公開日 2026/06/11 06:30

厳格な位相と色づけのないGenelecのニュートラルサウンドで2chとイマーシブを縦横無尽に愉しむ

東京・赤坂の「Genelecエクスペリエンス・センター Tokyo」レポート

昨年末のInter bee2025で目にした径38cmウーファーを搭載した、Genelecの新しい大型アクティブスピーカー「8380A」を聴きたくて、年明け早々、東京・赤坂の「Genelecエクスペリエンス・センター Tokyo」を訪れた。

KEF使いの筆者からすると、点音源設計ゆえかねてから親しみを抱いていたブランド。以前「8381A」も聴いたことがあり、その魅力は存分に感じていた。改めて言いたいのは「業務用だから」「アクティブスピーカーだから」とGenelecを敬遠していると、大切なものを見落とすぞ、ということだ。

Genelecの企業理念「The Sonic Reference」

訪れたのは、本社にあるふたつの試聴室だ。25年4月にリノベーションを始め7月に完成。そこから音質チューミングを重ねて9月に正式オープンしたGenelecエクスペリエンス・センター Tokyoは、一般の人でも予約すればプレゼンテーションを受けながら試聴できる。

Genelecといえば、音楽制作のために卓と合わせて使うスタジオモニターのイメージがある。もちろんそれは依然として事業の核を成しており、世界中のスタジオや放送局で採用されている。

もっともGenelecにはおよそ50モデルにも上るスピーカーのラインナップがあり、設備からホームオーディオ、教育・研究分野に至るまで、多様な用途に柔軟に対応できる懐の広さを持っている。

そんなGenelecは、イルボ・マルティカイネンとトッピ・パルタネンが地元の北欧フィンランドで1978年に創業。ルーツは国営放送YLEのためにレファレンスモニターを作ったことにある。首都ヘルシンキから飛行機と車で2時間移動した豊かな自然に囲まれたイーサルミ湖畔にある社屋は、1978年の創業以来、何度かの拡張を経て現在の姿に至っている。

Genelecのスピーカーシステムは、ブランドのエントリーモデルとなる「G One」から、スタジオの壁面に埋め込むようなラージモニターに至るまで、研究開発、製造、出荷の全てをこの場所で行っている。

フィンランド東部、イーサルミ湖畔にあるGenelecの社屋

自らに課したミッションは「ザ・ソニック・レファレンス(The Sonic Reference)」。「いい音」「悪い音」といった基準もなければ、「もっといい音を出すために最先端のマテリアルを使用しました」という売り文句もない。

サイズや環境にかかわらず、色づけのないニュートラルサウンドを再生することで、誰もが信頼できる制作と再生の基準であり続けることが信条なのである。この点は、豊富なラインナップがあるも、違いは接続端子と後述するキャリブレーションシステム対応の有無だけであることからも窺える。

ニュートラルサウンドの実現のため共通の特徴が

Genelecは当初から、理念を実現する手段として、アクティブモニターであること、高精度のトーンコントロールを備える考え方を持っていた。したがってドライバーユニットのみならず、先進のアンプと自社でのソフトウェア開発を重視してきた。

現在では「GLM(Genelec Loudspeaker Manager)」ソフトウェアと「SAM(Smart Active Monitor)」システムによって、DSPシステム全体を独自の制御ネットワークの下に繋ぎ、コントロールしている。

マイク測定を伴う「オート・キャリブレーション・システム(AutoCal 2)」を備え、レベルや距離の補正のほか、部屋の影響を補正するといった機能までこのGLMソフトウェアが司る。

なお、GLMのキャリブレーションは、部屋の反射などの影響でブーストされた周波数帯域を最適化することが基本となっており、逆に無いところを持ちあげるというようなことはしない。

ただし、こうした補正でしばしば起こり得る量感の不足感は「ポジティブゲイン」という機能によって自動で補われるなど、20年にもおよぶ研究によって導き出された様々な機能が盛り込まれている。

次に注目すべきなのが、フィンランドを代表する工業デザイナー、ハッリ・コスキネンによるデザイン。他のスピーカーメーカーではヨーロッパデザインの礎を作った英国のケネス・グランジがBowers & Wilkinsを手掛けて大ブレイクした例はあるが、ほとんどのブランドがインハウス(社内)。しかし、Genelecはハッリ・コスキネンと共同で開発されていることも大きな注目点である。

エクスペリエンス・センターに並ぶGenelecのスピーカーとサブウーファーたち。もちろん、サイズが大きくなるにつれて低域表現力や音圧レベルなどに余裕が出てくるメリットはある。とはいえ製品ポリシーは一貫しているので、基本的には試聴室のエアボリュームとリスニングポイントまでの距離に応じて無理なく選べばいい

そのエンクロージャーは、今回の訪問のきっかけとなった8380Aなどラージモニター製品と一部を除きアルミニウム製。利点は、流麗なフロントバッフルにして音の回折を防ぐこと(MDE:Minimum Diffraction Enclosure)や、薄くしても強度が取れることなど、多岐に亘る。サイズを超えたパワフルな音を再生できることや、設置された部屋での反射の影響を最小限とするなど、理想的な構造を実現できることにつながっている。

最もコンパクトなG Oneを例にとってみても、よく考えられたデザインであることが分かる。硬質なアルミの塊を設置するにあたり、角度を自在に調整できて不要な響きを抑える「Iso-Pod」と呼ぶゴムに似た特殊な樹脂のスタンドが付属している。内蔵アンプの放熱に必要な穴やこれみよがしなヒートシンクも必要ない。これによって背面にもスペースができるため壁掛けも容易、と連鎖的に様々なメリットを生む。

北欧らしく、サスティナビリティへの取り組みも先進的。97%リサイクルアルミニウムの採用、省エネといった点のほか、製品登録後5年間という長期保証がついているだけあって内蔵アンプを含めて故障も少なく長く使える。数十年同じ基準で制作環境を維持するスタジオユースにとっては重要な点だ。

しかも、個々の製品に振られたシリアル番号でどのような特性のパーツを使っていつ組み立てられたかということまで管理されており、修理に出しても初期出荷時と特性が変わらないよう配慮されているという。

“The Onesシリーズ” はいずれも指向特性がきわめて良好で、50cmの近接試聴が可能。点音源のメリットだ。最近はリサイクルアルミニウムの質感を生かした無塗装のRAWフィニッシュ(写真右)も人気

「8380A」は最新の同軸ドライバー搭載

8380Aは、昨年リリースされたラージモニター「8381A」と同じ同社「The Main Ones」をうたう径38cmドライバー搭載のスピーカー。サイズはこれまで多くのスタジオに採用された実績のある「1038」「1238」と同じサイズではあるものの、全く新しいラインとして登場していることも特徴だ。

いちばんの特徴は、点音源同軸ミッドレンジ/トゥイータードライバー「MDC(Minimum Diffraction Coaxial)」の搭載だろう。これは8381Aに搭載されたものをベースとして新設計されたもので、ウェーブガイドと綺麗に一体化している。

8380A

スピーカーにとって広いリスニングエリアを確保することは非常に重要だが、8380Aはこの同軸ドライバーを搭載したことで、エンクロージャーの半分という広大なウェーブガイドの搭載を実現し、優れた指向性の制御を実現した。

このサイズ、それも3ウェイスピーカーでありながら、最短試聴可能距離はなんと1.3m。ポイント・ソース・モニターとしての8380Aの完成度の高さを物語る。

フロントのダクトも新設計。ジェネレックのラージモニターというと縦長のスリット形状のダクトを思い浮かべる人も多いと思うが、今回はトライアングル型となった。実際に触って内部を探ってみると、奥に行くにつれ細くなっていることがわかる。このダクトの変更によって風切り音を抑え、大入力時でも歪みのないクリーンな低域の再生を可能とした。

フロントのダクトを含め、完全な新設計

8380Aを駆動するパワーアンプモジュール「RAM-L2」がまた素晴らしい。ファンレスなのはもちろん、自己生成ノイズ0dBで、ボリュームを最大にして耳を近づけても「サー」というホワイトノイズが聞こえない。

なおGenelecは省電力、高効率を求め長年にわたりクラスDアンプの開発を積極的に行ってきたが、8380AではトゥイーターのみクラスAB級アンプを採用した。これは「サウンドとしても、消費電力の観点からみても良い結果が得られた」ためだという。

もちろん、設置場所に合わせて最適化させるGLMソフトウェアとSAMシステムの恩恵も受けられる。

アンプは稼働時にも無音で熱もほとんど感じない。背面に背負ってもいいが、離れた場所に置いてもいい。四隅のネジを外せばラックマウントしてスピコンで繋ぐ想定も

2階試聴室[ステレオ・ルーム]で好きなモデルをじっくり聴ける

エクスペリエンス・センターでは、事前にリクエストすれば、今回の様に8380Aも試聴できるし、The Onesの3ウェイ・ポイント・ソース・モニターのサイズ違いでの聴き比べや、大型のウーファー・システム「W371A」の試聴、サブウーファーの試聴なども行うことができる。もちろん、2ウェイとなる “Gシリーズ” や “8000シリーズ” なども試聴可能だ。

2階試聴室[ステレオ・ルーム]

室内容積およそ43平方のリスニング・ルームは、ソナによる音響設計。反射や低域のコントロールも抜かりなく、スピーカーのポテンシャルを最大限に体験してもらうための配慮が至るところになされている。

事前にマイクを立ててGLMのキャリレブレーションが施されたリスニングポジションに座り、いよいよ8380Aのサウンドを聴く。

まず、最近のEDM系の代表として、K-POPでaespa『Whiplash』を再生してもらう。打ち込みの様な自然界にはない作り込まれた音を分析的に聴く、いわば現代的なツールとしての実力をまずは探りたかったからだ。

第一印象は、とにかく位相が厳格であそびがなく、姿勢を崩すのも憚られるほどだ。ゆえに音作りの意図が非常によく分かる。EDM系ならではのエッジの効いた低音のリズムと、動静の制御が効いたウーファーのグリップ力がビシビシ伝わる。予想以上だ。

誤解をおそれずに書けば、ロクハンぐらいのブックシェルフスピーカーのような一体感とスピード感ですべてがピタリと揃って放たれてくる印象。中高域も、声がヒリついたり、演出的な煌びやかさもなくむしろ地味で、個人的にはとても好印象だ。

同じ径38cmウーファーのスタジオモニターでも、わたしが昔使っていたコンプレッションドライバー採用のJBL「4430」のザラザラした乾いて耳につくボイシングとふっくらした低音とはまったくの別世界である。

高域はキンキンすることもなく、また低域は、径38pウーファーにありがちなダブつき感は皆無。とにかくストレスレスでストレートな印象で、システムとしての完成度がすばらしいと分かった。

そのあと、聞き慣れた80年代ロックTOTO『AFRICA』を聞くと、ときに新曲のように聞こえてしまうスピーカーがあるなかで、頭の中にある世界と同じ印象で安心する。Prince『1999』のようなおどろおどろしい曲も正しくそのように再生される。

クラシックも聞いてみた。POPSではひとつひとつピンポイントだった音像が、交響曲ではぐーんと広がる。ホールトーンも含めて忠実に再現されている印象で、複雑な音の波の淀みを体全体に受けながらぷかぷかと水中を漂っているかのような心地よさを堪能した。8380Aで聴くクラシックは非常で滑らかで、低域の位相感まで正確に再現してくれるのだと知った。

5階[イマーシブ&メインモニタールーム]イマーシブもステレオも縦横無尽

続いて5階のイマーシブ・ルームに移動する。2階のステレオ・ルームよりも高い天井を備えるこの部屋は、昨年のリノベーションで吸音性能や反射性能が大きく見直されたそうだ。

5階[イマーシブ&メインモニタールーム]

イマーシブ用には3ウェイの「8341A」11基と12インチ400Wサブウーファー「7370A」2基で構成する7.1.4chシステム。サラウンドの7.1chスピーカー配置はできるかぎりITU -R勧告に準拠している。

また、ここにはメインモニターも常設されており、現在のGenelecのフラッグシップとも言えるアダプティブ・ポイントソース・メインモニター「8381A」による2chシステムもセットアップされていた。

8381Aは上下でエンクロージェが分割されているので、アンプは片chあたり2台。それぞれが、エンクロージャーのシリアルナンバーに対して完璧なマッチングされた状態で出荷されている

この部屋ではステレオもイマーシブも縦横無尽に体験できるのだが、今回は特に個人的に気になっていたThe Onesによる7.1.4chのサウンドについてレポートしよう。

Apple Musicで聴くDolby Atomsのaespa『Whiplash』は、2階ステレオ・ルームで聴いた2ch(ソースはQobuz)のときと同じように位相が厳格で隙がない。粒状に配置された電子音がどこにあるか指をさせるほど明確だ。こうして作り込まれたイマーシブ作品は、音色だけでなく音場でも制作者と対話できるため、オーディオマニアでなくても存分に楽めることを改めて実感する。

Dolby Atmos再生用のイマーシプスピーカー
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「Chimpanzee Studio」訪問記

鹿児島にあるDolby Atmos対応のミキシングスタジオを訪問、レコーディングエンジニア大久保重樹さんに話を伺った。

続いておすすめの音源をかけて欲しいとお願いすると、ジェネレックジャパンのスタッフがピーター・ガブリエルのアルバム『i/o』から「The Court」のステレオバージョン(Bright-Side Mix)とイマーシブバージョン(In-Side Mix)の2種類を紹介してくれた。

その場で聴いた印象は、ニュアンスあるいは表現したい世界観は共通の印象があり、どちらが優れているとか2chはどこか切り捨てていると言うつもりはないが、やはりイマーシブの方が自由な感じはした。

ちなみにその後改めて自宅のKEFスピーカーシステム(これもポイントソースだ)でApple Musicを開いたところ、ステレオバージョンには(Dark-Side Mix)もあるのを知った。音場が広く深くダークな響きで迷宮に迷い込んだかのような重苦しい世界観を感じ取ることができる。

ステレオヴァージョンで2つのMixヴァージョンを駆使して表現した表と裏を、イマーシブバージョンならひとつの曲で、闇に包まれた迷宮の閉塞感と輝ける自由な世界への希望といった表と裏を、聴き手のそのときの気持ちや解釈で読み替えることができるのだと合点した。

GLMのメインウインドウ。ジェネレックのシステム設定ソフトウェアのGLMは、基本的にL/Rに同じEQかける。同様にサラウンドも左右対称同士には同じEQをかけるが、低域は別々のEQが適用される。これは低域は指向性がないため部屋の影響を大きく受けること、厳密に左右対称の部屋はほぼ存在しないという観点からだ。なお、スピーカーと後壁の距離に依存する反射の問題からわずかながら低域に生じたディップを解消するべく、サブウーファーはベースマネージメントも行って再生している

クラシックは、同時期にレコーディングされたジョン・ウイリアムズが指揮する「レイダース・マーチ」を、ベルリン・フィルの演奏とサイトウ・キネン・オーケストラの演奏で聴き比べた。

ここで興味深いのは、それぞれのホールの響きやオーケストラの表現が異なることはもちろんだが、特等席で器用なサイトウ・キネンに対してベルリン・フィルは指揮者のポジションで聴くようなミックスとなっていたことだ。ここでもスピーカーが増えることでイマーシブではより自由なミックスが行えるのだと感じた。

4K UltraHDブルーレイで映画作品も視聴させてもらったが、ポイント・ソースの利点を活かした繋がりのよさは、作品への没入感を高めてくれる。改めてThe Onesとホームシアターの親和性の高さを確認した。

一般的な家庭の部屋で、ステレオもマルチチャンネルも両方愉しみたいわたしのような人は、The Onesとサブウーファーの7.1.4でステレオ再生も楽しむのもいいが、2chで「8380A」、イマーシブでThe Onesとサブウーファー、の2通りを組んでGLMで切り替えて使いたいと思ってしまう。遠近両用メガネを使うか2本使いするかではないのだが…。

AVプリアンプはマランツ「AV 10」。日本ではまだまだ選択肢が少ないのが玉に瑕。RMEのオーディオインターフェイスやDACなども見える

一般ユーザーが体験できる部屋を持ったオーディオ&ホームシアタアーショップが少なくなっている現状では、Genelecエクスペリエンス・センターは非常に貴重だ。しかもここはあくまでGenelecのデモンストレーションルームであって、販売しているわけではない。ぜひ気軽に予約して、ステレオ再生とイマーシブ再生を縦横無尽に行き来しながら“忠実な再現性”を以て色々な解釈を愉しんでいただきたい。

スタッフルームの隣にリビングスタイルのプレゼンテーションルーム。製品が空間になじみ視覚的なノイズにならない
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