公開日 2025/10/09 06:30

熊本の杉の特別な響きに惚れる。英国人エンジニアが立ち上げた「Higo Beat」のスピーカーに触れた

スピーカーやアナログプレーヤーを展開

英国エンジニアが作る熊本の杉を活用したスピーカー

熊本に移住した英国出身のオーディオエンジニアが、九州随一のブランド木材である「小国杉(おぐにすぎ)」に惚れ、それを使ったスピーカー等をリリースするために立ち上げたブランド、Higo Beat。その実態を探りに、常設展示をしているという厚木の地を訪れた。

小国杉を利用したHigo Beatのスピーカー「Sugi 8」

Higo Beatは、ダンスミュージックが好きで、20年以上にわたりクラブ向け機材の設計に携わっていたBilly Wood(ビリー・ウッド)氏が2022年に立ち上げたブランド。現在は “Sugiシリーズ” というスピーカー4種や、レコードプレーヤー/アンプ/スピーカーなどをひとつにまとめたオーディオ家具を受注販売している。いずれも木目を活かした亜麻仁油によるフィニッシュが特徴で、触れてみると丁寧な仕事ぶりと、温かみを覚える。

アナログプレーヤーとスピーカー、レコードラックまでが一体となった「The Stereogram」

ビリーさんが熊本に移住したのは2014年のこと。熊本の地を選んだ理由を尋ねると、パートナーの実家だったから、という答えが返ってきた。そこは緑が豊富な場所で、小国杉の産地でもあった。

小国杉は、寒暖の差により木目がとても密で美しいのが特徴。またビリーさんによると、ソフトな音がするという。そこで、この木材を活かしたスピーカーができないかと思い立ち、協力会社などを仰ぎながら、スピーカーの製造・販売することを決めたのだという。

Higo Beatの開発者であるビリー・ウッドさん

実店舗での取扱店は少なく、販売は主にネット通販または電話注文。それゆえスピーカー入力端子をスピコン端子にする、仕上げの色を変えるといったカスタムオーダーにも対応できることを強みとしている。

英国人が熊本に移住し、地場産木材を使ったスピーカーを作っているというだけでも興味津々なのに、ダンスミュージックが好きな方が、一見無縁に思えるソフトな音がする木材を好むところにも興味が沸く。果たしてどのような音を奏でるのだろう。早速試聴することにした。

 

カスタムユニットを採用した2ウェイスピーカー「Sugi 8」

試聴は神奈川県厚木市にある、オーディオ機器などの修理品対応・技術サービスを提供するティーエス・プロ社のリスニングルームで行った。同リスニングルームは、予約をすれば誰もが利用できる同社のショールーム的な施設。室内には同社がレストアしたという往年の銘機がいくつも展示されていた。

アクセスは自動車なら厚木インターチェンジすぐ、公共交通機関なら小田急線・本厚木駅からバスが便利だ。ただバスの運行本数は少なく、時間もかなり限られているので注意して欲しい。

展示・試聴されているモデルは、25mm厚の小国杉を用いたエンクロージャーに200mmウーファーを搭載した「Sugi 8」という2ウェイ・フロントバスレフ型のスピーカーシステム。

ブックシェルフスピーカーが専用スタンド(こちらも小国杉製)に乗った形となっている

かなり背の高いスピーカースタンドに載っており、大型システムに見えるが、本体そのものは幅350mm ×高さ500mm×奥行265mmと、奥行きが浅めの標準的なブックシェルフだ。価格はペアで40万円から。注文時には手付金として定価の50%(20万円〜)を支払い、残金は出荷前に支払う仕組みとなっている。

200mmウーファーユニットは英国メーカーのカスタム品。振動板は高分子系素材が使われているようだ。

カスタムの200mmウーファーユニット

トゥイーターはソフトドーム型で、こちらも英国から取り寄せているという。ビリーさんによると、これらのカスタムユニットはボーカル帯域が綺麗にでるよう依頼・制作しているそうだ。

かなり背の高いスピーカースタンドはエンクロージャー同様の小国杉を使用。裏に回って驚いた。いわゆるコの字型で特別な処理はなされていないのだ。

スピーカースタンドの裏側

リズミカルで有機的なサウンドが特徴

試聴はRoonサーバーとデノン「DNP-2000NE」の組み合わせを送り出しに、「PMA-3000NE」でドライブした。楽曲はQobuzのストリーミング音源を用いた。

デノンの送り出しを使用して試聴開始

陽性で鳴りの良さが印象的。意図的な色付けが少なめの、音楽の骨子を伝えることに重きを置いたスピーカーと聴いた。フロントバッフルが広く、エンクロージャーの奥行きが浅いこともあってか、音が前へ前へと飛び出してくる。聴いていて愉しい気持ちになるスピーカーである。

ポップスなどリズミカルな楽曲が修逸だ。マイケル・ジャクソンのスタジオアルバム『デンジャラス』に納められた「Who Is It」は、ルイス・ジョンソンが紡ぐ力強いベース音が天井を揺らし、キレ味のよいリズムにゴキゲン。どこか有機質な紡ぎは、小国杉のソフトな響きによるところだろうか? 

ビル・エヴァンスの名盤『ワルツ・フォー・デビイ』も、リリシズムなピアノの調べが心に染み入る。この録音から11日後に他界するスコット・ラファロのベースは、少し膨らみを覚えるものの、静かに深く沈み込んだ。

スピーカーの背面端子。各種カスタムにも対応する

歌声にも心惹かれるものがあった。YouTubeチャンネル「THE FIRST TAKE」にて、2021年に公開されたポルノグラフィティの「サウダージ」は、ギターやピアノ、リズムボックス、バンドネオンの柔らかな音色と、岡野昭仁の真っ直ぐで素直に伸びる歌声が印象的。素直な録音と素直なスピーカーがハマった一期一会の出会いは、一聴の価値があると断言したい。

英国出身のエンジニアが、日本の木材に惚れ込んだスピーカーシステム。興味本位で伺ったが、幸せな運の巡り合わせだった実感。これからHigo Beatはオーディオシーンにおいて注目の存在となりそうだ。

ティーエス・プロ社がレストアしたヴィンテージ機器も展示されていた

 

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