公開日 2026/06/01 06:30

映像体験を支える色の表現力! オーディオビジュアルファンのための色再現入門

連載「『見る』から『観る』へ変わる! 高画質の“ミカタ”」
甲野和彦
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色は、映像作品の世界観やストーリー、登場人物の感情まで表現する

本連載では、高画質の軸となる6つの要素として、「解像度」「コントラスト」「色」「動き」「階調」「SN」を掲げている。前回(第2回)は近年のオーディオビジュアルにおける画質進化の重要なトピックとして「HDR」を取り上げたが、今回は、画質の重要な基本要素であり、かつ近年の画質トレンドとしても注目すべき「色」について取り上げてみたい。

「色」は、コントラストと並んで、人間の感情に強く訴えかける要素である。

日本語でも「青ざめる」「真っ赤な嘘」「腹黒い」「黄色い歓声」「色気」といった言葉がごく自然に使われるように、色は人間の心理状態や感情を表す手段として深く根付いている。色は単なる視覚情報ではなく、人間の感情と密接に結びついた要素なのだ。

この性質は、映画やドラマなどの映像作品においても最大限に活用されている。映像制作者は、作品の世界観やストーリーの流れ、登場人物の心理状態や感情の揺れなどを、色の設計によっても表現するのだ。

たとえば、暖色系の色は温かさ、幸福感、安心感、懐かしさなどを演出し、寒色系の色は孤独、不安、緊張、静けさ、理性的な印象などを与える。色を抑えてモノクロームに近づければ抑制された雰囲気が強まり、逆に鮮烈で鮮やかな色彩を強調すれば、非日常性や高揚感が際立つ。

優れた映像作品であれば、細かなセリフを理解しなくても、映像の色彩設計を通して、ストーリーの流れや登場人物の感情が伝わってくるものだ。色はそれほど強力な表現手段なのである。

暖色系と寒色系の比較イメージ

オーディオビジュアル機器の色のポイントは「正確性」と「色域の広さ」

だからこそ、オーディオビジュアル機器において、色を適切に表現することは極めて重要だ。その際にポイントとなるのが、色の「正確性」と「色域の広さ」である。

色の「正確性」は、本来あるべき色を、ディスプレイで正しく表示できるかどうかである。これは映像作品の色を忠実に再現するために最も基礎となる重要な性能だ。

もうひとつは「色域の広さ」である。これは、ディスプレイがどこまで鮮やかな色を表示できるかを示す性能だ。現実世界には、非常に鮮やかで、混じりけのない純度の高い色が存在する。真っ赤なバラ、サンゴ礁のエメラルドグリーン、花火やレーザー光の強烈な発色。これらの色は絶大な視覚的インパクトを持ち、あたかも現実の光景がそこにあるかのようなリアリティを生む。そのためには、広い色域が欠かせない。

「色の正確性」と「色域の広さ」は基本的に区別して考えるべきものだ。色域が広いからといって、すべての色が正確に再現できるとは限らないし、特別に鮮やかな色ではない何気ないシーンであっても、作品の世界観やメッセージを正しく伝えるには、正確な色再現が欠かせない。

さらに、オーディオビジュアル機器としては、映像作品に含まれる色域をきちんとカバーする必要がある。例えば映像の中に真っ赤なバラが登場した場合、ディスプレイの色域が不足していれば、くすんだ赤になってしまう。本来持っている鮮やかさが失われれば、作品の魅力は十分に伝わらない。

映像作品の色を忠実に再現するためには、色の正確性と色域の広さの両方が欠かせないのである。

通常彩度と高彩度の比較イメージ

オーディオビジュアルの色はR(赤)、G(緑)、B(青)の3原色からつくられる

では、オーディオビジュアルの世界において、色はどのように作られているのだろうか。

光(色)の3原色という言葉を聞いたことがある方も多いだろう。

オーディオビジュアルにおける色は、基本的にR(赤)、G(緑)、B(青)の3つの原色を重ね合わせて作られている。さまざまな色は、これら3つの原色の混合比率を変える事で作り出すことができるのだ。

3つの原色の色は、映像信号の各種規格やディスプレイの性能によって必ずしも同じではない。例えば、同じ赤でも、非常に鮮やかな赤を使える場合もあれば、そうでない場合もあるわけだ。原色として使うR(赤)、G(緑)、B(青)の色が鮮やかであるほど、それらを用いて表現できる色の範囲(色域)も拡がることになる。

色の正確性と色域の広さを色度図で確かめる

この事をわかりやすく表す図として、オーディオビジュアルの世界で広く用いられるのが「CIE1931色度図」である。これはCIE(国際照明委員会)が1931年に定めた規格で、人間が知覚できる色を2次元平面上で可視化したものだ。

この図はテレビやディスプレイのカタログやレビュー記事などで掲載されることも多く、見方がわかれば特に難しいものではない。まずはこの図の基本的な見方を説明しよう。

色度図において、馬蹄形の軌跡の内側(色が付いている範囲)が、人が認識できる色の範囲を表している。中央付近が白色であり、ここから外周に向かうほど色は鮮やかになり、馬蹄形の外周軌跡上が最も純度が高く鮮やかな色である。

オーディオビジュアルで表現できる色は、色度図上で、3原色であるRGB3点を直線で結んだ三角形の内側である。RGBの色が鮮やかで外周側にあるほど三角形の面積が拡がり、色域が広くなる。

また、RGBの混合比率をさまざまに変えることで、この三角形の内側の任意の位置の色を表現することができる。その際に、実際にディスプレイが表示する色が、色度図上で本来の正しい位置にあるかどうかが色の正確性である。

オーディオビジュアルにおける主な色域規格

色度図上におけるRGBと白の座標位置は映像規格ごとに定められており、オーディオビジュアルにおける主な規格としては、BT.709DCI-P3BT.2020が挙げられる。各々で色度図上の三角形の形や面積が違うことからわかるように、RGB信号の値が同じでも、それが、BT.709規格、DCI-P3規格、BT.2020規格、いずれの信号かで、実際の色は異なるというわけだ。

多くの映像コンテンツは、これらのいずれかの規格に基づいて制作されている。例えば、ブルーレイディスクのタイトルならBT.709規格、UHDブルーレイのタイトルなら主にBT.2020規格に基づいたフォーマットで制作される、といった具合だ。

ここで示した各色域は、あくまで規格として決められた理論値であり、実際に視聴する時の色が規格通りに正しく表示されるかどうかは、ディスプレイの性能次第である。ディスプレイ機器にとって、BT.709規格やBT.2020規格に対応しているかどうかと、実際にそれらの色をどこまで正しく表示できるかは、別問題なのだ。よくディスプレイの画質性能として「DCI-P3色域のカバー率XX%」などと言われるのは、DCI-P3の規格で決められた色を、実際にどの範囲まで表示できるかの性能を表している。カバー率が100%に近ければ、その色域を概ね表示できると考えて良いだろう。

しかし色域がカバーできていても、色の正確性はまた別の話だ。先述した白はもちろん、例えば人肌の色などは、色度図では中央に近い位置にあり、色域としては大きな問題にはならない。しかしこの色が少しでもずれて表示されると、人物の表情や感情表現に影響する可能性もある。映像作品のメッセージを正しく表現するためには、薄い色から鮮やかな色まで、各色が色度図上の正しい位置で表示されることが望ましい。

では、ここからは、BT.709DCI-P3BT.2020について、個別に説明していこう。

HD映像の色域を定めるBT.709規格

BT.709HD(ハイビジョン)映像信号に関する事実上の標準規格である。地上デジタル放送、BS/CS放送(HD)、ブルーレイディスク、VODサービス(HD)などにおいて、現在でも広く採用されている。

この規格で定められた色域を確保できれば、一般的なSDR映像の視聴において大きな不足を感じることは少ないだろう。人の肌の色はもちろん、特別に色鮮やかではないシーンなら、BT.709でほぼ問題なく表現できる。ただし、後述するDCI-P3BT.2020と比較すると色域はやや狭いため、鮮やかな色の表現には限界がある。

オーディオビジュアルで用いられる最近のテレビやホームシアター用プロジェクターであれば、多くの製品がこの色域を概ねカバーしているはずだ。

デジタルシネマ映像の色域を定めるDCI-P3規格

DCI-P3はデジタルシネマ映像の標準規格である。従来、映画は光学フィルムで制作・上映されていたが、近年は急速にデジタル化されている。DCI-P3規格における色域は、デジタル上映として十分な色表現を確保するよう定められており、現在の映画館で上映される映像の多くは、この色域を基準としている。

この色域をBT.709と比較すると、特に赤から黄、緑からシアン付近において色域が広く、より鮮やかで深みのある色を表現することができる。例えば、映画の印象的なシネマルックとして有名な「ゴールデンアンバー」は、深みのある琥珀色に、時として金色の輝きを加えた暖色系のトーンだが、こうした色は、DCI-P3を用いればより印象的な表現につながる。

ゴールデンアンバーの画像例

ちなみに、DCI-P3は基本的にデジタルシネマに向けた業務用の規格である。民生向けオーディオビジュアルのコンテンツや機器では、BT.709を超える広色域規格として、主に後述するBT.2020が採用されており、その中でDCI-P3相当の色域が扱われることが多い。

オーディオビジュアルで用いられる最近のテレビやホームシアター用プロジェクターの上位モデルでは、この色域を概ねカバーする製品も多くなっている。

4K/8K映像時代の色域を定めるBT.2020規格

BT.2020は、4K/8K時代に向けて策定された映像信号の規格である。主に、4K/8K放送、UHDブルーレイ、4K対応VODサービスなどで採用されている。

この規格の最大の特徴は、非常に広い色域にある。理論上は自然界の物体反射による色の大半をカバーするとされ、DCI-P3の色域を完全に包含し、さらにその外側まで拡張されている。

先述したように、民生のオーディオビジュアルでは、BT.709を超える広色域規格として主にBT.2020規格が用いられ、その色域の中でデジタルシネマのDCI-P3に相当する色を表現することができる。BT.2020は、いわばDCI-P3を収める「大きな器(コンテナ)」としても使われているのだ。

4K対応の映像コンテンツや伝送メディアは、その多くがBT.2020規格に対応しているため、HD時代には困難であったデジタルシネマの色を伝送することが可能になった。

これを表示する4Kディスプレイは、規格としてBT.2020に対応するとともに、その中でデジタルシネマのDCI-P3に相当する色がどこまで表示できるかが、ひとつのポイントとなる。

ディスプレイの色域で最も重視すべきは、映像作品の色を忠実に再現できること

BT.2020は非常に広い色域を規定しているが、映像のエコシステム全体として考えると、現時点ではそのポテンシャルが完全に引き出されているとは言い難い。

特に、DCI-P3を大きく超えるような鮮やかな色をディスプレイで表示するのは容易ではなく、現状では、映像制作に用いられる業務用マスターモニターですら、BT.2020の色域はフルカバーできていない。

そもそも映画館向けのデジタルシネマの映像も、主にDCI-P3の色域で制作されている。そのため、4K/8K放送、UHDブルーレイ、4K対応VODサービスなど、フォーマット規格としてBT.2020に対応している映像コンテンツでも、その中に格納される実際の映像は、DCI-P3、もしくはBT.709などの色域の範囲内で制作されていることが多い。

そのため、少なくとも、映画、アニメ、ドラマなどを始めとして、映像制作者が色彩設計を重視してつくりこんだ作品を中心に考えるなら、オーディオビジュアルを楽しむディスプレイとしては、まずBT.709DCI-P3の色域をきちんとカバーし、その範囲の色を正しく表示できることがなにより重要だ。それが、制作者の意図(いわゆるディレクターズ・インテンション)に沿った忠実な画質で視聴するという、オーディオビジュアルとしてひとつの理想的な楽しみ方につながるのである。

一方で、近年の民生ディスプレイの進化は著しい。色の正確性は業務用のマスターモニターが優れているが、一部の民生ディスプレイでは、色域の広さに関するスペックにおいて、業務用マスターモニターを上回るとするモデルも発表されている。

そのような広い色域に意味がないかというと、必ずしもそうではないだろう。映像コンテンツは、業務用マスターモニターを用いて暗室環境で制作されるが、オーディオビジュアルとして視聴する際の部屋の明るさや照明の色はさまざまであり、色の見え方には個人差や好みもあるため、それらに対する調整機能は欲しい。さらに、フィルムや高性能カメラで撮影した映像をカラーグレーディング(映像制作者の意図を反映した色や輝度の調整)する中で、結果としてDCI-P3を超える色表現が含まれる事もあり得る。将来的にコンテンツ側の制作環境が進化すれば、BT.2020の広大な色域がより活かされる可能性もあるだろう。

これらの点を踏まえると、現時点では、まずDCI-P3までの色をきちんと再現できることを押さえた上で、それを超える色域があればさらに望ましい、と考えるのが妥当であろう。

近年のテレビやホームシアター用プロジェクター、特に上位モデルにおける色の表現力は、その正確性、色域の広さともに、目覚ましい進化を遂げている。実力のあるモデルを選択してうまく使いこなせば、自宅に居ながらにして映画館のデジタルシネマに迫る色を楽しむことも十分に可能である。オーディオビジュアルファンならば、ディスプレイ機器の選択や使いこなしにあたっては、単純なスペックや色の華やかさだけに捉われず、自らが楽しみたい映像作品の色を正しく再現し、その魅力をいかに引き出すかに着目してほしい。

甲野和彦

1961年京都市生まれ。国内大手電機メーカーにおいて、光ディスクおよび高画質技術の研究開発に従事。主に映像の記録再生機器分野において、長年にわたり画質責任者として多数の製品開発に関わる。映像コンテンツの画質にも造詣が深い。2026年に独立し、現在は画質分野のコンサルティングおよび執筆活動を行なっている。

■取材・執筆:甲野和彦
■編集担当:岡本 雄/長濱行太朗

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