公開日 2025/06/10 18:24

音元出版のB&W「802D4」導入から1年。プロが語るリファレンススピーカーの魅力とは?

新試聴室への導入1周年・記念企画
石原 俊/角田郁雄/小原由夫
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音元出版の試聴室のリファレンススピーカーとして導入されたB&W「802D4」。導入から1年が経過し、エージングも進んだ今、その真価がいよいよ明らかに。長期間にわたり802D4と向き合ってきた評論家陣がその魅力を語る。

 
Bowers & Wilkins「802 D4」2,761,000円(グロス・ブラック)、2,651,000円(ローズナット、サテン・ホワイト、ウォールナット)ともに1本、税込 ※キャビネット仕上げは写真のグロス・ブラックのほか、サテン・ホワイト、ローズナット、ウォールナットがラインナップ

石原俊/新試聴室とともに導入。サイズ的にも最良の選択

社屋移転のため本誌試聴室が一新されて一年余りの月日が経った。当初は響きがややドライだったものの、編集部諸氏の努力の甲斐あって現在では潤いのある素直な音響特性が得られている。試聴室の移転に伴ってリファレンス・スピーカーも一新され、B&W「802D4」が新規導入された。

 

音元出版試聴室の名称は「White Room(ホワイトルーム)」。面積は約25u。高さは約2.3mから最高が2.5mとなっている。屋内配線のFケーブルは極太の「CV-S 5.5sq-3C」を採用するなど本誌ならではのこだわりも取り入れている。1年が経過して、802 D4とともに部屋自体の音響環境も徐々に整ってきた

 

802D4はB&W最上級の“800シリーズ”の上から2番目のモデルである。トップに君臨する「801D4」はプロ用モニター機という性格が強く、30畳以上の広大なスペースでもない限り全性能を発揮することは難しい。約15畳の本誌試聴室で使うのに802D4は最良の選択であろう。

本機は3ウェイ、4ドライバーユニット、バスレフ型のフロアスタンディングモデルである。ウーファーは200mmエアロフォイル・コーン×2、ミッドレンジは150mmコンティニュアム・コーン、トゥイーターは25mmダイヤモンド・ドーム。800シリーズは初代から各ユニットに独立したキャビティを与えてきたが、本機では共振排除の設計思想が極限までアップデート化されている。

ウーファーのエンクロージャーはフロントとサイドバッフルが一体型の強固な作りで箱鳴りや音の回折は生じようがない。ミッドは飛行物体を思わせる流線形のエンクロージャーにマウントされており、これまた共振等が生じない。

トゥイーターは消音パイプにマウントされているので理論上、振動板以外の音は出ない。以前のモデルでは消音パイプがフレキシブルに取り付けられていたが、最新の本機では極めてリジッドにマウントされている。バスレフダクトは底面に巧妙にマウントされている。

 

試聴用に最適なだけでなく高い音楽性も再現できる

設計思想からも窺い知れるように、このスピーカーは振動板の音しかしないといっても過言ではない。甘さや緩さのようなものはどこをどう探してもなく、プロ用モニター機系特有の厳格さが支配的だ。だからオーディオエレクトロニクスの特徴をありのままに描いてくれるので、「試聴」という「お仕事」にはうってつけだ。

では「オーディオ趣味」という「楽しみ」には向いていないのかというと、そんなことは全くない。接続したオーディオ機器の音の特徴がよく分かるということは、すなわちオーナーが望む傾向の音が得やすいということを意味する。基本的には厳しい音だが、たとえばヴィンテージ球を装着した真空管アンプなら甘美で陶酔的な音が得られる可能性が高い。

本誌試聴室に常駐するダンピングファクターが極端に高いアキュフェーズのアンプで鳴らすと、低域の締まったリファレンスらしい真面目で折り目正しく、それでいて長時間の試聴に耐えられる飽きの来ないサウンドが得られる。寒色系の音調をもつヨーロッパ製のアンプならさらに厳しいサウンドが取り出せるだろう。ラックスマンやマッキントッシュのような伝統あるメーカーのアンプだとミュージカリティの高い表現が期待できる。

 

どんなジャンルも生真面目に音楽のリアリズムを表現する

上級機の801系がクラシック専門レーベルのスタジオでも使われていることから、B&Wはクラシック向きと認識しておられる読者もおられることだろう。しかしながら、それは間違っていると申し上げざるを得ない。

というのもプロの現場というものは、たとえ扱うジャンルがクラシックでも、アマチュアとは次元の異なる大音量で作業を進めるもので、B&Wの製品はパンクロックに代表される激しい音楽の信号が来てもビクともしないのだ。

もちろん、どんなジャンルでも生真面目に表現することに変わりはないのだが、音楽をリアリズム調に聴こうとする行為はオーディオの正しい作法の一つだと筆者は確信する。このスピーカーの良さをより多くの愛好家に知っていただきたい。


角田郁雄/ハイレゾ時代とともに進化を続けたスピーカー

角田郁雄氏は自宅では試聴時のパートナーとして802D3を長年愛用する
 
本誌試聴室で活躍するB&W 802D4の魅力を語るには、私自身の体験を素直にお話しすることが良いように思う。私は1990年頃から録音やマスタリングを行う技師を目指していた。その時は一般的な木製キャビネットを使ったダイナミック・スピーカーを使っていたが、再生音源のアタックが強く、自然な音には聴こえなかった。

そんな時、フィリップス・クラシックスがキャビネットの無い、フレームに振動膜を配置したプロ用の静電型スピーカーを使っていることを知った。それを実際に試聴すると音の立ち上がりが強調されないばかりか、歪み率も1%以下で、鮮度の高い、生々しい音が聴けた。まさに自然な音であった。

そして約20年このスピーカーを使ったが、ハイレゾ時代が到来し、24bitのダイナミックレンジを再生することが困難になり、高い音圧の再生にも対応できなくなった。往年の名機であっただけに残念に思えた。

その間にもB&Wのスタジオモニターは着実な進化を遂げていった。音の立ち上がりの強調感がなく、キャビネットの振動が極小で、歪み率は1%以下に到達していた。A/D、D/Aコンバーターなど再生機器の音を極めてストレートに再生してくれる。ここにダイナミックスピーカーの進化を感じることができたのだ。

しかしながら、B&Wのアイコンであるミッドレンジのイエロー・ケブラー振動板には個性があったため、しばらくは新製品の登場を期待していた。

 

信頼できるパートナーとして802D3を自宅に導入する

やがてB&Wから新しい800シリーズが発売されるとアナウンスがあった。D3シリーズである。フロア型としては、B&W 802D3が先行発売され、試聴することが叶い、その音に感激した。

ダイアモンド・トゥイーターとコンティニュアム・ミッドレンジとの音の繋がりが圧倒的に向上した。また、各振動板の背後の音圧を最適に消音する機構を採用することで、再生装置の音を今までに体験できなかったほど、色付けなくストレートに再生することができた。私はこれを導入することを決め、音楽を楽しむにしろ、仕事に向かい合うにしろ、信頼できるパートナーとなった。

そして、D3よりも、さらに進化を遂げたB&W 802D4はさらに情報量の多い音を再生し、音の繋がりもますます向上した。音楽のディテールを極めて詳細に再生しくれるスピーカーである。

オランダのペンタトーンは、B&Wモニターを使用しているレーベルであるが、数々のクラシック・アルバムは自宅でも、時間経過とともに整音された本誌の試聴室でもコンサートさながらの臨場感で聴くことができる。その再生力の高さは長年の技術に裏打ちされた成果だと実感している。


小原由夫/標準機、802D4の選択は真に妥当なものと言ってよい

小原由夫氏も本誌試聴室のリファレンススピーカーとして常に802D4を使用する。今号の「ネットワークプレーヤー特集」では同じく試聴室に常駐されているB&W「805D4 Signature」で全13機種の比較試聴を行った。試聴時にはスピーカースタンドにTAOCの805D4専用のスピーカースタンド「WST-60HD4」を使用

音元出版の新試聴室が竣工から1年が経過し、造作や構造物が落ち着いてきた頃だ。同室のリファレンススピーカーB&W 802D4もエージングが進んだ。そこで現在のパフォーマンスを含めた、この1年あまりの試聴環境の変化(深化)を振り返ってみたい。

ところで、リファレンスとは何か。それは基準である。スピーカーは音楽鑑賞用のプロダクツだが、この用途では検聴用の役目もあり、モニタースピーカーとして世界中のスタジオで稼働する、標準機とも言える802D4の選択は、真に妥当なものと言ってよい。

例えば世界的に知られるアビーロード・スタジオでは、B&W 800D4シリーズがリファレンスとされている。つまり、音の良し悪しを判断するための道具として使われているわけだ。道具と言ってしまうのはスピーカーには気の毒かもしれないし、自宅システムにB&Wを使っている人にも申し訳ないが、この場合は趣味や嗜好品としての対象と目的が異なる。

私が思うに、B&W(特に800D4シリーズ)は、プロが音を判断する道具としても、趣味の音楽鑑賞用にも、いずれの使い方においてもポテンシャルを十二分に発揮するヴァーサタイルなスピーカーである。

私が本誌の試聴テストで使うケースでも、例えばアンプの特質を巧みに鳴らし分け大いに感心させられることもあれば、音楽ソースの持ち味を引き出したことで、テストを忘れてしばし陶然と音楽に聴き入ってしまうこともある。こういうスピーカーは、今市場を見渡してもそうそうない。

モニタースピーカーにはモニタースピーカーなりの厳然としたスタイルがあるが、それらは往々にして無骨なデザインが多い。B&Wにはそんな風情は微塵もない。モデルチェンジを経るごとにどんどん美しくなってきた。最初は違和感のあったノーチラスチューブの、あの”チョンマゲ”も、今ではすっかり板についた(!?)。

 

最も顕著なエージング効果は低域の振る舞いと高域の抜け

また最新の805D4 Signatureのあのミッドナイト・ブルー、鮮やかな紺碧の輝きの継目のないラウンドエンクロージャーは、惚れ惚れするような美しいフィニッシュだ。そこに収まった2つのドライバーはシームレスにつながり、ピンポイントで定位が決まる。本号の特集でも大活躍してくれた同機は、機器の音調の違いを巧みに峻別してくれた。一方では、ヴォーカルの瑞々しさやヴァイオリンの艶やかさを実に魅惑的に聴かせてくれもした。

805D4 Signature 924,000円(1本/税込)※写真の仕上げはミッドナイトブルー・メタリックとカリフォルニアバール・グロスの2種類がラインナップ

新品のスピーカーは、もちろん置いてすぐにいい音で鳴るものではない。そう、「エージング」という鳴らし込みが必要だ。

試聴室の802D4も約1年のエージングと、試聴室の造作落ち着きで徐々に変化してきたわけだが、最も顕著なの低域の振る舞いである。最初はダブ付き気味であった低音が、使う度に引き締まってきた。当初付帯音を感じていたコントラバスのピッチがより克明に聴き取れるようになってきたのだ。

一方でダイヤモンド・トゥイーターの高域の抜けも、このところ一段と伸びやかになっている。ヴォーカルの余韻の消えぎわがナチュラルなアンビエントと共に美しく収束するのだ。

一般家庭であれば、ずっと一カ所に止まってエージングが進められるが、試聴室という性格上、機材の頻繁な出し入れを伴うので、じっくり鳴らし込むのが難しい。それでもここまでパフォーマンスが深化したのは、我々評論家はもちろん、編集部員が大事に愛でてきた賜物である。

試聴に出向くのが楽しくなってきた。それが私の近況である。


(提供:株式会社ディーアンドエムホールディングス)
本記事は『季刊・オーディオアクセサリー197号』からの転載です

 

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