはその微妙な音を正確に再現する能力が非常に高いのだろう。そうでなければ、このリアルな描写を説明することはできない。

LINNアプリで直感的な操作が可能。楽曲選択や再生・停止などはアプリから自在に行える

サラウンドシステムでも本領を発揮。映像ソフトも高品位に楽しめる



ORGANIKはネットワーク再生以外でも実力を発揮する。外部入力にディスクプレーヤーをつないだり、USB経由でパソコンからハイレゾ音源を再生するなど、DAC内蔵プリアンプとして使う場面でも抜きん出た音の良さを実感できるのだ。特に、硬さのないなめらかな質感と見通しの良い広大な音場空間には他の追随を許さない良さがあり、DACの完成度の高さがうかがえる。

デジタルではHDMI入力の質感の高さも注目すべき長所のひとつだ。BDプレーヤー接続時はPCMのマルチチャンネル出力にも対応するので、EXAKTスピーカーの「520」をつないだ4チャンネルシステムでサラウンド音源を再生するなど、映像ソフトの試聴に活用する機会も増えた。

LINNのEXAKTスピーカー「520」をリアに設置。LANケーブル1本で接続できるので配線もシンプルに纏められる

ステレオ再生がメインのオーディオ試聴室なので本格的な3Dサラウンドは想定していないのだが、コンサートのライヴ映像など、クオリティの高さと立体音場の密度の高さは文字通りハイエンドオーディオの水準。デジタル伝送の長所を実感しながら音楽系Blu-rayの音質確認にも活用している。

手に触れて操作する機会が増えたことも新鮮な体験



使い勝手や操作性の点でも感心させられた点がある。外観と操作系が初代機から大きく変わり、手に触れて操作する機会が増えたことも新鮮な体験のひとつだった。従来機は電源以外の操作キーがなく、ディスプレイも一行だけ。文字数も限られていた。そのミニマムな姿勢がネットワークオーディオのコンセプトを象徴していた面もあったのだが、リンはそこから大きく方針を転換。一歩踏み込んで多機能なユーザーインターフェースを載せてきたのだ。

正面パネルに組み込んだディスプレイは横幅がスマホ画面の1.5倍ほどあり、コントラストが高いのでとても見やすい。一度に表示できる情報が多いだけでなく、日本語も含めてフォントがなめらかで美しいことも特筆すべき長所のひとつだ。アルバムのカバーアートなど、画像の表示機能をあえて省くことで文字を大きく表示できるため、離れた位置からでも曲名やアルバム名がとても読みやすい。デジタルプレーヤーの情報ディスプレイとして新たな可能性を提示した秀逸なインターフェースだと思う。

トップパネル中央のガラス製ダイヤルは、電源やボリューム操作のほか、メニューに入るとカーソルとしても機能し、本体での設定変更にも便利に使える。スペースオプティマイゼーション(ルーム音響補正)を含む詳細な項目はリンのウェブ上でオンラインで変更できるのだが、入力切替えは本体の操作かリモコンの方が手っ取り早い。

以前のKLIMAXシリーズがには「操作できる」箇所がなかったが、最新モデルでは手触りにもこだわったガラスダイヤルを配置

「Navigation」メニューから曲やアルバムの一覧も呼び出せるので、ダイヤル操作だけで素早く選曲できる良さもある。ワンボタンなので最初はとまどうこともあったが、操作に慣れるのにそれほど時間はかからなかった。普段はスマホやタブレットの操作が中心のユーザーでも物理キーで違和感なく操作できるように、メニューの階層移動にも工夫を凝らしている。この操作インターフェースの完成度を高めるために、開発陣はかなり時間をかけて追い込んだのではないだろうか。

基本のセットアップはすべてブラウザ上から設定できる。リアチャンネルスピーカーやスペースオプティマイゼーション、TIDAL/Qobuz等のストリーミング連携等を設定する

リンの製品は技術の進化に合わせて音質と機能のグレードアップを実現できることにもアドバンテージがある。先代のKLIMAX DS/DSMも、ソフトウェアとハードウェアの更新を重ねることでつねに最先端の仕様にアップデートされ、長い寿命を維持することができたのだ。

それは最新世代にもそのまま当てはまる。直近のアップデートでは、TIDALのMaster音源がMQAから最大192kHz/24bitのFLACに変更されたことに対応した。ウェブの設定画面からいつも通りの更新を実行したところ、その直後からMaster音源が96kHz/24bitや192kHz/24bitで再生できるようになり、TIDALのハイレゾストリーミングが一歩前進した。

最新ファームウェアへのアップデートでTIDAL音源もFLACにて再生できる

従来はRoon経由の再生でMQAデコードが可能だったのだが、今回のファームウェア更新後は、リンの再生アプリで普通にTIDALのハイレゾ再生ができるようになり、使い勝手も向上。国内でのQobuzのサービス開始が延期されたのは残念だが、しばらくはリファインされたTIDALのハイレゾストリーミングをじっくり聴くことに専念しよう。

1ヶ月ほど前に電源回路がDYNAMIKからUTOPIKに世代交代を果たしたことも重要なアップデートの一つだが、こちらは自宅のKLIMAX DSMにはまだ導入していない。取材時に聴いたときに確実な進化を確認しているので、近いうちにグレードアップをするつもりだ。

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