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公開日 2025/06/17 06:30
改めて知りたいオーディオ基礎知識解説 Powered by オーディオランド

レコード再生の疑問、カートリッジの「MM/MC」の正体とは?

炭山アキラ

オーディオは実に奥深く、様々な要素が音に影響してくる。だからこそ楽しい趣味なのだが、初心者のうちは分からないことも多く、また熟練したファンであっても、詳しいことは意外と知らないなんてことがあるのではないだろうか。


そこで、オーディオ買取専門店「オーディオランド」のご協力のもと、オーディオにまつわる改めて知りたい基礎知識を炭山アキラ氏が解説する。本項では、改めて知りたい「カートリッジの『MM/MC』の違い」について紹介しよう。


カートリッジの「MM/MC」の正体とは?


フォノイコライザーには、ごく少数の例外を除いてMM/MCの切り替えスイッチがある。もちろんMM型とMC型のカートリッジを使う際に用いるスイッチだが、それではMM型、MC型とは一体どういうものなのだろうか。


MM型もMC型も、音楽信号を発電する回路方式としては共通で、変動する磁界の中にコイルを置くと電力が生ずるという「電磁誘導」の法則で発電しており、名前の通り磁石が動くMM(Moving Magnet)型、コイルが動くMC(MovingCoil)型という違いだ。



オーディオテクニカのフォノイコライザー「AT-PEQ30」


ならば、発電される音楽信号も同じになりそうなものだが、これが全然違う。カートリッジは振動系をあまり重くできないため、MM型なら磁石を、MC型ならコイルを大きくできない、というのがその大きな原因の一つである。


MM型はその小さな磁石で十分な電圧を発揮するため、細い線を大量に巻いたコイルが装備されている。一方MC型はコイルを短くし、MMと比べれば巨大な磁石で発電させる方式だ。MMが概して2〜10mV程度の出力電圧を持つのに対し、MCが0.1〜0.5mV程度の電圧になるのは、主にコイル長の違いのせいである。


その代わり、MCはMMに比べてコイルが太く短い分だけ抵抗値が低く、すなわち電流量が多い。昇圧トランスでMM並みの電圧に上昇させられるのは、そのためである。


また、コイルはインダクタンスと呼ばれる働きを有し、巻き数が多くなるほど高域方向が減衰する。スピーカーのクロスオーバー・ネットワークではその働きを積極的に利用しているが、カートリッジにとってはある種の邪魔者である。MCはコイルの巻き数が少ないから、可聴範囲で信号が減衰することはない。



VERTERのMMカートリッジ「Dark Sabre MM」


一方、MMは何も対策しなければ中低域から信号はダラ下がりになってしまう。しかし、実際のMM型は可聴範囲をほぼフラットに再生し、高級機は超高域まで伸びている。インダクタンスによる減衰をどう補うかが、開発陣の腕の見せどころでもあるというわけだ。


MCカートリッジの性能を発揮させるには、フォノイコライザーの負荷インピーダンスを調整することが有効だ。この際のコツは、カートリッジの内部インピーダンスと近い値にするのではなく、高めの数値を選ぶことだ。


とはいうものの絶対的な基準というものは存在せず、お使いのフォノイコライザーで負荷インピーダンスがいくつか設定できるようになっていれば、切り替えてみて好みの音が出る定数にしてやるというのが正解だ。あくまで個人的な好みだが、私は数倍〜十数倍の定数で受けることが多いような気がしている。


適切な負荷インピーダンスへ合わせないとどうなるのか。概して低めのインピーダンスで受けると、低域の馬力は増すものの高域が下がって鼻の詰まったような音になりがちで、高すぎると今度は高域が若干シャリシャリして低域の力が失われる。それを良き塩梅に躾けるのがコツである。


MC型の変わり種として、MMポジションでも受けられる「高出力MC」というものがある。もしお使いのフォノイコライザーで負荷インピーダンスに1〜3kΩのポジションがあれば、一度そちらで受けて見られることを薦める。例外もあるが、細身で力に欠けるように思っていた個体が、一気にバランスを得て生き生き鳴り出すことがあるのだ。


また、MMポジションではエンパイアを筆頭に、100kΩ受けで帯域バランスが一気に向上する製品がある。こちらもフォノイコライザーに設定があれば一度試してみて損はない。



オルトフォンのMCカートリッジ「MC X40」


一方、MM型は負荷容量を調整してやることが大切だ。カートリッジメーカーごとに大まかな適正容量が公開されているが、ざっと調べたところオーディオテクニカは概ね100〜200pF、オルトフォンは150〜300pF、シュアで400〜500pF程度である。それではその数値に合わせればいいのかというと、実はケーブルや回路でも容量性は付加されてしまうから、データより低めに合わせるのが一般的だ。


負荷容量が合っていないと再生音はどうなるか。高すぎると高域が若干持ち上がって耳障りな質感となり、低すぎると今度は全体に何となく音が痩せ、ショボくれた感じの音になる。MCの負荷インピーダンスほどではないが、意外と大きな音の違いである。


負荷インピーダンスに比して、負荷容量は調整できるフォノイコライザーが少ない。では調整できないフォノイコライザーを使っている場合にはどうすればいいかというと、低容量に適合するカートリッジには低容量のフォノケーブル、高容量カートリッジには高容量ケーブルをあてがうのが好ましい。


例外も少なくないので一概にはいえないが、外径の細いフォノケーブルは容量が小さく、太い個体は大きいことが多いから、それを目安にフォノケーブル選びをしてみるのも悪くないのではないだろうか。


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