ガジェット 公開日 2025/07/22 14:51

サムスンが目指す“体験重視”のAI戦略。クアルコムと進める「ユーザー中心AI」の未来

Gadget Gate
編集部:平山洸太
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スマートフォンにおいて機能の拡充・拡大が続く「AI」。サムスンはこのAIを普及させ、ユーザーの日常生活に溶け込ませていくために、 “機能” ではなく “エクスペリエンス” に重点を置いてアピールしていくという。

これは、韓国サムスン電子の常務 兼 モバイルエクスペリエンス事業部テクノロジー戦略チーム長のソン・インガン氏が、大阪・関西万博テーマウィークスタジオのパネルディスカッションにて語ったことだ。報道陣を招いて開催された本イベントでは、クアルコムコリア副社長のスペンサー(サンピョ)キム氏を交えて、AIの未来について議論が行われた。

パネルディスカッションのテーマは「真のAIパートナーになるための人間中心AI:壁を乗り越え、次に目指すもの」。要するに、どうすれば私たちの生活にAIを自然に浸透させていけるか、そしてその中でモバイル技術の役割とは何か、という趣旨の内容だ。

サムスンは昨年発売のスマートフォン「Galaxy S24」で同社のAI機能「Galaxy AI」を大々的に投入。そして今年の「Galaxy S25」では、さらにAI機能を強化することで「本当のAI時代を開いたと自負している」とソン氏は語る。また、クアルコムとサムスンには十数年にわたるパートナーシップがあり、Androidを開発するGoogleとともに、AIに関する様々な研究や投資を行ってきた。

ソン氏によるとAIは「本当に早いスピード」で普及が進んでおり、直近6か月のデータでは、実生活でAIを頻繁に使っているユーザーが倍増しているとのこと。調査では、主に仕事の生産性向上やクリエイティブな活動するためにAIを使用するユーザーが多いこともわかったという。さらに、Galaxy S25に限って言えば、ユーザーの70%がGalaxy AIを活用しているそうだ。

一方で大きな課題となっているのが「依然としてAIに距離感を感じている人がいる」(ソン氏)ということ。この理由として同氏は、AIが本当に自分の役に立つのか、AIを使いたいけど複雑で難しくないか、AIは個人情報を使うがその情報は保護されるのか、という “使いやすさや安全性” に多くの疑問があるからだと分析する。

その疑問を払拭するためにソン氏が考えているのが、「ユーザーの立場に立って意味のあるAIを具現化」すること。実生活に役に立つAI、簡単に使えるAI、安心して使えるAIを具現化するため、「AIを機能面でアピールするのではなく、エクスペリエンス面でアピール」するのだそうだ。

それを実現するための大きなキーワードとなるのが、「マルチモーダルAI」と「オンデバイスAI」という2つの技術。マルチモーダルAIは人間と同じように触覚や視覚などを処理できるAIのことで、オンデバイスAIはクラウドではなく端末内だけで処理することで、高速化やセキュリティの高さに貢献できる技術である。

クアルコムのキム氏も「人間はマルチモーダルというやり方で認識する」と述べつつ、「人間のように思考して反応すること。それをAIで実現することが最も良いソリューションだと思う」とコメント。多くのユーザーに広めていくためには、マルチモーダルAIが必要不可欠であると語った。

また、クアルコムではオンデバイスAIの強化に向けて、同社が開発するSoCのパフォーマンス向上も継続して行っている。合わせて近年では軽量のAIモデルも登場しており、2023年3月に登場した175億パラメーターのAIと同程度の性能を、2024年7月に登場したAIでは8億パラメーターで実現していると説明。この2点がオンデバイスAIを発展させる鍵になるという。

なお、同社はAI開発者に向けた支援も進めており、開発者向けのライブラリーとして「Qualcomm AI Hub」も用意している。スマートフォンのアプリが好循環(ローンチしたアプリをユーザーが購入し、その利益でさらなる開発が行える)の構造を実現しているように、「AI開発者も同じように進めてこそ成功する」とキム氏は説明する。

サムスンでは、“ユーザーにとって意味のあるAI” を目指すため、生産性、創造性、コミュニケーションの3つの領域で “有用な体験” をGalaxyで提供しているとのこと。たとえば、AIが会議の音声を文字起こしして議事録を作成、「AI消しゴム」を使って写真から不要なもの(背景の人物など)を消す、「オーディオ消しゴム」を使って動画の音のノイズを消す、といった機能を実装している。また、通話内容をテキストに変換したり、メッセージを翻訳したりといった、言葉の障壁を取り払うための機能も備わっている。

また、今後AIをより便利にしていくには「ユーザーのデータを活用するしかない」とソン氏。「個人のニーズに合わせてパーソナライズ」するにはデータが必要であり、これによって「最大のエクスペリエンスを楽しむこと」ができると説明する。そのためにはセキュリティも重要であり、そのレベルを最高に維持するため、クアルコムと協力してオンデバイスAIを推進しているそうだ。

最後にソン氏は「サムスンが考えるAIの未来はより自然で直感的な方向に向かっていく」とし、「ユーザーが望むことを言わなくてもAIがあらかじめユーザーの状況を理解」させたいと説明。スマートフォンを中心に置きつつ、IoTデバイスや家電製品、パソコンまで様々なデバイスが有機的に繋がっていくことで「空気のように浸透していくアンビエントAI」を目指すとした。

クアルコムのキム氏も同様に、IoT、オートモーティブ、ヒューマノイドまで様々デバイスに繋がっていき、中心にはスマートフォンがハブ的な役割と果たすという。スマートフォンは多くのユーザーが長時間使用するデバイスであり、多くのデータが集まることから、今後スマートフォンは「AI基盤の中心としてさらに発展していく」そうだ。

AIは多くの可能性を秘めており、現在でも多くのサービスや機能が提供されている。だが進化も早く、技術面がフォーカスされがちなだけに、日常におけるメリットに結びつけづらい側面もある。そういった中でサムスンは、 “AIで実現できる体験” を強化していくことで、多くの人に使われるAIの姿を目指していくようだ。今後GalaxyにはどのようなAI機能が搭載されていくのか、将来のアップデートを楽しみに待ちたい。

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