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公開日 2025/06/18 06:35
搭載するユニット数は12基

カーオーディオの音も「ありかも、BYD!」。名門DYNAUDIOと強力タッグ、シリーズフラグシップ車「SEAL」を体験

栗原祥光

バッテリー製造メーカーからEVへ急成長したBYD


自動車の車内で音楽を心ゆくまで愉しみたい人にとって、NEV(新エネルギー車)は見逃せない存在といえる。というのも「エンジン搭載車と比べて、騒音や振動が大幅に低減できる」「エンジンを動かさずとも、車両の電源を入れるだけで音楽が愉しめる」から。今回ご紹介する「比亜迪汽車工業有限公司」(BYD)とDYNAUDIOのカーオーディオシステムは、「ありかも、BYD!」と思わせるに十分な魅力に満ちていた。



BYD/SEAL(価格:528万円〜)


1995年、バッテリーの製造メーカーとして産声を上げたBYD。携帯端末などの普及などの波にのり事業は急成長し、創業から僅か8年の2003年に中国国営の自動車メーカーを買収するや、電気自動車に注力。2024年には約427万台のNEVを販売し、名実ともに世界ナンバーワンのNEVメーカーに急成長した。ちなみにロンドンの名物である二階建てバスもBYD製である。



2025年1月に行われた劉 学亮 BYDジャパン代表取締役社長のプレゼンテーションより


BYDの乗用車ランアップは、海にちなんだ車名とデザインの「海洋シリーズ」と、中国歴代王朝の名を冠する「王朝シリーズ」の2種類。我が国では「海洋シリーズ」のみ展開しており、本稿で紹介するSEALは「海洋シリーズ」のフラグシップセダンにして、日本販売モデルの最上位車種となる。価格は2輪駆動モデルが528万円、4WDモデルが605万円。フラグシップではあるものの、我が国のNEV最量販価格帯に納まっている。実に戦略的な値付けだ。


フラグシップである以上、車内を快適に過ごすことに主眼が設けらて然るべきだ。SEALはその期待に十分応えており、上質なしつらえに満足度はかなり高い。そしてカーオーディオに目を向けると、DYNAUDIOのロゴが見える。これもまた期待せずにはいられない。



上質なしつらえのSEAL車内


ところで、どうしてデンマークのDYNAUDIOのカーオーディオシステムを搭載したのかが気になるところだ。DYNAUDIOは1994年頃からカーオーディオに進出しており、コンシューマー向けのユニット販売のみならず、フォルクスワーゲンやボルボ、果てはブガッティなど数多くの自動車メーカーにシステムを供給していた。


だがDYNAUDIOの創業者であるウィルフリード・エーレンホルツ元CEOは2014年、中国の歌尔股份有限公司(GoerTek・ゴアテック)に所有する株を売り渡した。GoerTek社はiPhoneやAirPodsなど、米Appleの主要製品を生産する企業であるいっぽう、音響部品や自動車部品なども開発・生産している。


ここから先は想像の域を出ないが、GoerTek社はDYNAUDIOを傘下とすることで、自動車分野への音響機器販売促進を狙ったと思われる。なぜなら国内にはBYDをはじめとする数多くの自動車メーカーがあり、高付加価値商品には相応のシステムが求められるから。先見の明があったといえるだろう。


おなじみのソフトドームトゥイーターなど計12基搭載


それではSEALが搭載するDYNAUDIOシステムを見てみよう。とはいうものの「搭載するユニット数は12基で、総出力775Wのアンプで駆動する」ということと、「最近日本に上陸したSUVのSEALION 7も同様のシステムを採用している」こと以外、一切わからない状態であることをご了承頂きたい。


全てのドアにはトゥイーターとウーファーが取り付けられている。ユニットに向けて光をを強くあててみると、見慣れたソフトドームトゥイーターとMSP(ケイ酸マグネシウム・ポリマー)振動板のように見えた。



前後すべてのドアにトゥイーターとウーファーが搭載されている




DYNAUDIOのロゴが付与されたトゥイーター部。ソフトドームトゥイーターらしきものが見える




ドア下方に搭載されたウーファー部


ダッシュボードの中央にはセンタースピーカーを配置。ユニット数を見ようとしたが、位置的に内部を見ることは叶わなかった。



ダッシュボード上にはセンタースピーカーを配置


ラゲッジスペース右側面にサブウーファーを配置。ロングストロークのようで、ロールエッジ部分がかなり盛り上がっていた。



ラゲッジスペースに搭載されたサブウーファー



ソース機器との接続には課題あり


ソースはラジオのほか、Spotify、USB Type-A、SDカード、Bluetoothと多彩。USB Type-AとSDカードは、運転席と助手席の間にある二階建てセンターコンソールの下段にコネクターを設置されており、正直アクセスは悪い。



Bluetoothのほか、SDカードやUSBメモリ等も使用できる




USB等の接続コネクタ部


主にスマートフォンとのワイヤレス接続に用いるBluetooth通信。試しにソニーのウォークマン “NW-A300シリーズ” と接続してみることにした。だが、NW-A300シリーズとのワイヤレス通信は不可だった。



ソニーのAndroidウォークマンとBluetooth接続できなかった


ならばと有線接続を試みるも、NW-A300シリーズが搭載するAndroidシステムが、かなり特殊であるためか通信は叶わず。これはBYDに限った話ではなく、他の自動車メーカーの純正システムでもNW-A300シリーズとの間で通信できないことがある。このようにDAPと車両によっては相性があるので、気になる方はディーラーなどで事前に確認されることをオススメする。



有線接続も不可


センターに置かれた大型のタッチパネルディスプレイは縦横の回転が可能で、車両設定をはじめ、ほぼ全ての操作を行う。ちなみに縦画面状態ではAndroid AUTOが起動しないので注意が必要だ。



大型タッチパネルで各種設定が行える




なんと縦向きにも回転する


サウンドメニューを開くと、イコライジングのほか、前後左右のバランス調整。そしてエフェクト(サラウンド)の設定画面が現れる。エフェクトは「原音」「ダイナミック」「柔和」「演説」と4つのプリセットのほか、カスタマイズ設定が可能だ。



運転席側、助手席側、後部座席側とサウンドをフォーカスするエリアを選択できる 


 



「原音」「ダイナミック」「柔和」「演説」の4種類の音質プリセットを搭載。カスタマイズも可能


耳に優しい落ち着きのあるトーン


選曲画面でアートワークがキチンと表示されることに好印象。だが文字化けする場合が散見された。これは改善して頂きたいので輸入元にも伝えた。プリセットを「原音」にセットし、ハイレゾ音源をUSBメモリに入れて試聴を始めた。



日本語は表示されるが、一部楽曲名に文字化けが発生した


中低域たっぷりの穏やかな音色。落ち着きのあるセピア色のトーンは耳に優しく、長時間の運転や試聴でも心地がよい。音場よりも音色に重きを置いたプレイバックは、セッションを俯瞰ではなく主観的に聴かせる。


ニュージャックスイングスタイルで、秘密の恋を謳ったマイケル・ジャクソンの「イン・ザ・クローゼット」は、浮遊感のあるストリングスに乗せて、数々のスキャンダルで知られたモナコ公妃のステファニー公女(グレース・ケリーの次女)による艶麗なコーラスに身震いした。


そんな甘い誘いも、ドアを蹴り破るかのような強烈なアタック音で、聴き手もシステムも目が醒める。ドアの内貼りなどからビビり音を感じるが、ニュージャックスイング特有の“重くてハネる”ビートにゴキゲンだ。



マイケル・ジャクソンの再生画面。楽曲名が文字化けしない場合もある


若き俊英チェリスト、キアン・ソルターニによるシューマンのチェロ協奏曲は、繊細な表情の変化を、適度な歯切れの良さで描き上げる。瑞々しさと奥深さが両立したソルターニの演奏を、DYNAUDIOの本システムは見事に表出させた。


BYDとは「Build Your Dreams」の略語であるという。「あなたの夢を作る」と大層なことを言いだすと思ったが、SEALのゆったりとした乗り心地と音世界に触れ、ちょっと先に訪れる夢のようなNEV世界の一端を体現しているように思えた。BYD SEALは、穏やかなカーライフを過ごしたい人にピッタリの1台といえるだろう。



Build Your Dreamsの頭文字を撮ったBYD


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