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LINE MUSICやAWAと直接対決

Apple Musicは日本で、そして世界で勝てるのか? 元洋楽ディレクターが分析

公開日 2015/06/12 11:26 本間孝男
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■Apple Musicの登場に業界はどう反応したのか

アップルの「Apple Music」の発表を見て、ストリーミング各社はどう反応したか見てみよう。まずは直接の競争相手となるSpotifyから。同社CEOのDaniel Ekはツイッターに『"Oh ok."』とツィートした(「これなら ok.」の意味?)。ただし、しばらくしてこのツィートは削除された。この件に関してのコメントをSpotifyの広報担当は拒否したと、CNBCニュースが6/9付けで伝えている。

音楽ストリーミングサービスとして世界で最も成功している「Spotify」

もうひとつ紹介したいのは、独自のパーソナライゼーション機能で人気の高いストリーミングサービス「Rdio」がApple Music発足に際して出したステートメントだ。長文なので一部抜粋する。「信頼に基づいた競争を望んでいます。なぜなら我々がやろうとしていることは好みの音楽に基づいた個々人の経験を向上させながら音楽の価値をさらに高めることです。この任務にようこそ」。

文章は1981年IBMが初のPC(PC/AT)を世に出した時、アップルが出したステートメントが下敷きになっている。ジョブスとウォズニアック達がIBMのPC革命に際して書いた文章を、34年経って今度は音楽媒体の革命に際してのステートメントの下書きにしたなんていうのは気が利いている。そして「信頼に基づいた競争」という言葉にやはり目がいく。

音楽ストリーミング業界の各社は、発表を見てホッとしているのが本音だ。Apple MusicはiTunesがかつてそうであったような産業革命に近い革新性はないと見たからだ。ただし身を引き締めている。油断は禁物。アップルが相手の場合、誰もがベストゲームをしなければならない。iPhoneの例があるからだ。

音楽関係者もSpotifyやRdioから有料課金ユーザーの大きな移動はないと見ている。Apple Musicが獲得を狙っているのは、こうしたストリーミングサービスをまだ体験していない新規ユーザーだ。関係者の本音としては、アップルがユーザー数を純増させることを望んでいるのである。

■Apple Musicがフリーミアムを採用しなかったわけ

Spotifyは広告ありの無料試聴プラン(いわゆるフリーミアム)を用意することで世界的な成功を掴んだ。早い段階から、Apple Musicはフリーミアムは行わないだろうと見られていたが、実際にそうなった。レコード・レーベル側の反発が強そうであることが分かっていたため、アップルには最初からフリーミアムを導入する気はなかったと推測している。

アップルはすでに膨大な数のPC/MacにインストールされたiTunesをベースに、Apple Musicを展開する

アップルは当初、Spotifyなどより安い月額料金8ドルをレコードレーベル側に提示して交渉を開始したようだが、反対は大きかった。特にインディーレーベルの反対が大きかったという。そこでアップルは、Soptifyと同額の9.99ドルを提示し、そのかわりに最初の3ヶ月間無料という異例に長い試用期間を設けることに重点を置き交渉することになったと思われる。しかし、こちらも3大メジャーをはじめレコード・レーベル側の反対は大きかった。

単純に考えても、試用期間中にダウンロード売上は大幅ダウンする。そして3ヶ月間はストリーミングの収入はゼロ。この3ヶ月間の大打撃にレーベルはどう対処するのか。Media Memoによれば、アップルは米国のダウンロード販売の70%を占め、米国レコード産業全体の1/4の収入はアップルからのものというから、レーベル側も慎重にならざるを得ない。

結果的にアップルは、3大メジャーをはじめとするレコードレーベルとの合意に至らなかった。IT系のニュースの分析で知られるRe/codeは、アップルはレコードレーベルに対して、この期間の補償をなんらかの形で行っていると報じている。アップルは合意が取れなくても、6月8日の発表内容「月額9.99ドル、3ヶ月の無料お試し期間」を変えるつもりはなかったという。アップルには1,780億ドルもの自己資金が銀行にあり、さらにiTunesのアカウントに8億枚のクレジットカードが紐づいているという有利な状況があるのだ。

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