公開日 2015/06/12 11:26

Apple Musicは日本で、そして世界で勝てるのか? 元洋楽ディレクターが分析

LINE MUSICやAWAと直接対決
本間孝男
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■3ヶ月のお試し期間はアップルからのプレゼント?

前述のRe/codeは、アップルはプロモーションに位置づけている3ヶ月お試し期間のため、気が遠くなる様な金額を用意していると推測する。利益の出ていないSpotifyには決して真似できない芸当だが、オンライン・ミュージック市場全体には素晴らしいハロー効果がもたらされるだろう。

もしSpotifyの有料会員と同じ1,500万人が3ヶ月のお試し期間を利用したとすると、単純計算すると4億5千万ドル(580億円)にあたるサービスが無料利用されることになる。レーベル側に補償する金額が7割だとすれば3億1千5百万ドル(406億円)を手当てしなければならない。販促費としては規模の大きい金額だが、いまのアップルには惜しくない金額なのかもしれない。

■Apple Musicのキーマン、ジミー・アイオヴィン

基調報告で「watchOS」の発表が終わり、ティム・クックが「One more thing...」とつぶやくと会場はどっと湧いた。中央の画面にはリンゴのマークとMusicの文字が。やはり事前予想どおり新サービスの名称は「Apple Music」だった。

WWDCでApple Musicについて説明するジミー・アイオヴァイン

「ブルース・スプリングスティーンとジョン・レノンと一緒に仕事をしたジミー・アイオヴィン」とティム・クックが紹介すると、本人がステージに登場した。彼はアップルがBeatsを買収した直後、アップルに入社。Beatsの共同創設者であるとともに元インタースコープ/ゲフィン/A&M (ユニバーサル傘下最大のレーベル)のトップだった音楽業界の重鎮と言う顔も持つ。Apple Musicプロジェクトの中心人物として先頭に立ち、レコードレーベルとの交渉にあたった。

基調報告のプレゼンでは、「気心が知れたティム・クックと重役のエディー・キューに、エレガントでシンプルで、全てをカバーできる一体型のエコシステムをアップルなら作れるはずだと提案したんだ」。こう述べるとジミーは、その一体型エコシステムである「Apple Music」の説明をエディー・キューにまかせてステージを降りた。プレゼンが得意なアップルのエクゼクティブと違い、本心はステージに上がりたくなかったもしれない。しかし「全世界のレコード・レーベルのトップに自身の顔を刻み込まなければ」という使命に燃えての登壇だったと思う。

Beatsの共同経営者だった時代、Beats Musicの立ち上げでプレイリストの大切さをスタッフに徹底させたのも彼だ。Beats Musicがディープな音楽ファンに人気が高かった理由の一つ。実はスティーブ・ジョブスがiTunes Music立ち上げのためのメジャーとの交渉で苦戦していたところ、何度も救ったのも彼だ。彼にはApple Musicだけでなくハリウッドの巨大スタジオとの交渉がこれから先に控えている。ジミー・アイオヴィンの動きからは目が離せない。

■Apple Musicに忍び寄る公正取引委員会と独占禁止法

Apple Musicは、Spotifyをはじめとする先行サービスとの競争に勝つことができるのだろうか。実はその競争という点で、司法という壁が立ちはだかる可能性がある。先日の記事でも紹介したが、アップルがiTunesという強大なダウンロードベースと資本力でApple Musicを展開していくことに、欧州委員会や米公正取引委員会は懸念を抱いているという。

まず、億単位のiPhone、iPad、Mac、すでにインストールされているiTunesのユーザー、そしてすでに8億枚が登録されているクレジットカードを背景にApple Musicを展開していくことが、独占禁止法に抵触するのではないか。米国内や欧州ではすでにこうした懸念が囁かれている。また、Spotifyなどの競合他社は、iPhoneやiPadのアプリを使ってサービスを展開する場合、一定額の手数料をアップルに支払っている。この金額をアップル自身が展開するApple Musicが支払わなくてよいとなれば、果たして公正な競争は成立するのか?

メジャーレコード会社に強力な影響力を持つアップルが、フリーミアムによる楽曲提供を各社サービスからは外すよう、各レコード会社に働きかけているという話もでている。この点については、アップルがライバル企業を不当に制限しようとしている可能性があるとして、欧州委員会や米公正取引委員会が監視の動きを強めているという。

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