公開日 2024/01/15 10:14

<CES>AmazonとGoogleが「つながるデバイス連携」を拡大。Matterの足並みは揃うのか?

スマートテレビがMatterの普及を後押し?
CES 2024にはIT大手のAmazonとGoogleもブースを出展している。今回のCESで両社が独自のハードウェアを発表することはなかったが、それぞれのスマートホームのエコシステムをさらに拡大する策を打ち出してきた。一方では両社が参画するスマート家電の共通接続規格であるMatterが新たな局面を迎えようとしている。

■Fire TV搭載スマートテレビの利便性を高める「Matter Cast」



Matter(マター)はAmazonとGoogleが共に設立時から深く関わるConnectivity Standards Alliance(CSA)が旗を振り、普及を推進するスマートホームデバイスのためのオープンな共通接続規格だ。

Amazonはその名称を冠する新機能「Matter Casting」を発表した。Fire TVの機能をビルトインするスマートテレビ、Alexa搭載のスマートディスプレイ「Echo Show 15」にAmazonプライム・ビデオなどの動画配信コンテンツをiPhoneやAndroidスマホからWi-Fi経由でキャストできるようになる。

CESに出展したAmazonのブース。Fire TV機能をビルトインしたパナソニックのテレビと、Echo Show 15は展示していたが、残念ながら「Matter Casting」のデモを見る機会はなかった

残念ながらCESに出展するAmazonのブースでは、この機能に関連するデモンストレーションがなかった。今わかっていることは、アプリの側もMatter Castingに対応する必要があり、AmazonがCESの開催に合わせて更新したBlogの中では米ケーブルテレビネットワークの動画配信「STARZ」のアプリがいち早くこれをサポートするということだ。他にもあまり日本ではポピュラーではないが、Plex、Pluto TV、Sling TVにZDFなどコンテンツストリーミング系のアプリが24年の後半にMatter Cast対応になるとAmazonは発表している。

■パナソニックがFire TVをビルトインしたスマートテレビを発表



YouTubeアプリからキャストされた動画のストリーミングが受けられるGoogle TV、Android TVを搭載するスマートテレビは市場に数多くあるが、AmazonのFire TVをビルトインするテレビはそもそも数が少ない。日本では今のところ船井電機が発売するFire TV搭載スマートテレビだけだ。

Fire TVをビルトインしたパナソニックのグローバル向け新4K有機ELテレビ

今回のCESで、パナソニックが次世代の4K有機ELテレビのフラグシップとして発表したグローバルモデルの「Z95A」「Z93A」がFire TVビルトインの機能を積むことが発表された。このモデルがFire TVをビルトインしたまま、日本でもパナソニックのビエラシリーズのラインナップに加わるのかも定かではない。

新しいZシリーズは有機ELテレビのフラグシップだ。Fire TV Stickと同等の機能が追加されることが、シアター高画質にこだわるプレミアムテレビを求めるファンの心をつかむポジティブな要素になり得るのだろうか。いずれにせよMatter Castのメリットを伝えるためにはまず、対応するアプリとテレビを充実させることが欠かせない。

ちなみにパナソニックがCESで発表した新しいテレビはApple独自のAirPlay 2にも対応する。iPhoneやiPadからホームネットワークを経由してApple TVやYouTubeなどの動画をキャストして楽しめる。「だったらMatter Castはなくても良いのでは」と思うかもしれないが、デバイスやアプリによって「できること」に違いがあること事態、煩雑さの元になってしまう。ゆえにMatterのようにオープンな共通規格は必要だ。

Googleも今年のCESでLGエレクトロニクスのテレビと一部のGoogle TV、その他のAndroid TVデバイスにGoogle Homeのハブ機能を追加することを発表した。Matterに対応するスマートプラグや照明器具のスイッチなどのデバイスをホームネットワーク経由で、テレビのGoogle Homeアプリからコントロールできるようになるという。Googleのブースにはコンセプトを紹介する展示があった。

Googleのブースに並ぶLGのスマートテレビ。Matterによるホームネットワーク管理などが可能になる

■スマートテレビがMatterの普及を後押しするのか



では、Matterに対応するスマート家電は増えているのだろうか?

CESに出展するAmazonやGoogleのブースを見ても、その種類はまだ少ないように見える。特にGoogleが追加したスマートテレビによりMatterに対応するデバイスを遠隔操作する機能は、本来は洗濯機や冷蔵庫のように家庭の中核を担う生活家電にも拡大して欲しいところだが、その勢いがなかなか根付いていないように見える。

Matter対応のスマートスイッチ。現在はMatter製品の中には小粒なデバイスが多い印象だ

その背景にある要因としては、Matterを推進するCSAに参画する企業の足並みが揃っていないことが考えられる。

例えばスマート・IoT家電のブランドSmartThingsを買収したサムスンは、独自にSmartThingsによるエコシステムを充実させながら、一方では2022年にHCA(Home Connectivity Alliance)というスマートホームの標準規格を立ち上げ、LG電子などのパートナーを独自に巻き込んで活動に力を入れている。

2023年のIFAに訪れた際、筆者はサムスン電子のブースで担当者にMatterに関するサムスンのコミットメントが現状どれほどなのか、取材をしている。担当者の見解を聞くと「SmartTingsを強化して、HCAのエコシステムを充実させることに現在はMatterよりも注力している」という答えが返ってきた

今年のCESもサムスン電子のスマートホームは「SmartThings推し」だった

スマート家電の普及を妨げている要因のひとつに、セットアップや操作の「互換性」に関するわかりにくさがあると言われている。家電の機能・性能の読み方に詳しくない方には、AmazonとGoogleのスマートホームハブを持っていながら、間違えてエコシステムに対応していない製品を手にしてしまう場合もある。全ての機器がMatterで共通に動けば問題解決は大きく前進するはずなのだが、特にAmazonとGoogleには独自に育ててきたエコシステムの輪がすでに充実していることから、実のところはなかなか加速度が付いていないのかもしれない。

特にAndroid TV、Google TVを搭載するスマートテレビを先に展開して、スマートホームのハブとしての役割を引っ張ってきたGoogleが、Matterが持つメリットをどこまで積極的に打ち出せるのか。AmazonとGoogleは引き続きMatterの普及を勢いづけるキープレーヤーであることは間違いない。それぞれの動向を引き続き注目したい。

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