公開日 2014/01/20 11:01
<特別インタビュー>DSD 5.6MHzリマスター版「戦場のメリークリスマス」誕生秘話
オノセイゲン氏特別インタビュー
映画「戦場のメリークリスマス」(監督:大島渚)の公開30周年にあたる2013年12月、坂本龍一が手がけたサウンドトラックが5.6MHz DSDでリマスタリングされ「Merry Christmas Mr.Lawrence - 30th Anniversary Editon -」として登場した。
本作のリマスタリングを担当したのは、83年の制作時にも携わっていたオノ セイゲン氏。別バージョンや別ミックスなどの未公開テイク26曲も収録され、合計45曲を収めたボリュームたっぷりの内容となっている。今回、オノ セイゲン氏に本作の魅力をうかがった。
ー 坂本龍一さんが初めて手がけたサウンドトラックである「戦場のメリークリスマス」。今回30年の時を経て、オリジナル制作にも携わったセイゲンさん自らの手で5.6MHz DSDでリマスタリングされて登場しました。
オノ セイゲン氏:当時は私もフリーのエンジニアとして独立したばかり。「戦メリ」のサウンドトラックが録音されたのは1983年、CDの時代でしたが、いまや5.6MHz DSDの音源を家庭で楽しめる時代が来ました。
ー 5.6MHz DSDのデータはe-onkyo musicで独占配信されていて、家庭でそのまま聴くことができますね。これはとてもすごいことだと思います。
オノ セイゲン氏:5.6MHz DSDの圧倒的なメリットは、弱い音、pppでのタッチや音色、空間、余韻など、ディテールをそのまま表現できること。つまり、人間のはかない感情、涙腺にふれる、琴線に触れる感情が時間軸に記録されているのが音楽なのですが、ロックやポップスの刺激の強い音量勝負ではなくて、記憶に残る感動、知らぬ間に涙が流れるような時間という芸術は、DSDでその表現と感情が記録再生できるのです。
「戦メリ」は殆どのパートでアナログシンセサイザーの名機「Prophet-5」が使われていますね。これは無限大のレゾリューションを持っているので、音色や空間表現、ダイナミックレンジの広さこそが、結果的に坂本さんの音楽の感情なのですが、こうしてDSDで聴きかえすと驚くべきものがあります。
ー リマスタリングにあたっては、機材はどんなものを使ったのでしょうか?
オノ セイゲン氏:STUDERのA820レコーダーでマスターテープを再生。コルグのMR-2000Sに5.6MHz DSD、並行してソニーのSonomaとEMM LABS「ADC8 MK4」の組み合わせで、こちらは2.8MHz DSDまでの対応…マスターをアーカイブした上で、仕上げながら聴き比べた結果、MR-2000Sの5.6MHz DSDをマスターにしました。
アナログのマスターレコーダーには、HiとLowのイコライジングと、レベル調整しかついていません。針1本分くらいの差で0.2dBくらい変わりますので、信号で調整したあとは、正確なモニターシステムで実際に音を聴きながら、微調整をします。オリジナルのアナログテープとはこんなに素晴らしい音が記録されていたのかと驚きましたね。
“音色”にこだわった当時の音づくり
ハイレゾ版はそれをそのまま伝えるべく注力
ー オリジナルの制作当時、そして今回のリマスタリングの時に留意した点はどのようなところですか?
オノ セイゲン氏:坂本龍一さんは、例えば20人のバイオリンで同時に演奏するとどうなるかを熟知していますよね。その生の演奏のニュアンスや感情をアナログシンセサイザーを使って表現しようとしています。当然ながらシンセサイザーの音色づくり自体にすごくこだわっています。音の立ち上がりやピーク、リリースの変化が生の弦楽器みたいになるように…などですね。弦楽器のグループのように聞こえるように、録音したシンセサイザーの音をスタジオのスピーカーで再生し、スタジオ空間の初期反射を加えながら、それを改めてマイクで録音したりもしました。するとスタジオの響きも加わって、より生楽器のような響き方や定位感がでるんです。
80年代初期は、アヴァンギャルドな文化がいろいろ登場してきた時代で、音づくりでも「なにか変わった音、普通でない音を作る競争」みたいなものがありました。当時の最新のシンセサイザーでの音づくりはどこまでできるのかを突き詰めていく作業を、坂本さんも延々と楽しんでいました。
DSD配信では、制作過程でこだわったディテール、音色を妥協なくそのまま再現できるんです。マスタリング・エンジニアとしての自分は、「透明な存在」であるべきだと常々考えています。ミキシング現場で出ていたであろう音色、感情、感動そのままを皆さんに聴いてもらいたい。それが可能になった技術がハイレゾ配信なのです。
ー 今回は配信用には5.6MHz DSDを筆頭に、2.8MHz DSD、192kHz/24bit FLAC/WAV、96kHz/24bit FLAC/WAVがラインナップされていますね。ディスクとしてはSHM-CDで用意されています。
オノ セイゲン氏:音色重視なので、5.6MHz DSDのマスターデータがすべての元で、各フォーマットにダウンコンバートしています。それぞれのフォーマットに、別途余計な手を加えたりはしていません。
当時のこだわりや試行錯誤をうかがえる
未公開テイクも多数収録
ー 本作は、別バージョンや別ミックスなど未公開テイクも多数収録されている点も興味深いところです。
オノ セイゲン氏:「戦メリ」は、映画の編集と並行して音楽が制作されました。映画のなかで音楽を使う場面も変更になることがあって、その場合、尺が違うとか違うバージョンのミックスといったマスター音源ができるんですね。全部でアナログテープ7本分録音して、映画本編で使用された部分を除いても、残り4本分の未発表音源がありました。その未発表の4本から、私がどの曲/どのテイクをどのくらいの長さ、セレクトして使うか提案したそのままがDISC-2(配信だとトラック20〜45)になりました。
ー 特にこのトラックには注目!というものがあれば教えてください。
オノ セイゲン氏:学術的には全部です!まずは「Merry Christmas Mr.Lawrence(Theme Free Time take1)」。テープのジェネレーションが本編使用バージョンで、音質が良い。「Merry Christmas Mr.Lawrence(M-34)」も。メインテーマのバージョンがどう違うのかを聴き比べるのは、ゲームみたいで面白いですよね。
そして「23rd Psalm(M-30 take2 INST)」、「Ride Ride Ride(M-18 INST)」も注目です。これを入れることで、このDISC-2の流れが締まったと思っています。
この2曲は、確か撮影現場で先に歌だけが録音されているのです。そこに後付けで、「Prophet-5」だけでこれだけのオーケストレーションされている、という意味でも画期的です。そういう聞き方をしてもきっと驚くはずです。
ー 本作のピアノバージョンである『Coda』も、同じく5.6MHz等で配信されていますね。
オノ セイゲン氏:こちらもオリジナルはアナログの1/4インチのマスターテープです。30年前の坂本さんの演奏がお楽しみいただけますので、『Coda』もぜひ、できればDSDで聴いていただきたいですね。
(インタビュー/構成:ファイル・ウェブ編集部:小澤麻実)
本作のリマスタリングを担当したのは、83年の制作時にも携わっていたオノ セイゲン氏。別バージョンや別ミックスなどの未公開テイク26曲も収録され、合計45曲を収めたボリュームたっぷりの内容となっている。今回、オノ セイゲン氏に本作の魅力をうかがった。
| Merry Christmas Mr.Lawrence -30th Anniversary Edition-/坂本龍一 (未公開テイク 26 曲含む、全 45 曲収録) アルバム購入特典…PDFブックレット ・DSD5.6MHz(アルバム:¥7,000 単曲:¥700) ・DSD2.8MHz(アルバム:¥4,500 単曲:¥450) ・PCM192kHz/24bit(アルバム:¥4,000 単曲:¥400) ・PCM96kHz/24bit(アルバム:¥3,800 単曲:¥350) |
ー 坂本龍一さんが初めて手がけたサウンドトラックである「戦場のメリークリスマス」。今回30年の時を経て、オリジナル制作にも携わったセイゲンさん自らの手で5.6MHz DSDでリマスタリングされて登場しました。
オノ セイゲン氏:当時は私もフリーのエンジニアとして独立したばかり。「戦メリ」のサウンドトラックが録音されたのは1983年、CDの時代でしたが、いまや5.6MHz DSDの音源を家庭で楽しめる時代が来ました。
ー 5.6MHz DSDのデータはe-onkyo musicで独占配信されていて、家庭でそのまま聴くことができますね。これはとてもすごいことだと思います。
オノ セイゲン氏:5.6MHz DSDの圧倒的なメリットは、弱い音、pppでのタッチや音色、空間、余韻など、ディテールをそのまま表現できること。つまり、人間のはかない感情、涙腺にふれる、琴線に触れる感情が時間軸に記録されているのが音楽なのですが、ロックやポップスの刺激の強い音量勝負ではなくて、記憶に残る感動、知らぬ間に涙が流れるような時間という芸術は、DSDでその表現と感情が記録再生できるのです。
「戦メリ」は殆どのパートでアナログシンセサイザーの名機「Prophet-5」が使われていますね。これは無限大のレゾリューションを持っているので、音色や空間表現、ダイナミックレンジの広さこそが、結果的に坂本さんの音楽の感情なのですが、こうしてDSDで聴きかえすと驚くべきものがあります。
ー リマスタリングにあたっては、機材はどんなものを使ったのでしょうか?
オノ セイゲン氏:STUDERのA820レコーダーでマスターテープを再生。コルグのMR-2000Sに5.6MHz DSD、並行してソニーのSonomaとEMM LABS「ADC8 MK4」の組み合わせで、こちらは2.8MHz DSDまでの対応…マスターをアーカイブした上で、仕上げながら聴き比べた結果、MR-2000Sの5.6MHz DSDをマスターにしました。
アナログのマスターレコーダーには、HiとLowのイコライジングと、レベル調整しかついていません。針1本分くらいの差で0.2dBくらい変わりますので、信号で調整したあとは、正確なモニターシステムで実際に音を聴きながら、微調整をします。オリジナルのアナログテープとはこんなに素晴らしい音が記録されていたのかと驚きましたね。
“音色”にこだわった当時の音づくり
ハイレゾ版はそれをそのまま伝えるべく注力
ー オリジナルの制作当時、そして今回のリマスタリングの時に留意した点はどのようなところですか?
オノ セイゲン氏:坂本龍一さんは、例えば20人のバイオリンで同時に演奏するとどうなるかを熟知していますよね。その生の演奏のニュアンスや感情をアナログシンセサイザーを使って表現しようとしています。当然ながらシンセサイザーの音色づくり自体にすごくこだわっています。音の立ち上がりやピーク、リリースの変化が生の弦楽器みたいになるように…などですね。弦楽器のグループのように聞こえるように、録音したシンセサイザーの音をスタジオのスピーカーで再生し、スタジオ空間の初期反射を加えながら、それを改めてマイクで録音したりもしました。するとスタジオの響きも加わって、より生楽器のような響き方や定位感がでるんです。
80年代初期は、アヴァンギャルドな文化がいろいろ登場してきた時代で、音づくりでも「なにか変わった音、普通でない音を作る競争」みたいなものがありました。当時の最新のシンセサイザーでの音づくりはどこまでできるのかを突き詰めていく作業を、坂本さんも延々と楽しんでいました。
DSD配信では、制作過程でこだわったディテール、音色を妥協なくそのまま再現できるんです。マスタリング・エンジニアとしての自分は、「透明な存在」であるべきだと常々考えています。ミキシング現場で出ていたであろう音色、感情、感動そのままを皆さんに聴いてもらいたい。それが可能になった技術がハイレゾ配信なのです。
ー 今回は配信用には5.6MHz DSDを筆頭に、2.8MHz DSD、192kHz/24bit FLAC/WAV、96kHz/24bit FLAC/WAVがラインナップされていますね。ディスクとしてはSHM-CDで用意されています。
オノ セイゲン氏:音色重視なので、5.6MHz DSDのマスターデータがすべての元で、各フォーマットにダウンコンバートしています。それぞれのフォーマットに、別途余計な手を加えたりはしていません。
当時のこだわりや試行錯誤をうかがえる
未公開テイクも多数収録
ー 本作は、別バージョンや別ミックスなど未公開テイクも多数収録されている点も興味深いところです。
オノ セイゲン氏:「戦メリ」は、映画の編集と並行して音楽が制作されました。映画のなかで音楽を使う場面も変更になることがあって、その場合、尺が違うとか違うバージョンのミックスといったマスター音源ができるんですね。全部でアナログテープ7本分録音して、映画本編で使用された部分を除いても、残り4本分の未発表音源がありました。その未発表の4本から、私がどの曲/どのテイクをどのくらいの長さ、セレクトして使うか提案したそのままがDISC-2(配信だとトラック20〜45)になりました。
ー 特にこのトラックには注目!というものがあれば教えてください。
オノ セイゲン氏:学術的には全部です!まずは「Merry Christmas Mr.Lawrence(Theme Free Time take1)」。テープのジェネレーションが本編使用バージョンで、音質が良い。「Merry Christmas Mr.Lawrence(M-34)」も。メインテーマのバージョンがどう違うのかを聴き比べるのは、ゲームみたいで面白いですよね。
そして「23rd Psalm(M-30 take2 INST)」、「Ride Ride Ride(M-18 INST)」も注目です。これを入れることで、このDISC-2の流れが締まったと思っています。
この2曲は、確か撮影現場で先に歌だけが録音されているのです。そこに後付けで、「Prophet-5」だけでこれだけのオーケストレーションされている、という意味でも画期的です。そういう聞き方をしてもきっと驚くはずです。
ー 本作のピアノバージョンである『Coda』も、同じく5.6MHz等で配信されていますね。
| Coda/坂本龍一 アルバム購入特典…PDFブックレット ・DSD5.6MHz(アルバム:¥4,500 単曲:¥450) ・DSD2.8MHz(アルバム:¥3,500 単曲:¥350) ・PCM192kHz/24bit(アルバム:¥3,200 単曲:¥400) ・PCM96kHz/24bit(アルバム:¥3,000 単曲:¥350) |
オノ セイゲン氏:こちらもオリジナルはアナログの1/4インチのマスターテープです。30年前の坂本さんの演奏がお楽しみいただけますので、『Coda』もぜひ、できればDSDで聴いていただきたいですね。
| NHK「“スコラ”坂本龍一 音楽の学校」 シーズン4のテーマは「電子音楽」 NHKの人気番組の第4期が1月9日から放映スタートしました。今シーズンのテーマは「電子音楽」。第4回にはオノ セイゲン氏もゲストとして出演予定です。 ◇第4回(1月30日 23:23〜23:54放送) 空気の振動を電気の信号に変換し記録する「録音」とはどのような作業なのかについて説明。また電子技術が切り拓いたメディアが今後どうなっていくのかを検証する。ワークショップはオノ セイゲン氏を講師に迎え、実際に坂本のピアノをさまざまなマイクで録音。 番組HP:http://www.nhk.or.jp/schola/ |
(インタビュー/構成:ファイル・ウェブ編集部:小澤麻実)
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