今後ゼネラルオーディオは展開しない

ティアックがエソテリックを吸収合併、両社長に聞いた真の目的。「オーディオでさらに上を目指す」

公開日 2024/02/01 06:40 PHILEWEBビジネス 徳田ゆかり
  • Twitter
  • FaceBook
  • LINE
ティアック、エソテリック、タスカムなど独自のオーディオブランドを展開、昨年創業70周年を迎えた、国内の老舗メーカーであるティアック株式会社。2004年にはティアック株式会社の子会社としてエソテリック株式会社が設立され、ハイエンドオーディオのエソテリックブランドを展開してきた。

そして昨年12月、ティアック株式会社により、2024年4月1日をもってエソテリック株式会社を吸収合併し、解散するとの決定が報じられた。その真意はどこにあるのか。今回、ティアック株式会社の代表取締役社長 CEO 英裕治氏と、エソテリック株式会社の代表取締役社長 加藤 徹也氏が登場。吸収合併についての詳細と、ティアック/エソテリック両ブランドが目指すオーディオ事業の方向性を語ってくれた。

ティアック株式会社
代表取締役社長 CEO 英裕治

プロフィール 1985年にティアック株式会社に入社。2001年2月 タスカム部長、2004年6月 執行役員 タスカムビジネスユニットマネージャーに就任。2005年5月 執行役員 エンタテイメント・カンパニープレジデント、2006年6月 代表取締役社長に就任、現在に至る。

ティアック株式会社 代表取締役社長 CEO 英裕治氏

エソテリック株式会社
代表取締役社長 兼 ティアック(株)音響機器事業部 プレミアム・オーディオ・ビジネスユニット長 加藤徹也

プロフィール 1991年にティアック株式会社に入社、ティアック製品のテープレコーダーやコンポなどの基板設計/ファームウェア開発などを手掛け、2000年よりエソテリック製品の開発に携わる。フラグシップであるGrandioso(グランディオーソ)シリーズを筆頭に同社製品の開発、SACDのためのマスタリングスタジオ「エソテリック・マスタリング・センター」開設にも尽力。2023年6月現職に就任。2024年4月よりティアック株式会社に新設されるプレミアムオーディオ事業部 事業部長に就任予定。

エソテリック株式会社 代表取締役社長 兼 ティアック(株)音響機器事業部 プレミアム・オーディオ・ビジネスユニット長 加藤徹也氏

ハイエンドのエソテリック、プレミアムのティアック。組織を1つにし、相乗効果で強いものづくりを推進



ーー 今回のニュースは、オーディオ業界においてさまざまな憶測を呼んだようですが、英社長、加藤社長が自らが語ってくださるということで、詳細をしっかりと伺えたらと思います。まず、今回の吸収合併に至った経緯をお聞かせいただけますか。

加藤 ティアック株式会社では、2024年4月1日をもってエソテリック株式会社を吸収合併することが決定しました。これについてネットのニュースでいろいろな取り上げられ方をしましたが、その目的は、各ブランドの展開を強化するということなのです。

その経緯を振り返りますと、1990年代初頭に遡ります。ティアックグループは、オーディオ機器、情報機器、パソコン周辺機器の3つの事業を展開しており、オーディオの事業では、ティアック、タスカム、エソテリックの3ブランドが存在していました。

当時のものづくりは、ブランドごとに行うのではなく、技術要素ごとに担当者を置いて、レコーダー、プレーヤーといった商品ジャンル別の組織構成で行なっていました。たとえばティアックブランド、エソテリックブランドのCDプレーヤーを作る際には、 タスカムブランドの展開も視野に入れる、ということもありました。

昭和から平成に移行する頃、国内オーディオ市場はミニコンポが席巻してゼネラル寄りになりましたが、ゼネラル全盛だったアメリカでも展開していたティアックも、国内のそうした動きに追随していきました。するとハイファイオーディオを貫くエソテリックブランドとは、目指す世界観がまったく異なってしまいます。

そこでエソテリック専門の組織がつくられることになりました。まずは社内カンパニーとしてスタートし、そして分社化してエソテリック株式会社となったのです。そのような形でエソテリックブランドだけに特化したものづくりを行い、今日まで成長することができました。

 当社はメーカーとして、自ら企画設計し、自社工場を持って自らものづくりをし、責任をもって売ることに強いこだわりを持っています。コストがかかっても、本物をつくれば伝わるという自負を持って、それを貫いているのです。

エソテリック株式会社は20年以上にわたって子会社として頑張ってきて、しっかりと立ち上がって業績も安定しています。そして現在はティアックも、再度ハイファイオーディオを推進して、良い形になってきました。そこで、オーディオ事業全体でさらに上を目指すために、大きな組織の中でブランドをマネージメントする。それが今回の吸収合併の目的なのです。

そして、ゼネラルオーディオの製品はもう展開しません。ティアックについては、もともと「コンシューマーオーディオ」と位置付けていたのですが、現在では「プレミアムオーディオ」としてプレミアムの高みを追求しています。今後はそれを一層推進していきます。

ただお客様からご覧になれば、何も変わることはありません。ティアックもエソテリックも、これまで同様につくる人間も、工場も変わりませんし、サービスの対応も変わりません。企画、開発、製造、販売に加えてサービスも、絶対のこだわりをもって自ら行っていますのでご安心ください。

新設のプレミアムオーディオ事業部で全ブランドを展開。営業組織も再構築しブランドの魅力を伝える



ーー かつて同じ組織だったティアックとエソテリックが、一度別の組織になり、こうして今再度同じ組織になるわけですね。時を経て、この決断に至った背景を、もうすこし詳しくお聞かせいただけますか。

加藤 ティアックブランドがハイファイオーディオを推進し、その結果プレミアム度が高まったということです。ネット通販や家電量販店様で購入される場合も多いですが、たとえば700シリーズのように、お客様が試聴室などでの体験の機会を経て購入される場面が増えているのです。そんな背景があり、特に国内でティアック製品におけるオーディオ専門店様へのサポートを強化したい思いがあります。そこで、エソテリックの販売部隊の力が活きて来ます。

 さきほどはものづくりの面からご説明しましたが、国内の販売組織の再構築も、今回の統合のもう一つの大きな目的です。弊社ではプレミアムオーディオのティアック、ハイエンドオーディオのエソテリックに加えて、プロ用オーディオであるタスカムブランドも展開しておりますが、タスカムにもコンシューマー向け製品があって、営業の現場がやや入り組んでいるのが実情です。

家電量販店様に対して、現状ではティアック、タスカムとも同じ営業スタッフが担当し、さらにオンキヨー、パイオニアといった日本を代表するブランドの国内販売代理業務も担っていますから、正直に申し上げて困難な状況になっていました。それで組織を専門的に整理し、ティアックはティアックの、タスカムはタスカムの人間が担当して効率を上げ、販売店様やお客様に対してメッセージをより正確にお伝えしたいと考えています。

新しい組織では、量販店様、専門店様ごとに営業担当者を分けるイメージです。販売店様にとっては、これからはいろいろなブランドについてティアックとして口座が1本化され、やりやすくなると思います。

ーー エソテリック株式会社の社長でいらっしゃる加藤さんは、吸収合併後にどんなお立場になられるのでしょうか。

加藤 この4月からプレミアムオーディオ事業部という組織が新設され、事業部長の任を私が拝命することになりました。ティアックもエソテリックも、すべてそこで展開致します。また国内販売代理業務を行なっている、オンキヨー、パイオニアといった国内ブランド、クリプシュ、タンノイ、アバンギャルドといった海外ブランドも含め、すべてを見て参ります。

 タスカム以外のオーディオブランドの展開を、すべて加藤が担うということですね。オーディオ事業について、これまで同様に、本質は全て任せていきます。

インタビューはティアック本社ビルで行った

ティアック、エソテリックともにグローバル展開を強化。思いを込めた「ストーリー」でオーディオの魅力を発信



ーー 新しい組織でブランドがますます強化されるわけですが、今後国内、海外でそれぞれどんな展開をされますか。

 エソテリックは国内発祥の展開ですが、海外での認知度が高いティアックでは以前から専門部隊をもち、海外での展開も得意としています。現在では両ブランドとも、国内を含めてグローバル展開ができているのですが、今後は海外に強いティアックのメンバーが、エソテリックを海外で拡大する活動にも注力します。またティアックには国内の専任がおりませんでしたので、そこは国内に強いエソテリックのメンバーと一緒にやっていきます。国内、海外ともども販売を強化して、よりグローバルな展開を目指します。

加藤 国内のオーディオ専門店様との関係性は、エソテリックのメンバーがしっかりと構築しています。それをティアックのメンバーとともに、ますます強固なものにしていくということですね。

海外展開については、代理店様との国を超えたリレーションがどれだけスムーズにできるかにかかっていて、ティアックのメンバーがすでに活躍しています。しかしエソテリックを海外でもう1段伸ばすためには、代理店様におまかせするだけではなく、その先の現地の販売店様にどれだけ入り込めるかが鍵です。国内と同様に、販売店様との関係をしっかり築いて行きたいと思います。

ーー 昨今のオーディオ市場は、エントリークラスとハイエンドの2極化状態が懸念されています。どのようにお考えでしょうか。ティアックブランドの展開にも、大きく関わってくるところと思われますが。

加藤 我々は、ティアックブランドの比較的お求めやすい価格の製品から、エソテリックブランドでのウルトラハイエンドの製品まで展開しています。さまざまな価格帯でオーディオ商品を展開している我々だからこそ、実質的な良いもの、音楽を楽しめるものをしっかりと作っていけると思っています。

どの分野であってもオーディオにおいては、お客様にしっかりお応えする商品を提供していくのが目指すところです。音楽を制作するところから、家で再生するところまで、ティアックという会社ではすべてに関わりをもっていて、それを強みとしています。

ティアックの目指すところは「Accessibleハイエンド」と表現していて、親しみやすく、さらにもっと上のクラスへの広がりも表しています。しかしお客様がティアック製品に愛着を感じてくださらなければ、決してその先へは来てくださいません。音楽を聴く楽しみや、身近な人と分かち合う素晴らしさといったことを味わっていただけるオーディオづくりこそ、我々がやるべきことだと思います。

 「良いものをつくれば売れる」とメーカーは、ともすれば考えがちですが、良いものをつくるのは当然として、さらにそこに「ストーリー」が必要です。オーディオの衰退の原因は、オーディオが趣味として成り立った当時に対して、今はゲームやネットコンテンツなどさまざまなエンタテイメントが増え、我々の時間の使い方が変わったからだと思います。ここでお客様にもう一度振り向いていただくには、オーディオが魅力的なものだということを、ストーリーを交えて発信しなければならないと思っています。

そのためには、我々がストーリーになりうる仕事をしていかなくてはなりません。我々が何を目指し、どんなものづくりを行っているのか、そうしたことを伝える努力をしていかないと、お客様には響きません。

ティアックは創業70周年を迎えた日本の老舗企業ですので、いろいろなストーリーの蓄積があります。こだわりをもって、最新の技術、最高の品質でものをつくる日本の企業として、ティアックブランドもエソテリックブランドも展開しておりますから、それぞれのストーリーをお客様に伝えて参ります。

また音楽制作の現場、その音づくりを知るタスカムブランドを持つことも、他社にはない強みです。タスカムも含め、ティアック、エソテリックの相乗効果のものづくりと、そのストーリーをしっかりと伝えていければと思います。

ーー ティアック、エソテリックのますますの成長が楽しみですね。今後も期待しております。ありがとうございました。

この記事をシェアする

  • Twitter
  • FaceBook
  • LINE