公開日 2017/05/26 10:28

【第190回】5,000円級イヤホンにも驚きのハイコスパ機現る!final「E2000 & E3000」レビュー

[連載]高橋敦のオーディオ絶対領域

まずE2000のサウンドは、シリーズの中ではより現代的、イマドキっぽいと感じられる。とはいえ、そもそもfinalというブランドの音作りは正統派だ。イマドキっぽいとは言っても、くっきり系に少し寄せてあるといった程度の話で、基本的には自然な音調とバランスだ。さきほどの「普通に美味しい天然水」の喩えで言うなら、「ちょっと硬水寄りの天然水」で口当たりがすっきりしているといった感じ。

例えば演奏に対してのボーカルの浮かび上がり方は、正に「すっきりと浮かび上がる」といった様子。ボーカルと演奏という対比に限らず、空間に余白を残してそれぞれの音をはっきりと描き出してくれる。声のシャープさやギターのエッジ感も刺さらず心地良い感触で適度に出してくれており、聴きやすいのに物足りなくないという絶妙な調整。すっきりとした空間性と絶妙の高域による無理のない良質な解像感がある。このあたりが現代的という印象を特に強めている要素だろう。

もちろん低域側も好印象。ベースの存在感や太さも十分に確保するが、重心はE3000よりも高めに置かれており、自然な範疇でのゴリッとしたアタックや芯の感触も確保している。ベースの聴き取りやすさにおいてはE3000よりも分かりやすい。一概には言えないが、ロックやポップスのバンドサウンドとは特に相性が良いのではと感じる。

簡素ながらも素材や仕上げに手抜かりのないポーチも付属

では続いてE3000。こちらのサウンドはシリーズの中ではより正統派だ。帯域バランスはいわゆるピラミッドバランス▲にも近く感じるし、音楽やオーディオにおける伝統的な「かくあるべき」というサウンドもしっかり受け継いでいる。それでいてE2000と共通する十分な現代性も備え、時代に即した「現代の正統派」といった印象。こちらも「普通に美味しい天然水」の喩えをしておくと、「ちょっと軟水寄りの天然水」で口当たりが柔らかな感じ。

ボーカルと演奏、そしてそこに限らず空間やそれぞれの楽器の描き出し方としては、すっきり系でそれぞれのセパレートをしっかりさせたE2000に対して、こちらは響きの成分を豊かに描き出し、それぞれの音の響きの粒子が自然に重なって空間全体としてのなじみの良さが持ち味という印象。

筐体背面は共通でステンレスメッシュ。ただしこのメッシュ全体が音響的な開口部なわけではなく、このメッシュの奥に小さなポートがあるとのこと。なので遮音性も十分

その響きの良さから、クラシックやアコースティックなジャズとの相性はもちろん抜群。しかし実はボーカル中心の曲、ボーカル重視で聴きたい方との相性もまた抜群だ。高域側のシャープネスやエッジの表現は穏やかでしっとり系。低域側のベースもゴリッとはさせず重心を下げてある。するとシンバルやギター、ベースなど目立ちやすい楽器の音が目立ち過ぎず半歩ほど引いてくれる感じになり、相対的に歌の存在感が大きくなる。そしてその歌もやはりしっとりと良い具合の湿度感を備えており、特に女性ボーカルの情感の表現が絶品なのだ。

ただそのゴリッとはさせず重心を下げてあるベースは、屋外では少し聴き取りにくくなることも。そういう場面ではE2000の明快さが有利に働く。低音楽器のその音自体を明快に届けてくれるE2000。その音から広がる低音の空気感の再現にまで踏み込むのE3000。そこもそれぞれの個性として押さえておきたい。

ということで、これが嬉しいことになのか厄介なことになのか、どちらのチューニングもそれぞれの方向性において本当に素晴らしい出来栄えだ。どちらを選べば良いのか悩ましい……。

そこは悩みっぱなしのまま投げっぱなすとして、最後に使い勝手の面にもいくつか触れておこう。

強いて弱点と言えば、両モデル共通で音量は取りにくい部類だ。そうは言っても僕の場合で「他のイヤホンだとiPhoneの音量設定は最大音量の1/3で良いところをこちらだと1/2にする必要がある」という程度の話。よほどの大音量リスニング派の方でない限りは、必要な音量を出せないことはないと思う。

筐体の左右が全く同じ円筒の形状なので装着時には少し迷うが、筐体に入れてあるL/Rのマークは読み取りやすいので、慣れればそんなに苦労はしないだろう。ケーブルを耳から垂らすスタイルと耳の上にかけるスタイル、どちらの装着スタイルでも全く無理がないというのはその円筒形ならではのメリット。例えば歩いていてケーブルからのタッチノイズが気になるときは耳の上にかけ、夏場に汗ばんで耳の上のケーブルがうっとおしく感じたら外して垂らす。そんな使い分けもさらっとできる。なお上にかけるときには付属のイヤーフックもいい感じだ。

付属するのは単品製品としても人気の同社製イヤーピースが5サイズとこちらもおなじみイヤーフック

付属のソフトシリコン製イヤーフックを含め、「普通にケーブルを耳から垂らす」「ケーブルを耳の上にかける」「フックを付けて耳の上にかける」の3パターンの装着方法を選べる自由度も魅力

僕からお伝えできることは以上だ。ここからいかに悩んでどちらを選ぶも、悩んだ末に両方を買うも、あとは皆様に丸投げさせていただこう。

高橋敦 TAKAHASHI,Atsushi
趣味も仕事も文章作成。仕事としての文章作成はオーディオ関連が主。他の趣味は読書、音楽鑑賞、アニメ鑑賞、映画鑑賞、エレクトリック・ギターの演奏と整備、猫の溺愛など。趣味を仕事に生かし仕事を趣味に生かして日々活動中。


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