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公開日 2025/10/14 06:30
小型2ウェイモデルだからこそ到達する完成度

今年聴くべきスピーカーの筆頭候補。B&W「707 Prestige Edition」、“高性能ブックシェルフ”の魔力

大橋伸太郎

イギリスの名門スピーカーブランド、Bowers&Wilkins(B&W)。“高性能ブックシェルフ” スピーカーの代名詞としてもその名は広く知れ渡ってきた。同社から登場した「707 Prestige Edition」は、まさにその技術の粋を集めた最新鋭のスピーカーである。



Bowers&Wilkins ブックシェルフスピーカー「707 Prestige Edition」(330,000円/ペア・税込)


日本からの要望も多く取り入れて開発されたという、まさに “今年聴くべきスピーカー” の筆頭候補。そのサウンドを、B&Wを長年愛用してきた大橋伸太郎氏の筆にて解説いただこう。


良質なHiFiスピーカーが時代に求められている


Prestige Edition(プレステージ・エディション)の名称が冠されたB&Wは初めてではない。2018年の「802 D3/805 D3 Prestige Edition」は、高級機のさらに上をいく豪華版という位置付けだったが、今回発売される「707 Prestige Edition」は性格がちがう。


今回はラインナップ末弟の「707 S3」のバリエーションモデルである。700シリーズにはすでにSignatureというグレードアップ版があり、2機種共上級スピーカーが採用するトゥイーター・オン・トップである。「ちょんまげ」はB&Wの技術上のシンボルといっていい。いっぽう、今回ベースに選ばれた707は、箱形エンクロージャーにトゥイーターを内蔵した一般的な形態のスピーカーである。


本機は、日本の代理店であるディーアンドエムホールディングスの提案を受けて英B&Wが開発した日本発の製品である。


いまハイファイスピーカーの高額化に歯止めがかからない。ストリーミングという追い風が吹いているのに、だ。これはよろしくない。そうしたなか、英B&W製品は他に比べ常識の範囲の価格を堅守しているが、それでも原材料費の高騰で価格の上昇は避けられない。


ディーアンドエム社としては、そうした状況に一矢を報いたかったのではないか。いやむしろ好機ととらえたのである。今だからこそのスピーカーのイメージは明瞭に結像した。


 


ロングセラー「CM1」の直系としてのブックシェルフ


707 Prestige Editionの130mmウーファー、25mmドームトゥイーターの2ウェイ、高さ300mmリアバスレフ方式の小型ブックシェルフという構成が日本の家庭に入っていきやすいことは実証済だった、と書くとピンとくるのではないか。そう、21世紀最初のベストセラー・スピーカー「CM1」である。



左から最新の「707 Prestige Edition」、中央が通常モデルの「707 S3」、右がロングセラーとなり、いまのB&Wの小型ブックシェルフスピーカーの源流となった「CM1」


あまりにも有名なスピーカーなので深入りしないが、マランツで長くB&Wを担当する澤田龍一氏はCM1との出会いをこう回想する。「アナウンスも何もなく突然2005年の年末にポツンと送ってきました。12月の冬期休業に入る前の日だったので、私の家で聴いたのです。そうしたらとんでもないスピーカーでした」


ホームシアター・ムーブメント台頭の追い風もあり、CM1は最初の3年間で6,000ペアを売り上げるベストセラーとなる。現在のB&Wのアコースティックサウンドマスター、スティーブ・ピアースが一人で手がけた最初のモデルでもあった。大ヒットを受けたCM1は、その後CMシリーズに発展、S2を経て現在の700 S3シリーズにいたる。


CM1と形式を同じくした707 S3はいわば直系の子孫である。タイムリーな製品を作れば、市場(エンドユーザー)は動く。CM1からの学びである。今日の追い風は、いうまでもなくQobuzのハイレゾストリーミングであり、アナログリバイバルの想像をこえた広がりである。


 


12層の塗り工程による美しい仕上げ


本機のPrestigeたるゆえんをみていこう。最大の差異はエンクロージャーの外装で木目の突き板を採用する。日本の家庭のインテリアになじみやすいサントス・レッドのグロス仕上げ。ピアノブラックの9回塗りに対しPrestige Editionは塗って研磨を繰り返し鏡面が出るまでやり大体12工程かかるという。


トゥイーターのグリルの金網が805/801 Signatureと同様に開口率が2%程度高くなり、従来横方向だった網目が縦方向パターンに変わった。見た目ではわからないが、ターミナルに702 S3/705 S3 Signature同様の不純物の少ない真鍮が使われている。加工のしやすさより素直な音質を狙っての選択である。



トゥイーターグリルの開口率や、網の目の方向なども再検討。測定上の数値には現れなくとも、聴感を重視して音作りを追い込むB&Wの思想が現れている




背面端子。横一列の配置は上位モデル譲りで、真鍮の純度にもこだわっている



さらなる抑揚の豊かさと息遣いを感じる


ベースとなった707 S3と音質を比較してみよう。テストソースは、来日公演も行ったノラ・ジョーンズ近作から。『デイ・ブレイクス』(CD)、『ヴィジョンズ』はSACDとQobuz 96kHz/24bitの両方を聴いた。Prestige Editionでは、シグネチャーのようなドライバーやネットワークの変更は行っていない。しかし、音場の表現に歴然とした差が生まれている。



マランツの試聴室にて「707 Prestige Edition」をテスト。プリメインアンプ「MODEL 10」、SACDプレーヤー「SACD 10」を組み合わせ


Prestige Editionのノラは音場にふくらみがあり声が立体的に前に出る。歌声の抑揚が豊かで生々しい息遣いがある。両機の最大の違いはエンクロージャーの仕上げにある。塗装が違えば硬度の差が生まれ、表面を伝播する振動と回析効果の変化が音質に影響する。興味深い話を澤田氏から聞いた。表面塗装で音質が変わるのは経験上わかっているが、ユニットの取り付け前に塗装するのでいきおい内部に塗料が入り込む。


今回のPrestige Editionをばらしてみると、ブラック仕上げの707 S3に比べて箱の内側が図らずも厚くクリアコーティングされているというのだ。そうなるとエンクロージャー内部の吸音と反射のバランスが変わる。これにトゥイーターのグリルメッシュの変更が加わり両機種の音場表現の違いが生まれたのだ。


比較を続けてみよう。ブルックナーの交響曲第0番(CD)は、弦楽合奏のきめ細やかさに進境がうかがえる。倍音が乗りシルキーな艶が生まれている。トゥイーターのグリルメッシュ変更で天地方向に音場が広がったというが、むしろ奥行きが増し音場が一回り深く大きくなった印象だ。


庄司紗矢香のモーツァルト(SACD)は、ヴァイオリンとフォルテピアノの位置関係が鮮明。エンクロージャーの変更で回析現象が抑制されたためだろう、結果、演奏が引きしまり伸びやかさ、闊達さが増している。


 


小型ブックシェルフだからこそ得られるオーディオの境地


Prestige Edition最大の魅力は定位の明瞭さにある。アバド/ロンドン交響楽団の『スターバト・マーテル』(SACD)は、アルトとソプラノが混じり合わず毅然と寄り添う描写が聴き手に甘美な陶酔を生む。小型でシンプルを突き詰めるとこの境地が生まれる。この小さなスピーカーが広大なマランツ試聴室のエアボリュームを従え朗々と奏でるのに感激を覚える。


限定生産のPrestige Editionはおもにアジア諸国で販売され、日本市場に1,000ペアが割り当てられる。価格は33万円(ペア)。ベースの707 S3グロスブラック比で4万円弱の価格アップだが、Prestige Editionの完成度の高さは価格差以上である。


707 S3が “My First B&W” なら、“My Life long B&W”(一生もの)の手ごたえの707 Prestige Edition、といえばおわかりだろうか。


(提供:ディーアンドエムホールディングス)

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