PR 公開日 2025/12/30 07:05

ヘッドホンの個性を存分に引き出す!ブリスオーディオのアンプ「WATATSUMI」、5機種で徹底レビュー

「音楽性をより高めるポータブルアンプ」

イヤホンでマルチアンプ駆動を実現したBrise Audio(ブリスオーディオ)のポータブルオーディオシステム「FUGAKU」。その音質的な性能の高さは日本のみならずアジア圏でも非常に評価されてきた。

その技術を活用しながらも、より汎用性を高め、価格をグッと抑えたポータブルアンプ「WATATSUMI」が登場した。

Brise Audio ポータブルヘッドホンアンプ「WATATSUMI」(オープン価格、予想実売価格:税込680,000円前後)

そのサウンドの実力を、定番ブランドから注目の新興ブランドまで、ヘッドホン/イヤホン5機種でテスト。WATATSUMIの引き出す豊かな “音楽性” を検証した。

 

進化に合わせて回路設計や内部配線を再検討

私はかつてブリスオーディオのイヤホン+専用ポータブルアンプ+専用ケーブルのセット「FUGAKU」を聴き、その感動をこうしたためた。「たいへん複雑なコンフィギュレーションながら、ここまでの完成度とバランスを得たことは賞賛に値する。その音を聴けば、価格(250万円)も納得だ」と。

その世界観を受け継ぎ、“汎用” にした単体ポータブル・アンプが「WATATSUMI」だ。

WATATSUMIは、ブリスオーディオの2代目のポータブルアンプ。初代の「TSURANAGI」(2022年3月発売)は、同社のケーブル用の評価機であった。内部配線に同社製ケーブルを採用し、電磁波吸収シールド材やカーボンナノチューブなどを基板に設置していた。

WATATSUMIは、そのコンセプトを継承し、次世代の評価用のリファレンスとして開発された。低インピーダンスのイヤホン、大電力が必要なヘッドホンが増えた状況に鑑み、回路設計をゼロベースから見直した。

WATATSUMIの内部基板。アンプ部は6層の基板となっており、アルミ削り出しの2ピースシャーシに収納

FUGAKUと同じ低ノイズ入力回路を採用。内部配線は最大導体量の純銀線にした。インターフェースはアナログ・バランス。入力端子は3.5mmステレオミニと、4.4mmバランスを各1系統備える。出力端子は4.4mmのバランス1系統のみ。アンバランスの入力信号に対してもバランスに変換して出力する。

 

定番から新興ブランドまで、話題のヘッドホン/イヤホンで聴く

ブリスオーディオとして非常に力の入った製品であり、こちらも気合いを入れて、試聴に臨もう。そこで、DAPと据え置きオーディオという二つの環境で聴く。

DAPによるポータブルオーディオと、据え置きシステムと両方の環境でWATATSUMIをチェックした

DAPはAstell&Kernの「A&ultima SP3000M Copper Nickel」(モードは真空管/オーバー・サンプリング)。初めにSP3000Mと対象ヘッドホンをダイレクトに接続して再生。次にWATATSUMIを経由して聴く。つまりSP3000Mからブリスオーディオ製の専用バランスケーブルでWATATSUMIに入力→WATATSUMIで増幅→ヘッドホン再生という流れで、聴く。

この2段階で、絶対的にも、相対的にも “WATATSUMI効果”がどれほどのものであるかを、厳密にチェックするのである。据え置き機器はMAGNETAR「UDP-900」+Meridian「ULTRA DAC」。後者から、XLR/4.4mmのバランスの専用ケーブルでWATATSUMIに入力する。ここでは、プレーヤー直はなし。

WATATSUMIを聴くヘッドホン/イヤホンは、ヘッドホンがSENNHEISER「HD 820」、HIFIMAN「SUSVARA」、イヤホンがSENNHEISER「IE 900」、Campfire Audio「Astrolith」、Forte Ears「MACBETH」の5機種だ。

音源はふたつ。まず情家みえの第1弾の『エトレーヌ』から「チーク・トゥ・チーク」(192kHz/24bit)。冒頭のアコースティック・ベース、ピアノ、ドラムスが織りなす躍動感、音階感、進行感、ボーカルの質感、クリアさ、情感再現……と、オーディオ的、音楽的な聴きどころが多い。

もうひとつ音数の多いオーケストラの再現性も聴く。カール・ベーム指揮、ベルリン・フィルの演奏で、モーツァルトの交響曲第41番「ジュピター」の第4楽章冒頭部分(44.1kHz/16bit)。 冒頭の左の第1ヴァイオリンの「ド レ ファ ミ」の第1主題の鳴らし方、右の第2ヴァイオリンとの対比、その密度感、進行の円滑さ、抑制感、雄暉感、中高域の繊細な表現、F特的なレンジの広さ、弱音から強音までのDレンジ感……などがポイントだ。

ふたつの対照的な音源でチェックすることで、WATATSUMIがどれほどの幅広い音楽再現力を持つかを試した。WATATSUMIの表現力と各ヘッドホン/イヤホンの個性が絡まった時、どんな音楽を聴かせてくれるのか。

 

 SENNHEISER「HD 820」 - 歌の表情がより艶やかに

2018年発売以後の7年間、フラグシップの位置に君臨している令名高い、SENNHEISERのダイナミック型ヘッドホンHD 820。開放型ヘッドホンの定番「HD 800S」を密閉型に変更したものだ。

ドライバーは56mmリングラジエーター。密閉型だが、開放型ヘッドホン的なナチュラルな音場の実現も目指した。それには音波の指向特性制御用の凹面ゴリラガラス製リフレクターが効いたという。

SENNHEISERの「HD 820」(直販価格:319,000円/税込)と組み合わせ

まずAKのプレーヤーからダイレクトに聴くと、どういうわけだか、いまひとつ。中域は強いが少しくぐもったような音で、プレーヤーとの相性なのか……とも思った。

ではWATATSUMI経由ではどうか。心底、驚いたというのが実感だ。なんという改善だ!  まずF特バランスが圧倒的(といっても過言ではないほど)改善された。低域から中域を経て、高域に至るプロセスがたいへん素直になり、プレーヤー直で感じた癖っぽさや強調感がすっかり陰を潜めたのである。

レンジ感がワイドになり、気持ち良く高域が抜けてきた。歌の表情も硬めだったのが優しく、チャーミングに、艶やかになった。色気も感じられた。といっても、演出しているような人工感ではなく、基本的に正確に音が進行し、そこに多彩な表情が加わった。ボディの質感も良くなった。

喩えてみると、とても出来の良いヨーロッパ系のスピーカーで聴いているような上質な雰囲気だ。ボーカルばかりか、ピアノの躍動、ベースの弾力感もヴィヴッドに聴け、この演奏が持っている音楽的なポイントをWATATSUMIは上手く押さえたという感触だ。嚆矢の本ヘッドホンで、WATATSUMIの威力を早くも心底から痛感した。

モーツァルトの交響曲「ジュピター」はどうか。WATATSUMI効果は「チーク・トゥ・チーク」より大きいのではないか。まず質感だが、硬さが取れ、しなやかに、潤いを帯びてきた。響きの単位も繊細になり、第1と第2の対向的な位置でのやり取りもエキサイティングになった。フレージングの微細な強弱の抑揚がよりリアルに聴けた。まさにWATATSUMIは「弱きを介けた」のである。

これから多数のヘッドホン/イヤホンを聴いていく中で、さらにその再現性、表現力が露わになることに、大いに期待が持てた。

 

HIFIMAN「SUSVARA」- 音の流れが明解で緻密に

中国・天津に本拠地を持つHIFIMANは平面磁界ドライバーに力を入れている。本機SUSVARAはナノグレードの超薄・平面ダイヤフラムを搭載した開放型。音波の乱れを減少させ、マグネット部をスムーズに通過するというふれこみのステルスマグネットも搭載。 

HIFIMANのヘッドホン「SUSVARA」(660,000円/税込)と組み合わせ

HIFIMAN製品は最近、非常に評判が高い。だが、もっと伸び伸びとダイナミックに歌って欲しい、と思っていたところもあったが、これをWATATSUMIに繋いだところ、とてつもなく良いではないか。

鍛え直されたというか、別次元のような剛毅な音になった。音の流れが非常に明解になり、造形がハキハキしてきた。それもしっかりと剛性が刻まれると同時に、繊細な質感も感じられた。ボーカル音調が明瞭になると共に、ニュアンス感が細やかになった。

それにグラデーションの緻密さも加わった。山本 剛のピアノも正確さ、的確さ、クリアさを持ちながら、音の流れに音楽性も色濃く感じられた。それこそまさに音楽を聴く愉しみ、そのものではないか。音そのもののグレードアップのみならず、音楽的な水準もレイズアップしたのである。

モーツァルトも同じストーリーだ。WATATSUMI経由は音的にも音楽的にも、たいへんな向上を聴かせた。音のエッジにしっかりとした輪郭が付き、音像も確実に描かれ、音場の見渡しもクリアになる。特に解像感の向上は目覚ましい。

第1と第2ヴァイオリンの位置的な対比感、細かな音譜の流れの明瞭さ、各声部の明確な描き分け……とモーツァルトのスコアが浮かび上がるような高解像感が享受できた。歌い上げるカンタービレが美しい。

 

SENNHEISER「IE 900」 - より濃い音の快感を引き出す

SENNHEISERのイヤホンのトップライン、IE 900。2021年発売。今、マルチドライバーが流行だが、本機は7mmのシングルダイナミックドライバーを搭載。筐体はアルミニウム削り出し。振動板は高内部損失と共振と歪みの最小化を追求したという。アルミブロック削り出しハウジングに3つのレゾネーターチャンバーを備える。

SENNHEISERのイヤホン「IE 900」(直販価格214,500円/税込)と組み合わせ

確かに音は素晴らしい。プレーヤーダイレクトで、まずはその実力が明白だ。解像感が高く、音像がクリアで、ボーカルや楽器の質感が良く、音場も透明で、なおかつスピードも速い……と、音の魅力は絶大。音楽的にも丁寧な再現だ。なぜ本作が銘機と呼ばれているのかが、はっきりと聴き取れた。では、もともとの音が良い場合は、WATATSUMIはどうするのか。

それほどのハイクオリティにWATATSUMIを足す価値はあるのか。それが大いに、「ある」のである。先ほどは「弱きを介けた」わけだが、SENNHEISERの本機は、長所をさらにぐーんと伸ばす。「強きをより強くする」のである。

前述の高い解像感、クリアな音像、高い質感、透明な音場感、速いスピード……という基本的な美質に、WATATSUMIはさらに粒子を非常に細かくし、質感もさらに上げた。丁寧に緻密に、綿密に繊細に演奏するのである。

剛性も高く、進行感もより促進されるが、同時に音の快感が、より濃い。本イヤホンの固有の高再現力がアップグレードされ、その良さをさらに良い形に引き出したのである。WATATSUMIは「弱きを介け、強きをさらに強くする」ヘッドホンアンプだ。

モーツァルトでのIE 900も、そもそも素晴らしい。これほど基本性能が高いのなら、WATATSUMIは要らないのかと思ったが、いや、WATATSUMIを聴いたら、さらに素晴らしいではないか。

まず音色。ヴァイオリンや木管の音がグロッシーに、カラフルになり、豊かな質感と生命力が付与される。まさに芳しいモーツァルトだ。躍動感も素晴らしい。各楽器がしっかりとしたエッジを持ち、弾むように生き生きと音場を飛翔する。音像もあるべき位置に、きちんと定位し、音の明瞭度と音場のフォーカスが高い。

この時代の録音の特徴である、広いパースペクティブにおける音像の並びが濃密。音場全体の臨場感が豊潤にして、音場の密度や解像感が高い。潤沢な弦楽器倍音が音場内に躍動する。WATATSUMIは音楽に高い熱量と生体的な活力を与えた。「強きをさらに介けた」のであった。

 

Campfire Audio「Astrolith」 - スケールが大きく力感もたっぷり

Campfire Audioはベテランのイヤホンエンジニアによって、アメリカはポートランドで2015年に立ち上げられた。Astrolithは低域用14.2mm、高域用6mmの平面磁界型ドライバーを2基積んでいる。

Campfire Audio イヤホン「Astrolith」(オープン価格、予想実売価格:税込315,000円前後)

プレーヤーダイレクトではスケールが大きく、力感もたっぷり。剛性が強く、はっきり、くっきりの明瞭なサウンドだ。低音が太く、力強く進行する。重量級の三連SLが爆進するという剛速なイメージだ。繊細さも欲しいと、思ってしまうほどだ。

WATATSUMIはどうか。このハイパワーと量感に質感と緻密感、解像感、そして音場感を与えたのである。低音はもとから力感十分だったが、そこに解像感が付与された。音階が正確にクリアに聴き取れ、質感も良い。音の構造としてピラミッド型のバランスは不変だが、中高域に繊細さやグロッシーさが加わった。

さらに大きな違いが臨場感だ。プレーヤーダイレクトでは音像が屹立し、十分な存在感を持っていたが、音場感、空間感は控え目だった。WATATSUMI経由では音場の空間感が格段に豊潤になり、発せられた音が空間にきらびやかな軌跡を残す様子が、聴けた。濃密にして、繊細な音場感は感動的。ダイレクトと比較し、単に音質が向上というより、音楽が持つ価値が上がったと言う方が正鵠であろう。

モーツァルトのプレーヤー直は、「チーク・トゥ・チーク」と同じく、強靱で迫力系。はっきりくっきりしているが、古典派としての繊細さ、典雅さやスクウェアさも欲しいところだ。

WATATSUMIはまた、やった。本イヤホンが基本的に持つ、こうした情報系の音調を活かし、その延長上に音楽的な美味感、音場的なパースペクティブの広さ、深さを付与したのである。ひとつひとつの楽器、パートに音楽的エネルギーが加わり、レンジがワイド化し、存在感がよりリジッドになり、パワーが内部に漲った。

第1と第2ヴァイオリンの位置的、音響的、そして旋律的な対比感も見事だ。WATATSUMIはもともとの本イヤホンの進行力の強さ、生命力の強さ、解像感の高さ……という美点を活かし、さらに音楽的なエネルギーを濃密に与えた。

 

Forte Ears「MACBETH」 - 現代的マルチドライバーイヤホンの魅力

Forte Earsはシンガポールのイヤホンメーカー。音楽学者・古琴奏者のエンジニアが2024年に設立。ヴェルディの歌劇「マクベス」の世界観を表現したという本機MACBETHは、現代の代表的マルチドライバー・イヤホンだ。

バランスド・アーマチュア(BA)が5基、骨伝導が2基、静電型が4基……の合計11ドライバー搭載。一般的には低域はダイナミックドライバーが担当するのだが、本イヤホンはBAドライバー2基が担う。

Forte Earsのイヤホン「MACBETH」(オープン価格、予想実売価格:税込629,200円前後)と組み合わせ

ここまでのイヤホンは、プレーヤーダイレクトの音質が良く、さらにWATATSUMIが、その長所を伸ばすというストーリーだったが、本イヤホンは少し違う。プレーヤーダイレクトは、いまひとつだ。F特のバランスは低域が薄く、中高域が厚い逆ピラミッド型。ボーカルの線も細く、響きが金属的になるという具合で、あまり調子が良くない。

ところがWATATSUMIはこれらの弱点を見事に鍛え直した。まずF特のバランスは逆三角形が、正三角形とは言わないが、だいたい円筒型になった。低域もしっかり出て、安定感が高い。音色感もメタリックっぽかったのが是正され、比較的ナチュラルな方向に変わった。清涼で、伸びやかな音だ。

ボーカルにはボディ感が備わり、質感がしなやかで、音の表面が、微少に凹凸し、艶やかなソノリティが付与された。滑らかで、同時にダイナミックだ。歌詞の発音が明確で、前進力が強い。

モーツァルトもWATATSUMIによって、別物に生まれ変わる。レンジが格段に広くなり、細部の表情が濃密に、伸びがクリアになる。トゥッティでのエネルギー感の爆発、音像分離のシャープさ、カンタービレの美しい表情……など、モーツァルトを聴く醍醐味が濃く感じられた。WATATSUMIは熱量的にも音楽的にも、ひとつレベル上の音に変えた。

WATATSUMIはまるで、入力信号の素性を測り、直すべきところは正し、伸ばすべきところはよりサポートする……という如く、個別に適応対応するようだ。何かAI的というか、生体的な賢さだ。

 

据え置きオーディオシステムと組み合わせてCDを聴く

つぎに音源機器を据え置き型に変更し、CD再生を聴こう。プレーヤーはMAGNETARの「UDP-900」。そのデジタル出力をMeridianの「ULTRA DAC」に入力。そこから、専用のXLR-バランスケーブルで、WATATSUMIにアナログ入力。現代最高の音源信号をWATATSUMIはどう再生するか。

チョ・ソンジンの『ラヴェル:ピアノ協奏曲』等をMAGNETARのマルチメディアプレーヤーで再生

曲は2つ。まずウルトラアートレコードの新譜のUHQCD/MQA-CD『ボヌール』から冒頭の「ラバー・カンバック・トゥ・ミー」。非常に明瞭で、鮮度が高く、ディテールまで鮮明な音源だ。

ピアノの運指の明確さ、ボーカル音像の明瞭さ、ボディ感、潤い感、情感……などの美点を、WATATSUMIは各ヘッドホン/イヤホンを、どう鳴らすか。また天才的ベーシスト、古木佳祐のアコースティック・ベースの躍動する下行音階をどこまで、クリアに再生するかもポイントだ。

2曲目がチョ・ソンジンとネルソンス指揮、ボストン交響楽団による『ラヴェル:ピアノ協奏曲』から「ト長調第1楽章」。これもUHQCD/MQA-CDだ。バスク地方の民謡、スペイン音楽、ジャズのブルーノートなど、多彩な要素がぎっしり詰まった傑作だ。ピアノとオーケストラの絡みの密度感、細部までの描写性、高域のきらめき感、中域の豊かな感情感、低域の剛性感……などがオーディオ的、音楽的な聴きどころだ。

ここではWATATSUMI経由だけを聴く。

 

SENNHEISER「HD 820」 - ラヴェルの狙いを多彩に再現

そもそも、音源のCDがUHQCD/MQA-CDで、加えて再生機器が豪華、さらにWATATSUMI経由なのだから、オーディオ的にも、音楽的にもたいへんゴージャスな音が聴けた。SENNHEISER HD 820では、情家みえ『ボヌール』冒頭の後藤浩二のピアノが輝き、コードを構成する一音一音がはっきりと聴き取れるほど、解像度的に明瞭だ。質感も良い。

スタインウェイのフルコンサートピアノ、圧倒的にブリリアントな音がする。レンジ感も広く、高域のヌケもクリアだ。 ボーカルは実存感が濃い。細かな音の粒子が高密度に充填され、エッジもしっかりと描かれる。この歌手独特の節回しも明確だ。MQAらしさはラブリーな臨場感、ピアノの艶感で分かる。

ラヴェル:ピアノ協奏曲では、まず冒頭の鞭音がハイテンション! トランペットソロの名人芸も華やぎに満ちる。ピアノがカラフルで、なまめかしい色気が鮮やか。コケティッシュな音の遊びや、ピアノ/トランペット/トロンボーンの絡み、ブルーノートのアクセント感……など、WATATSUMIと本ヘッドホンは、ラヴェルが仕込んだ音楽の意味合いを、多彩なボキャブラリーを多く聴かせた。

 

HIFIMAN「SUSVARA」 - 解像感高く生命感が宿る

HIFIMANのSUSVARAは、ULTRA DAC+WATATSUMIでも非常にクオリティが高い。まず解像感。単にディテールがよく見えるという意味でのレゾリューションに加え、音楽を享受する要素としてのディテールの表現力が、高度なのである。

「ラバー・カンバック・トゥ・ミー」は冒頭の後藤浩二のピアノアルペジオの立ち上がりと下がりが敏捷。直ぐに入る情家みえのヴァースは音的な、また音楽的なまとまりに優れ、力感と質感のどちらも持つ。コーラスに入ると、急に速度が上がる。その緩急の変化が心地好い。ここでは急速下行するベース・ピッチカートが快感。解像感が高く、エッジがシャープ。ハイファイかつ高音質な音だ。

ラヴェルは鞭の音のインパクトが強烈。その衝撃が音場に広がる進行感、密度感、空気感には興奮する。まるでボストンのシンフォニーホールでステージを眼前で聴いているような、濃密な臨場感だ。

ピアノのパッセージはどんなに速くても明瞭、明晰で、生命感が強い。オーケストラも華麗な音色で見事に応える。ULTRA DAC+WATATSUMIのコンビは、ラヴェルの華麗なスコアリングな生命感を与え、みずみずしくも新鮮な音調で、ライブリーに聴かせてくれた。

 

SENNHEISER「IE 900」 - 刮目の高情報量と情緒

DAPでの試聴と同じく、SENNHEISER IE 900のULTRA DAC+WATATSUMIの組み合わせも素晴らしい。本イヤホンは、もともと基本性能が非常に高いので、それに繋がる機器の高性能を素直に享受できる。

「ラバー・カンバック・トゥ・ミー」では、S/Nが高く、歪みが少ない。音場は非常に透明感が高い。微小信号のリニアリティが高い。ボーカルはグロッシーだが、過剰感はなく、清潔な色気だ。情家は高い音域でのニュアンス再現に特徴を持つが、そうしたアーティキュレーションもこと細か。

ラヴェルでは特に高域方向の伸びがストレートだ。倍音までクリアに聴けるという意味では、本テスト中でもトップクラスであろう。トランペットの名人芸がシンフォニーホール全体に華麗に拡散し、響かせる様はまさに音場の醍醐味。それも抜群の透明感だ。

オーケストラとピアノを眼前に聴く興奮的なソノリティも楽しめた。音源機器、増幅機器、そしてトランスデューサーの3者が高い次元でバランスしているからこその、刮目の高情報量、高情緒量だ。

 

Campfire Audio「Astrolith」 -音楽的な熱気が横溢する

Campfire Audio「Astrolith」との組み合わせは、今回のテスト全体の白眉だった。情家みえがシャープに、ストレートにハイスピードで歌うさまが、実にかっこいい。ボーカルの粒立ちがにハイファイ。粒子感が細かく、その1粒1粒に音楽的な熱気が横溢する。

透明感や鮮明感も高く、頭の中で歌うボーカルの音像が実にリアルだ。後藤のピアノも素晴らしい。俊速弾きのテクニシャンだが、ULTRA DAC+WATATSUMIのコンビでは、どんな速いパッセージでも一音一音が正確に伝わる。

時間軸再現が細かく、どんなに微小な信号も明瞭に再生しているからだ。冬木のアコースティック・ベースも、この組み合わせで聴くと、ハイテクニックに惚れる。急速なピッチカート下行で一音一音のエッジが立ち、音階が明瞭、量感とシャープネスが共存したベース音だ。

ラヴェルも大胆なほど色彩的。会場の透明感が高く、ディテールがヴィヴッド。ハイテンションなトランペット名人芸が、耳中に驀進するのはまさに快感だ。チョ・ソンジンのピアノも剛性感が高く、タッチ感も確実。オーケストラとピアノで音数はすごく多いが、高分解能でありながら、同時に確固たる統一感が聴けた。それもULTRA DAC+WATATSUMIの音楽解釈の矜持だ。

 

Forte Ears「MACBETH」 - 豊穣な色彩感をこまやかに表出

最後にシンガポールのマルチドライバーイヤホンMACBETHを聴く。情家みえ「ラバー・カンバック・トゥ・ミー」はもの凄く鮮鋭度が高く、エッジも尖る。どこまでも先鋭に進行するのだが、不思議に耳が痛くない。ふつうは、高シャープネスは過剰な刺激になるが、ULTRA DAC+WATATSUMI+Forte Earsの組み合わせは、先鋭にして快適なのだ。

それはピアノの緩徐的なグロッシーさ、疾走パッセージの爽快さ、ボーカルのニュアンスの細部までの豊富さ、ベースの安定感があり切れ味抜群……という、音楽的な美質ゆえに、高鮮鋭度と心地よさが両立するのであろう。ハイファイ的な熱量が実に高い。

ラヴェルもクリアでハイテンション、色彩感が豊潤。小さなトライアングルが音数が多い中でも、目立って聴こえるのは、本イヤホンが随一。トランペットの名人芸も、単に音的な凄さだけでなく、それが音楽的に必然なのだということも、聴ける。音場のソノリティも、横方向に加え奥方向にも拡がる。空気の透明度も高い。本コンビネーションは、ラヴェルの尖った、豊穣な色彩感をたいへんこまやかに表出している。

 

音源が持つ本質的な世界観を享受できる、「音楽性増幅装置」

WATATSUMIがなくても良いプレーヤー、良いヘッドホン/イヤホンなら、十分に音楽が愉しめる。でも、その音源が持つ本質的な情報性、感動的な叙情性、そしてその世界観をすべて享受するには、WATATSUMIは必須のデバイスだと、多数の組み合わせを聴いて、そう確信した。

ポータブルアンプは「増幅」デバイスだが、ここでは増幅されるのは音量に加え、「音楽性」も、だ。ちょうど据え置きの世界で、CDプレーヤーとパワーアンプ直結より、優れたプリアンプを経由するほうが、はるかに感動性が高まるのと同じ理屈だ。

今回聴いたヘッドホン/イヤホンでは、程度の差はあれ、すべてが音楽をより愉しむ方向に変えた。それも対応が個別的だった。本文でも書いたが「弱きを介け、強きを伸ばす」のだ。弱いヘッドホン/イヤホンに活力を与え、とてもプレーヤーダイレクトでは得られない豊かな音楽性を聴かせ、一方もともと音楽性を持つヘッドホン/イヤホンなら、その長所をより良い形で伸ばす。

その判断の根拠は何かと思うほど適応的であり、生体的だ。ひとことでまとめると、WATATSUMIは「音楽性増幅装置」である。


(提供:ブリスオーディオ)

 

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