ガジェット 公開日 2025/07/17 11:25

Wi-FiルーターからeSIMへ、大きく変わった海外ローミングサービス

【連載】佐野正弘のITインサイト 第168回
Gadget Gate
佐野正弘
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円安の影響でインバウンドは大幅に増加したが、日本人の海外旅行者はあまり伸びていないと聞く。だが、それでも円安の影響が比較的小さいアジア圏を中心に、海外旅行の需要は回復傾向にあるようだ。

筆者も取材で海外を訪れることが多いが、その際欠かせなくなったと感じることが多いのがスマートフォンだ。先日には韓国サムスン電子の「Galaxy Unpacked」の取材で米国に滞在していたのだが、滞在中のあらゆる用途にスマートフォンを活用していた。現地での情報収集にコミュニケーション、移動や決済など、スマートフォンがなければ快適に生活できなくなったとさえ感じている。

筆者は2025年7月に「Galaxy Unpacked」の取材のため米国のニューヨークを訪れたが、滞在中は多くの場面でスマートフォンを活用していた

■海外渡航者向けモバイル通信の現状。お得に利用できる「海外ローミングサービス/eSIMサービス」



それだけに海外渡航時には、スマートフォンの通信をいかに確保するかが重要となっている。従来、そのための手段として最もポピュラーだったのが、空港で海外専用のWi-Fiルーターをレンタルすること。携帯電話会社が提供する海外ローミングサービスが非常に高額だったため、より安価に提供されていたレンタルWi-Fiルーターを利用する人が多かったわけだ。

だが現在、その常識は大きく変化しており、携帯各社の海外ローミングサービスがかなり安くなっている。実際、NTTドコモやKDDI、ソフトバンクが提供する海外ローミングサービスは、1日当たり1,000円前後でデータ通信が使い放題、あるいは一定のデータ通信量を利用することが可能だ。

しかも最近では、海外でのデータ通信が追加料金なしで一定量利用できる料金プランが増えている。具体例を挙げると、NTTドコモの「ahamo」は、15日間であれば標準の30GBのデータ通信量を費やして海外でのデータ通信が可能であるし、楽天モバイルの「Rakuten最強プラン」も標準で2GBまでの海外データ通信が可能になっている。

NTTドコモの「ドコモ MAX」や、KDDIの「auバリューリンクプラン」など、ここ最近導入された新料金プランも、追加料金の必要なく海外で一定量のデータ通信ができる仕組みを備えている。海外ローミングが安価に利用しやすくなったことで、Wi-Fiルーターの優位性も大きく失われているのだ。

海外ローミングが付属する料金プランは増えており、KDDIの新プラン「auバリューリンクプラン」も、海外ローミングサービス「au海外放題」が15日間利用できる特典が付属する

もう1つ、海外でモバイル通信を安く利用できる手段として人気が高まっているのが、海外用eSIMサービスである。eSIMはスマートフォンに内蔵されたSIMのことだが、このeSIMを活用して、海外旅行者向けのモバイル通信を安く提供するサービスが急増しているのだ。

実際にいくつかの海外用eSIMサービスを確認してみると、米国でデータ通信が使い放題となる料金プランは、1週間でおよそ4,000円から6,000円で利用できることが多い。1日あたりにすれば600円から800円程度で利用できる計算となることから、非常にお得であることが理解できるだろう。

そうしたサービスの多くは海外企業が提供していることから、説明文が英語だったり、決済がドル建てやユーロ建てだったりして、初心者にはハードルが高いものも多い。ただ中には、日本人向けに説明文を日本語で表記したり、円建てで決済できたりするサービスもあるし、もちろん日本企業が提供しているサービスもいくつか存在している。

その1社がトリファだ。同社は7月14日に事業説明会を実施し、新たに俳優の上白石萌音さんが出演するテレビCMを展開することを明らかにしている。トリファは2020年に設立され、コロナ禍明けから2年間で売上が15倍に伸びるなど急成長を遂げているというが、先にも触れたようにこのサービスには海外の競合も多い。

eSIMを用いて海外でデータ通信ができるサービスを提供しているトリファは、2025年7月14日に事業説明会を実施。新たに上白石萌音さんが出演するテレビCMを実施するという

それゆえトリファの海外eSIMサービスは、世界200以上の国や地域で利用できる幅の広さに加え、アプリ内でプランの購入からeSIMの設定まで簡単に実現できるインターフェースに注力。さらに24時間365日の日本人による有人サポートにも力を入れるなどして、日本人が利用しやすい環境を整備し、他社との差異化を図っているという。

それに加えてトリファでは、対応する国や地域で複数の大手携帯電話会社と提携して回線提供を受けていることも、大きな差異化要素になっていると説明している。海外eSIMサービスが「データ通信無制限」と謳って提供するプランの多くは、実際には数GB利用すると通信速度が大きく落ちてしまうことが多いが、トリファでは現地携帯電話会社との直接契約により、基本的には速度が落ちることなくデータ通信を無制限で利用できるという。

また、海外では国や地域によって、停電や通信障害が発生して通信ができなくなることも多いというが、トリファではそうした事象が発生した際、他社回線に切り替えて運用することで通信を維持しているとのこと。ローカルとサポートに重きを置き利用者に安心感を与えていることが、トリファの急成長要因となっているようだ。

トリファは利用できる国の数を増やすだけでなく、使いやすいインターフェースやサポートに力を入れることで他社との差異化を図っているという

ただ、さらなる成長に向けた課題となっていたのが、認知度の向上である。トリファはこれまでSNS中心のマーケティング戦略に力を入れ、その結果海外旅行者が多い20代後半の女性ユーザー獲得には成功した。だがサービスの利用を広げる上では、海外旅行のもう1つのボリュームゾーンである、30〜40代男性層なども開拓を進める必要があるという。

そして日本においては、eSIMの存在を知っている人は多いものの、実際に利用したい意向のある人が多くないという課題もあるそうだ。より幅広い世代の人に、eSIMを活用したサービスの利便性を知ってもらう上でも、有名俳優を起用したテレビCMを展開するという判断に至ったようだ。

日本ではeSIM自体の認知は進んでいるものの、その利用意向がまだ高まっていないことも、トリファがテレビCMを展開する要因の1つになっているようだ

トリファのような事業者が大規模なプロモーションによって認知を高めることが、海外ローミングサービスの常識を変えていくことにつながることは確かだろう。海外でスマートフォンを利用するなら、すでに携帯電話会社のローミングサービスや海外用eSIMで十分満足できることを、ぜひ多くの人に知ってもらいたいところだ。

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