ヘッドホン再生の極地に挑め! ラックスマン「P-100 CENTENNIAL」 2台使いの音質を徹底レビュー
100周年記念モデルの第一弾となるヘッドホンアンプ
ラックスマン創業100周年を記念するCENTENNIALモデル第一弾として登場した、ヘッドホンアンプ「P-100 CENTENNIAL(以下、P-100)」は、据え置き型ヘッドホンアンプの最高峰に相応しい、弩級の仕様を誇るフラグシップモデルとして、発売以来注目を集めている。

P-100発売当初に執筆した記事に本機の仕様、レビューについてまとめているので、詳細はそちらをご覧いただきたいが、その際にはお伝えできなったP-100を2台使うことで実現する、パラレルBTLバランス駆動について、本稿ではご紹介したい。
強力なアンプ部と多彩な出力端子
P-100には、新世代の増幅帰還エンジンLIFESを同社ヘッドホンアンプとして初導入。出力から歪み成分のみをフィードバックさせ、音楽信号に影響を与えずに、より高純度なサウンドを実現させるODNFを全面的に見直し、メイン回路と歪み検出回路を一体化することで回路規模を抑え、シンプルかつコンパクトな構成に置き換えたという。定格出力(アンバランス接続で32Ω負荷・1W+1W)まではスイッチング歪みが発生しない純A級動作となる、フルディスクリート構成の3段ダーリントン回路を4組備えている。

6.3mmアンバランス接続時はこのうち2組をパラレル駆動し、出力電流の供給能力を倍増させることで、ドライブ力の高さと抑揚感溢れるダイナミックなサウンドを獲得。一方4.4mm端子や4ピンXLR端子によるバランス接続では4組のアンプを各々単独で用いるBTL駆動とし、左右セパレーションや定位感の向上、混変調歪の低減や電源レギュレーションの改善によって透明感の高いサウンドが得られる。そしてもう一つ、冒頭でも述べたP-100ならではの機能が、3ピンXLR端子を用いた2台運用でのパラレルBTLバランス駆動だ。

アンバランス接続時のパラレル駆動、バランス接続時のBTL駆動、それぞれメリットも異なるが、バランス接続の方が立ち上がり・立ち下がりのスピードが速く、キレ味が良い一方、コシの太い押し出し良いサウンドについてはアンバランス接続に分がある印象を持つ。
なおP-100では4.4mm/4ピンXLR端子使用時にグラウンドの左右独立化を行う、GROUND DIVIDEモード(G-DIV)を装備したことで、バランス接続の持つメリットでもあるグラウンド独立がもたらす左右セパレーション向上に加え、パラレル・アンバランス駆動の力強い表現を両立。これは接続方法から来る音質傾向の違いを解消する、一定の解決策といえ、1台のP-100で十分、ハイエンドヘッドホンを堪能できるよう、妥協なく作り込まれた証明といえる機能だ。

パラレルBTL駆動の探求はラックスマンの悲願
ではP-100にパラレルBTLバランス駆動が設けられたのにはどんな思いがあるのだろう。高音質へのあくなき探求は、オーディオマニアの誰しもが持つ、一つの向上心、矜持であり、P-100を手にするこだわりのユーザーであれば、さらにその先にあるものを追求したいもの。そうしたユーザーの想いを汲み、挑戦できるような“のりしろ”として用意されたのがパラレルBTLバランス駆動という提案であったと筆者は考える。
ラックスマンでは2013年、初のバランス接続対応となった「P-700u」でバランス接続時にもパラレル駆動できるよう、1台に備える4組のアンプをHOT/COLDで2組ずつ束ねてパラレル駆動する、パラレルBTLバランス駆動のカスタム・モノラルアンプを試作。
これはバランス接続でもパラレル駆動化することで、接続方法の違いからくる音質差を排除し、アンプの持つクオリティの高さを正確に堪能できる妙案としても評価され、参考出展したイベントでも話題となった。8組のアンプを用いたリッチなヘッドホンリスニング環境は、当時から注目されていたのである。
P-100の2台使いによるパラレルBTLバランス駆動についても、この試作機の存在があったからこそ、実現化できたといえるが、ただ2台揃えるだけでなく、快適に音量操作ができなくては意味がない。P-700uカスタム機では2台それぞれのボリュームを操作し、左右間バランスを揃えなければならなかったが、P-100はリアパネルに設けた2つのコントロール端子(2極3.5mm)と、重量回転機構を組み込む高精度ロータリーエンコーダーに進化したLECUA-EXと連携することで、一方のP-100に操作を集約。事前準備は2台のP-100に2本の別売り3.5mmモノラルケーブルをコントロール端子へ繋ぎ合わせるだけだ。

ヘッドホンに繋がるケーブルは、アンプ側が2基の3ピンXLRプラグとなるものを別途用意する必要がある。リケーブルを新調せずとも、4ピンXLR・メスプラグ→2×3ピンXLR・オスプラグに変換するアクセサリーを用意するのもお薦めだ。音量調整や左右間バランス調整はマスターとなるLch側だけ操作すれば、スレーブとなるRch側も追随するスマートな仕様となっている。またフロントパネルに装備した3桁7セグメントLEDによる音量値表示によって、これまで以上に使い勝手が向上したことも大きな進化といえるだろう。
FOCAL「UTOPIA SG」-余裕のあるダイナミックなサウンド
試聴はラックスマン試聴室にて実施。送り出しにハイレゾDAP、Astell&Kern「SP3000」をトランスポートに用い、ラックスマンの新型USB-DAC「DA-07X」にUSB接続。P-100とはXLRバランス接続で繋ぐ。

まずP-100を1台で聴くが、ヘッドホンもバランス接続(GROUND DIVIDEモード)で運用。2台でのパラレルBTLバランス駆動では、ブリスオーディオの4ピンXLR・メスプラグ→2×3ピンXLR・オスプラグ特注変換ケーブル(プラグは自社製、ケーブルはYATONO HP Ultimateグレード)を介して試聴した。
まずはフォーカル「UTOPIA SG」である。1台のバランス接続では伸びの良さと倍音の艶やかさ、音離れ良く緻密な描写性を持っており、個々の楽器の丁寧さ、階調表現の高さが際立ち、爽やかで落ち着いた上質さを感じることができた。オーケストラの分解能も高く、大音量のハーモニーも混濁せず、ローエンドまで豊かな押し出しと、余韻の清らかさのバランスも両立。ボーカルやピアノの響きも柔らかくまとめ、質感の滑らかさも申し分ない。

本題である2台接続のパラレルBTLバランス駆動では音離れの良さ、緻密な階調表現の点で優位であり、音場の清涼感、澄み切った空間性においても一皮むけたイメージだ。1台の時と比較し、チャンネル当たり2倍の電流出力を実現していることもあり、全体的に余裕度の高い、ダイナミックなサウンド傾向となっている。単にパワフルになったわけではなく、抑揚良く力の配分をコントロールしているかのような感触で、実に躍動的。ローエンドの力強さ、制動性の高さも両立し、音場の見通しの良さに貢献。ボーカルにかけられたリヴァーブの消え入り際まで鮮明であり、空間のクリアさ、階調性の良さが際立つ。
オーケストラの定位の良さと個々のパートの分離、余韻の混濁なく収束する空間表現のリアルさが際立っている。大太鼓の皮が僅かに触れるニュアンスも克明の捉え、ソロパートの浮き立ちも鮮やかで、演奏の立ち上がり、立ち下がりのスピードも素早い。TOTO『TAMBU』のキックドラムはアタックも素早く、リズムのキレ、厚みある胴鳴りのエアー感もリアルに描き切る。
丁「呼び声」でもボーカルや個々の楽器の分離感、音離れの良さを実感。ストリングスやアコギ、ハープなど、弦楽器のハーモニクスが微細なグラデーションで描かれる。リッチなリズム隊の動きもキレ良くクリアだ。
1台での試聴ではあまり気にならなかったが、UTOPIA SGはハウジング内の響きが豊かな傾向にあり、僅かに低域の余韻が残るようだ。これが音響の絶妙なバランスを生む要因かもしれないが、2台使いだと、こうしたヘッドホンが持つ本質、本来のサウンド性も露わにするようである。ちなみに変換ケーブルだけでなく、ヘッドホンのケーブルもブリスオーディオのリケーブル「BSHP for UTOPIA SG」へと交換し、ヘッドホン環境の“仕上げ”といえる状態でも試聴してみた。
より高解像度指向のトーンに進化し、低域の重心の低さと芯のフォーカスの高さによって、全体的に音像の滲みのない、ハリ良く潤いのあるサウンドを聴かせてくれる。ボーカルもしっとりと落ち着き良い描写で、ボトムも締まり良く、輪郭を明瞭に引き出す。ベースをはじめとするリズム隊の濃密さ、厚みの良さも維持しながら、制動良くまとめ、滑らかなエッジ表現によって、アタック感もほぐれ良くスムーズに描く。余韻の透明感、ナチュラルな音像の佇まいも一層洗練され、華やかさとリアルな空間性をバランス良く融合させた、ヘッドホンリスニングの最高到達点といえるサウンドである。
ソニー「MDR-Z1R」はよりスピーディーな立ち上がり
次にソニー「MDR-Z1R」を用意。一台のバランス接続でも70mmの大口径ドライバーを難なく鳴らし切るが、2台のパラレルBTLバランス駆動ではよりスピーディーな立ち上がり、立ち下がりを実現し、リズム隊のアタックのキレも向上。特に僅かな余韻のさまも鮮明に描き出している。各パートの分離も良く、低域の引き締まり、密度の良さもあって音場の見通しも深い。

ボーカルは口元の潤いをしっとりと描き切り、息継ぎの自然さ、リヴァーブのきめ細やかなグラデーションを堪能することができた。解像度の高い管弦楽器の旋律は澄み切ったハーモニーを聴かせてくれ、太鼓をはじめとする低域パートは落ち着き良く、低重心で緻密な描写となる。大口径ドライバーを自在に操り、分離良く伸びやかで、密度の高いサウンドを引き出す。倍音の艶やかさ、潤いもナチュラルにまとめ、快活で躍動的な表現を楽しめる。
オーディオテクニカでは緻密な描写性が高まる
さらにオーディオテクニカのオープン型フラッグシップ「ATH-ADX5000」も試聴。タングステンコーティング58mm大口径ドライバーは、MDR-Z1R同様にアンプ側に駆動力を要求されるが、1台でのバランス接続でも十分にドライブしてくれる。クールで澄み切ったサウンド傾向であり、ピアノやシンバルはブライトで輝き良く表現。低域方向のエネルギーもしっかり確保し、弾力良く爽やかにまとめている。分離良く開放的で爽快な表現力が持ち味といえるだろう。

2台でのパラレルBTLバランス駆動では、一際分離の良さ、緻密な描写性が高まる印象で、音像の重心もより低くなり、落ち着きのある安定的な描写となる。オーケストラの管弦楽器は厚みを持たせつつ、旋律の軽やかさ、楽器のディティールを克明にトレース。微小な大太鼓のアタックも、音離れ良くしなやかに引き出し、シンバルのエネルギッシュな響きもキレよく鮮明に捉え、収束も素早く描く。
ピアノの涼やかさ、ハーモニクスの爽やかな響きも上品に感じられ、ボーカルの息遣い、クールでキレ良い口元の動きもフォーカス良く描写。ロックのリズム隊もタイトにまとめ、音場の清廉さ、音離れ良く定位する音像のリアルさをより自然に引き立てている。情報量の多さと心地良さを両立した、上質さに溢れた音だ。
P-100はラックスマンの据え置き型ヘッドホンアンプの最高峰として、1台でも十分満足できるサウンドクオリティを有する、表現力豊かな製品に仕上げられている。ゆえにまずは1台で様々なヘッドホンの実力を深掘りし、存分にその魅力を楽しんで欲しい。

その過程の先、“ヘッドホンの持つポテンシャルを限界まで引き出したい”、“限界を突破した先のサウンドを目指してみたい”、そうした次なる目標が見えた時こそ、2台使いのパラレルBTLバランス駆動に挑んでいただきたい。その究極のシステムは、余裕あるパワーと、あらゆる局面を柔軟かつ抑揚豊かに表現する精緻な描写性、安定的で丁寧、奥行き深く澄み切った空間性、これらの要素を全て内包した、ヘッドホンリスニングにおける至高のサウンド体験をもたらしてくれるであろう。
(提供:ラックスマン)