デノン“受け継がれる伝統の意匠”。音とデザインから探るアナログプレーヤーの開発哲学
1960年代からアナログプレーヤーを手掛けてきたデノン。業務用機器にルーツを持つ思想とアイコニックなデザインを継承しながら、その実現を支える技術は時代とともに進化してきた。最新技術を投入したDP-3000NEとBluetooth対応のDP-500BT。個性の異なる2モデルから、デノンのプレーヤーづくりの本質を探る。
現代のデノンの技術を結集
オーディオ機器のなかでも、アナログプレーヤーほどメーカーの思想が色濃く反映されるコンポーネントはないだろう。回転機構という極めてシンプルな構造でありながら、その設計思想の違いが音の安定性や表現力に直結するため、各社の哲学がもっとも露わになるジャンルでもある。
なかでもデノンは、長年にわたってアナログ再生の歴史を支えてきたブランドである。同社のプレーヤーには、民生機を手がける以前から放送局や業務用機器の開発で培われた技術とノウハウが息づいている。そこで今回は、デノンの技術と歴史に精通するシニアマネージャーの岡芹 亮氏に、同社のアナログプレーヤーに脈々と流れる開発思想について話を聞いた。
岡芹氏によれば、デノンのプレーヤー開発を支える柱は「正確な回転」「立ち上がりの速さ」「電気的な制御技術」の3つだという。その根底にあるのは、放送現場で求められた高い精度と信頼性であり、アナログ再生の根幹となる“正確な回転”を追求し続けてきたデノンならではの思想なのである。時間軸の揺らぎをいかに抑えるかという点に焦点が置かれてきた。
デノンの現行レコードプレーヤーを代表するのが、DP-3000NEとDP-500BTだ。フラグシップのDP-3000NEは、1972年に登場した銘機DP-3000の系譜を受け継ぐモデルとして誕生した。ターンテーブル周辺の意匠には往年の面影を残すものの、その内容は最新技術が惜しみなく投入されている。

DP-3000NEの誕生の背景には、デノンが長年培ってきたプレーヤー開発の歴史がある。話は、社名がまだデンオン(電気音響)だった1960年代に遡る。当時、放送局向けに開発・納入されたコンソール型プレーヤーDA-302Fで培われた技術やノウハウは、民生機として登場したDP-5000に受け継がれた。しかしDP-5000は、業務用機器をダウンサイズしたモデルであったため、コンシューマー向けとしてはややオーバースペックだったという。
DP-5000は、モーターがプラッターを直接駆動するダイレクトドライブ方式を採用した。その技術をより広く一般ユーザー向けに展開したモデルが、DP-3000だった。業務機器譲りの高精度な回転性能は、大きな注目を集めたのである。当時としては異例の安定性を誇り、レコード再生の基準を一段引き上げた存在でもあった。
もっともダイレクトドライブ方式は容易な技術ではない。ベルトやアイドラーといった緩衝機構を介さないため、モーターの微細な振動や制御誤差がそのまま音に影響する。つまりコギングや回転ムラをいかに抑え込むかが設計のカギとなる。
また当時、ライバル各社がDCモーターを採用するなか、デノンはあえてACモーターを選択した。渦電流型モーターを用いることで、磁気的な不連続性を抑え、滑らかな回転特性を重視したのである。効率や立ち上がり性能では不利もあるが、軽量プラッターとの組み合わせによって、高い回転精度を確保した。
もちろん、デノンが過去の技術に固執しているわけではない。重要なのは方式そのものではなく、“いかに正確な回転を実現するか”という一貫した思想だ。事実、現行のDP-3000NEでは、3相16極のDCブラシレスモーターを採用し、SV-PWM制御やベクトル制御といった高度なアルゴリズムを導入している。
これにより、起動直後から極めて安定した回転制御が可能となり、33 1/3回転時には1秒以内で定速に到達する。プラッターはアルミダイキャスト製で高い剛性を持ち、約4.5kg・cmの起動トルクを確保することで、外乱に対しても強い安定性を備えている。
OBの知見も取り入れトーンアームも新規設計
トーンアームには、本機のために新規開発されたスタティックバランス型S字パイプアームを採用した。過去の膨大な設計資料の検証と、OB技術者の知見も取り入れながら再設計されたという。アーム接合部にはフローティング構造も導入され、不要共振を抑えつつ、カートリッジが持つ微細な情報を素直に引き出す設計となっている。
技術面だけでなく、デザインにもまた同じ思想が息づいている。岡芹氏によれば、製品を選ぶ際、デザインはユーザーにとって大きな判断材料のひとつだという。だからこそデノンは、その時代ごとの最新技術を取り入れながらも、一目でデノンと分かる普遍的なデザインを大切にしてきた。
DP-3000NEのデザインコンセプトは「クラシカルモダン」である。リジッド構造による安定感あるシルエットと、柔らかな曲面処理を組み合わせることで、重厚さと軽やかさを同時に成立させている。過去モデルのスタイルを継承しながらも、現代の住環境に自然に溶け込むバランスが意識されている。
そのサウンドは、リアルで活力に満ち、ジャンルを問わず高いS/Nとみずみずしい鮮度感を備えている。ニッキ・パロットのささやくような生声は、至近距離で語りかけられるように自然に立ち上がり、空間にふわりと溶けていく。ウォームな質感を持ちながらも輪郭は明瞭で、ウッドベースの弾力や低域の沈み込みも過不足なく描き出す。
ショルティ指揮/シカゴ響による「幻想交響曲」では、アタックの鋭さと構造の明瞭さが際立つ。打楽器の立ち上がりは明快で、音像は崩れずに空間内でしっかり定位する。オーケストラ全体の緊張感が維持されたまま、音楽のダイナミズムが破綻なく提示される。
弱音再生でも、情報量が多い。微細な音の粒子が整理された状態で再現され、ホールトーンや残響の層構造が自然に立ち上がる。「イムジチ」の演奏では、ステージの奥行きや楽器配置が立体的に浮かび上がり、空間再現力の高さが明確になる。
ライフスタイルに溶け込むDP-500BT
一方のDP-500BTは、デノンのアナログ再生の思想をより身近な形で体験できるモデルである。Bluetooth機能やフォノイコライザーを内蔵するほか、現代的なワイヤレス環境にも対応する一方で、基本的な回転精度や筐体剛性は一切の妥協がない。
ベルトドライブ方式とDCサーボモーターの組み合わせにより、安定した駆動と静粛性を両立。アクティブスピーカーと組み合わせれば、シンプルな構成でレコード再生が完結する点も魅力だ。
そのサウンドはまさに本格派。美しいハーモニーの再現性、定位感も明快だ。ピアノがのびやかなレンジ感で、リズム隊の密度感よく弾力をもったアタックが好印象だった。ワイヤレススピーカー「Denon Home 200」との組み合わせでは、手軽さと音質のバランスが際立つ。
付属MMカートリッジでも十分に音楽的な厚みがあり、Bluetooth接続であってもカートリッジ交換による音の変化を明確に確認できた。内蔵フォノイコライザーも高性能で、利便性とアナログらしい調整の楽しさを両立した構成といえる。
DP-3000NEが現代のデノンの技術を結集した新たな定番プレーヤーであるのに対し、DP-500BTは日常に溶け込むアナログ体験を志向したモデルである。方向性は異なるが、いずれも根底には「正確な回転をいかに実現するか」というデノンの一貫した思想が流れている。
時代に合わせて技術や機能は進化しても、その根底にある思想は変わらない。だからこそデノンは、長年にわたりビギナーからベテランまで幅広いユーザーに支持され、安心してレコードを楽しめるブランドであり続けているのであろう。
(提供:株式会社ディーアンドエムホールディングス)
本記事は『季刊・アナログ vol.92』からの転載です
































