音色も大きさも違う3モデル、どれを選ぶ?SHANLING「M3 Plus」「M7T」「M8T」を一斉比較
音楽をなるだけ良い音で持ち歩きたい。電車やカフェ、旅行先の宿の中など、出かけた先でも好きなタイミングで聴きたい――。こんなニーズを満たしてくれるのがポータブルオーディオ。中でも「音質」を軸に突き詰めると行き着くのが、デジタルオーディオプレーヤー(DAP)だろう。
一口にDAPと言っても、音作りはもちろん、上着やズボンのポケットに収まるコンパクトなものから、使うときだけカバンから取り出すような大型のものまで千差万別。ヘッドホンのポテンシャルをも余裕で引き出せるパワフルなアンプや、各ブランドの技術力の粋を投入した高級モデルほど大きくなりがちではあるが、小型モデルも高級モデルから技術をフィードバックしている場合が多く、実力は侮れない。
今回はその実例として、SHANLING(シャンリン)ブランドが販売中の3台のDAPをピックアップ。大きさも価格もサウンドも異なる、しかしそれぞれ個性的な3モデルを、評論家の鴻池賢三氏に分析していただこう。
DAPブランドとして活躍目覚ましいSHANLINGの3モデルを比較!
SHANLINGは1988年に中国・深センで創業し、世界で知られるオーディオメーカー。据え置き型のアンプやCD/SACDプレーヤーで評価を高め、往年のマニアの間ではハイエンドブランドとして認知されている。近年はポータブル市場での躍進が目覚ましく、トップブランドの一角と言って良いだろう。
今回は、そんな歴史あるハイエンドの系譜持つ同ブランドの現行3モデル「M3 Plus」「M7T」「M8T」を比較。それぞれの魅力を探っていく。
まず3モデルに共通する特徴を整理すると、SoCとして「Snapdragon 665」を、OSとして「Android 13」を採用するなど、ミドルクラスのスマートフォンに匹敵し、DAPとして充分以上の性能と言えるプラットフォームを採用していること。
一方で音楽再生専用機として、Android OSのSRC(サンプリングレート変換)もしっかりと対策。音質を変化させるおそれのある余計な処理を回避した、ビットパーフェクトのハイレゾ高音質再生を可能としている。
標準再生アプリはDLNAなどネットワーク再生にも対応するほか、スマートフォンアプリ「Eddict Player」でリモートコントロールもできるなど機能面でも充実している。ヘッドホン出力は現在のポータブルオーディオシーンで主流の3.5mmシングルエンドと4.4mmバランスの2系統を備えている。
小柄なボディにQuad DACとハイパワーアンプを搭載!「M3 Plus」
今回の3モデルで最も小型軽量なのがM3 Plus。重量は約205gと一般的なスマートフォンに近く、携行品として違和感を覚えない範囲と言えるだろう。
手のひらにも無理なく収まり、画面も4.7型と比較的コンパクトなので、曲の選択を片手で行う際も親指で隅々までリーチし易く、スクロールの頻度を少なくできる。屋外でアクティブに使いこなしいたいユーザーと相性が良いはずだ。
DACチップはCirrus Logic社の「CS43198」を4基搭載したQuad DAC構成。5種類の内蔵デジタル・フィルターを切り替えることで音色の微調整ができ、また3.5mm接続時のみDACモードを「Dual」に切り替え可能。これも音色がやや変化するほか、バッテリー持ちが向上する設定だ。
アンプはTI社のOPA1612とSGM8262の組み合わせによるフルバランス構成。高音質かつ高出力が期待できるハイエンドDAPの王道的設計となっている。
試聴は筆者が長年リファレンスの1つとしているDUNUのイヤホン「EST112」をバランス接続し、幾田りらの「恋風」(FLAC 96kHz/24bit)で実施。
S/Nが良くしっとりと沈み込む静寂を背景に、アコースティックギターの音色が鮮やか。立ち上がりが鋭くダイレクト感の高さがコントラストを生み、倍音の膨らみや余韻の音色の変化から収録空間の様子まで目に浮かぶかのよう。
基礎体力として高解像度でボーカルのテクスチャも豊かだが、高域の伸び上がりを求めるならQuad DACモードを選ぶと良いだろう。フィルターの選択で距離感や雰囲気の変化も少なくないので、ユーザー各自が好みの音調に仕立てられるはずだ。

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独特な「真空管サウンド」と携帯性のバランスが取れた「M7T」
中位モデルにあたるM7Tは、質量約320gで厚みも約21mmと一定の存在感を示す。ディスプレイは5.0型で、面積としてはスマートフォンに近いサイズ感。音質にこだわりつつ携帯性も両立したいユーザーに適しそうだ。
DACチップは旭化成の「AK4191」1基と「AK4498EX」を2基の組み合わせで、デジアナ分離かつチャンネル分離という豪華仕様。アンプは高音質オペアンプとして定評のあるMUSES8920が2基とパワー段にBUF634Aが4基というコンポジットアンプ回路を採用し、高音質と高駆動力の両立を狙った設計。
最後になったがミニチュア真空管「Raytheon JAN6418」を搭載し、そのフレーバーをオンオフして楽しめるのが大きな特徴だ。
面積的にスマートフォンに近いので、手のひらへの収まりが良く、片手親指タッチ操作もM3 Plusに近い印象。真空管を採用するプレミアムなDAPがこのサイズなら、食指が伸びるオーディオファンも多いのではないだろうか。
試聴はM3 Plusと比較する意味で、同じイヤホンEST112で幾田りらの「恋風」を、真空管を通さない「トランジスタモード」から再生。
音質には明らかな違いが感じられ、最も分かり易いのは一音一音の独立性と厚み。音に端正な輪郭が伴い、エッジはスムーズにグラデーションを描いて立体感が豊か。
例えばギターの音色には豊かな倍音が伴って音色が濃く感じ、聴感としても心地よく感じるもの。物量投入に見合う格を備えた堂々たるサウンドだ。
真空管を通す「TUBEモード」に切り替えるとまた違った柔らかな表現に。音調として低域をやや緩く厚めに盛る傾向があるが、デジタルで精度を突き詰めたサウンドの緊張感をほぐすかのような役割を果たす。曖昧さが有機的でヒトの感覚に心地よく感じさせるようだ。ライブ音源やジャズの熱気を感じたい時などにも好適だろう。
TUBEモード時もDACフィルターを6種類から選べ、トーンの変化も明瞭なので、気分や好みに合わせられる。

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セパレートDACと3種類のアンプモードで音質を突き詰めた「M8T」
3モデルの中で最も大型かつフラグシップモデルに位置づけられるのがM8T。とはいえ、面積はスマートフォン相当で、重量も約383gと携行品としては許容範囲と思える水準。スマホを2台重ねたくらいの「モノ」と考えると想像し易いだろう。
画面は6.0型と大きく高解像度で視認性が高い反面、操作は原則両手で行うことになるだろう。屋外で利用するならアプリ「Eddict Player」によるスマホからのリモコン操作が重宝しそうだ。
DACチップはAK4499EXが2基+AK4191EQが2基と、チャンネル分離、デジアナ分離を徹底追及。独自技術を投入したクロックの管理も含め、細部まできめ細やかな配慮が感じられ、フラグシップモデルに相応しい内容となっている。
アンプ周りもこだわりの設計だが、特徴は「Raytheon JAN6418」の採用。MT7Tと同じくTUBEモード/トランジスタモードをデュアル搭載するが、本機のTUBEモードはさらに「トライオード」または「ウルトラリニア」の2つの動作モードが選択できる点で異なる。
試聴は同じく「恋風」。M7Tと比べると大人しく感じる感じるが、耳を澄ませると静寂の中の情報量に確かな違いが感じられる。空気感や立体感など、空間情報が豊かで、奥行や距離の違いも精密に感じ取れる。
器としてのダイナミックレンジの広さ、チャンネルセパレーションの良さ、高精度クロックによる精密な再生が、音そのものだけではなく、周辺の気配までも引き出すかのようだ。ボーカルは息遣いがリアルに感じられ、空間に溶け込むようなナチュラルさも特筆に値する。
トランジスタモードはカチッとハイスピードでハイレゾ音源の持つ情報量をストレートに再現。
TUBEの「トライオード」モードは柔らかく温かみを感じる音調に、そして「ウルトラリニア」モードは低域が少し締まって弾むようなリズムが心地よい。クラシックを含め、音楽のジャンルを選ばず高品位で、音楽愛好家には万能なパートナーとなるだろう。

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今回3モデルを聴き比べして、それぞれの個性が把握できた。モバイルリスニングがメインなら、コンパクトなM3 Plusが有利なのは明らかだが、周囲の騒音がある環境なら音質面で充分かつ音調も好適。コストパフォーマンス面でも満足度は高いはずだ。
自宅でゆっくり音楽を愉しむなら、M8Tのクオリティーが活きるはず。携行時もそれほど負担に感じないサイズ感と重量で、スマホからのリモコン操作も実用性を高める。
M7Tはラインアップとして両者の中間に位置するが、サイズはM3 Plus寄りで音質は真空管搭載も含めM8Tに肉迫。価格は立派だが、プレミアムコンパクトとしてコストパフォーマンス面での納得感は高い。
それぞれに個性を持つ3モデル。リスニングスタイルに合わせ最適な1台を見つけて欲しい。
(企画協力:MUSIN)
