映像前史のロマンがつまった「京都・おもちゃ映画ミュージアム」、フィルム映写機からアニメーションの原器まで
ストリーミング配信が全盛の時代となり、そもそもなぜ映画が動いて見えるのか、撮影の仕組みや上映の仕組みはどうなっていたのか、わたしたちは気にすることもないまま映像作品を楽しんでいる。そんな時代だからこそ訪れたい、120年にわたるフィルムを使った映画の仕組みをいまいちど振り返ろうという博物館が、映画のまち・京都にある。
その名も「おもちゃ映画ミュージアム」。この25年春に移転オープンと聞き、プリミティブメディアアーティストの橋本典久氏とともに訪れた。

京町家をそのまま活かしたレトロ空間にタイムスリップ
おもちゃ映画ミュージアム(TOYFILM MUSEUM)は、残存率が極めて低い無声映画時代のフィルムや各種小型映画も含めた映像のアーカイブと活用を柱に活動している。
映画研究や映画祭活動、玩具映画復元プロジェクトといった活動を通じて蒐集した映画初期の家庭用映写機だけでなく、映画誕生につながる、写真/マジックランタン(幻灯機)/光学玩具といった機材類を数多く展示し、映像前史(プレシネマ)の原理も理解してもらおうという施設である。10年活動した壬生から場所を西陣に移し、4月4日に再オープンした。運営は太田米男・文代ご夫妻による。

1階には貴重な映像機器が所狭しと並ぶ
伝統的な京町家を活かした味わい深い2階建ての木造家屋。通り庇と格子が印象的な建物を入ると、土間が続く通り庭から靴を脱いで上がる。

ふと明るい方向に目を向けると、座敷からは奥庭が広がっている。しかしそれ以外は、所狭しと映像機器! 当ウェブサイトの読者なら気になるオーディオ機器を横目に、壁一面に家庭用映写機、戸棚やテーブルにはさまざまな玩具映写機が、説明書きとともに展示されている。








2階は上映会が可能な広間も
2階にも戸棚にたくさんの機材を陳列。奥に茶室もある広間は、映画の上映会やイベントスペースとして活用されている。オーナーが寄贈を受けるなどして蒐集してきたサイレント時代の映画やアニメーションを16mmの映写機等で映写したり、フィルムをスキャンしてデジタル化したり。
手回しの玩具映写機は、実際に自分の手で動かしてみることで、大人はもちろん、子どもにも「なぜ絵が動いて見えるのか」その仕組みがわかる。
少しでも無声映画を救いたいとの一心でスタートしたというこの博物館には、いま世界的流行を見せているアニメーションやゲームだけでなく、黄金時代の映画にも目を向けてもらいたいというオーナーご夫妻の思いが詰まっているのだ。


去る4月3日に行われた内覧会で、太田夫妻は新ミュージアムの位置について、明治時代、日本に最初に映画を持ち込んだ一人、稲畑勝太郎が構えた稲畑染料店がミュージアム西の智恵光院通にあったこと、稲畑家をジレル(シネマトグラフを発明したリュミエール兄弟によって日本に派遣された映写技師兼撮影技師)が撮った映像『家族の食卓』が国立映画アーカイブのサイトで見ることができるといった話、稲畑から引き継いだ横田永之助が、牧野省三(日本初の映画監督、日本映画の父)、尾上松之助(日本最初の映画スター)と組んで活動写真『碁盤忠信』を撮影した場所が、それより西の千本通にあったことなどを説明し、初期日本映画ゆかりの地に近いことを説明した。

さらに、アメリカでは国立議会図書館に貴重な映画フィルムが毎年25作品登録され、2024年末で900作品保存されているのに対し、日本では重要文化財に指定されている映画は3作品しかない(注:『小林富次郎葬儀』(1910年)が35mmオリジナルネガと同時に作成された35mmプリントの2本が指定を受けているため本数としては4本)といった日本映画の実情を明かした。
内覧会の目玉の一つとして、橋本典久氏が3Dプリンターで制作した「ミュートスコープ」を本人の解説付きで視聴する機会が設けられた。これは、850枚ほどの写真が円筒に括り付けられたリールを手回しすることで、パラパラ漫画のように順次めくられて動画に見える初期の映像装置である。来場者は橋本さんから説明を受けながら手回しし、熱心に映像を見て感嘆の声を上げていた。

とにかく数時間では到底回りきれないほどの珍しい機材と情報量。時間のあるときにぜひ訪れてみてほしい。映画やアニメーションの仕組みに興味がある方なら感動必至だ。
次回はプリミティブ・メディアアーティスト、橋本典久氏について取り上げていく。
橋本典久氏プロフィール

橋本典久(はしもと のりひさ)氏
プリミティブメディアアーティスト。明治大学総合数理学部先端メディアサイエンス学科特任講師。桑沢デザイン研究所非常勤講師。1973年生まれ、2000年筑波大学大学院芸術研究科修了。10年にわたる武蔵野美術大学での「映像前史」学生指導や、子どもたち向けのイベント開催を通じ、日本における映像装置の仕組みを研究、その歴史を掘り起こして記録しており、3Dプリンターを使った映像装置(おもちゃ)の復刻にも取り組んでいる
お問い合わせ先

おもちゃ映画ミュージアム
場所:京都市上京区黒門通元誓願寺下ル毘沙門町758
TEL:075-496-8008
営業時間:10時30分 – 17時00分
定休日:火曜、水曜、木曜
