公開日 2012/12/17 14:44
第19回:山下洋輔さんが語る「ピットイン」の伝説と出会い<後編>
【連載】PIT INNその歴史とミュージシャンたち
今回は、特別編として、「ピットイン」の創成期からステージに立ち続けている世界的なミュージシャン、山下洋輔さんに登場していただき、佐藤良武さんとの対談形式で、ジャズを志した経緯から、ピットインとの深い関わりや思い出を語ってもらう(前編を読む)。
自分のやりたいことを表現するため
今まで嫌っていたものに身を投じた
山下洋輔トリオでやったことは
時代を反映したものでもあった
佐藤良武(以下、佐藤): 山下洋輔トリオは69年にバンドのベーシストが辞めてピアノ、サックス、ドラムでやったら、とてもうまくいったことで誕生しました。そして「ドラムと対抗するために鍵盤へ肘打ちが出た」ことは山下さんと「ピットイン」の関わりを語るときに絶対欠かせない事実です。山下さんが極端に変貌した瞬間ですから。
山下洋輔(以下、山下): いきなりの変貌でしたね。山下がようやく療養生活から復帰したとお客さんが来てくれたんだけど、皆、最初はびっくりしたんじゃないかな。
佐藤: あれにはみんな驚きましたよ。以前のイメージからするとそんな過激な感情がどこに潜んでいたのかと思いましたね。
山下: 自分のなかにある情熱の塊みたいなものが、今まで通りやってもうまく表現できなかったんですよ。それに従来のスタイルではほかにもうまいピアニストがたくさんいる。人と同じようなことをやっていたら勝てない。これは音大にいた時の気持ちと同じです。オーネット・コールマンやセシル・テイラーがすでにフリージャズをやっていましたから、ああいうやり方に結びついたのだと思いますね。自分のやりたいことを全部表現する方法として頭の片隅にあったんでしょう。ただ彼らの音楽を初めて聴いたとき、これに近寄ったら危ないなと察した健全な青少年でしたけどね(笑)。いままで嫌っていたものに身を投じる瞬間って、人生に一度ぐらいはあるものですよ。
佐藤: 勇気が要ります。いままでの自分をぶち壊すわけですからね。
山下: 69年の新宿はデモ隊と機動隊が戦っていた時代ですよね。ぶち壊そうとするやつが重んじられた時代です。そういうことも影響していると思います。
佐藤: 学生運動の思想と山下さんの出す音が一致したという時代的な背景があった。お客さんたちが殺気だってましたから。69年の7月に早稲田大学のバリケードのなかに呼ばれて演奏しましたね。後にも先にもそういうミュージシャンはいないですよ。
山下: 音楽の世界でも、既成の概念をくつがえしているやつがいるらしいと噂が噂を呼んでいました。俺たちの革命運動とどっちがエライのかという具合で、変な音を出したらすぐに「止めろ」と言われそうな気配がいつもあった。だからこっちも必死でやり続けなくちゃいけない。あの頃ジャズ・コンサートで僕らは相手にされなかったんですよ。あいつらむちゃくちゃやるとかでね。だからフォークやロックの人たちのコンサートへ出ちゃう。これはロックですとスタッフがウソをついていたんじゃないかな(笑)。歌や演奏が気に入らないとロケット花火をステージに打ち込んでくるお客さんがいる。そういうお客さんを黙らせないといけない。だったら大暴れするしかない。時代を反映した音楽だったということは絶対にありましたね。
思い出がいっぱい詰まっていた
ピットインの初代ピアノを購入
佐藤: 一方では多くの文化人も聴きに来てくれました。
山下: そうそう。筒井康隆さんが床に座って森山威男のドラムを動かないように支えていてくれたこともあった。汗だくになってね。
佐藤: 「ピットイン」は冷房がきかなくて、ピットイン・サウナと呼ばれるぐらい夏は暑かったですね。出演ミュージシャンで一番汗をかいていたのは山下洋輔トリオです。
山下: 1セットごとに下着は全部取り替えていたぐらいで。
佐藤: なんだか知らないけど、楽屋で裸になっている写真がいっぱいある(笑)。
山下: よく森山と話したんですよ。汗の量に比例したギャラにしてもらいたいと(笑)。
佐藤: ワハハハ。だったら1番高い。運動量がすごいので、ピアノは弦が切れたり、ペダルが折れたりたいへんなことになっていた。でもまあピアノは直せばいいんですからね。
山下: 良武さんが鷹揚な人でよかった。演奏に口出しをせず、好きなようにやらせてくれるしね。
佐藤: ミュージシャンは自由にできないといけません。何度も直したピアノは、その後山下さんに買っていただきました。
山下: ちょうど78年に葉山へ引っ越した時だね。なんと言っても「ピットイン」初代グランド・ピアノだし。
佐藤: あの当時10万円も払っていただきました。「これはよく鳴るから」と言ってくれて。
山下: そりゃそうですよ。毎日毎日みんなが弾いていたわけだから。
佐藤: まあでも、声をかけてくれたということが粋なんですよ。
山下: あのピアノにはいろんな思い出があるからね。入れ替えるときにちょうど新旧ピアノ2台がそろったのでマル・ウォルドロンや矢野顕子とデュオをやりました。
佐藤: ちょうどいい具合にマルが来日していました。80年には『マル・ウォルドロンに捧ぐ』をドイツのエンヤ・レーベルでレコーディングしていますね。
山下: そのエンヤのオーナー、ホルスト・ウェーバーと初めて会ったのが「ピットイン」ですよ。「ピットイン」が何かの発端になることが本当に多い。彼が僕のステージを見に来たとき、ちょうど麿赤兒さんと舞踏集団が白塗りで飛び入りしてきて、それを面白がってくれた。そんな縁からエンヤからは74年の『クレイ』を皮切りに何枚か出しました。
佐藤: その後85年9月にはマルと『ピアノ・デュオ・ライブ』を「ピットイン」でレコーディングしています。私は山下さんとマルは音が温かいという点で共通していると思っています。
山下: ニューヨークのジャズ・クラブで「セシル・テイラーとマル・ウォルドロンを結びつけられるのはおまえだけだ」とその店の常連に言われたことがありましたね。マルさんとどこか似たところを感じられるんでしょう。
佐藤: ええ、それはありますね。
自分のやりたいことを表現するため
今まで嫌っていたものに身を投じた
山下洋輔トリオでやったことは
時代を反映したものでもあった
佐藤良武(以下、佐藤): 山下洋輔トリオは69年にバンドのベーシストが辞めてピアノ、サックス、ドラムでやったら、とてもうまくいったことで誕生しました。そして「ドラムと対抗するために鍵盤へ肘打ちが出た」ことは山下さんと「ピットイン」の関わりを語るときに絶対欠かせない事実です。山下さんが極端に変貌した瞬間ですから。
山下洋輔(以下、山下): いきなりの変貌でしたね。山下がようやく療養生活から復帰したとお客さんが来てくれたんだけど、皆、最初はびっくりしたんじゃないかな。
佐藤: あれにはみんな驚きましたよ。以前のイメージからするとそんな過激な感情がどこに潜んでいたのかと思いましたね。
山下: 自分のなかにある情熱の塊みたいなものが、今まで通りやってもうまく表現できなかったんですよ。それに従来のスタイルではほかにもうまいピアニストがたくさんいる。人と同じようなことをやっていたら勝てない。これは音大にいた時の気持ちと同じです。オーネット・コールマンやセシル・テイラーがすでにフリージャズをやっていましたから、ああいうやり方に結びついたのだと思いますね。自分のやりたいことを全部表現する方法として頭の片隅にあったんでしょう。ただ彼らの音楽を初めて聴いたとき、これに近寄ったら危ないなと察した健全な青少年でしたけどね(笑)。いままで嫌っていたものに身を投じる瞬間って、人生に一度ぐらいはあるものですよ。
佐藤: 勇気が要ります。いままでの自分をぶち壊すわけですからね。
山下: 69年の新宿はデモ隊と機動隊が戦っていた時代ですよね。ぶち壊そうとするやつが重んじられた時代です。そういうことも影響していると思います。
佐藤: 学生運動の思想と山下さんの出す音が一致したという時代的な背景があった。お客さんたちが殺気だってましたから。69年の7月に早稲田大学のバリケードのなかに呼ばれて演奏しましたね。後にも先にもそういうミュージシャンはいないですよ。
山下: 音楽の世界でも、既成の概念をくつがえしているやつがいるらしいと噂が噂を呼んでいました。俺たちの革命運動とどっちがエライのかという具合で、変な音を出したらすぐに「止めろ」と言われそうな気配がいつもあった。だからこっちも必死でやり続けなくちゃいけない。あの頃ジャズ・コンサートで僕らは相手にされなかったんですよ。あいつらむちゃくちゃやるとかでね。だからフォークやロックの人たちのコンサートへ出ちゃう。これはロックですとスタッフがウソをついていたんじゃないかな(笑)。歌や演奏が気に入らないとロケット花火をステージに打ち込んでくるお客さんがいる。そういうお客さんを黙らせないといけない。だったら大暴れするしかない。時代を反映した音楽だったということは絶対にありましたね。
思い出がいっぱい詰まっていた
ピットインの初代ピアノを購入
佐藤: 一方では多くの文化人も聴きに来てくれました。
山下: そうそう。筒井康隆さんが床に座って森山威男のドラムを動かないように支えていてくれたこともあった。汗だくになってね。
佐藤: 「ピットイン」は冷房がきかなくて、ピットイン・サウナと呼ばれるぐらい夏は暑かったですね。出演ミュージシャンで一番汗をかいていたのは山下洋輔トリオです。
山下: 1セットごとに下着は全部取り替えていたぐらいで。
佐藤: なんだか知らないけど、楽屋で裸になっている写真がいっぱいある(笑)。
山下: よく森山と話したんですよ。汗の量に比例したギャラにしてもらいたいと(笑)。
佐藤: ワハハハ。だったら1番高い。運動量がすごいので、ピアノは弦が切れたり、ペダルが折れたりたいへんなことになっていた。でもまあピアノは直せばいいんですからね。
山下: 良武さんが鷹揚な人でよかった。演奏に口出しをせず、好きなようにやらせてくれるしね。
佐藤: ミュージシャンは自由にできないといけません。何度も直したピアノは、その後山下さんに買っていただきました。
山下: ちょうど78年に葉山へ引っ越した時だね。なんと言っても「ピットイン」初代グランド・ピアノだし。
佐藤: あの当時10万円も払っていただきました。「これはよく鳴るから」と言ってくれて。
山下: そりゃそうですよ。毎日毎日みんなが弾いていたわけだから。
佐藤: まあでも、声をかけてくれたということが粋なんですよ。
山下: あのピアノにはいろんな思い出があるからね。入れ替えるときにちょうど新旧ピアノ2台がそろったのでマル・ウォルドロンや矢野顕子とデュオをやりました。
佐藤: ちょうどいい具合にマルが来日していました。80年には『マル・ウォルドロンに捧ぐ』をドイツのエンヤ・レーベルでレコーディングしていますね。
山下: そのエンヤのオーナー、ホルスト・ウェーバーと初めて会ったのが「ピットイン」ですよ。「ピットイン」が何かの発端になることが本当に多い。彼が僕のステージを見に来たとき、ちょうど麿赤兒さんと舞踏集団が白塗りで飛び入りしてきて、それを面白がってくれた。そんな縁からエンヤからは74年の『クレイ』を皮切りに何枚か出しました。
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佐藤: ええ、それはありますね。
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