公開日 2026/07/16 06:40

TCL技術者が「SQD-Mini LEDは他方式より優れている」と考える理由とは? 超ディープに解説

RGB Mini LEDとの比較デモも

TCLが行った日本メディア向けツアーを何本かに分けて紹介している本シリーズ。この記事では、TCLの「恵州液晶産業パーク」の取材レポートをお届けする。

この恵州液晶産業パークは敷地面積は約37万平方メートルで、年間1,400万台のテレビ生産能力を誇る。だがその名称から分かるとおり、単なる工場ではない。広大な敷地内に、各種テストを行う研究施設を備えている。

今回、パーク内の研究開発拠点である「盤古実験室」(Pangu Lab)を訪問した。ちなみに「盤古」が何を指すか尋ねたところ、中国の神話に登場する、世界を作り出した神なのだそうだ。

 「盤古実験室」(Pangu Lab)の入り口。ラボの内部は撮影禁止だった

ラボの技術陣が、TCLの上位テレビに搭載されている「SQD-Mini LED」の技術的な中身について、日本メディア向けに踏み込んだ説明を行った。

さらに、有機ELや通常のMini LED、そしてRGB Mini LEDとの画質比較も行われた。また記事の後半ではテストルームの模様もお届けするが、写真撮影が不可だったため、テキストでお伝えする。

さて、TCLが採用するSQDとは、核となる新素材「スーパー量子ドット(Super Quantum Dot)」に由来する名称だ。ただし当日のスライドには、SQD-Mini LEDに「Systematic Quality Display」という記載もあった。これはどういうことだろう。

TCLはSQDについて、スーパー量子ドットだけを指すものではなく、新開発のウルトラカラーフィルター、そしてバックライトの光学系と制御をまとめて刷新したエリア駆動技術という、3つの技術群を束ねた「システムとしての画質技術」であるとアピールしている。

つまりSQDはSuper Quantum Dotでも、Systematic Quality Displayでも、どちらも正解というわけだ。このダブルミーニングからも、SQDを単なる量子ドット技術と捉えると見誤ることがわかる。

TCLの量子ドット技術の進化の歴史。最新かつ最も高性能な技術がSQD-Mini LEDだ

説明会では、量子ドットの合成化学からカラーフィルター用染料の分子設計、バックライトの光学部品、ローカルディミングのアルゴリズムまで、テレビメーカーが通常はあまり開示しない、ディープな情報が惜しげもなく語られた。

 かなり難解な内容ではあるが、本稿では当日のプレゼンテーションとスライド、質疑応答をもとに、その技術的な中身をじっくり掘り下げていきたい。

TCLはなぜ画質の主戦場を「輝度・コントラスト・色」と考えるのか

TCL技術陣の説明はまず、TCLが考える「テレビの画質を決める5大要素」、つまり解像度、輝度、コントラスト、色、リフレッシュレートの整理から始まった。 

テレビの画質を決める5大要素(解像度・輝度・コントラスト・色・リフレッシュレート)。TCLは「4K超の解像度と144Hz超のリフレッシュレートは人間の知覚を超えており、勝負は残る3要素」と位置づける

TCLの主張はこうだ。まず解像度については、現在主流の4Kは、通常の視聴距離ではすでに人間の目の分解能を超えており、これ以上高めても恩恵を得にくいと言う。

リフレッシュレートも、約144Hzを超えたあたりから人間の識別能力は急速に落ちると主張する。つまりこの2つは実用上、ほぼ飽和しており、いま画質競争の主戦場になっているのは残る3つ、「輝度」「コントラスト」「色」であると説明した。順に説明していこう。

なぜTCLは輝度が重要であると考えるのか。同社がその理由として挙げたのは、輝度向上によって自然界の光を再現できるからだ。

たとえば日光の下では、多くの物体表面の輝度が5,000nitsを超えている。現実世界のダイナミックレンジを忠実に再現するには、ディスプレイ側にも相応の輝度が必要となる。しかも輝度は人間の色の感じ方にも影響する。このため、色再現の観点でも効果がある。

そしてコントラストは、画面内の最も明るい部分と最も暗い部分の比で、映像の階調表現と立体感を左右する。色はその名の通りで、色域、表示できる色の範囲の広さだ。

画質を決める要素の整理自体はテレビやディスプレイ関連で広く共有されている認識と同様だが、「解像度とリフレッシュレートはもう人間の知覚を超えた」と言い切り、開発リソースを輝度・コントラスト・色に集中していると宣言したところに、同社の明快な方向性を感じた。

液晶の原理に立ち返る。Mini LEDとは結局何なのか

続いて説明は、液晶ディスプレイの基本原理に立ち返った。液晶ディスプレイは「発光する部分」、つまりバックライトと、「表示する部分」、つまり液晶パネルに分かれている。

背面のバックライトが光を放ち、液晶分子が電圧に応じて向きを変えることで、通過する光の量を画素ごとに調整し、最終的にカラーフィルターで色を付けて映像を作る。この構造は、自発光ディスプレイと大きく異なる。

液晶ディスプレイの基本構造。バックライトの光を液晶パネルが画素ごとに制御し、カラーフィルターで色を付ける。「発光」と「表示」の分離が行われているのが自発光デバイスとの違いだ

Mini LEDは、この構造のうち、バックライト部分の技術だ。従来の液晶テレビでは数mm角のLEDチップを全面に並べたり、画面のエッジに配置して導光板で全体を光らせたりするが、Mini LEDではチップサイズを従来の1/300〜1/500、すなわち100〜300μmクラスまで小型化させた。

チップが小さくなれば、同じ画面サイズにより多くのLEDを敷き詰められる。するとバックライトを細かいエリアに分割して1つひとつ独立制御できるようになる。これが、いわゆるローカルディミング(エリア駆動)だ。

明るい部分のエリアだけ強く光らせ、暗い部分のエリアは消灯・減光する。これによって、液晶の弱点であるコントラスト比を大幅に引き上げられる。これがMini LEDの基本的なメリットだ。

面白かったのは、TCLが自社実験室の実測データとして「エリア数とコントラストの関係」を曲線で示したことだ。85型を例に取ると、分割エリア数が増えるほどコントラストは向上するものの、その効果は次第に頭打ちになっていくという。

曲線は数千エリアで伸びが鈍り始め、1万を超えるエリア分割に達したところで極限のコントラストが得られるという。つまり同社は、エリア数の競争が無限に意味を持つわけではないと認めたうえで、それでも「1万超」が最高の画質を得るために必要と説明しているのだ。

Mini LEDの定義。LEDチップを従来の1/300〜1/500(100〜300μm級)に小型化し、バックライトの分割エリア数を増やす。右のグラフはエリア数とコントラストの実測関係で、1万超の分割で極限に達するという

次ページエリア数は「RGBバックライトでは3分の1になる」

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