オーディオアンプ、「プリ」と「パワー」に分かれているのはなぜ?
オーディオは実に奥深く、様々な要素が音に影響してくる。だからこそ楽しい趣味なのだが、初心者のうちは分からないことも多く、また熟練したファンであっても、詳しいことは意外と知らないなんてことがあるのではないだろうか。
そこで、オーディオ買取専門店「オーディオランド」のご協力のもと、オーディオにまつわる改めて知りたい基礎知識を炭山アキラ氏が解説する。本項では、改めて知りたい「オーディオアンプのプリ/パワー」について紹介しよう。
「プリアンプ」と「パワーアンプ」にわざわざ分けるワケとは?
私たちが「アンプ」と呼び習わしているものは、Amplifier=増幅器が語源である。CDやレコード、ハイレゾ音源などのプレーヤーから出力される音楽信号はごく小さいもので、スピーカーをつないでも蚊の鳴くような音しか出ない。それをスピーカーが万全に鳴らせるくらいに増幅するための装置、ということだ。
オーディオ用のアンプは、大半が1台で完結させられるプリメインアンプだが、上級の製品にはプリアンプとパワーアンプに分かれた、いわゆるセパレートアンプと呼ばれるものがある。なぜ1台で済ませられるのに、わざわざ2台に分ける必要があるのか。
その前に、少し用語を整理しておこう。もともとプリメインアンプはプリアンプとメインアンプが1台に収まったアンプという意味で、インテグレーテッド(=統合された)アンプとも呼ばれることもある。
一方、メインアンプは字義通り、アンプ=増幅器の本分というべき増幅を担うコンポーネントで、パワーアンプとも呼ばれる。
プリアンプというのは、ソース機器から送られてきた信号をパワーアンプが万全に駆動できるよう整えること、そして複数のソース機器や録音機などをつなぎ替える交通整理役、といった存在で、コントロールアンプとも呼ばれる。
コンパクトディスクが抬頭し、アナログの存在感が薄れたのは1980年代後半のことだった。もう40年も前のことになる。それ以前、プリアンプの存在価値は現代と少し違っていた。CDをはじめとする、いわゆるLINE系ソース機器の定格出力が数百mVであるのに対して、アナログのいわゆるPHONO信号はMMでも数mV、MCでは1mV未満のことが大半だ。そんな繊細極まるアナログの出力信号を万全にプリアウトの1〜2Vまで増幅するには、残留ノイズや振動、輻射などから増幅段、即ちフォノイコライザーを守らなければならない。
一方、パワーアンプはスピーカーをドライブできるくらい信号を大きく増幅するものだから、巨大な電源トランスは振動と輻射が避けられず、また小電力のプリアンプ段とは残留ノイズの大きさも比較にならない。
それらをすべて1台に収めたプリメインアンプは、もちろんそういった障害に対する対策をしっかり講じているものだが、それでも筐体から分けたセパレートアンプにはかなわない。そのためアナログ全盛期には、セパレートアンプに大きな利点があったといってよいだろう。
翻ってこの21世紀、ソースの主流はCDやネットワーク、つまりLINE系の機器が主流となり、アナログもフォノイコ段を内蔵したプリアンプは絶滅に瀕し、フォノイコライザー・アンプとしてプリから独立したものが圧倒的主流となっている。もちろん単体フォノイコライザーの出力信号も定格数百mVだ。
こういう時代にあって、プリメインアンプの中には増幅段を1つにまとめ、シンプルなボリューム&セレクター付きパワーアンプ的な回路構成としている製品もある。回路がシンプルになれば音の鮮度も高めることができる、という理論だ。また、マランツなどはなまじなセパレートアンプより高額のプリメインアンプを開発してきたが、これも現代のアンプとしてはひとつの正道といってよい。
一方、プリメインアンプには今も独立したプリアンプとパワーアンプを1台に収めた構成のものが結構あり、そういう構成の上級機には背面にプリアウト/メインイン端子が装備されている。将来的にセパレートへ進むことをお考えなら、こういうアンプがよいのではないか。
LINE中心の現代オーディオに、セパレートアンプは無用なのか。個人的には、決してそうではないと考える。PHONO段が独立し、LINE信号の切り替えと増幅が主用途になったとしても、前段のピュアリティが保たれていることは、再生音響の理想へ近づく大きな前進であることは間違いがない。
また、プリアンプとパワーアンプに別メーカーの製品を起用することにより、ご自分の音の好みへ一層近い方向へ進むことができる可能性もあるだろう。選択肢が多いこと。これは特に上級者へ向けたオーディオ使いこなしの大いなる楽しみだ、と私は考える。
特に私のようなマルチアンプ・システムのユーザーは、セパレートアンプでないとどうしようもない。プリアウトをチャンネルデバイダーへつなぎ、そこから各帯域へ割り振った信号をそれぞれ独立したパワーアンプへ送って、マルチウェイのユニットを1発ずつ独立したパワーアンプで駆動する。とてつもなく贅沢な方式だが、クロスオーバー・ネットワークを経由しない音はこんなにもハイスピードでピュアなのか、と新鮮な驚きを味わえることは私が請け合おう。
マルチアンプに限らないが、こういう大いなる発展への基点となるのは、やはりセパレートアンプであるといって間違いないだろう。プリメインで音楽を楽しまれているマニアの皆さんも、次のグレードアップにはアンプのセパレート化を選択肢のひとつへお入れになってみてはいかがだろうか。
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