公開日 2025/08/05 06:30

【インタビュー】「化けるかも?」予感の上を行く大化け。クラファン10億円、UGREENのNASはなぜ大ヒットしたのか

フォーカルポイント 田中大士氏に聞く

フォーカルポイント田中氏にインタビュー

NAS」という決して認知が高くないアイテムが、クラウドファンディングで10億円を超えるヒットを記録して大きな注目を集めた。NAS市場では新参となるUGREENが狙いをつけたのは、「iCloud」や「Google Cloud」などクラウドサービスからのゲームチェンジを引き起こすこと。撮り貯めた大事な写真の保存先として、“自宅用クラウド” とも言える新たなポジションを築き上げたのだ。国内市場にパートナーとして仕掛けたのは革新的な製品の市場を創り続けるフォーカルポイント。同社マーケティング本部本部長・田中大士氏に話を聞く。<インタビュアー 音元出版 代表取締役・風間雄介>

フォーカルポイント株式会社
マーケティング本部 本部長
田中大士氏

プロフィール/マーケティング本部本部長。取扱製品のローカライズ、広告展開および制作、イベントまで幅広い実務を担当。2019年よりGREEN FUNDINGプラットフォームでのクラウドファンディングに着手し、企画立案からの一連の業務を担当。業務を通じて、情報発信と顧客との接点づくりに取り組んでいる。

 

新参だからこそゲームチェンジャーになれる

―― 「We Love Game Changers」「変革こそがフォーカルポイントの遺伝子」と常に新しい市場に挑戦し、切り開いてきた御社が手掛けるNASUGREEN NASync DXPシリーズ」が、GREENFUNDINGによるクラウドファンディングで、開始からわずか1時間17分で支援金額1億円を突破、最終的に10億円を達成されました。クラウド全盛の時代にありながら、NASという商品に対して「これはいけるぞ」といった目算は当初からあったのですか。

田中 UGREENはケーブルや充電器、モバイルバッテリーなど多岐にわたる商品を展開されるブランドで、弊社は2023年から国内の販売代理店となりました。同社のNASは昨年年頭の「CES 2024」で発表された製品シリーズです。これまでNASは、一部のユーザーからは根強く支持される製品ですが、大きな市場を持つものではないといった意見もあり、弊社としても静観していたのが事実です。

クラウドファンディングで10億円を突破したUGREENのNAS「NASync DXPシリーズ」 

ところが昨年春、米国とドイツで、Kickstarter(キックスターター)によるクラウドファンディングを実施すると、支援金額が約667万ドル以上、当時の為替レート(1ドル155円換算)で105000万円にもなり、それが大きな興味を抱くきっかけとなりました。

私は、昨年秋に中国UGREEN本社を訪れる機会があり、そこで初めてNASの実機を目にしたのですが、担当の方々とも数時間にわたり話をするうちに、「これはNASの市場を大きく変革するかもしれない」と感じたことを憶えています。

ただ、日本での取り扱い、クラウドファンディングの開始が決定した後も、米国市場と日本市場の違い、クラウドファンディングの顧客層の比較などから、果たして日本でも同じように成功するのか、確信を持てない面があるなか、UGREENと共同で報道関係者向けの国内発表会を20251月に実施し、クラウドファンディングの準備を進めていました。いざ、クラウドファンディングがスタートしてみると、開始から1時間17分で1億円、約3時間で2億円、4日目で4億円を突破しました。最終的には10億円を達成し、正直ここまでのスケールになるとは思っていませんでした。

―― Kickstarterの例と比較しても、相当なスケールになりますね。

田中 人口は米国が33650万人、ドイツが8480万人で合わせて約42000万人。これに対して日本は12300万人ですから、3分の1も行けば大成功というところを、金額ベースでほぼ同じところまで伸びました。

今回のUGREENNASの最大の特徴はゼロからの参入であったことです。これはゲームチェンジャーの共通項と言えるもので、既存のメーカーがどんなに新しいものを出しても、市場をひっくり返すような大成功は収められません。例えば、MP3プレーヤー市場におけるアップル「iPod」もそのひとつ。数多のメーカーを出し抜き、市場を一から変えてしまいましたし、それがやがてiPhoneにつながったと言われています。

UGREEN NASyncは、競合メーカーが持っている市場とは、まったく別の視点で製品を作り上げ、別の市場を切り開くことが成功につながったと感じています。UGREENNASync DXPシリーズは、顧客層として個人にフォーカスしました。NASという商品がほとんど業務用としか認識されていないなかへ、まったく目にも入っていなかったUGREENがいきなりNASを出してきたことで、メディアもユーザーも「どんな商品なの?」と、“NAS” という存在を改めて気にかけることになりました。UGREENのような新興メーカーだからこそ新しい市場を創造することができました。

ライバルは他社NASに在らず。標的は「iCloud」「Google Cloud

―― メッセージの出し方としても、他社のNASと比較して云々ではなく、一般的なクラウドサービスと比べたお得感をアピールされていらっしゃいました。ユーザーにとっても大きな “気づき” になったのではないでしょうか。

田中 まず、大半の方がNASNetwork Attached Storage)という商品カテゴリーを詳しく知らないのが実情です。ですから、競合他社と比較してUGREENがいかに優れているかを説明したとしても心に響かなかったでしょう。自分には関係のない商品だと認識されてしまいます。

私たちが注目をしたのは、30代のミドル層と40代の中堅層です。現在のミドル層は、結婚や出産などの新たなライフイベントを迎えている世代であり、スマートフォンのファースト世代に当たります。iPhoneが出てきたのが高校生の頃、大学で卒論をPCではなく、スマホで書くことが話題になった世代になります。

40代の中堅層は、お子さんが中学や高校に入り、スマートフォンを持ち始める世代ですね。これまで夫婦のデータ管理だけで済んでいたのに、これからは家族単位で写真やデータの管理を求められます。

スマホの使い方には長けていますが、PCやサーバーに対しては詳しくなく、写真のバックアップにもiCloudGoogle Cloudを疑いもなく使い続けています。そこへ、「毎月数千円、年間数万円をこれからも払い続けるのですか」というメッセージを問い掛けました。

2ベイモデル「DXP2800」はパソコンやルーターの横に手軽に設置できる 

―― iCloudGoogle Cloudを深く考えることなしに使い続けている方は大勢いらっしゃいます。実際に検討してみれば、使い勝手やカスタマイズができないなど不満も出てくるところへ、NASなら柔軟に対応できるとアピールされ、多くの人の心に刺さったわけですね。

田中 結果的に、私たちの読みは大きく外れていなかったと思います。SNSなどの反響やクラウドファンディングに寄せられたコメントなどを読むと、皆さん、写真の管理に漠然とした不満のようなものがあったようです。

例えば結婚されたときに、違うキャリア、プランを利用していた2人が、そのまま使い続けるのか、或いはファミリープランに統一するのか検討されることも多いでしょう。スマホにまつわるぼんやりとした不安やストレスは、いろいろなところに潜んでいるように思います。

貯めるだけではない。さらにどう活用できるかが次のテーマ

―― 今回の大ヒットがあったとは言え、NASという商品の存在を知らいない人がまだまだ大勢います。

田中 「UGREEN NASync DXPシリーズ」のクラウドファンディングでは、「DXP2800」(2ベイ)、「DXP4800 PLUS」(4ベイ)、「DXP6800 PRO」(6ベイ)の3モデルをラインナップしました。一番の売れ筋が4ベイ。その半分のサイズとなる2ベイは、会社で使用するには物足りないと思いますが、ご自宅ではテレビやルーターの横に置くにはちょうどいいサイズ感として人気を集めました。他社でも同じようなサイズ・同じような価格のものはありましたが、一般の方にとっては “会社で使用するNASの小型のもの” と捉えられ、自分にとって関係のないものと認識されていました。

日本では家電量販店が大きな販売チャネルです。しかし、NASの売り場面積が大きいとは言えず、一般のお客様がフラッと買い物できる環境にはまだありません。オフィスサービスの会社などから購入される法人の需要がメインになります。そこへ私たちは、クラウドファンディングという手法を使うことで、一般のファミリー層を対象に、写真をはじめとするデータの管理に、NASという新しい選択肢の提案を行いました。

実際に購入されたお客様の多くが、自宅にクラウドを立ち上げる感覚でこの商品をお求めになられています。すなわち、競合するのは他メーカーのNASではなくて、iCloudGoogle Cloudなんです。

―― 日本ではハイエンドオーディオに特化したNASもあります。そうした要望などは寄せられていますか。

田中 お客様からの声にも確かにありますね。国内のお客様からのリクエストや市場のニーズはUGREENにお伝えして、今後検討を重ねていきたいと考えています。ただ、UGREENが目指すのは、あくまで一般ユーザーのためのNASだと思っています。玄人向けの要望に応えることよりも、気になっていたスマホのデータをごっそりと入れられる、誰もが気軽に自宅や会社で利用できる。そんなNASをさらに広げていくことが重要と考えています。

―― 手にしたNASに撮り貯めるだけでなく、例えばプリントにして楽しむなど、もっと奥深いニーズや楽しみ方もあると思います。これからのNASのさらなる啓発に向け、どのようなアプローチをお考えですか。

田中 現在、販売チャネルではヨドバシカメラさんとビックカメラグループさんを中心に展開しています。それぞれ店頭では1枚数十円でプリントできるサービスやセルフマシンを用意されています。また、インターネットのプリントサービスでは10円以下のサービスもあります。UGREENのスタッフにその話をすると、日本での写真プリントのニーズや価格帯に驚いていました。メインターゲットとなる30代の方に、写真を撮り貯めるための「NAS」という新しい選択肢の提案に加え、今後、貯めるだけにとどまらず、さらにどう活用していくことができるかは、次の課題になると認識しています。

また、先ごろ開催された「COMPUTEX TAIPEI」(520日〜23日開催)と「Interop Tokyo」(611日〜13日開催)において、UGREENではAIをさらに強化した次世代のNASiDXシリーズ」を発表しています。UGREENが新しく創り上げた一般のお客様への市場を拡大するかたちで、今後もUGREENブランドのNASをクリエイターや法人顧客にも広げていけたらと思っています。

これぞ皆が求めていたイヤーカフ型イヤホン「Shokz OpenDots ONE

―― クラウドファンディングと言えば、イヤホン関連でも史上最高支援総額となる3億円超えを達成したオープン型イヤホン「Shokz OpenDots ONE」が612日に一般発売され、注目を集めています。御社は2017年よりShokz(当時、AfterShokz)と “骨伝導によるながら聴き” を提案してきましたが、イヤホンでもゲームチェンジを巻き起こしてきたと言えますね。

田中 おかげさまで「OpenDots ONE」のクラウドファンディングは最終金額31500万円を超えることができました。UGREENではNASの市場を開拓するためにクラウドファンディングを活用しましたが、Shokzでは、今回は初めてのイヤーカフ型を市場に問い掛けました。

「Shokz OpenDots ONE」 

これまでも、Shokzでは数年に1度、クラウドファンディングを実施しています。2022年春には骨伝導の最新モデル「OpenRun Pro」が約19400万円を集め、2023年夏には初めての空気伝導となるオープンイヤー型「OpenFit」が25500万円を集めました。

クラウドファンディングに対するお客様の認識にも変化が見受けられます。以前は、一部の新しもの好きな人向けといった印象がありましたが、近年ではオンラインショップでの購入感覚といった風潮に変わってきた部分があります。今回は2日目で5000万円を突破したため、すぐに大量生産の手配ができ、開始から約1か月後には出荷が可能になりました。もちろん、オンラインショップとは違うところもあるため、まったく同じではありませんが、比較的短期間で手にできるようになったことから、気持ち的にもハードルがかなり下がっているように感じています。

―― 一般販売を待たずに周りの人たちより一足先に手にできる優越感も大きな魅力ですね。「Shokz OpenDots ONE」のセールスポイントについてお願いできますか。

田中 Shokzとしては初のイヤーカフ型になります。イヤーカフ型ならではのデザインとして左右の区別がないため、着けるときにもしまうときにも左右を気にする必要がありません。そのほかにもドルビーオーディオ、ワイヤレス充電への対応など、Shokz初の試みがいろいろ盛り込まれています。

Shokzはもともとスポーツ用イヤホンとして出てきたブランドですから、スタイリッシュなデザインは変わらず大きな差別化ポイントとなります。音質面では低音の輪郭がしっかりと出ています。「骨伝導は低音が出ない」と指摘されていた当時から、イヤホンとしての重要なテーマのひとつと位置づけ力を入れてきたもので、以来、本製品のように骨伝導ではないモデルにおいても、“Shokzらしさ” として高い評価をいただいています。

そして「着け心地」ですね。Qualcomさんが毎年、イヤホンに関する世界的な調査「State of Sound」を行っています。イヤホンを選ぶポイントとして、長らく「価格」が重視されていましたが、ある時期より「着け心地」が1位となりました。そのような背景もあり、Shokzでは着け心地を重視しています。

コロナ禍を経て、朝から晩までイヤホンを着け続けることも珍しくなくなると、従来型の耳の穴に入れるものでは耳が痛くなるという人も少なくありません。着けたり外したりするのもストレスですし、指も常に清潔であるとは限らないため、使用状況によっては耳が炎症を起こしてしまう危険も否定できません。

Shokzのコンセプトは骨伝導の時代から常に耳をふさがないこと。耳の中に入れませんから、炎症を起こすようなリスクはほぼありません。また、耳への装着にもいろいろな方法がありますが、着けていることを忘れてしまうような着け心地を提供するのがShokzの特長です。おかげさまで日本はもちろん、グローバルでも大変好調に推移しており、まさにイヤーカフ型イヤホンが市場が求めていたスタイルであったことが実証されました。

「Shokz OpenDots ONE」の外観はスタイリッシュなアクセサリーとしても機能する 

―― 様々な制約があるなかでも高音質化を実現するべく、内部構造においてもかなり凝った印象を受けます。

田中 ドライバーシステムは、向き合って配置するデュアルドライバーが採用されています。「OpenFit」では円形ではなく楕円形に、「OpenFit2」では高中音域用と低音域用を二重にするなど、毎回新しい技術にチャレンジしています。空気伝導はまだ3年目と新参ですが、意欲的な設計やデザイン、コンセプトにより市場からも受け入れられています。

UGREENNAS、そして、Shokzのながら聴きイヤホン、いずれも “ゲームチェンジャー” として、これからも皆さんがもっとうれしくなるような驚きを提案して参ります。どうぞご期待ください。

 

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