公開日 2021/03/25 18:29

文豪・大佛次郎が遺した貴重なSP&LPを聴くサロンコンサートが開催。時を越境する“録音芸術”の豊かさに触れる

Phasemationが機材を提供
ファイルウェブオーディオ編集部・筑井真奈
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時代小説『鞍馬天狗』の作者としても知られる文豪、大佛次郎(おさらぎ・じろう)。大のクラシック愛好家でもあった彼の遺したSPやLPを楽しむサロンコンサートが、3月21日に横浜の大佛次郎記念館で開催された。

大佛次郎記念館。彼の遺した自筆原稿や蔵書などさまざまな資料が収められている

大佛次郎は1897年横浜生まれ、作品にも横浜の描写がしばしば登場するなど、横浜にゆかりの深い作家である。今回のサロンコンサートも、横浜に拠点を置く音楽家とオーディオメーカーが協力し実現したものとなっている。

再生のためのオーディオ機器を提供したのは、協同電子エンジニアリングのハイエンドオーディオブランド、Phasemation。アナログプレーヤーにはガラードの301を利用し、Phasemationのプリアンプ「CM-2000」、モノラルパワーアンプ「MA-2000」などと組み合わせて再生された。

ガラード301に、オルトフォンのアームRMG309、カートリッジはPP-2000を使用

アンプ類はPhasemationのものを使用。スピーカーはTADの「CE1-KS」

第一部「文豪の愛聴盤を聴く」では、大佛次郎の足跡をたどりながら、彼の所有する貴重なSPとレコードを再生。研究員の安川篤子さんによると、大佛次郎は1,000枚を超えるレコードを所有していたが、中でもドビュッシーやラヴェル、ショパンなどの録音を多く遺しており、フランスやロシアの音楽、またピアノ曲を愛好していたことが伺えるという。

大佛次郎記念館研究員の安川篤子さん

貴重なSPレコードからは、マルグリット・ロンによるドビュッシーの「アラベスク第1番」を再生。SPレコードのためヒスノイズなどはあるものの、音の純度の高さは現在聴いても新鮮で、清らかな水のように流麗なピアノが再現される。ピエール・フルニエによるサン=サーンス「白鳥」のレコードからは、泳ぐ白鳥の姿や水の波紋の揺らめきが眼前に見えるよう。

大佛次郎が遺したSPレコード「ドビュッシー:アラベスク」

第二部は「門脇大樹サロンコンサート」とし、神奈川フィルハーモニー管弦楽団で首席チェリストを務める門脇大樹氏が登壇。大佛次郎の遺したレコードから、門脇氏選曲によるレコードを再生、さらにチェロの生演奏も披露した。

神奈川フィルハーモニー管弦楽団 首席チェリストの門脇大樹さん

特に印象的だったのはヴィア・ノヴァ弦楽四重奏団によるラヴェル、ドビュッシーの「弦楽四重奏曲」。門脇さんはヴィア・ノヴァ弦楽四重奏団について「血の通った、人間くさい音楽」とコメントしていたが、人間の情熱と冷静、その双方を揺れ動くロマンティシズム溢れる演奏が展開され、ハッと息を飲む瞬間が何度もおとずれた。

チェロ演奏では、J.S.バッハの「無伴奏チェロ組曲 第6番」を初披露。門脇さんによると、これは「コロナ禍だからこそ実現できた演奏」だという。全部で第6番まであるバッハの無伴奏チェロ組曲だが、門脇さんはこれまで第6番だけはあまり積極的には取り上げてこなかったという。その理由は、第6番の楽譜には5弦の楽器のために書かれたというようなメモが付されており、4本の現代チェロでは演奏が難しいと感じていたことがあるという。

チェロの生演奏を披露

しかし、コロナ禍で演奏活動の機会が減り、すこしまとまった時間ができたことで、改めて難曲にも向き合いたい、という思いから、この第6番を研究してみることにしたという。

サロンコンサートということで、演奏者と観客の距離はほんの数メートル。チェロのサウンドを至近距離で聴くというのはとても珍しい機会だが、まさにひとつひとつの弦の音が、太く空気を震わせ身体全体に伝わってくる。弦と弓が触れ合う音や、複数の弦が織りなす複雑な響きも鮮明に聴こえ、レコード再生とはまた違った生楽器ならではのサウンドに、身も心も洗われる思いがする。

このコンサートを企画したのは、「横浜みなとみらいホール」というコンサートホールであるが、実は現在このホールは2022年10月まで大規模改修中で休館となっている。天井の耐震化やバリアフリー対応に向けた改修ということだが、ホールが開館していないあいだもクラシックファンの方に音楽を楽しむ機会を作りたい、との思いからこのサロンコンサートを実現したものだという。

大佛次郎も、執筆に疲れた頭と身体を休めるために、SPやレコードを楽しんでいたのではないか、と安川さんは考えている。何十年も前に、文豪が聴いた音を、現代のレコードプレーヤーで改めて触れる喜び。時を越境し得る“録音芸術”の豊かさに思いを馳せることになった。

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