公開日 2026/03/31 22:00

「AirPods Max 2」開発者が語る設計思想と進化の本質。Apple H2は何を変えた?

Apple担当者へインタビュー
アップルが4月1日に発売するワイヤレスヘッドホン「AirPods Max 2」。Apple本社のエリック・トレスキー氏とティム・ミレー氏に開発秘話を聞いた

アップルは4月1日、アクティブノイズキャンセリング機能を搭載したワイヤレスヘッドホンの新世代モデル「AirPods Max 2」を発売する。2020年12月の登場以来、独創的なデザインと高いサウンドパフォーマンスで支持を集めてきたAirPods Maxが待望のメジャーアップデートを迎える。

今回は、米Apple本社にてAirPods Max 2を担当するDirector of Audio Product Marketingのエリック・トレスキー氏と、VP of Platform Architectureのティム・ミレー氏に単独インタビューを行った。

AirPods Maxが音楽ファンから支持される理由

アップル独自のコンピュテーショナルオーディオを体現する唯一のワイヤレスヘッドホンとして、いまやAirPods Maxはハイエンドヘッドホン市場で独自の地位を築いた。トレスキー氏は、その人気の理由を「パフォーマンスと自己表現の融合」にあると分析する。

「AirPods Maxがこれほど多くのヘッドホンファンに愛されている理由は、完成度の高いアクティブノイズキャンセリング(ANC)や音質だけでなく、製品そのもののデザインや美しいカラーバリエーションを通じて自由な自己表現ができるからであると、私は思います。

今回、『AirPods 4』や『AirPods Pro 3』と同じApple H2チップをAirPods Maxにも搭載できたことで、私たちの現行ラインナップ全体がApple H2のパワーを共有しました。これはとてもエキサイティングな出来事です」(トレスキー氏)

楕円形デザインのアルミニウムをあしらった美しいハウジング。初代モデルのアイコニックなデザインを、新しいモデルにもそのまま踏襲している

Apple H2チップの開発責任者であるミレー氏は、ハードウェアとしての「誠実さ」が音楽ファンの心をつかんでいると指摘する。

「細部まで作り込まれたクラフトマンシップと、オーディオ品質に対する妥協のない姿勢が評価されているのだと感じています。

プロフェッショナルな現場でも使えるレベルでありながら、美しさも兼ね備えている。本機を手にした多くの方が、そのギャップに驚かれるのではないでしょうか」(ミレー氏)

AirPodsシリーズのサウンドは、とてもナチュラルでむやみな色づけがない。独特な「透明感」が特徴だと、筆者は日々使用しながら感じている。トレスキー氏は、その根底にあるのは「科学的なアプローチと人間の感性の融合」だと語る。

「私たちの目標は、すべての人に最高のオーディオ体験を届けることです。しかし、人の耳の形や頭のサイズは千差万別であるため、この目標を達成することは容易ではありません。

そこで私たちは音響エンジニアリングチームによる科学的な測定と、仲間のApple社員を巻き込んだ入念なリスニングテストを繰り返しながら、AirPodsシリーズの体験を磨いています。

もちろんターゲットは音楽リスニングだけではありません。例えばポッドキャストの音声やハンズフリー通話など、あらゆる用途で一貫した素晴らしい体験を提供することを目指しています」(トレスキー氏)

AirPodsのようなオーディオデバイスに求められる本来の役割は、テクノロジーを前面に押し出すことではなく、ありのままの音楽体験を支える黒子であるべきだと、ミレー氏は語る。

「私たちはいつもテクノロジーが消え去り、体験だけが残るような姿を理想として描いています。

AirPodsを楽しむユーザーが、まるでアーティストと同じ部屋にいるかのように、クリエイターの意図したサウンドをありのままに感じられること。それが私たちの目指す “エフォートレスな音楽体験” です」(ミレー氏)

Apple H2チップはAirPods Maxの何を変えた?

AirPods Max 2が前世代のモデルに対して大きく変わった点のひとつは、Apple H2チップを搭載したことだ。これによりANC、アダプティブEQ、外部音取り込みモードといったAirPodsを代表する主要機能の性能が向上した。

Apple H2チップの搭載により、ANC性能は最大1.5倍に向上している。その背景にある理由として、トレスキー氏はアルゴリズムの進化と、毎秒4万8000回のサンプリングを行うアダプティブEQの強化を図ったことを挙げている。

高周波数帯域までカバーするアダプティブEQにより、ヘッドホンがユーザーの頭部にどのような状態でフィットしていても、一貫してクリアなサウンドと高い遮音効果が提供できるように機能をチューニングしているという。

右イヤーカップのトップに配置したリスニングモードボタンを押すと、ANC/適応型オーディオ/外部音取り込みの各モードに切り替わる

さらに、会話を検知するとリスニング中のコンテンツの音量を自動で下げる「会話感知」や、背景ノイズを除去して声をクリアに届ける「声を分離」機能なども新しいAirPods Max 2に追加された。

AirPods Max 2に様々な機能を追加するため、Apple H2チップを「高性能でありながら省電力なプラットフォーム」として構築することに腐心したと、ミレー氏は振り返る。

「アップルの音響設計、ファームウェア、ソフトウェアを手がける各エンジニアが密接に連携しながら、これまでの一般的なDSPにないほどパワフルで柔軟性に富み、なおかつ低消費電力のオーディオプロセッサを開発しました。

特に重視したのがレイテンシー(遅延)を少なくすることです。従来のDSPは、多数の音声サンプルをまとめて並列処理する構造のため、どうしても遅延が発生してしまいます。

しかし私たちのエンジンは、音声サンプルが到着した瞬間にストリームとして逐次処理を行います。動作時の電力消費を可能な限り低く抑えられる要因のひとつです」(ミレー氏)

低遅延伝送の成果は、外部音取り込みモードの精度を高めることにもつながった。

あたかも周囲の環境音を、ヘッドホンを介することなく聞いているかのように「脳に錯覚させる」ためには、環境音を忠実に再現しながら伝送遅延を極限まで抑える必要があった。

人間の脳はわずかな遅延も敏感に検知できるため、伝送遅延を減らすことは徹底的に重視してきたという。

このアプローチが、ヘッドトラッキングを効かせた状態で楽しむ空間オーディオリスニングの体験向上にも寄与している。

モーションセンサーでユーザーの動きを追跡しながら、空間内の各楽器の配置をリアルタイムに再構成することで、空間オーディオが「魔法のような体験」をもたらすのだと、ミレー氏は胸を張る。

サウンドもさらに進化している

新旧世代のAirPods Maxの間で「音質」に違いはあるのだろうか。

トレスキー氏によれば、新しいApple H2チップを搭載するAirPods Max 2はサウンドの方向性は維持しながら、解像度と安定性が一段と増しているのだという。

「サウンドシグネチャー自体に大きな変化はないものの、より広い周波数帯域でレスポンスが向上し、ディテールの描写力は確実に高まっています。アンプの改良によって全体のノイズフロアも下がり、音場の見通しがクリアになったことが感じられるはずです。

さらに進化したアダプティブEQにより、装着状態に左右されることなく常にリッチで安定したサウンドが楽しめます」(トレスキー氏)

アップルが独自に設計したダイナミック型ドライバーを搭載。デュアルネオジムリング磁石モーターによりレスポンスを高めて、歪みのないクリアなサウンドを実現している

最新のAirPods Max 2もほかのAirPodsシリーズと同様に、特定の音域を強調するのではなく、音源に忠実な再現性を追求する方向でチューニングが練られてきた。

AirPods Max 2の音質向上を支えているのはApple H2チップだけではない。ミレー氏はハードウェアの構成についても言及した。

「H2チップとアンプは互いに補完し合う関係にあり、物理的にはそれぞれ独立したチップとして実装されています。7nmプロセスで製造されたH2チップの採用により、電力効率を維持しながら、より高度なアルゴリズムを並列処理できる計算能力が確保されています。

そしてAirPods Pro 3で採用された最新のアンプICをAirPods Max 2にも搭載したことで、サウンドの明瞭度向上とダイナミックレンジの拡大も図っています」(ミレー氏)

AirPodsのヘッドホンとイヤホン、それぞれに適した進化とは

2024年の10月からAirPods Pro 3とAirPods Pro 2に搭載された「医療機器グレードの聴覚補助機能」は、なぜAirPods Max 2には採用されなかったのか。

トレスキー氏の回答からは、各デバイスの形状や用途に合わせた最適な機能を割り振るという、アップルの明確な設計思想がわかる。

「聴覚補助やヒアリングチェックの機能は、AirPods Max 2についても実装するべきか検討を繰り返しました。

その結果やはり1日中、目立たずにさりげなく装着し続けられるワイヤレスイヤホンのAirPods Proこそ、生活に密着したヒアリングケアを提供するのに相応しいデバイスであると判断しました」(トレスキー氏)

AirPods Max 2の設定画面。外国語のライブ翻訳機能も新たに加わる

AirPods Pro 3の設定画面。聴覚補助機能を搭載する

AirPods Maxはコンシューマーだけでなく、プロのサウンドエンジニアからも高く評価されている。その理由は一貫性と利便性にある。

ミレー氏は特に、空間オーディオのミキシングを行うエンジニアにとって、AirPods Maxはとても強力なツールになると語る。

通常、スタジオで録音したトラックをモニタリングして確認するには一度ファイルを書き出す必要がある。

AirPods MaxとMacBook環境があればプログレードの空間オーディオを手もとですぐに確認できる。

毎日の音楽リスニングに活用するヘッドホンをそのままスタジオに持ち込み、プロフェッショナルとしての仕事に使えるツールになる。

音楽制作と言えば、Apple Musicでも空間オーディオと同等の勢いでコンテンツが増えているロスレス音質のタイトルもまた、AirPods Max 2とUSBケーブルがあれば最大48kHz/24bitの高音質で楽しめる。

USB-C接続によるロスレスオーディオへの対応も、音質にこだわる音楽制作のプロフェッショナルや熱心な音楽ファンには大きな関心事だ。

Apple H2チップという強力なエンジンを手に入れ、内部設計をブラッシュアップしたワイヤレスヘッドホンの「AirPods Max 2」は、既存のフレームワークを維持しながらも、中身は根本的な進化を遂げている。

最新モデルの実機によるファーストインプレッションについては、初代AirPods MaxとのサウンドやANC性能の比較とあわせて別記事でレポートしている。ぜひそちらもご覧いただきたい。

 

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