公開日 2016/03/10 10:10

SHURE「KSE1500」レビュー:音の純度や時間方向の分解能の高さはまさに“別格”

山之内 正がレポート

魅力を引き出すためには適切な装着や調整が不可欠

まずは基本的な注意点として、イヤーピースを慎重に選択することが肝心だ。ダイナミック型の場合は装着が多少ルーズでも量感豊かな低音を得やすい面があるが、本機から本来の良質な低音を引き出すためには、イヤーピースを耳に正確にフィットさせ、音漏れを最小に抑えることが重要な意味を持つ。耳にかける部分のケーブルにも気を配って、できるだけ位置がずれにくいように工夫することもポイントだ。

きちんと耳に装着できていることが第一前提。イヤーピースはしっくりするものを選びたい。付属品としてフォームタイプのものやトリプルフランジのものなどが用意されている

ポータブルプレーヤーをアナログでつなぐ際には、入力レベルを適切に設定することも重要だ。AK320を組み合わせた今回の試聴では、本機のアンプ側で-10dBを選び、プレーヤー側でボリューム調整を行うことで最良のバランスを得ることができた。

イヤーピースの選択と入力レベルの設定を間違わなければ、音量をそれほど上げなくても実在感豊かで浸透力の高い音を楽しむことができる。低音から高音までアタックを正確に再現するので、小音量でも十分な音圧感が得られるし、楽器ごとの音色の違いやヴォーカルの発音を正確に描き分ける能力が高く、音色のパレットの大きさが際立っている。


音の立ち上がりの速さと鮮度の高い低音はこれまで例がない

低音は過剰な響きを残さず、不自然に回り込むこともないので、ふくらんだ低音に慣れた耳には量感不足に感じるかもしれないが、ベースやドラムの本物の低音を知っているリスナーなら、本機の低音の方が原音に近いことにすぐ気付くはずだ。バスドラムはインパクトの瞬間に倍音が上に抜け、ウッドベースは弦が動き出す瞬間のテンションの高さが生々しく伝わってくる。

コンデンサー型のスピーカーやヘッドホンが再現する低音には独自のリアリティが感じられるものだが、発音の速さをここまでストレートに伝えて鮮度の高い低音を引き出す例はこれまであまり例がなかったと思う。波形で見れば立ち上がりの歪が圧倒的に少ないことがわかるはずだが、これほど違いが大きければ耳でもすぐに判断がつく。

操作はコントロールノブだけで行う構造。USB接続(96/24まで)とアナログ接続が可能。底面のスイッチで切り替える


室内楽やオーケストラのハイレゾ音源を聴くと、KSE1500の微小信号の再現力が優れていることを強く実感できる。USB入力の最大96kHzという制約は残念な点だが、ピアニシモの精妙なニュアンスや余韻の広がりを忠実に再現する能力は、その制約を補って余りある魅力に感じられた。弦楽合奏の通奏低音部に重なるチェンバロの澄んだ音色、ピアノの響板から広がる木質の柔らかい余韻など、普段は聴き逃してしまいがちな微妙な音が、特に耳の感度を意識して上げなくても、自然に意識に入ってくる。微妙な音は振動板の固有音やハウジングの共振に埋もれがちだが、コンデンサー型ではそうした弊害がほとんどないので、純度の高さは別格と言っていい。

もう一つの重要な特徴として、時間方向の分解能が高いことにも注目しておきたい。応答性の高い発音形式ならではの長所で、その分解能の高さは、構造の一部が共通するコンデンサーマイクに近いものがある。録音されたマスターに近い音を再現するうえで、コンデンサー型には特別なアドバンテージがあるわけだが、ヘッドホンと比べても圧倒的に振動板の口径が小さいKSE1500は、特にそのメリットが大きいのである。


本体と専用アンプを劇的なレベルで小型化し、他の方式では置き換えられない純度の高い再生音をどこでも聴けるようになった。その進化に大きな価値があることは明白だ。そして、原音に忠実な音を求める音楽ファンの立場から見ると、反応の良さや微小信号のリアルな再現など、コンデンサー型ならではの長所に再び光が当てられたことにも深い意味があると感じる。最後に、難しい注文であることを承知のうえであえて言うのだが、本機の開発で得たノウハウを活かしてミドルレンジの製品が登場することもぜひ期待したい。


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