公開日 2025/11/13 19:05

NTT、空間に対してノイズキャンセリングを適用する技術確立。2026年度中の導入を計画

車や飛行機への導入を検討
編集部:太田良司
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NTTは、自動車や航空機などの室内に対して、アクティブノイズコントロール(ANC)をする数メートル規模の「空間能動騒音制御技術(空間ANC技術)」を開発した。騒音の変動に高速追従して静音化を行い、耳を塞がずに会話や作業を継続できる環境を目指すという。2026年度中に商用導入を目指し、本技術のデモを「NTT R&D FORUM 2025 ―IOWN Quantum Leap」で11月19日(水)から26日(水)に展示予定。

能動騒音制御(ANC)の比較

NTTは、WHO(世界保健機関)やITU(国際電気通信連合)によるセーフリスニング勧告を例に挙げながら、騒音が人々の健康や生活の質に与える影響が国際的に注目されていると説明。本技術は、この課題に対しての取り組みで、室内の広いエリアでリアルタイムに騒音を低減できるとする。従来の耳栓やヘッドホンに頼らず、手や耳を塞がずにコミュニケーションや作業を継続できる点が特徴。

空間能動騒音制御(空間ANC)実現への課題

続いてNTTは、従来の能動騒音制御(ANC)は、主に定常的な騒音を前提にしていたこと、制御可能な範囲が耳元周辺の10cm四方程度に限られていたことに言及。車両の発進・加速時、路面やトンネルの変化など時間的/空間的に大きく変動する騒音では、追従精度や抑圧効果が低下する課題があったとする。こうした課題を解決し、複数人が同時に利用する空間で十分な騒音抑圧の確立を目指し、空間ANCの研究開発を進めてきたとのこと。

空間ANCを実現するため、NTTでは2つの要素技術を実現。1つ目は、騒音を観測して逆位相の “波面” を生成し、騒音の動きに合わせて空間的に打ち消す技術。

これには、時間的なズレが一切許されず、「収録」と「再生」の双方を超低遅延で行う必要がある。さらに、マイク間、スピーカー間、収録から再生間の全経路で常時同期が必須となり、超低遅延/厳密同期/ANC用DSPの性能限界という3課題の同時解決が鍵だった。

新方式は、GPGPUで演算を並列化し、RDMAで低遅延にデータをやり取り、マルチコアプロセッサーのコア間同期機構でシステム全体をソフトウェア非介在で同期する。

これにより、複数マイク/スピーカーとGPGPUが2マイクロ秒で同期し、従来ANC用プロセッサ比で消費電力を1万分の1に抑えつつ波面追従の抑圧を実現した。世界初の実用精度の空間ANC処理を、車載適用可能な消費電力で可能にしたとしている。

超低遅延・同期型のANC処理技術の概要

2つ目は、騒音の「広がり」の変化に対する追従技術だ。多数マイクから得た空間情報を解析し、人間が不快に感じる広がりの変化を優先して制御。逆に不快度の低い変化には過度に追従しない。これにより演算量を約1/30に削減しつつ、必要な場面に計算資源を集中し、変動騒音への追従性を高めた。評価例では、ANC起動から約1秒で効果を体感でき、騒音が変動しても抑圧精度の低下が起きないとしている。

人間の騒音の広がり方の変化に感じる不快さの違い

想定用途は幅広く、モビリティ分野では車室全体や機内・車内での広帯域静音化、建築・生活分野では会議室・ホテル・住宅・都市環境での騒音低減に応用できる見込み。複数ユーザーが同一空間で、同時に快適さを得られる点が、従来の個人最適型ANCと異なる。普及により、聴力への負荷軽減、業務・生活の快適性向上への貢献が期待される。

今後は適用空間のさらなる拡大や、聴覚知見を取り入れた快適性向上技術の統合を進め、NTTグループ各社を通じたサービス展開を図るという。関連技術としては、2024年11月に耳を塞がず周囲騒音を低減するオープンイヤー型ヘッドホン向け広帯域ノイズキャンセリング技術を発表しており、今回の空間ANCはその発展形となる位置づけだとしている。

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