「Appleの50年」を音楽とオーディオで読み解く。iPod / AirPods / iTunes…DNAに刻まれた革新の軌跡
Appleは、今年2026年4月1日で創業50周年を迎えることを記念したイベントを開催。人気VTuberのMori Calliope(森カリオペ)らも出演したそのイベントの様子と、Apple 50年の歩みを、自身も数多くのApple製品を使ってきたというライター/評論家の山本敦氏が振り返る。
Appleはオーディオ・ビジュアル革命の中心にあった
私が同社の製品を本格的に使い始めてから約30年が経過した。人生の半分以上の時間を、何らかの形でAppleのデバイスと共に過ごしてきたことになる。
初めて手にしたMacは、大学生の頃に購入した「Power Macintosh 8100/100」だった。米国留学から帰国した同級生に勧められたのがきっかけだ。当時、このタワー型のデスクトップマシンはプロフェッショナルのコンテンツクリエイターにも重宝されるほどの拡張性を備えていた。
その後、卒業と同時に「iMac G3」へと買い替えた。カラーはライムグリーン。愛嬌あふれるデザインのモニタ一体型デスクトップマシンにUSBオーディオインターフェースをつないで宅録に没頭した記憶は、今でも鮮明だ。
2001年に、私はオーディオビジュアルの専門出版社である音元出版に入社した。ウェブメディア「PHILE WEB」の編集者・記者としてのキャリアがスタートしたこの時期は、まさに日本のオーディオビジュアル史が激変する渦中にあった。
デジタル録画機の普及、ホームシアターの隆盛、そして大画面テレビへの移行。私は時代を象徴する数々のプロダクトと、それを取り巻くテクノロジーを編集部の一員として最前線で取材してきた。
振り替えれば、この頃のオーディオビジュアル領域における進化の核心にはいつもAppleの存在があった。その象徴が2001年に登場した「iPod」である。
それまでの物理メディアを介した音楽鑑賞のスタイルを、数千曲ものデジタルファイルを持ち歩きながら聴ける手のひらサイズのポータブルオーディオプレーヤーが大きく変えた。
iPodはその後、iPhoneを中心とするモバイルアプリのエコシステムと融合し、2022年にiPod touchの終売を迎えるまでポータブルオーディオの象徴として君臨し続けた。
続いて2010年に登場した「iPad」は、iPhoneよりも大きな画面を持つタブレットという存在に留まらず、複雑化するホームシアターやネットワークオーディオ機器の直感的なリモートコントローラーとしても、業界に斬新なユーザー体験をもたらした。
ほかにもメディアストリーミングプレーヤーの「Apple TV」がAirPlayに対応したことで、ネットワーク機能を持たない既存のオーディオシステムにも、PCやNAS内のコンテンツを再生する機能を後付けできるようになった。
さらに付け加えるならば、DAC内蔵ヘッドホンアンプとの組み合わせによる「スマホでのハイレゾ再生」をいち早く定着させたのは、iPhoneの周辺機器エコシステムであったと私は記憶している。
音楽との出会い方を変えたApple Music
その後、私は10年以上務めた音元出版を離れ、2014年からフリーランスライターとして独立した。新たな環境で模索を続けていた2015年7月、Appleによる定額制音楽配信サービス「Apple Music」がスタートする。このサービスが、私の音楽との向き合い方を根本から変えることになった。
それまではiTunesで楽曲を購入・ダウンロードし、ローカルのストレージに保存して聴くスタイルが主流だった。しかし、Apple Musicの登場により、クラウド上にある膨大なライブラリへ即座にアクセスできるオンラインストリーミングの時代が本格的に到来した。
2018年から2020年にかけて、国内キャリアがデータ通信の使い放題プランを拡充させたことも追い風となった。私自身、通信制限の懸念から解放されたことで、外出先でもロスレス音質のストリーミングを日常的に楽しむようになった。
音楽の「聴き方」も変化した。かつての私は、気に入ったアルバムを繰り返し聴く「深掘りスタイル」で音楽を聴いていた。
ところが、Apple Musicのようなサービスを常用するようになると、関連アーティストやコンピレーションアルバムを通じた「横へのつながりを掘り下げる」スタイルがメインになった。
2018年にAppleが買収した「Shazam」の機能がiOSに統合されたことも大きい。街中で流れているBGMをその場で検索して、Apple Musicのライブラリに加える。こうした体験の積み重ねによって、音楽的な知見の幅は以前とは比較にならないほど広がった。
AirPodsが切り拓いたコンピュテーショナルオーディオの地平
かつて、iPodやiPhoneには「EarPods」という有線イヤホンが付属していた。正直に言えば、私はこのイヤホンが苦手だった。
装着感や音もれの問題があり、特にフリーランスになってからはオーディオ機器を評価する仕事も始めていたので、より密閉性の高いカナル型イヤホンやノイズキャンセリングヘッドホンを好んで使用していた。
しかし、振り替えればこの頃に多くのユーザーがEarPodsを通じて「標準的なイヤホン体験」を共有していたことが、より上質なイヤホン・ヘッドホンによるリスニングスタイルの発展に大きな影響を及ぼしたのだと、私は考えている。
やがて2016年12月、初代「AirPods」が登場した。左右独立型の完全ワイヤレスイヤホンというカテゴリーがまだ黎明期にあった当時、ケーブルフリーで身に着けられるイヤホンの利便性は瞬く間に世界を席巻した。AirPodsはそのパラダイムシフトを最も強く牽引したワイヤレスイヤホンだ。
そして2019年、カナル型の「AirPods Pro」が登場したことで、Appleのオーディオ戦略は新たなフェーズに突入する。核となったのは、独自開発のプロセッサ「Apple H1」だ。
高度なアクティブノイズキャンセリング、自然な外部音取り込み、そしてAppleデバイスとの間の安定した接続性能。いずれもAppleの独自開発によるドライバーに加えて、先端のソフトウェアとハードウェアが高度に連携する「コンピュテーショナルオーディオ」の賜物だ。
2026年4月には、最新の「Apple H2」チップを搭載する「AirPods Max 2」が発売を迎える。周囲の状況に合わせてANCと外部音取り込みのバランスを自動調整する適応型オーディオや、リアルタイムの会話感知、ライブ翻訳といった先進的な機能の数々を搭載するワイヤレスヘッドホンだ。
Appleが音響工学という伝統的な領域に、高度な演算処理を持ち込んだAirPodsシリーズはいま「耳に装着するコンピュータ」として、あるいはウェアラブルデバイスとして独自の進化を遂げようとしている。
文系出身の私が、今日までオーディオビジュアルという専門性の高い業界で活動を続けてこられたのは、仕事を通じて出会った多くの方々の支えがあったからだ。そして同時にAppleのプロダクトやサービスが、いつの時代にも私の感性と知見をアップデートし続けてくれたからでもある。
Appleが提示してきたのは、常に「技術をいかに人間に寄り添わせるか」という問いへの答えだった。今では私のDNAに、Appleのデバイスを通じて得た音楽に対する情熱と、最先端のオーディオテクノロジーに対する探究心が深く刻み込まれている。
音楽と先端テクノロジーが融合をリードするApple
2026年4月1日に創業50周年を迎えるAppleは、その節目を前に世界各地で記念イベントを展開してきた。日本では3月27日、Apple 表参道にて特別なライブステージが開催され、Visual ArtistのMori CalliopeとApple Musicのラジオ番組「Tokyo Highway Radio」のDJとして活躍する、みのが登場した。
会場となった店舗1階フロアには開演前から多くのファンが詰めかけ、熱気に包まれた空間が広がっていた。
ステージに現れたMori Calliopeは『Go-Getters』『未来島』『Orpheus』『DONMA』といった代表曲を披露。
英語と日本語を自在に行き来するリリックと、ヒップホップやロック、エレクトロを横断するサウンドが交錯し、全4曲のセットながらも強い存在感を印象づけた。
彼女の音楽性の根底には、自ら作曲も手がけるシンガーソングライターとしての側面がある。ジャンルに縛られない表現の自由度と、セルフプロデュースによるスピード感は、その制作スタイルにも表れていると思う。
例えば、2月6日にリリースされた最新アルバム『DISASTERPIECE』に収録された楽曲『Ningen Dakara』は、iPadとAppleのDAWアプリ「GarageBand」を駆使してわずか3時間で完成させたという。
テクノロジーを創作の延長線として自然に取り込む姿勢は、まさに現代的なアーティスト像のひとつと言えるだろう。
トークセッションでは、DJ・みのが「Thinking Different」というテーマを投げかけた。Appleが50年にわたり掲げ続けてきたこの言葉に対し、Mori Calliopeは自身の立ち位置を重ね合わせる。
「Visual Artistとして活動している時点で、自分はすでに“Thinking Different”だと思っています。ただ、世界的に見ればまだ珍しい存在であることも事実。その壁を越えてメジャーになっていくことが、自分のロックな精神にもつながっています」
その言葉には、ジャンルやフォーマットの境界を越えようとする意思と、表現者としての覚悟がにじんでいた。テクノロジーと創作の関係がより密接になるなかで、彼女のように新しい表現領域を切り拓こうとするアーティストの存在は、今後ますます重要になっていくはずだ。
Appleが掲げてきた「異なる考え方」は製品やサービスにとどまらず、こうしたクリエイターの活動とも共鳴している。Mori Calliopeのステージはその接点を象徴していた。同時に、音楽と先端テクノロジーが融合するこれからの未来への強い期待を抱かせるものでもあった。
Appleが創立してから50年間にわたる歩みに深い敬意を表したい。そしてこれから先も多くのクリエイターたちとともに、Appleが私たちのミュージックライフをどのように彩っていくのか。ひとりのライターとして、またユーザーとして引き続き見守っていきたい。
