公開日 2023/03/07 19:52

ドルビー、東京アニメアワードフェスティバル2023に出展。アニメでも見る「ドルビーアトモス」「ドルビービジョン」を解説

3月10日(金)〜13日(月)に開催
編集部:松永達矢
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ドルビージャパンは、3月10日(金)〜13日(月)に東京・池袋で開催される「東京アニメアワードフェスティバル(TAAF)2023」に出展・協賛する。イベント開催に先立ち本日3月7日、メディアを対象とした「ドルビービジョン」「ドルビーアトモス」のワークフローの解説やデモ体験が行われた。

東京アニメアワードフェスティバル2023公式サイトより

邦画アニメでの採用事例も年々増加、アニメファンに知ってもらいたい「ドルビー」の技術



セミナーに先立ち、同社マーケティング部門 シニア・マネージャーの金重氏は、実写映画や音楽で使用される頻度が多いドルビーテクノロジーを、アニメのコンペティションイベントで露出し、ユーザーへの周知を図ることにより、「アニメの現場でドルビーの技術をさらに活用していただくことで、アニメコンテンツの活性化に繋がれば」とTAAFに協賛した背景を説明した。

TAAFでは3月11日(土)11時から、としま区民センター6階小ホールでセミナーを開催。アニメ映画制作に用いられるようになったHDR技術「ドルビービジョン」、立体音響フォーマット「ドルビーアトモス」の基礎知識や制作ワークフローを分かりやすく紹介する。オンラインでも配信され、参加はいずれも無料。

「普段から接点のあるAV系メディアのみならず、アニメ系メディアにもアプローチできれば」と期待を寄せる、11日のセミナーにも登壇するドルビージャパン技術部 テクニカルマネージャーの萩谷氏が「ダイジェスト版」とも言えるプレゼンテーションを実施。音声・映像におけるドルビーテクノロジーについて説明を行った。

ドルビージャパンの萩谷氏が易しく解説

実はそろそろ10年選手。ドルビーの技術を簡単に紹介



「ドルビーのことを知らない方々に、知ってもらうための内容」と位置づけ、前段として会社の歩みを年表とともに紹介した。今回のセミナーでテーマとなる立体音響フォーマット「ドルビーアトモス」は2012年に誕生。これまでの音の出口(スピーカー数)に合わせたサラウンド(チャンネルベース)音響から、音声信号に位置情報などのメタデータを持たせたオブジェクトベースの音響を提供できるようになり、上下の立体感や“包まれるようなリスニング体験”が可能になった。

ドルビーラボラトリーズの軌跡

そこからわずか2年後となる2014年、現在日本各地で上映館が増える「ドルビーシネマ」の基本となる映像用技術「ドルビービジョン」が登場する。なお、日本初のドルビーシネマ館は2018年に「T・ジョイ博多」に導入。今年2023年には、TOHOシネマズ初のドルビーシネマ館として「TOHOシネマズ ららぽーと門真」(大阪府)が4月にオープンする。

さらに大きなトピックとして、Apple Musicのドルビーアトモスに対応した音楽配信についてもふれ、「『空間オーディオ』と銘打ちプロモーションしているが、中身はドルビーアトモスを含んだ立体音響に対応したものになっている」とドルビーの技術を訴えた。

どうして立体的に聴こえてくるの? アトモスサウンド制作のひみつ



ドルビーアトモス音声の制作フロー

作品鑑賞において重要視される要素の一つが、ドラマの主人公や登場人物に心情を重ねる「没入感」。それを高めるのはコンテンツの話筋だけでは無い。映像や音響による演出の付加も大きく関わってくる。ドルビーアトモスを採用するアドバンテージは、そこを立体音響でカバーできること。

技術的な優位点は、従来のチャンネルベース(7.1chなどスピーカー数で決まるサラウンド効果)とは異なるため、スピーカー数を揃えた映画館のような理想的な環境でなくとも、ドルビーアトモスフォーマット対応のサウンドバーやテレビのステレオスピーカーに内蔵されるバーチャライザーによる補正で、“擬似的”に上方向・横方向から音が鳴っているような感覚で音を再生し、没入感に満ちたサウンドを気軽に楽しむことができると指摘した。

そんなドルビーアトモス音響の制作について、“簡単に”ではあるが萩谷氏が解説。収録→ミックス→マスタリング→エンコード→配信(パッケージ化)→ユーザーによる再生…という大きな流れこそステレオ時代と変わらないものの、ポイントによって使用するツールや再生に用いる製品が一つずつ変わっただけだという。

変化が大きいのはミックスの段階とのことで、これまでは左右や音の比率の指定など一次元的な音の割り振りに終止していたが、ドルビーアトモスでは「立体音響」が示す通り、聴いているユーザーを中心とした三次元空間に音を配置するポイントが、ミックスの段階で追加されたと説明する。

ミックスの段階でどのように音を立体的に振るのかは、同社の提供するレンダリングソフト「DOLBY ATMOS Renderer」内のUIにより、視覚的に音を割り振ることが可能になっているという。

「DOLBY ATMOS Renderer」を用いて視覚的に立体音響の配置を行う

また、ドルビーアトモスリミックスでは、一つのファイルでどの環境でも再生できることも注目すべき利点の一つで、ヘッドホン用、ホームシアター用など再生機器に応じたリミックスを個別に作ることなく、一つのフォーマットで再生機器に応じた最適化を行える。

ドルビー本社のマスタリングルームで、実際にソフトが可動する様子をチェック。映像デモの音声出力に応じて「DOLBY ATOMOS Renderer」内の位置情報が連動して動く

今回のメディア向け発表会では、プロのエンジニアも使用するという7.1.4ch構成のアトモス対応システムを備えたマスタリングルームで、サウンドデモンストレーションも実施された。デモ映像として、ドルビーシネマデモンストレーション映像でも一瞬インサートされるCGアニメ「ESCAPE」を再生。ミックスの段階で実際に使用する「Protools」とDOLBY ATMOS Rendererにより音の定位が設定されている様子も披露された。

さらに同社の方針として「大きいフォーマットを作ってどんどん落とし込んでいく」という制作を推し進めているとのこと。5.1chや7.1ch音声といった従来のサラウンド音声もDOLBY ATMOS Rendererを介することでダウンミックスが可能で、「アトモス音声を作ることでその後の制作も効率的になる」(コンテンツ&ワークフロー部の藤浪氏)とアピールした。

ドルビーアトモスのミックスについて、易しく解説してくださった藤浪氏

何をどうして画質向上? ドルビービジョンの中身



画質向上のアプローチでは、一般的に認知されている要素としてフルHDや4Kという言葉で指し示される「解像度」、動きの滑らかさを示す「フレームレート」が第一にあり、ドルビービジョンの提供するHDR(ハイダイナミックレンジ)効果ではさらに、明暗部の階調をより大きくした「高コントラスト」と色数そのものを増やした「高色域」を強調しているという。

ドルビービジョンにおける高画質化のイメージ

表示ピクセルの数を増やす高解像化や、表示時間の頻度を上げていく高フレームレート化というアプローチに対して、絵を構成するドット一つ一つの品質を上げていくというのがドルビービジョンの方向性だと萩谷氏は力を込める。明暗部の階調表現は、これまでのフォーマットでは「暗い場所に何かがある」といったシーンが、視聴環境によっては暗い背景に負けて黒つぶれしてしまうことがあった。ドルビービジョンでは制作者の意図通りに再現できるようになる。

こちらも“簡単に”ではあるが、制作のフローについても解説。実写コンテンツであればHDR対応カメラでの撮影、アニメであればHDR対応のアニメツール・フォトレタッチといった機材を使って元となる「画」を作り、編集後に行うカラーグレーディング(色調整)の段をHDR対応モニターでチェックする。これにより、高コントラスト・高色域の映像表現を可能にするという。

さらに、制作の現場から一貫して技術提供を行うことで、グレーディングの段階ではドルビービジョンのメタデータを組み込めるようなユーザーインターフェイスを構築。カラリストがドルビービジョン用のメタデータを付与し、ドルビービジョン対応のマスタリング環境でのチェックを経ることで、制作者の意図通りの映像をユーザーの視聴環境でも再現できるとしている。

ドルビービジョンのメタデータを用いたグレーディングの利点として、ユーザーの違いによるディスプレイの性能差についても、高輝度の映像表現を可能にする高級機から普及価格帯のモデルに至るまで、使用されるパネルの最大限の性能を引き出すことが可能になる。

アニメにおけるドルビーシネマの採用状況は年々増加傾向。今年はどうなる?



記事執筆時点の日本国内ドルビーシネマ導入館数

国内のアニメ映画におけるドルビーシネマの採用状況についても明らかにされた。「劇場版機動戦士ガンダムシリーズ」のドルビーシネマ版や『劇場版 ヴァイオレット・エヴァーガーデン』などが公開された2020年は、ドルビーシネマフォーマットのアニメ作品は4本に過ぎなかった。これに対し、昨年2022年は、新海誠監督作品として初のドルビーシネマ作品となった『すずめの戸締まり』をはじめ、『ONE PIECE FILM RED』『THE FIRST SLAM DUNK』など大作は軒並みドルビーシネマ基準で作られている。

ドルビーアトモス対応館は全国31か所、35スクリーンにものぼる

2023年も、4月14日公開の劇場版『名探偵コナン 黒鉄の魚影(サブマリン)』もドルビーシネマフォーマットでの公開が決定するなど、「アニメとドルビーシネマ」の動向からますます目が離せなくなりそうだ。

なお、ドルビーはTAAFのイベント期間中、Disney+などアニメ作品をシャープ製85インチテレビとヤマハ製オーディオ機器で体験できるブースをWACCA池袋 1階に出展する。ドルビービジョンによる鮮やかな色彩とドルビーアトモスによる立体的な音響効果がアニメにもたらす付加価値を、実際に足を運んで確かめてみてはいかがだろうか。

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