公開日 2026/07/15 06:40

TCLパネル生産の中核「TCL CSOT」を訪問。他社へ多数供給する高い開発力を見た!

G11の超大型マザーガラス工場も2ライン存在
 TCL CSOT本社のエントランス。TCLはオリンピックのワールドワイドパートナーで、本社前にもモニュメントが置かれている

TCLが行った日本メディア向けツアーの模様を、何本かの記事に分けて紹介している。本稿ではTCLテレビパネルの心臓部、TCL CSOTのレポートをお届けする。

TCLのテレビはなぜ、あの価格であの画質を実現できるのか。その答えの一つが、TCLグループのディスプレイデバイス企業、TCL CSOT(TCL華星光電)だ。取材の一環として、深圳・光明区にあるTCL CSOTを訪ねた。

ちなみにCSOTは、「CHINA STAR OPTOELECTRONICS TECHNOLOGY」の頭文字を取ったもののようだ。

ロビーの「CHINA STAR OPTOELECTRONICS TECHNOLOGY」サイン。中国名は「TCL華星光電」

TCL CSOTでは、ショールームとパネル工場「T2」の、ほぼ無人の生産ラインを見学できた。工場エリア内は撮影不可のため、本稿の写真はショールームと外観が中心となるが、ガイドの説明とあわせて、液晶テレビのパネルがどう作られているかをレポートしたい。

なおPHILE WEBは昨年もこの施設を取材しており、今回案内された製造ラインは昨年と同じものだ。

 

TCLグループの中核事業の一角

まず、TCL CSOTがグループの中でどういう位置づけなのかを説明しよう。ガイドの説明によれば、1981年創業のTCLは現在、テレビをはじめとするスマート端末を担う「TCL実業」、半導体ディスプレイを担う「TCL CSOT」、そして太陽光発電など新エネルギーを担う「TCL中環」などの中核事業を持つ。

 TCL CSOTの設立は2009年。翌々年の2011年には深センで最初の工場が量産を開始した。以来、深セン、武漢、広州、恵州、さらにインドへと生産拠点を広げ、公式サイトによれば従業員は3万7,000人超、累計投資額は2,600億人民元を超える。

TCL CSOTの拠点マップ。深セン・武漢・広州・恵州・蘇州のほか、日本を含む海外拠点網が示されている

ショールームの入り口付近には、半導体ウエハーや太陽光パネル用シリコンの実物も展示されており、ディスプレイだけでなくエネルギーまで手がけるグループの全体像が示されている。 

敷地60万平方メートルのT1・T2、100万平方メートルのT6・T7

今回訪れた本社エリアには、第8.5世代のパネル工場「T1」「T2」がある。ガイドいわく、敷地は全体で60万平方メートル。G8.5のマザーガラスから、32 - 55型クラスのテレビ用パネルを効率よく切り出す、いわばボリュームゾーンの主力工場だ。

こちらが今回見学したT2を含む工場敷地の模型。生産棟の屋根一面に太陽光パネルが敷かれている様子もわかる

そしてここから少し離れた場所に、今回は見学できなかったが、大型パネルの生産拠点「T6」「T7」がある。こちらは第11世代(G11)となる。こちらの敷地は100万平方メートルと、実に東京ドーム約20個分に相当する広さだ。65型以上の超大型パネルを効率よく生産できる最新世代のラインである。

ガイドの説明で印象的だったのは、「この世代のラインは世界に5本しかないが、そのうち2本がTCL CSOTにある」という一言だ。超大型テレビの供給力という点で、同社が世界的にも特異なポジションにいることがわかる。

T6・T7エリアには、マザーガラスがあまりに大きいため、ガラスメーカーであるAGC(旭硝子)の工場が隣接して建てられているという。ガラスを長距離輸送せず、その場で供給する連携だ。屋根には太陽光発電パネルが敷き詰められ、敷地内には電力を統括する動力ステーションと廃棄物処理施設も併設する。単なる工場を超えた。自己完結型のコンビナートという趣である。

こちらが少し離れたところにあるT6/T7工場の模型。左手前にAGC(旭硝子)の工場もある

ショールームで見た「パネル会社」としての顔

ショールームは、テレビメーカーとしてのTCLではなく、パネルメーカーとしてのTCL CSOTの「顔」が見える場所だ。

壁一面の世界地図には深圳・武漢・広州・恵州・蘇州、そしてインドや日本を含む拠点網が示され、その先にはソニーをはじめ、世界の名だたるテレビ・スマホ・PCブランドのロゴが並ぶ。これはTCL CSOTの顧客企業だ。

ブランドのロゴウォール。世界の名だたるテレビ・スマホ・PCブランドが並び、日本でおなじみの名前も見える。TCLの左はソニー、右はサムスン

ロゴには、日本でおなじみのブランドも数多く含まれており、「あのテレビの中身も、実はここで作られているのか」という発見がある。

そして、ガラス基板の世代がいかに大型化してきたかを示す展示では、ガラスの大きさがわかりやすく記され、世代ごとに大きくなっていく構成で、G11の巨大さが直感的に伝わる。

ガラス基板の世代の違いを表した展示。大きくなるほど新しい世代で、外側の水色の線が最新の11世代のもの。大きさが直感的にわかる

パネル展示で目を引いたのは、まず「全球最大」をうたう115型のQD-Mini LEDパネル(144Hz駆動)。「業界最高」という2万超の分割エリア数を備えるQD-Mini LEDで、世界初とアピールされていた。

「世界最高の画素密度」をうたう8Kパネルのデモ

その隣には98型のQD-Mini LED(144Hz)を展示。98型については「ベゼルがほぼ見えない超狭額縁設計で、多くの都市型住宅のエレベーターに載せられる、搬入可能な最大サイズ」という説明があった。大画面化により起きる「家に入らない問題」に対する、パネル設計側からの回答と言えるだろう。

 98型QD-Mini LEDパネル(144Hz)。エレベーターで搬入できるギリギリのサイズが98型と超狭額縁設計であると説明していた

ユニークだったのは75型の8K Mini LEDパネル「星曜屏(Star Screen)」。スペックカードには解像度8K、リフレッシュレート120Hz、色域NTSC 105%、コントラスト比100万対1超とあり、「ガラス基板上のアクティブ発光式Mini LEDバックライト」という説明が書かれていた。ほかにも、現行の最新世代と思われるテレビの展示もあり、やはりテレビ関連の展示が充実している印象だ。 

75型8K Mini LED。8K/120Hz、NTSC比105%、コントラスト比100万対1超

テレビ以外の領域も幅広い。スマートフォン、タブレット、ノートPC用のパネルが並ぶ中型サイズのコーナーには、折りたたむとノートPC、広げれば大画面タブレットとしても使える折りたたみディスプレイ搭載機もあった。

タブレットやノートPC向けの中型パネル展示。折りたたみディスプレイ搭載機も並ぶ

そのほか、ゲーミング用の曲面モニターや会議室向けの商用ディスプレイ、バス停の案内板など交通機関向けの高耐久ディスプレイ、さらにTCL系のスマートグラスブランド「RayNeo」のARグラスまで展示され、「画面のあるところすべて」に向けたパネル事業の裾野の広さを実感させる。

ゲーミング向け曲面モニターや商用ディスプレイのコーナー
TCL系スマートグラスブランド「RayNeo」のARグラス展示。AIアシスタント機能をアピール

そして見逃せないのが印刷OLEDだ。TCL CSOTは2024年11月、インクジェット印刷方式によるOLEDパネルの量産開始を世界で初めて発表している。その第1弾は21.6型4Kの医療用モニターパネルだった。ショールームでも独自技術として印刷OLEDがアピールされていた。蒸着方式に比べて材料利用効率が高く、大型化・低コスト化に向くとされる次世代技術で、液晶以外のパネルデバイスの強化も同時に行っている。

T2工場の見学通路へ。0.5mm厚のガラスをロボットアームが運ぶ

続いて実際の工場のラインを見学した。今回案内されたのはT2工場のラインだ(内部は撮影不可だった)。

まず前提として、深センの工場が担うのは、パネル製造の「前工程」である。

前提として、液晶パネルは2枚のガラスでできている。1枚はマザーガラスにTFT回路を作り込むアレイ工程を経たTFT基板、もう1枚は同じくガラスの上にRGBを塗り分けて形成したカラーフィルター基板だ。

この2つの工程は別々のガラスに対して並行して進み、セル工程で2枚を貼り合わせて、あいだに液晶を封入する。ここまでが前工程で、深センの担当領域となる。駆動回路などを実装するモジュール以降の後工程は、恵州などの別拠点が受け持つ分業体制になっているそうだ。

ショールームの工程展示でも、マザーガラス、カラーフィルター基板、アレイ(TFT)基板、貼り合わせ後のセル、外部回路実装前のオープンセルなど、パネルが形になっていく各段階が実物とともに解説されていた。

製造ラインの見学で大きく強調されたのは、ガラスを運ぶロボットアームだ。G8.5のマザーガラスは畳数枚分の大きさがありながら、厚さはわずか0.5mm。人の手では持った瞬間に破損してしまう薄さで、搬送はすべてロボットが担う。

残念ながら見学時はアームが動いていなかったが、動いている際は、吸着パッドでガラス全面を保持し、高速かつ高精度にガラスを運ぶとのこと。ガイドによれば、この搬送方式は高い清浄度と精密さ、そしてスペース効率を兼ね備えており、工場全体の稼働効率を高める鍵になっているという。

工程と工程の間には、パネルの中間保管倉庫(ストッカー)がある。照明を落とした暗い自動倉庫で、ガラスは10日間ほど保管が可能。1枚1枚に付与された識別コードをスキャンすることで、どのガラスをいつ、どの工程・どの検査装置へ送るかが管理されている。

検査装置についての説明も行われた。例えばカラーフィルターの色の正確さや、膜の厚さが基準を満たしているかを、その場で検査する。さらに修復装置も備えており、不良が見つかった場合に修復可能かどうかの判定まで、ライン内で完結するという。

そして、成膜に使うCVD装置もアピールされた。米アプライドマテリアルズ製で、重量は100トンを超える。このCVD装置は、プラズマを用いてガラス基板の上に絶縁膜や半導体膜を形成し、TFT素子の導通を作り込んでいく、まさにTFT製造の中心にある装置だ。

TCLのパワーの源がここに。ソニーとのさらなる連携強化にも期待

今回の取材ではこのほか、同社液晶パネルの技術者によるSQD-Mini LEDの説明会やデモ、TCL実業幹部へのインタビューも行っている(それぞれ別記事で紹介する)。そこで語られる「パネルから材料、アルゴリズムまでの垂直統合」の、パネル面の裏づけが、この光明区の巨大な敷地に広がっていた。

量子ドットの特性を直感的に理解できる展示も用意されていた

今回見学はできなかったが、TCLは世界に5本しかない最新世代ラインの2本も持つ。そして印刷OLEDという次の一手まで用意している。パネルから最終製品まで、垂直統合で行っているTCLのパワーの源がTCL CSOTと言えるだろう。

日本で売られるTCLのテレビも、そして他社ブランドの多くのテレビのパネルも、この場所で作られている。ソニーがRGBテレビの開発を発表した際も、TCL CSOTと連携して開発すると明記されていた。その連携の成果が「True RGB」BRAVIAとしてすでに発売されており、2027年春には、TCLとソニーの合弁会社も事業を開始する予定だ。

SQD Mini LEDだけでなく、様々なパネルの開発・製造を行っているのがTCLの特徴だが、その象徴的存在がTCL CSOTであると実感した。

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