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イクリプス&ジェネレックのスピーカーでAURO-3Dやドルビーアトモス環境を構築

イマーシブオーディオの最先端を奈良から世界へ発信!入交英雄氏のラボを訪ねる

公開日 2026/04/02 06:30 山之内 正
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イマーシブオーディオがいまのように注目を集める前からサラウンド収録の実績を積み重ねてきた入交英雄さんが独立し、「入交イマーシブオーディオ研究所」を奈良市ならまちに開設した。

イマーシブオーディオ制作の世界的第一人者として知られる入交英雄さん

毎日放送やWOWOWで音楽番組の制作に携わりながら空間音響をテーマに録音活動を展開してきた経験を活かし、イマーシブオーディオの研究とコンテンツ制作に取り組むという。完成したばかりの拠点を訪問し、イマーシブオーディオの最前線を体験した。

理想的な環境でイマーシブオーディオ研究に専念

広々としたスタジオスペースは一部が吹き抜けでエアボリュームに余裕があり、半地下なので遮音性も優れている。音響スタジオには理想的な環境だ。

イマーシブオーディオの再生に必須となる複数スピーカーの設置と室内音響特性の管理は、入交さん自身が設計して一部は施工まで自ら行い、なかば手作りで完成させたという。

半地下のスペースにジェレネック&イクリプスのスピーカーでイマーシブオーディオの制作環境を構築

汎用の突っ張りポールや固定金具を探し出してハイトスピーカーを固定したり、中低音域まで効果的に吸収する吸音パネルや防音カーペットを部屋の形状に合わせて導入するなど、プロの目線で理想的な環境を実現している。

スピーカーはジェネレックのパワードスピーカーとイクリプスの「508シリーズ」でそれぞれ7.6chのシステムを構築。2系統のスピーカーでシステムを組んでいるのは、ジェネレックをミキシングやマスタリングなど制作用途、イクリプスを家庭環境を想定した試聴用という具合に用途に応じて使い分けるためだ。

リア側に設けられたジェネレック「1301A」 

ジェネレックの上に配置されたイクリプスの「TD508II」

スピーカーサークルは半径2.2メートルなので、少し広めの部屋なら家庭でも実現できる規模であり、スピーカー配置や室内音響対策など、ホームシアターのオーナーが参考にすべきノウハウがたくさん見つかる。

完成後にAuro 3Dの認証を正式に取得しており、制作スタジオとして信頼性を担保しているが、研究目的のラボとしても柔軟に使いこなせそうだ。

RMEのFIREFACEやFerrofishのオーディオインターフェースなどを活用

イマーシブでは自然な距離感を再現できる

入交さんがこの十数年の録音活動で収録したイマーシブ音源を聴かせていただいた。マリンバ独奏は東京カテドラルの広大でひんやりとした空気が部屋を満たし、ピアノは八ヶ岳やまびこホールの木質の響きに包みこまれる。

演奏の特徴はステレオ再生でも聴き手に十分伝わるかもしれないが、音楽が生まれる現場の空間の広がりと空気の揺らぎをここまでリアルに実感できるのはイマーシブオーディオならではだ。

入交さんが制作したイマーシブ音源を体験

音がスピーカーに張り付かず、演奏家や楽器との自然な距離感を再現できることもステレオ再生とは一線を画している。

「チャンネル数が増えるとステレオ再生よりも多くの情報を再生できるので、音楽の面白さや演奏の表情が伝わり、もっと深く楽しめるようになります」(入交さん)

ラヴェルの「ボレロ」は眼前に広がる楽器群の配置を指揮者の位置で実感できる貴重な音源で、映像を見ながら聴くと、自分が指揮をしているような錯覚に陥る。

舞台下手側に定位するトロンボーンや正面のスネアドラムは音像定位の位置も距離感もステージ上での体験そのもので、ステレオ再生ではまずあり得ない広がりと立体感が素晴らしい。

スピーカーの存在が意識から消え、オーケストラの動きが手に取るようにわかるので、まさに演奏に没入する感覚を生むのだ。これまでの音楽鑑賞の常識を覆す臨場感があり、全身で音楽に浸る心地良い刺激に満ちている。

一部の音源は毎日放送とWOWOWのスタジオや入交さんがアレンジした熱海のスタジオでも聴かせていただいたことがあるが、音場の一体感と均質な密度感は奈良の新スタジオが抜きん出ていると感じた。

エアボリュームの余裕や適切な吸音によって濁りのない良質な低音を実現しているためか、楽器の定位や距離感を伝える空間情報が埋没せず、立体感が半端ではないのだ。 

放送局のスタジオほど部屋が大きくないので一体感のある凝縮した響きになるのかとも考えたが、そんな単純な話ではなさそうだ。

たとえば、八ヶ岳や富士山の森林でのフィールド録音をこのスタジオで聴くと、鳥の啼き声や人の声が樹木の幹や枝で反射し、遥か彼方から柔らかく伸びやかな余韻を伴って耳に到達する。

森の中で声を出すと意外なほど遠くまで届くことがあるが、山の中でのそんな経験を思い出させるほど、広大な空間の再現にも説得力があるのだ。

「離れた位置から少しずつマイクに近付く音を森の中で録ったことがありますが、遠くの音も意外なほど大きく感じるんです。反射するときに平面波に変換されることで音圧が下がりにくくなるのかもしれません。遠くの低い位置から聴こえてくる小川のせせらぎもイマーシブオーディオでは驚くほどリアルな距離感があります」(入交さん)

最新のイマーシブ“ストリーミング”も体験!

入交研究所のスタジオは最新のストリーミング再生にも対応している。昨年サービスが始まったハイレゾのマルチチャンネルストリーミングサービス「Pure Audio Streaming」や「Auro Masters」を、NVIDIAのセットトップボックスとAVアンプの組み合わせで再生し、Auro 3Dでエンコードされた2Lレーベルのイマーシブ音源を聴いてみた。

Blu-rayやSACDで何度も聴いている「マニフィカート」のコーラスは発音が素直でハーモニーの純度が高く、余韻が広がる空間も広大で、ディスク再生のクオリティにほぼ匹敵するという印象を受けた。

同じ音源はアップルミュージックなど既存のサービスでも空間オーディオで配信されているので聴き比べられるが、ハーモニーの透明感や混濁のない音場など、多くの点でロスレスのハイレゾストリーミングが圧倒的に有利と感じた。

Auro MastersではAURO-3D音源もストリーミング配信されている

Blu-rayに収録された「マニフィカート」と配信音源を聴き比べるといった貴重な体験も!

一部の配信サービスではイマーシブオーディオの存在感が急激に高まっているが、ハイファイリスナーが満足できるクオリティのコンテンツはごく一部に限られるのが現状だ。

高音質への徹底したこだわりが異次元の鑑賞体験を生む入交スタジオは、基準となる制作環境を提供することで現状に風穴を開ける存在になるのではないか。このスタジオから新たにどんな音楽が生まれるのか、大いに楽しみだ。

入交イマーシブオーディオ研究所のロゴも新たに策定

入交さんが制作に携わったイマーシブオーディオ作品

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