公開日 2026/04/28 06:30

FOCAL Proの旗艦モニター「UTOPIA MAIN 212」が国内スタジオ初導入!エンジニアも絶賛「正確で、透明感のあるサウンド」

今の音楽ジャンルも50年前の音源にも対応できる
スガサワナオヤ
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4月23日(木)、世田谷区船橋にあるレコーディング・スタジオStudio EightのB Studioで、メディア向けにスピーカーメーカーFOCALのプロ向けライン(FOCAL PROFESSIONAL)のフラグシップ・モニター「UTOPIA MAIN 212」試聴会が開催された。日本では、Studio Eightが本モデルを初導入したスタジオとなる。

Studio Eightに設えた「UTOPIA MAIN 212」。本機は壁に埋め込んでの使用もできる。また、当日はFOCALのST6シリーズのSOLO6ニアフィールド・モニターも持ち込まれ、聴き比べられるようになっていた

プロ向け、HiFi向け、カー向けと幅広く展開

FOCALは、スピーカー・ユニットメーカーとして1979年にジャック・マフルが設立した。のちに、培ってきたユニット製造技術を活かしてスピーカー開発にも着手。現在は家庭用Hi-Fi、カーオーディオ、プロ用モニターの3部門で構成されている。なお、販路も異なりプロ部門は、メディア・インテグレーションが代理店となっている。

FOCALは、部門ごとに独立して開発を進める一方で、特許技術や優れたパーツを他部門にも横展開している(各部門で最適化は行っている)。こうした体制が、製品クオリティの底上げや音色の統一に寄与しているのだろう。非常に合理的だ。また、研究体制としては、製品開発チームと「この世にない技術」を基礎研究するチームに分かれている。

そしてFOCALでは、各部門で開発された最高峰のスピーカーにのみ “UTOPIA” の名が与えられる。同社がプロフェッショナル・モニターの開発に着手したのは2002年。

フラグシップ・モニターの開発開始は2017年で、UTOPIAを冠するモニターの登場までには25年の歳月を要した。誕生したUTOPIA MAINシリーズは、121(各帯域1ユニット)と212(ミッドとウーファーは2ユニット)の2モデルで展開する。

「軽量」「剛性」「ダンピング」FOCALの設計理念

FOCALのスピーカー設計の理念は、3つの要素からなる。1つめはダイナミクス/SPLに寄与する「軽量」。2つめは低歪みを実現する「剛性」。3つめは共振を抑える「ダンピング」。オーディオに関心がある方なら、いずれもスピーカーの性能向上に不可欠なポイントだと理解しているだろう。言い換えれば、どのメーカーでも共通して解決すべき課題でもある。

システムの解説はメディア・インテグレーションの山口 哲さん

Hi-Fi向けでは、逆転の発想で、あえてエンクロージャーを響かせて独特の音色を狙う製品もある。一方、プロがモニター・スピーカーに求めるのは、楽器や声がマイクを通してどう変化したか、エフェクター調整でどの程度変わったかを、そのまま示すリファレンス(基準)となる音だ。クセのないナチュラルな音が望ましい。「クセのない音」も、多くの開発者が目指す性能だが、先述した3要素を満たすためのアプローチはメーカーごとに異なる。その違いが、多彩なモニターを生み出している。

リファレンスたりうるモニターを作るには、なるべく多くの要素を自社でコントロールできるほうが理想に近づきやすい。世界的に見ても、核となるスピーカー・ユニットの製造設備を持つメーカーは減ってきている。前述の通り、ユニットを1から製造できる技術を持つFOCALのアドバンテージは大きい。

UTOPIA MAINに投入されたユニット技術

それでは、UTOPIA MAINに投入された技術を見ていこう。以下の説明は、メディア・インテグレーションの山口 哲さんの解説に、筆者が調べた内容を加えたものだ。

まずは、2.7kHzより上の帯域を受け持つ1.5インチ(38.1mm)・トゥイーター。アルミの7倍という非常に高い剛性を持つベリリウムを使用し、断面がM字形となるよう加工している。エッジ部には、振幅時の不規則な動き(歪み)を低減するフック状サスペンション(DHS)を採用し、3kHzにおけるTHDを半減した。これらの結果により、40kHz(-3dB)まで伸びる周波数応答の直線性と、良好なインパルス応答を実現した。

UTOPIA MAIN 212の近影。周波数特性は28Hz〜40kHz(±3dB)、最大SPL123dBを誇る

330Hz - 2.7kHzを受け持つ5インチ(127mm)・ミッドレンジは、トゥイーター同様に断面をM字に成形。振動板は、Wコンポジットサンドイッチコーンを採用している。この振動板は、発泡コアの両側に、ファイバーグラス製の振動板を2枚以上貼り合わせた構造。重さと厚みを抑えつつ均質な構造を実現し、大振幅時の屈曲挙動も起きにくい。結果として、低歪みで位相特性にも優れるという。

さらに低歪み化のため、新開発のTMD(チューンド・マス・ダンパー)サスペンションを搭載。エッジ部にあえて重量のあるポイントを設け、エッジの不要な動きを抑制する機構である。加えて212では、トゥイーターの上下にミッドレンジを配置する仮想同軸(バーティカル・ツイン)を採用し、音像定位の向上を狙っている。両ユニットには高い精度が求められるが、±0.2dBという厳密なペアリングが行われている。

330Hz以下を受け持つのは、13インチ(約330mm)・ウーファー。低域は28Hz(-3dB)まで伸び、クリアさを確保しながらSPL 123dB/1mを実現する。そのために、振幅距離を伸ばしたロング・エクスカーション設計を採用している。

これらのスピーカー・ユニットを包むエンクロージャーは、30mm厚のMDF材を採用。各所に補強材を取り入れたブレーシング構造を持つ。ブレーシングとは、変形を防ぐ補強と音響特性を整える両方を担う内部構造である。共振防止の筒状レゾネーターも内部に収めている。また、ウーファーの影響を受けないようにミッドレンジとトゥイーターは、内部でキャビネットを分割してある。

特許を取得した別筐体のパワーアンプ

ここまでスピーカー本体を見てきたが、UTOPIA MAINを比類なきモニター・スピーカーへと押し上げているのが、別筐体のフルアナログ回路パワーアンプだ。動作はクラスH設計と電流モード増幅の組み合わせ(特許取得)となっている。

別筐体のアンプ。その設計の難しさからほとんど使用されることの無かったクラスHを採用

クラスH回路は、アンプ出力デバイスに供給する電源電圧を変調する方式で、消費電力を抑えつつ、出力レベルにかかわらず最適化されたAB級効率で動作する。一般に、電源電圧を予測・制御する制御回路が必要となるため、回路は複雑になりがちだ。クラスHを採用するメリットは、単段の増幅回路でも十分な出力を得られる点にある。

負帰還回路は電流負帰還で、一般的な回路ではスピーカー・ユニットの手前から戻すのに対し、本機はスピーカー・ユニット後段から戻す点が特徴となる。これにより、インピーダンス特性に起因する周波数ごとの出力のばらつきを抑える。さらに、弱点とされるダンピングファクターや保護回路の設計も組み込みやすくなる。

加えて、クラスHの弱点である波形のリニアリティについても、独自回路の搭載によってプロクオリティを実現したとしている。このクラスH+負帰還回路は、トゥイーター(140W RMS)とミッドレンジ(180W RMS)に使用。ウーファーはクラスD回路で、出力500Wの大パワー設計となっている。

グレゴリ・ジェルメン氏による音質インプレッション

試聴会では、レコーディング・エンジニアのグレゴリ・ジェルメンさんから、今年3月にB Studioへ導入したばかりのUTOPIA MAIN 212について、音質や使用感の説明があった。

グレゴリ・ジェルメンさん。録音、ミックス、マスタリング、ドルビーアトモス・ミックスと制作する上で求められる仕事をすべてこなすという

グレゴリさんは日本のカルチャーにあこがれ、20歳でフランスから来日。東京スクールオブミュージック専門学校を卒業後、スタジオ・グリーンバードや、作家集団ディグズ・グループが持つレコーディング・スタジオに約10年在籍した。

その後、Sonic Synergies Engineeringを立ち上げ、Studio Eightをホームグラウンドに活躍する気鋭のエンジニアだ。近年関わった作品は、Mrs. GREEN APPLE『ANTENNA』、ADOのヴォーカルが光る『ONE PIECE FILM RED』のサウンド・トラック、TWICE『Hare Hare』などがある。

グレゴリさんは冒頭、「ラージ・モニターで、こんなにクセがなく、正確で、透明感のあるきれいな音の出るスピーカーはあまり聴いたことがなくて。このサイズのスピーカーを導入しても低域の量感や解像度に困るときがありますが、このUTOPIA MAIN 212は目に見えるような低音です」と語った。

続いて高域や中域の印象については、「中高域から高域までスピード感があって、よくニアフィールド・モニターでチェックする周波数レンジだと思うんですけど、このサイズなのを忘れるくらいとても分かりやすい」とコメント。さらに、「エンジニアは何時間も音を聴き続ける必要があります。このスピーカーは聴き疲れしにくい音だと思います」と、日々現場で音と向き合うエンジニアらしい言葉を添えた。

ラージ・モニター運用についても、グレゴリさんは次のように話す。

「いままでスタジオでよく見る光景として、ニアフィールドとラージ、さらに小さなスピーカーの3つでチェックする人がいるんですが、このラージだけでも良いかなと思いました。

最近、海外ではラージ・モニターだけで完結するムーブメントが起こっているらしくて。例えばビリー・アイリッシュのエンジニアは、PMCのラージだけで制作したそうです。FOCALとパートナーシップを結んだルカ・プレトレッシ(Luca Pretolesi)のスタジオStudio DMIでも、UTOPIA MAIN 212だけで完結しているそうです。確かにすべてのレンジで音の分かりやすいラージ・モニターがあるなら、別にセカンドスピーカーを入れなくてもいいかなと。

そしてもう1つは、かなりいろんなジャンルに対応できるところ。いまの音楽ジャンルはもちろん、50年前の音源も聴きやすいスピーカーだと思います」

すでにエンジニアだけでなく、ミュージシャンや音楽制作者からの問い合わせも届いているという。なおメディア・インテグレーションでは、5月13日(水)に、今回同様Studio EightのB Studioで、グレゴリさんをゲストスピーカーに迎えた試聴会を実施予定となっている。

試聴会の半分は、発表会に訪れた人々に開放。それぞれのリファレンス曲を再生し、その音質を聴いた

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