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アーティストへの利益還元問題も

Apple参入で競争激化? 元洋楽ディレクターが世界のストリーミング音楽配信を総まとめ

公開日 2015/06/04 11:52 本間孝男
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■「フリーミアム(Freemium)」というサービス形態

「フリーミアム(Freemium)」とは“フリー”と“プレミアム”をかけ合わせた言葉。基本的なサービスを無料で提供し、より高度なサービスは有料で提供するというもの。音楽配信では「広告表示有りの無料プランが用意されている」こととほぼ同義である。

スウェーデン発祥のSpotifyが世界的に成功するきっかけになったのは、このフリーミアムをうまく自社のサービスに組込んだからだ。実はSpotifyの配信は、欧州のメジャー各社(UMG、Sony、EMI、ワーナー)と協議して「無料の試聴サービスからはじめ、有料会員に取込む」という実験的サービスとして始まった経緯がある。世界に爆発的な勢いで広まった「P2P」による違法なファイル共有や不法ダウンロードを駆逐するのが目的だった。欧州での成功をふまえ、Spotifyが米国に上陸したのはサービス開始から4年後の2011年。現在では、世界の会員数が6000万に上る。その1/4の1500万人が有料会員というストリーミングサービスのトップに成長した。

ストリーミングをメインストリームに押し上げたSpotify。その躍進の原動力となったのは「フリーミアム」によるサービス/収益形態だった

レコード・レーベルも無料のストリーミングは海賊盤を一掃するのに効果的であり、活気のない市場に新しい顧客とお金をもたらすと認識してきた。

ちなみに、デンマークのIFPIの研究結果によると、ストリーミングサービスのユーザーの48%が違法ダウンロードの経験を持っていたが、そのうち81%は違法ダウンロードの使用をストップしたという。ノルウェーのIPSOSの報告書によると、2008年には12億の曲が違法コピーされたが、ストリーミングが普及した2012年には2億1000万曲と5分の1に激減した。ストリーミングサービスが「海賊盤キラー」と呼ばれるゆえんである。

しかし2012年以降、ストリーミングサービスがダウンロードやCDなどの物理メディアに入れ替わる状況が目前に迫ると、メジャー各社は無料サービスに厳しい制限をするようSpotifyなどとの契約交渉に臨むようになった。

他社に遅れてストリーミングに参入するアップルは、ジミー・アイオヴァインを先頭に、フリーミアムによる楽曲提供を各社のサービスから外すように、メジャー・レコード会社に強力に働きかけているという。

欧州委員会は、複数のレコードレーベルにアップルとの合意内容の詳細を求めているという。これはフリーミアムサービスを提供するSpotifyなどのライバル企業を、アップルが不当に制限しようとしていないかという調査だと、英フィナンシャル・タイムズが報じた。

米国でもこの件でFTC(米公正取引委員会)の監視の動きがあるという。メジャーの重役達も、フリーミアムの展開を絞り込んで再びユーザーがアンハッピーな状態になると、何が起こるかは充分承知していると思われるのだが。

■ストリーミングからの収入の分配はどうなっているのか

テイラー・スウィフトが全作品をSpotifyから引き下げたのと同じ頃、ダブリンで開かれたWEBコンファレンスにおいてU2のボノは、「問題はiTunesやTIDALが良くてSpotifyが悪いなどということではない。レーベルとの契約の不透明さが全ての問題の原点だ。透明さが問題を解決する」と述べた。さらに「Spotifyは収入の70%を正しい権利者に支払っている。お金の行方はレコード・レーベルの不透明さが見えなくしている」と発言した(The Guardian)。

先頃、ロンドンの監査法人アーネスト&ヤングとレコード小売商グループによる調査報告が公表された。それによると、ストリーミング配信会社が支払った金額(税引後)の73.1%がレコード・レーベルへ、16%が作詞・作曲の著作権者に、最後に残った10.9%がアーティストに渡されたという(仏 SNEP)。

レーベルの取り分が過大であることは明らかのように思える。3大メジャーなど大手レーベルが2007年・2008年にストリーミング・サービス各社と契約した際の創業者利益として17〜18%の取り分があり、全体では収益の半分以上がレーベルに行く様な配分が、それ以来続いてきたことが挙げられる。

ストリーミングにおける適正な利益分配を訴えたロザンヌ・キャッシュの代表作のひとつ『セヴン・イヤー・エイク』

昨年夏、デジタル時代の知的財産権を保護するための米国下院司法小委員会で、カントリー界の巨人ジョニー・キャッシュの娘でグラミー賞にも輝く人気歌手ロザンヌ・キャッシュが証言した。「若いミュージシャンが生活できないと、毎日夢をあきらめ去っていくのを見ている」。さらに「ストリーミングサービスで私の曲は18ヶ月間に60万回ストリーミングされたが、私は114ドルの支払しか受け取っていない」とも語った。この証言は政府を大きく動かし、関係者筋では今後1年半以内にストリーミング・サービスに関連する法案(著作権法も含む)改訂の可能性が大きいと言われている。

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